2007年12月24日

サルも交尾のために対価を支払う


 ABC Science Online より。

■ サルもセックスのために対価を支払う
 Monkeys pay for sex too

 サルをはじめとした霊長類にとって、グルーミング(毛づくろい)はたいへん大事な意味をもつ行為です。その基本的な役割は、汚れや毛のもつれを取り除いて身体を清潔に保つことにあるわけですが、それがすべてではありません。そのときの状況に応じて、いろいろな深い意味があるのです。

 たとえば、母サルが子サルに行うグルーミングは、愛情表現のひとつです。また、仲間うちで行うグルーミングは、自分より地位の高いサルへの忠誠心を示すものです。

 さて、この他の役割として、異性のアピールというのもあります。実際のサルの行動を見てみると、交尾にいたる前にオスからメスに対しグルーミングが行われているのです。しかもどうやら、このグルーミングは、周りの状況や相手のメスに応じて違いがあるらしいことが最近の研究で分かってきています。ですが、この現象をきちんと調べた研究というのは、これまでありませんでした。

 そこで今回、Animal Behaviour 誌に、この現象について徹底的な調査がなされた結果が報告されました。研究を行ったのは、シンガポールの南洋理工大学の Michael Gumert らです。彼らは、2003~2005年の期間、インドネシアのタンジュンプティン国立公園に生息する、カニクイザル(英語名:long-tailed macaques)の行動を観察しました。彼らは、オスからメスへ行われたグルーミングに注目し、243回の記録を調べました。(なお右の写真は、カニクイザルの適当な写真が見つからなかったので、同じ属のニホンザルの写真を貼りました。)

 結果、いろいろな発見がありました。

 まず、オスからメスへ行われたグルーミングを見てみると、そのほとんどが、交尾可能な状態(ようするに発情期)のメスに対してであることが分かりました。

 さらに、グルーミングにかけた時間を見てみると、この時間は、周りの環境と、両者の力関係とに依存して大きく変わっていることが分かりました。

 オスは、周りにメスが少なければ少ないほど、より長い時間をかけてグルーミングを行っていました。さらにこの傾向は、オスの地位が低いときにとくに顕著でした。つまり、別の見方でいうと、地位の高いメスは、交尾の対価として、より長いグルーミングをオスに要求しているようなのです。実際、グルーミングの時間は、短いもので数秒間、長いもので1時間半以上と、状況に応じて大きく変わっていました。

 研究者たちは、併せてメスからオスに行われたグルーミングについても調べてみたそうです。こちらはグルーミングの後に交尾にいたるというケースはありませんでした。メスからのグルーミングには性的な意味合いはなく、オスとの絆を表現しているものと思われます。

 最近の生物学の世界では、こうしたオスからメスへのグルーミングと、その後に行われる交尾とを、いわば一種の商取引としてとらえる考え方があるそうです。今回の観察結果は、人間以外の霊長類において、マーケットの状態が取引の内容に影響をおよぼしたという初の証拠になるとといえます。

 なるほど、サルの性行動を商取引としてとらえるというのはなかなか面白い視点です。(たんなる言葉遊びなのかもしれませんが。)人間の世界では、供給量がすくなくなれば対価は上昇するわけですが、サルの世界でも同じようなことが起きているわけですね。メスの数がすくなくなれば、それだけメスの価値は上がり、対価(グルーミング)は大きくなると。さらに、サル社会での地位が、そのままグルーミングの価値に反映されているということも、注目すべきポイントだと思います。

【参考リンク】
・元論文:Payment for sex in a macaque mating market

2007年11月30日

クモが巣をゴージャスにする理由


 Science NOW より。今回はクモの巣についての話題です。

■ 芸術的なクモの巣を解きほぐす
 Untangling an Artistic Spider Web

 まずはこちらの写真をご覧ください(クモが苦手な人は注意)。これはナガマルコガネグモと呼ばれる種類のクモです。学名は Argiope aemula、日本でも南西諸島に生息しています。

 さてこのクモ、とてもユニークな形の巣を作ることで知られています。ふだん僕たちがよくみるクモの巣といえば、中央から放射状に引かれた糸に、同心円状に細かく糸が張られたものです。ですが、このクモはさらにここに加えて、4方向にジグザグ状の模様を織り込んでいるのです。写真を見ると分かりますが、クモ自身の体と一緒になって、あたかも大きな「X」の字が描かれているようで、なんだか不思議な模様です。

 いったい何のために、このような風変わりな模様が描かれるのでしょうか? エサの虫を引き寄せるためという説、敵を防ぐためという説、鳥が巣に突っ込まない目印だという説など、いろいろな考えが出されていましたが、いずれの説も確たる証拠に欠けている状態でした。

 さて今回発表された研究によると、この巣には、より多くのエサの虫を引き寄せる効果がある一方で、同時に捕食者をも引き寄せてしまうことが明らかになりました。つまり、命の危機と引きかえにたくさんのエサをゲットしているという、いわばハイリスクハイリターンの巣なのです。

 この研究を行ったのは、台湾の東海大学の生物学者 Ren-Chung Cheng と I-Min Tso です。彼らは台湾の南投という地域で2ヶ月のあいだ生活し、さまざまなナガマルコガネグモの巣をビデオカメラで撮影しました。このナガマルコガネグモは、すべての個体が巣にジグザグ模様をつけるわけではありません。彼らは最終的に、模様のある巣56個と、模様のない巣59個を撮影し、そのデータを比較しました。

 比較の結果は明らかでした。巣に引っかかった虫の数をくらべると、模様ありの巣の方が、模様なしの巣よりも平均で60%も多かったのです。しかし一方で、模様ありの巣は、敵にみつかるリスクも高くなっていました。撮影データの中には、ハチに襲われるシーンが計18回あったのですが、このうちの3分の2が、模様ありの巣に対してのものだったのです。巣への装飾が、餌と捕食者の両方ともの注意をひきつける結果になっているのだ、と研究者たちは述べています。

 こうしたトレードオフは自然界ではよく見られます。たとえば求愛のため大声で鳴くカエルなどは、一方で敵のヘビに見つかるリスクを負っていると言えます。今回のナガマルコガネグモのケースは、動物のつくった構造物においても同様のトレードオフの存在が示された初のものと言えます。

 ・・・僕の直感では、目立つ巣を作ってしまったら、虫にすぐ気づかれちゃってダメなんじゃないかなあ、と想像していたわけですが、事実はそれと逆で、模様をつけた方がより虫をひきつけるんですね。おもしろいです。

 ちなみに元記事でも触れられていますが、じゃあなぜ虫たちはXの模様に引きつけられるのか? という点は今もまだ完全には明らかになっていないようです。一説には、模様の対称性に引き寄せられているという説があるようです。・・・花と勘ちがいしているのかな?

【参考リンク】
・元論文:Signaling by decorating webs: luring prey or deterring predators?

2007年11月11日

5分間遊ぶだけでストレスが減るゲーム


 New Scientist より。

■ スマイルをつかまえるゲームは働く人の幸福に役だつ
 Smile-hunting game makes for happy workers

 ストレスの多い仕事をやっている人には、今回のゲームはたいへん有用かもしれません。たくさんの顔画像から笑顔をみつけだすというゲームを仕事前の被験者にやらせてみたところ、仕事後のストレスレベルが減少することが分かりました。

 このゲームを考案したのは、カナダ・モントリオールのマギル大学の Mark Baldwin らです。このゲームはいたってシンプルで、4×4に配置された16個のさまざまな人の顔写真の中から、笑っている人の顔をできるだけ早く見つけてクリックするというものです。残りの15個は、しかめっ面の人の顔写真です。

 彼らはこのゲームを、モントリオールにあるコールセンターに勤める23名の従業員にプレイしてもらいました。被験者たちは、毎日の始業前の5分間、ゲームを行いました。被験者たちは2つのグループに分けられ、一方のグループはこのゲームをプレイし、もう一方のグループは、笑顔とは異なる別の画像を見つけるという類似ゲームをプレイしました。

 彼らは1週間の実験期間の最終日に、被験者たちの唾液を採取しました。そしてここから、コルチゾールの割合を調べました。コルチゾールとは「ストレスホルモン」とも呼ばれるホルモンの一種で、ストレスを受けているときに発散される物質です。研究者らはここから、被験者らが1週間でどのぐらいのストレスを感じたかを導き出しました。

 結果は面白いものでした。笑顔をみつけるゲームをプレイした被験者たちは、もう一方の被験者たちと比較して、コルチゾールのレベルが平均で約17%低かったのです。

 この被験者たちは、ストレスを和らげようという意識をとくに持たずにこのゲームをプレイしたわけです。しかし、笑顔を見つけ出すという過程をくりかえすうちに、無意識にポジティブな態度になったものと考えられます。

 これは面白い結果ですね。僕たちはふだん、自分の感情は自分でちゃんとコントロールできてるよ、と思って生活してるつもりですが、シンプルな仕掛けでここまで明確な違いが生まれてくるというのは驚きです。さらに、朝にたった5分間ゲームをするだけでこうした効果が得られるというところも注目すべき点です。

 なお、本研究の Baldwin さんは、このアイデアをもとにした MindHabits というゲーム会社を興しているようです。リンク先のサイトでお試し版をプレイできますので、興味のある方はお試しを。僕のPC環境では顔写真がうまく表示されないトラブルが起きていますが。。

 ひとつ気になるのは、このゲームのタネ明かしを知ってしまった状態でプレイしたとしてもちゃんと効果が出てくるのか? という点ですね。ぜひ知ってる or 知らないの2つの状態での比較も今後やってみてほしいところです。

 ちなみにこのゲームはカナダのゲームコンペで賞をとったとのこと。やがてはこのゲームがポータブルゲームなんかで世に登場してくるのかもしれません。脳トレーニングならぬ感情コントロール、という感じかな。はやりそう?

【参考リンク】
・元論文:見つからず。。
Video game shown to cut cortisol:本実験に関する記載あり。
Self-esteem Games:実験のゲームはこちらでも試せるとのこと。ですがこちらも僕の環境では動かず。

2007年11月04日

三人の追っ手


 私を追うのは三人の男。
 みな近くまで迫っていた。
 私は逃げ続け、南の果てまで来ていた。
 もう終わりにしたい。西に送られるなんて真っぴらだ。
 
 彼らにはこれが最後のチャンス。
 私が望んだのは普通の平和だったのに。
 こんなときに限って鳥は川を流れない。
 まして竹を四本も待つなんて愚かしい。
 
 瞬間、何が起きたのか分からなかった。
 気づいた時には私は彼らの一人に銃を打っていた。
 まん丸い一つの弾はそいつの頭の片方に当たって刻まれた。
 そいつは短い叫び声をあげた。
 そいつは私の親だった。
 そいつは跳ねて笑っていた。
 
 もう西にすら行くことはできない。
 私は多くを失った。
 

 
 
 
 あなたに問いたい。
 そのときそいつが何て叫んだのか、分かるかい?

2007年11月03日

チベット人が高山病にならないわけ


 Science NOW より。

■ チベット人は血流を手にする
 Tibetans Get Their Blood Flowing

 高山病といえば、高度が3000メートル級以上の高山に登ったときに起こる症状のことです。高度のある場所では空気中の酸素濃度が低いため、呼吸困難、頭痛、めまいといった、酸欠の症状があらわれることがあり、場合によっては死に至ることもあります。

 さて、チベットは、そんな高度の地域にある国です。平均の標高は4000メートルと、平地に住む僕たちから見ればまったく想像のつかない場所です。しかしチベット人は高山病にかかることはありません。チベット人の体には、僕たちと違うなにか秘訣があるのでしょうか?

 すでにある研究ではこんなことが分かっています。チベット人の動脈中の血液を調べたところ、他の人よりも酸素の濃度が低くなっていることが分かりました。とはいえ、チベット人の体内組織はとりわけ少ない酸素を消費するわけではありません。そこで今回、さらなる調査が行われました。

 この調査を行ったのは、オハイオ州クリーブランドのケース・ウエスタン・リザーブ大学の自然人類学者 Cynthia Beall らによるチームです。彼女たちが注目したのはチベット人の血流量でした。彼女らは、チベットの Panam Xiang という地域(標高4200メートル)に住む88名の被験者と、クリーブランド(標高200メートル)の50名の被験者の上腕部の血流を調べました。

 結果はおどろくべきものでした。心拍数や血圧は両グループで違いが見られなかったのに対して、血流量は、チベット人の方がクリーブランドの人よりも2倍多かったのです。

 いったい何が原因でこんな現象が見られたのでしょうか? このチームはさらに、両グループの血液中にふくまれる酸化窒素とその代謝物の量をしらべました。これらは心臓の冠動脈を拡張するはたらきがある物質で、心臓病の治療や発毛剤、バイアグラなどにもその効果が利用されています。調べたところ、チベット人において、硝酸塩や亜硝酸塩といった酸化窒素の分解生成物が10倍も多く見られました。

 僕自身は、過去の研究の、チベット人のほうが酸素濃度が低いっていう事実のほうがそもそも驚きです。なんだか効率が悪くなりそうな気がするんですが、どうなんでしょう。ちなみにチベット人が現在の地域に移住してきたのは今から2万5千年前といわれています。高山での生活に適応するためにこれだけの素晴らしい能力を身に着けたというのは面白いです。

 なお、元論文では、チベットとアンデス高地の人々の生理学的な比較についても述べられているようです(読んでない)。興味のある方はぜひどうぞ。

【参考リンク】
・(元論文)Two routes to functional adaptation: Tibetan and Andean high-altitude natives

2007年10月07日

インカの生贄の子供の食生活はリッチだった


 Science NOW より。

■ 死の前のインカのごちそう
 An Incan Feast Before Death

 インカ帝国は、かつて南アメリカのペルーの周辺で栄えた国です。13世紀に興り、16世紀にコンキスタドールと呼ばれるスペイン人に滅ぼされるまでの間、栄え続けました。世界遺産のマチュ・ピチュは有名ですね。

 さて、この地域では、1995年ごろから、10歳前後の子供のミイラがあいついで発見されました。当時に遺された文献によると、どうやらこれらのミイラは、「カパコチャ」と呼ばれる儀式で葬られた生贄だったそうです。ミイラの多くが、ネックレスや頭飾り、ブレスレットなどを身に着け、山頂部の神殿にて葬られていました。インカ帝国の人々は、子供たちの命を神へ捧げ、国の安静を祈っていたようなのです。

 この地域の気候は寒冷なため、ミイラは氷漬けの状態で発見され、きわめて良好な保存状態でした。胃の中の消化物から、死の前日にどういった食事をとったかといった情報までも明らかになっているようです。(参考:縄文と古代文明を探求しよう!::インカのミイラNo3 ミイラになった生贄

 以上が前ふり。さて今回、ミイラの毛髪を分析した新たな研究によって、死の直前よりもさらに以前の子供たちの生活状態が明らかになったとのことです。

 英国・ブラッドフォード大学の生考古学者("bioarchaeologist" という言葉をそのまま訳しました)である Andrew Wilson らによる研究チームによってこの研究は行われました。彼らは、毛髪の物質の組成をしらべ、そこに同位体がどのくらい含まれるかを分析しました。ここから、子供たちが死の以前にどういったものを食べていたかを推測したのです。たとえば、炭素の同位体の割合をしらべれば、植物の摂取の変化を知ることができるし、あるいは窒素の同位体の割合をしらべれば、肉の消費の変化がわかるというわけです。研究者たちはここから、ミイラとなった子供たちの死の以前の食生活を解き明かしました。

 分析の結果、しらべたミイラの多くが、死の以前のあるときを境に、リッチな食生活へと変化していたことが明らかになりました。中でも、あるミイラでは、もともとジャガイモ中心の食生活だったのが、死のおよそ1年前の時期に、突如、動物性たんぱく質やトウモロコシといった、栄養価の高い生活に変化していました。

 著者たちはここから、生贄に選ばれた子供たちは、その時点からインカの信仰において特別な地位に置かれたのだろうと述べています。そしてさらに、リッチな食生活をおくることもカパコチャの儀式の一部分となっていたのだろう、と述べています。

 他のミイラの中にはこうした傾向が見られなかったケースもあったそうですが、今回のケースはインカ人の信仰の詳細を知る貴重な例となりそうです。

【参考リンク】
・(元論文)みつからず。。Proceedings of the National Academy of Sciences 誌のオンライン版だそうですが。

2007年10月02日

パイプで地球の気候を救え!


 ABC Science Online より。

■ 夢のパイプが気候を修繕する、と地球科学者は語る
 Gaia scientist says pipe dream may fix climate

 地球温暖化を食い止めるための何ともユニークな方法が、英国の科学者によって提案されたそうです。

 今回この方法を提案しているのは、オックスフォード大学の James Lovelock 教授と、ロンドンの科学博物館の Chris Rapley です。この方法、なんと海の中に大きなパイプを沈めるというものなのです。長さにして100~200メートル、幅にして10メートルという巨大なパイプを、何本も海に設置するのです。

 いったい何故こんなことをするのでしょうか? 理由はこうです。パイプの付近で潮の満ち干が起こると、それにあわせてパイプの中の海水も移動します。パイプの下部には逆流防止の弁がついています。このため海水は上方向にしか動けません。こうしたしくみによって、潮の満ち干のたびに、海水がどんどん深いところから海面近くに昇っていくことになるのです。

 海面近くは、藻が繁殖して栄養が不足した状態になっています。ここに深いところの栄養に富んだ水がやってくるとどうなるでしょうか。どんどん藻の繁殖が進むことになります。この結果、二酸化炭素のレベルが下がる効果がえられると期待できるのです。

 もうひとつ、藻から期待される効果があります。硫化ジメチルと呼ばれる物質を生み出すのです。硫化ジメチルは、海水が蒸発するときに一緒に大気中に運ばれます。そしてこれが変化してできた硫黄化合物が核となって、雲が形成されることになります。こうして生まれた雲は、太陽光を反射し、温暖化を抑えると期待できるのだそうです。

 ご存じのとおり、温暖化によって南極の氷が解けると、もともと白かった地表が土の色へと変わってしまい、さらにそれが太陽光の吸収をうながすという、負のスパイラル現象が起こるとされています。今回の方法はそれを食い止める助けとなるかもしれません。

 現在の状況はどんな感じかというと、実環境でのプロトタイプテストはまだ行われていません。ですが、資金提供者を得ることができたとのことで、やがて行われるテストの結果次第では、さらに大きな規模(1万~10万本)での実験がメキシコ湾で行われる予定とのことです。

 なるほど・・、印象としてはやっぱりものすごく強引な感じのやり方ですね。「生態系への影響は?」「他のマイナスの影響は?」などとあれこれ足踏みする態度と完全に逆をいってるという感じがします(元論文をろくに読まずに言ってます。) 悠長なことをいってる余裕は既にない、とにかくうまくいきそうな方法を試すんだ! という研究者らの意思が元記事が僕には伝わってきました。


【参考リンク】
・(元論文)Ocean pipes could help the Earth to cure itself
news @ nature.com::Mixing the oceans proposed to reduce global warming
 (↑近いうちに読めなくなります。読めない場合は記事タイトルを google 等につっこんでみるともしかすると見つかるかもしれません。)

2007年09月18日

コンセントから住人の位置を追跡する


 New Scientist より。

■ 「かしこい家」は電気ノイズを追跡するかもしれない
 'Smart homes' could track your electrical noise

 家庭内ユビキタス、と呼ばれる研究分野があります。家庭にあるさまざまな機器をネットワークで接続して、連携して住人の生活のサポートをしようというのが目的です。

 たとえば、人の動きにあわせて自動で玄関を施錠してくれるとか、部屋から人がいなくなると空調を止めてくれるとか、電話が鳴るとテレビの音量を下げてくれるとか・・・。いろいろと快適な応用が期待されています。

 さて、これを利用する上での一番の困りごとといえば、システムが何かと大がかりになってしまうという点です。たとえば、住人がどこにいるかを追跡するために、カメラやマイクといったセンサーを家じゅうあちこちに配置しないといけません。これはコスト的にも手間的にも非常にたいへんです。

 さて、今回、ジョージア工科大学のコンピュータ科学者 Gregory D Abowd によって提案された方法によると、カメラよりもずっと安価な方法で、代替となるデータが得られることが分かりました。

 彼の方法では、とある装置を壁のコンセント穴に差し込みます。この装置は、コンセントに供給される電力の変動を監視するためのものです。家電の電源をオンやオフにした瞬間に生じるわずかなノイズをキャッチして、その情報を制御用パソコンに送信するのです。さらに制御用パソコンは、このノイズのパターンを分析して、それがどの家電から生じたものなのかを突き止めることができます。ここから、住人がいまどの部屋にいるのかをざっくりと見積もることができるというわけです。

 実際に実験も行われました。6つの家庭で19種類の家電をオンオフさせたテストによると、85~90%の割合で、ただしく機器のオンオフを識別することができたそうです。

 いうまでもなく、この方法はカメラやマイクの精度には到底かないません。ですが、既存のインフラを利用するだけで効果が得られるという点は非常に魅力的です。制御用パソコンにノイズパターンを学習させるという手間がかかりますが、カメラを設置したりするよりはずっと楽にできるだろう、と著者は述べています。

 なるほど、家庭内ユビキタスをちょっとお試しで導入してみたい、という要求に対してこの方法はよいかもしれませんね。あるいは、わざわざカメラを設置するほどでもない部屋に導入するとかでしょうか。何かしらの形で実用はできそうです。ちなみに今回の実験は、他の家電をみなオフにした状態で行ったとのことですので、複数の家電がまざった状態での識別にはもうちょっと精度の高い解析が必要のようです。


【参考リンク】
・(元論文)Ubicomp 2007 という学会で発表されるそうです。

2007年09月17日

髪のもつれを物理学者が解き明かす


 ABC Science Online より。

■ 美容室でもつれる物理学者たち
 Physicists in a tangle at the hairdresser's

 ストレートヘアーとカールヘアー、もつれやすいのはどちらの髪型でしょうか? フランスの研究者らによって、この疑問への答えが出されたそうです。

 パレゾーにあるエコール・ポリテクニークの研究者 Jean-Baptiste Masson は、この問題の答えを見つけるべく、数名の美容師に依頼して、人々の髪にあるもつれの数を数えてもらいました。ここでもつれとは、髪がまとまってしまって櫛が引っかかるような状態と定義します。なお測定は髪がもつれやすい夕方の時間帯を選びました。(被験者の詳細は不明ですが、おそらく美容師のお客さんでしょう。)

 何となくの直感からすると、カールヘアーの方がごちゃごちゃしている分、もつれが起きやすそうな気がするのですが、結果はこれと正反対でした。123名のストレートヘアー、89名のカールヘアーを調べたところ、ストレートヘアーで平均5.3個、カールヘアーで2.9個のもつれがあることが分かりました。ストレートヘアーの方が2倍も多かったのです。

 Masson はこの現象の理由を明らかにするべく、高分子力学の分野にヒントを得た数学モデルを作りました。このモデルは、2つのパラメータが肝となっています。一つは2本の髪がぶつかる確率、もう一つはぶつかるときの角度です。

 結果、後者のパラメータの方がより大きな影響を及ぼしていることが明らかになりました。すなわち、ぶつかる確率ならカールヘアーの方が頻度は大きいのですが、この影響はそれほど大きくはないのです。一方で、ぶつかる角度でみれば、ストレートヘアーの方が大きくなる傾向があると。もつれやすさという観点では、角度の方が影響が大きいため、結果、ストレートヘアーの方がもつれやすいということになるのです。

 今回の知見は、ヘアブラシの形状や、あるいは面ファスナー(マジックテープ)の設計に応用できるかもしれない、と著者は述べています。

【参考リンク】
・(元論文)Why does curly hair get less tangled than straight hair?

2007年09月09日

絶対音感にすぐれた人はラの音だけ間違えやすい


 New Scientist より、前回に引き続き、音楽に関連するネタ。

■ 現代の調律でゆがめられた音程の認識
 Pitch perception skewed by modern tuning

 絶対音感といえば、音の高さを、他のものとの比較によらずに識別する能力のことです。今回、すぐれた音感能力をもつ被験者に音の識別テストをやらせてみたところ、どういうわけか、ラの音の周辺でまちがいをする傾向が高いことが明らかになりました。

 この実験を行ったのは、カリフォルニア大学の Jane Gitschier らです。彼らは、ウェブで集めた2213名の被験者らを相手に、音を聴かせて音程名を答えてもらうという絶対音感テストをやってもらいました。被験者は8~70歳で、音には正弦波とピアノ音の2種類を用いました。テストの結果から、点数の低い被験者のデータを取り除き、残った981名ぶんのデータをもとに解析を行いました。

 すると、解析の結果、おもしろい傾向があることが分かりました。

 著者らは、被験者の回答と正答との間にどのぐらいのズレがあるかを調べました。すると、ほとんどすべての音程について、被験者は、正しい音よりもシャープ(♯:高音)の方向に間違える傾向があることが分かりました。つまり、たとえばレの音を出題したときの誤答の多くが、レ♯やミといった高音側の回答だったのです。こうした傾向は他の研究ですでに指摘されているのですが、今回のテストで改めて確認されたといえます。

 さらに今回の実験では、他のおもしろい傾向も分かりました。どの音を聴かせるかによって、上記の傾向が大きく変わってくるのです。これによると、被験者にソ♯の音を聴かせたときに上記の傾向がもっとも強くなることが明らかになりました。さらに、ラ♯については、むしろこれと正反対の傾向が出ました。つまり、ラ♯の音を聴かせたときには、フラット(♭:低音)の方向に間違える傾向があったのです。

 これはどういうことか? つまり、ソ♯やラ♯といった音を聞いたときに、多くの人が、これをラであると認識してしまったようなのです。すなわち、まるで磁石のように、ラにむかって回答が引き寄せられたと。これはラに特有の現象でした。

 いったいなぜこんな傾向が出たのでしょうか? 著者らはこの説明として、オーケストラの調律がラの音を基準に行われているのが原因ではないかと述べています。コンサートマスターが最初にラの音を出して、他の演奏者はそれを聞いて自分の楽器を調律するというやつですね。

 国際規約ではラは周波数が440ヘルツの音として定義されていますが、実際にはさまざまな周波数が用いられます。たとえば、古代音楽では415ヘルツぐらいだし、現代のオーケストラでは、N響で約442ヘルツ、ベルリンフィルで約446ヘルツが基準になります。

 したがって、演奏者や聴衆は、幅ひろい音を聴いて、これをラであると受け入れさせられる機会が多いと言えます。これが被験者がラの判定領域を押し広げることとなり、今回のような結果につながったのではないか、と彼らは述べています。

 うーん、そもそも絶対音感どころか相対音感ですら怪しい僕にしてみれば、調律の基準音が原因だというこの仮説の妥当性はなかなかピンとこないですねえ。。ラ以外の音も影響を受けそうな気がするのですが。音感のすぐれた人にしてみればこの仮説はある程度は理解できるものなのでしょうか。とはいえ、仮説としてはものすごくユニークでおもしろいです。

【参考リンク】
・(元論文)Dichotomy and perceptual distortions in absolute pitch ability

<<前のページへ 34567|8|9101112 次のページへ>>

アーカイブ