2008年06月29日

腹ペコなクモは致死性の高い巣を作る


 New Scientist より。

■ 腹ペコなクモはより致死的な巣を紡ぎ出す
 Hungry spiders spin deadlier webs

 腹ペコ状態のクモと、そうでないクモ。両者のクモのつくる巣を比較してみたところ、前者のクモは、たくさんのエサを手に入れるのに有利な巣をつくるのに対し、後者のクモは、捕食者からの防御を高めるのに有利な糸を多くつくっていることが明らかになりました。

 この実験を行ったのは、米国アクロン大学の研究者 Jacquelyn Zevenbergen と Todd Blackledge です。彼らは、日本ではクロゴケグモと呼ばれる種類のクモ(英語では Black Widow、交尾の後で雌が雄を食べる習性があることからこんな名前がついたのだとか)のつくる糸の性質を調査しました。

 彼らは2種類のクモを実験室でそだて、一方のクモには毎日1匹のコオロギをエサとして与え、もう一方のクモには1週間なにも与えませんでした。そして、その後クモを別の場所に移しかえ、その場所でそれぞれのクモがつくる糸を比較しました。

 単純にクモがつくる糸の量を比較した場合、満腹のクモのほうが空腹のクモよりもたくさんの糸を作り出すことが分かりました。

 しかし、糸の性質をみてみると、空腹のクモは満腹のクモとくらべて、ベトベトした糸で、シート状の網をつくる傾向が強いことが分かりました。一方で満腹のクモは、2倍の太さがある丈夫な糸を多く作り出していました。

 クロゴケグモは、シートを地上に地面と垂直になるように設置します。ここに虫がひっかかると、振動を通じてクモはエサの存在を知り、行動を開始します。シートを地面から切り離し、そのまま上に持っていって、虫を宙吊りにして捕獲するのです。クロゴケグモにとって、シート状の巣は、エサを捕らえるのに適しているのです。じっさい、空腹なクモがつくった巣に別のクモを住まわせてみると、より多くのエサを短時間でゲットできていることが確認されました。

 一方、満腹のクモは、丈夫な糸をつかって立体的な構造をつくり、巣の防御力を高めていました。どのように調査をしたのか元記事からは不明ですが、空腹なクモとくらべて、巣の強度が22.5%増していることが分かりました。

 今回の結果は、クモが自身の栄養状態に応じて、自分のリソースをより生存上有利な戦略へとシフトさせたことを示しているといえます。

 これまで、クモの周囲の環境が巣の構造に影響を及ぼすということはよく知られていましたが、クモ自身の状態がどのような影響を及ぼすについては情報が十分ではありませんでした。今回の研究はこの理解のための一歩となるでしょう。


【参考リンク】
・元論文:Fine dining or fortress? Functional shifts in spider web architecture by the western black widow Latrodectus hesperus

2008年06月07日

表面の粗いボウリング玉は高スコアが出やすい


 ABC Science より。ボウリング場で玉を選ぶときのヒントになるかもしれません。

■ 粗いボウリング玉はかっ飛ばしている
 Rough bowling balls strike out

 さまざまな特性のボウリング玉をロボットに投げさせて玉の速度や回転などを測定するという調査が行われました。結果、高いスコアを出すためには、玉の表面が粗いことが重要であることが明らかになりました。この結果をもとに、公式ルールに変更が加えられることになります。

 すべてのスポーツの世界では、ルールに正当性が要求されます。たとえば特定のプレイヤーだけが有利になったり、プレイヤーの実力差が出にくくなったりするルールは適切とは言えません。そしてそれは、時代の進歩に応じて、適宜見直しが入るべきものです。

 さて、こうした事情はボウリングの世界でも同様です。ここ20年、ボウリング玉の技術が大幅に進歩したことにより、ストライクが容易に出せる玉が多く出回るようになりました。その結果、上位者の間の差が出にくくなるという問題が生じていました。そこで今回、USBC(全米ボウリング評議会)は、特にボールの特性について新たに規制を設けることにしました。

 もっとも、ルール改正を試みるのはこれ初めてではありません。2005年に一度規制を設けようとしたことがあったのですが、その際は科学的な裏づけとなるデータが十分ではなかったために、ボウリング玉の製造メーカーから反発があり、結局うまくいきませんでした。

 そこで、それから2年の歳月をかけ、USBC の研究者らの手によってボウリング玉のデータ測定が行われました。

 実験にあたって、彼らはサンプルの玉をロボットに投げさせました。その様子を23個のセンサでとらえ、玉の速度・回転・方向などを測りました。彼らは、玉をコーティングするオイルの量や、コアの形状など、18の項目に玉の特性を分類し、いったいどの項目が最も高スコアに結びつくのかを調べました。

 結果、もっとも影響しているのは玉の表面の粗さであることが分かりました。つまり、一見なめらかな玉も、ミクロなレベルで見れば、樹脂と薬品の影響で、細かな溝がたくさんついてます。この溝の影響が大きいと、レーン上で大きくフックがかかり、結果、ストライクの可能性が上がることになるわけです。

 今回の実験の結果から、溝に1.27マイクロメートルの制限が設けられることになりました。製造メーカーは既に対応が完了しており、2009年4月から改正ルールが有効になるとのことです。

 なるほど。。スポーツの世界の進歩って、プレイ技術の向上という側面だけでつい見てしまいがちだけど、それだけではなくて、ルールの進歩という側からの見方もあるんだなあ、と気付かされたよ。しかもそのルールが場当たり的なやり方で決まるのではなく、厳密な科学の方法で定めている点もなかなか面白いなと感じました。

 ちなみに記事に登場する投球ロボット(愛称はハリー)は、USBC の過去の記事(USBC leads the way in bowling technology)で見ることができます。

【参考リンク】
・元記事:Completed USBC bowling ball motion study leads to new specification
・調査報告:Ball Motion Study: Phase I and II Final Report

2008年05月31日

気圧センサーで住人の位置を特定する


 New Scientist Tech より。

■ 適応したエアコンは家庭内の動きを追跡する
 Adapted aircon can track movement in the home

 家の中の人の動きを突き止めるにはどうすればよいか? エアコンに取り付けた気圧センサーで気圧のわずかな変化をキャッチし、ここから人の動きを推測するという方法が米国の研究者によって提案されました。ここから得た人の動きをもとにして、今後、よりエネルギー消費のすくないエアコンの制御などが期待されます。

 家の中の人の動きと聞いて、まっさきに思いつくのは、家のあちこちにモーションセンサーを取りつけて監視するという方法です。ですがこの方法は、あらゆる箇所に工事を行う必要があり、たいへん高価です。そこで、より安価に同等のデータを得る手法が求められてきました。

 そこで、米国アトランタにあるジョージア工科大学の Shwetak Patel は、これよりもずっと安価で手間のかからない方法を考案しました。彼の方法とは、空調システムを利用して気圧を測定するというものです。

 現在、米国の多くの家の空調では、家じゅうにダクトを張り巡らせ、中央のユニットから空気を送り込んで冷暖房や換気を行うというやり方が用いられています。そこで、このインフラをうまく流用することで、追跡に必要なデータが得られるのではないか、というのが彼のアイデアです。

 どのようにして必要なデータを手に入れるのでしょうか。彼のチームは、中央のユニットのフィルター部に、5つの気圧センサーを取り付けました。とうぜん、家にだれもいない状況では、これらのセンサーは一定した値をさし続けます。ですが、中で人の移動が起きると、それに伴いわずかの気圧の変化が生じます。彼らは、特にドアの開け閉めしたときや、ドアを人が通過したときに、目立った変化が生じることに気付きました。そしてさらに、どのドアが動いたかによって変化のパターンが変わってくることも分かりました。そこで、気圧のパターンをコンピュータに学習させることで、どのドアで開け閉めが起きたのか、いつ人の通過が起きたのかを特定できるのではと考えました。

 この考えを実現したシステムでテストが行われました。その結果、部屋数が10~20の家で、適当に選んだドアに対し開け閉めを行ったところ、それがどのドアで行われたのかを、平均して75~80%という精度で特定することに成功しました。

 さらに別のテストでは、ある開いた状態のドアに対し人が通過したところ、それがどのタイミングで行われたのかを、60~75%の精度で特定することができました。

 現在彼は、さらに大きな家やオフィスで同様のアプローチが有効か調べようとしています。大きな家では気圧の変動は小さくなるので、より精度の高い推測が必要になることと思われます。

 なるほど。既存のインフラをうまく利用するというアイデアは、実用面から見てとても良いですね。さらに今回のアイデアの良い点は、家じゅうを歩き回って装置をとりつける必要がなく、中央の空調ユニットに集中して取り付けるだけでOKというところにもあると思います。

 気になるのは、気圧の変化という微妙な値を利用するだけに、季節や天候の変化にどれだけ対応できるかという点ですね。シーズンごとに再学習や設定のきりかえを行うというのはちょっと面倒だし、ぜひここは気温や湿度のデータを取り入れて判定する仕組みを取り入れて欲しいなあと思います。

 ちなみに、家の中の人の位置を推測する方法については、他にもいろいろと提案があります。以前にこのブログでも紹介した「コンセントから住人の位置を追跡する」では、コンセントから取得した電気ノイズのパターンから人の位置を特定します。また別の研究(*1)では、配管の中央部にマイクを取り付けて、入浴や皿洗いなどの音を聞き分けて判断するという方法も提案されています(すごいアイデアだなあ・・)。これらをミックスした手法なんかが出てくると面白いかもしれないですね。

【参考リンク】
・元論文:Detecting Human Movement by Differential Air Pressure Sensing in HVAC System Ductwork: An Exploration in Infrastructure Mediated Sensing
・(*1):Sensing from the basement: a feasibility study of unobtrusive and low-cost home activity recognition

2008年05月01日

メルアドであなたの性格がわかる?


 New Scientist Tech より。

■ メールアドレスは性格をどのぐらい明らかにするのか
 How an email address can reveal your character

 メールアドレスを決めるときの悩みが一つ増えることになるかもしれません。被験者にメールアドレスだけを見せて、そのアドレスの持ち主がどういう性格の人物か推測してもらったところ、アドレスの特徴に応じて、回答に傾向が見られることが明らかになりました。

 この実験は、ドイツのライプチヒ大学の Mitja Back らによって行われました。彼らは100名の被験者を募り、さまざまなメールアドレスを見せました。そして各アドレスについて、その持ち主がどういう性格かをアンケートで評価してもらいました。

 研究者たちはアンケートを集計し、各アドレスの評価を、神経質性、外向性、開放性、同調性、誠実性、自己愛性という6つの尺度からそれぞれ数値化しました。

 この実験で使われたメールアドレスは、いずれも実在のアドレスです。研究者たちは、ウェブで募った599名の協力者から個人アドレスを収集しました。そして、入手したアドレスの特徴を、さまざまな基準にもとづいて分類しました。例えば、含まれる文字の種類・個数による分類や、ドメイン名にもとづく分類、あるいは、どのような意味か(オリジナルの言葉か? ジョークを含む言葉か? など)にもとづく分類など、多岐に渡っています。彼らは、これらの分類と、被験者たちの回答との間になんらかの関連があるかどうかの分析を行いました。

 結果、いくつかの点で特徴がみられました。

 まず、文字数が多いアドレスや、ドット(.)の数が多いアドレスは、誠実性の評価が高くなる傾向がありました。反対に、数字が多いアドレスは、持ち主の誠実性は低いと評価されました。

 また、(実名でなく)架空の名前のアドレス、ユーモアを含んだアドレス、プロバイダ名が hotmail のアドレスに対しては、外向的な性格と評価されました。自分を持ち上げるような表現("king" とか)や性的な表現を含んだアドレスは、自己愛性が強いと評価されました。このほか、女性名のアドレスは、神経質性、開放性、同調性、誠実性が高いと評価されることも分かりました。

 さて、ではこれらの評価はどのぐらい正しいものなのでしょうか? これを調べるべく、研究者たちは、アドレスの特徴と、そのアドレスの持ち主の実際の性格との間にどのような関連があるかを調べました。彼らは、メールアドレスを提供してくれた599名の協力者に性格テストを受けてもらい、この回答から得た各協力者の性格が、先ほどの評価結果とどのぐらい一致しているのかを、統計的手法(敏感度というものを算出するそうです)で分析しました。結果、外向性を除く5つの尺度について、被験者の判断にある程度の正しさがあることが確かめられたとのことです。

 近年、コンピュータを仲介したコミュニケーションが急速に広がっているなか、こういったコミュニケーションが人の性格の印象づけをどのように左右するのかという点は、今なお十分な知見が存在しない状態です。今回の研究は、メールアドレスのようなわずかな情報であっても、その人の性格について断片的な情報を持ちえること、そして実際に相手から見た自分の印象に影響を及ぼすことを示す証拠になるといえます。

 なるほど・・。ここで述べられている統計手法について知識がないため、分析結果の正当性うんぬんにはほとんどコメントできないのですが、わりと直感的には「ほんまかいな」と感じる結果もありますね。

 あと、今回の調査は、アドレスだけを見せて強制的にその人の性格を判断させたという条件ですので、その点には気をつけないといけません。ですので、例えば僕たちのアドレスを誰かに見せたときに、すぐさま上のような評価がされ得ると言ってるわけではないので、ご注意を。

【参考リンク】
・元論文:How extraverted is honey.bunny77@hotmail.de? Inferring personality from e-mail addresses

2008年04月17日

脳の写真がある科学記事は信用されやすい


 ポッドキャスト番組 60-Second Psych より。

■ 脳のイメージは不正確な科学ニュースを信頼あるものにする
 Brain Images Make Inaccurate Science News Trustworthy

 「テレビを視聴しているときの脳の活動と、数学の問題を解いているときの脳の活動をスキャンし比較するという調査が行われました。すると、いずれも側頭葉の部分が活発に活動していることが明らかになりました。この結果は、テレビを視聴することが数学能力を向上させることを意味しています。」

 ・・・ごめんなさい。上の文章はまったくのデタラメです。さて、今回発表された研究によると、「テレビの視聴は数学の能力と関連している」と題されたこの架空の記事を、脳のイメージ図と一緒にして被験者に読ませたところ、棒グラフと一緒にして示したときや、説明の文章だけを示したときと比べて、より多くの被験者が、この記事を科学的に正しい推論であると判断したことが分かりました。

 この実験を行ったのは、米国のコロラド大学の David P. McCabea とカリフォルニア大学の Alan D. Castel です。彼らは、156名の学部生(18~25歳)を集め、上に示した認知神経科学の記事を読ませました。このとき、三つに分けた第一のグループの被験者に見せた記事には、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)による脳のイメージ画像が含まれていました。また第2のグループには、脳の活動の強さを棒グラフで比べた図と文章、第3のグループには文章のみが示されました。

 ご覧になって分かる通り、上記の記事は、明らかにめちゃくちゃな推論です(実際は約300ワードの文章でこれより多少は分かりにくくなってますが)。研究者たちは、読み終わった被験者たちにアンケートをとり、「この記事は科学的に筋の通った推論である」という意見にどのぐらい同意するかを、4段階(1:全く同意できない、4:強く同意する)で評価してもらいました。

 結果はこうでした。文章だけを読ませたグループと棒グラフと一緒に読ませたグループとでは目立った違いは見られず、いずれも平均して2.7程度のスコアでした。しかし、脳のイメージを見せたグループでは違いが見られ、平均でおよそ2.9のスコアを示したのです。つまり、fMRIの図を一緒に見せることで、記事の信用度が目だって上がったのです。

 一体なぜこのような違いが見られたのでしょうか? ありそうな説明は、単純な棒グラフよりも活動図のほうが複雑で情報量も多いから、というものです。でも果たして本当にそれだけなのか? 研究者たちはこれを確かめるべく別の実験を行いました。

 第2の実験では、二つに分けられた一方のグループには脳の地形図(左)が、もう一方には脳の断面図(右)が、先ほどの文章とともに示されました。図は元論文より引用しました。いずれの図も同じ脳活動を示している点で同じなのですが、断面図の方は実際の脳をイメージさせる表現なのに対し、地形図の方はそうではない抽象的な表現です。

 この二つの比較はどうだったか。地形図では平均2.6程度だったのに対し、断面図では平均2.7程度、なお若干の違いが見られたのです。つまり、脳のイメージを使うことにより、他の表現手段よりも大きな説得力が得られることが分かったのです。

 いったい何がこの差を生み出したのか? 著者らは、この説明として、脳イメージという実体のある表現が、人々の直感に訴えたことが原因ではないかと述べています。

 なるほど。情報の見せ方ひとつで信用度が違ってくるものなんですね。個人的にはすごく同意というか共感してしまう結果です。

 たとえば雑誌・新聞の記事のように、短時間でばーっと文章を読むときなどは気をつけないといけないかもしれません。意識的に注意しないと、もっともらしい挿絵や写真についつい判断を奪われてしまうことになるかも。そんな戒めを感じました。

 あるいは、別の見方として、相手に情報を伝えるときのヒントを含んでいると見てみるのも面白そうです。


【参考リンク】
・元論文:Seeing is believing: The effect of brain images on judgments of scientific reasoning

2008年04月05日

子供たちはテレビゲームで歯をみがく


 New Scientist より。

■ コンピュータ化された歯ブラシは口腔衛生をゲームにする
 Computerised toothbrush makes oral hygiene a game

 歯みがきを嫌がる子供たちに、毎日きちんと歯をみがいてもらうにはどうすればいいか? ブラッシングに合わせて動くゲームをつかって、子供たちの歯みがきを大きく改善することが可能になりました。

 小さな子供たちにきちんと歯ブラシをさせるというのは非常に大変なことです。まずそもそも好んで歯をみがく子供なんてそうそういません。さらにやっと歯ブラシをさせることができたとしても、子供のブラッシングは決して上手ではありません。とある研究によると、歯全体の4分の1程度しか磨かれていないという報告もあるほどです。

 そこで、国立台湾大学の Hao-hua Chu らのチームでは、ゲーム感覚で楽しんで歯みがきができるような仕掛けができないかを考えました。彼らのアプローチは、歯ブラシの動きに対し、コンピュータ画面上に何らかのフィードバックを出すというものです。

 どうやって歯ブラシの動きをキャプチャするか? 彼らがとったのは、ウィーリモコンで使われているのと同じ、3次元加速度センサーを歯ブラシの末端に取り付けるという方法でした。しかしこの方法では、口の中の位置の精確な位置を得ることは困難でした。口の中のおおよその位置しか判別することができなかったのです。

 そこで別の方法を用いました。加速度センサーによるアプローチはあきらめ、LEDライトによる方法を採用することにしました。ブラシの末端に、3個のLEDが埋め込まれた小さなボックスを装着します。そしてLEDを洗面室の壁に取り付けたWEBカメラで撮影することにより、ブラシの位置や回転などの動きをとらえることにしたのです。精度は加速度センサーよりも良好で、歯ブラシの先端が口の中のどこにあるかを、24箇所という粒度で区別することに成功しました。

 こうして得たデータをもとに、楽しく歯ブラシができるゲームを開発しました。下の図は、研究者たちが Ubicomp 2007 という学会で発表したときの論文(A Playful Toothbrush to Motivate Proper Brushing for Young Children)から引用しました。この「Playful Toothbrush」というゲームでは、歯ブラシを動かすと、色のついた歯がだんだんきれいになっていくという仕掛けが施されています。

 実際に幼稚園児たちを相手にテストも行われました。13名を対象にした実験によると、5日間このゲームをやってもらった前後で、ブラッシングがどれだけ良くなったかを染色テストで調べてみたところ、2倍の向上がみられたとのことです(何が2倍なのかは記事からは不明)。

 なるほど。気乗りのしない仕事や勉強をやるときに、楽しめる仕掛けを設けてやる気を出すというのは僕たちも普段やることですね。ですが、歯みがきのような、昔から当たり前にやっていたルーチンワークにも同じ仕組みを持ち込もうというのは考えたことがなかったです。仕方がないこと、という先入観がすっかり染み付いていたんだなあ、と気付かされました。

 おそらく元論文では挙げられているのでしょうが(読んでない)、実用にいたるまでには問題がたくさん残ってそうですね。おそらく頭は最初の位置から動かしてはダメでしょうし、そもそも頭や歯ブラシの位置をセットする手順が毎回必要になりそう。あと洗面所に大きなディスプレイが居座るというのも現実的ではないでしょうね。こういう問題の解決を考えるのはとても面白いですね。ぜひスマートな解決法がやがて世の中に出てくるといいなと思います。

【参考リンク】
・元論文:26th Computer and Human Interaction conference という学会で発表が予定されているとのことです。

2008年03月09日

都会で生きるため雑草は進化する


 Science NOW より。

■ 雑草はどのように都市に慣れるのか
 How Weeds Take to Cities

 都会に生活する雑草が、都会で生き抜くために、非常に短いスパンで種子を進化させていることが明らかになりました。

 今回のターゲットは、Crepis sancta という名前の植物です。キク科に属し、主にヨーロッパに生息します。見た目はタンポポと似ており、アスファルトの隙間や植え込みなどでよく見かける、非常にありふれた植物です。

 この植物は、2種類の種子をつくることが知られています。1つは綿毛のついた軽い種子、もう1つは綿毛のない重たい種子です。軽い種子は風にのって遠くまで移動することができる一方、重い種子はそのまま本体の近くの地面に落下します。(それぞれの種子の写真はリンク先を参照。)

 さて、すでに研究者たちの間では、Crepis sancta は周りの環境に応じて2つの種子の割合をコントロールしていることが知られています。たとえば島地にすむ Crepis sancta は、重い種子を比較的たくさん作ります。これは、飛び散りやすい軽い種子だと海に落ちてしまうリスクが高いことが理由の一つと考えられています(*1)。しかし、環境の条件をきちんとコントロールした実験はたいへん難しく、仮説を裏付けるために、より多くのデータが必要とされている状態でした。

 そこで、フランス国立科学研究センター(CNRS)の Pierre-Olivier Cheptou らは、歩道沿いの街路樹の脇に生息する Crepis sancta に着目をしました。歩道では、樹の根元の部分だけが土になっていて、その外はすべてアスファルトに覆われています。こうした領域では、発芽できる領域が数メートル四方に限られているため、飛びやすい軽い種子は不利となるだろうと予測されます。そこで彼らは、モンペリアという街で、街路樹わきの Crepis sancta を採取し、田舎で採取したものと比較しました。

 結果はこうでした。まず、重たい種子と軽い種子の比率を調べてみたところ、都市の Crepis sancta は全体のおよそ15%が重たい種子だったのに対して、田舎の場合は約10%が軽い種となっていました。

 さらに彼らは、遺伝モデルをもちいて、このような種子の比率の変化がいったいどの時期に生じたものなのかを調べました。すると、この変化はここ12年間というきわめて短い時間のうちに起こっていたことが明らかになりました。ちなみに12年前というのは、この道路が造られた時期だそうです。道路の建設という大きな環境の変化にたいして、Crepis sancta は種子の比率を変えることですみやかに都市の生活に適応したのです。

 この結果は、種の拡散のしやすさという側面から見た環境の変化が、極端に急激な進化を植物にもたらしたことを示す例と言えるでしょう。そしてさらにここから一歩進めると、今回の調査は、山林開拓と自然保護とのバランスを考えるときの重要なヒントになると考えられます。

【参考リンク】
・元論文:Rapid evolution of seed dispersal in an urban environment in the weed Crepis sancta
・著者のサイト:Crepis sancta: a model system
・(*1) The Evolution of Flightlessness in Insects

2008年02月07日

言語の進化は段階的か?突発的か?


 Science NOW より。前々回に引き続き言語の進化に関するニュースです。

■ 言語の進化に句読点はあるのか
 Punctuation Marks in Language Evolution?

 言語の進化とは、ゆっくりと緩やかなペースで起きるものなのか、それともある短い期間のうちに一気に起きるものなのか? 後者を支持する研究結果が、英国の研究者たちによって発表されました。彼らは、生物の進化を追跡するのと同じアプローチをもちいてこの問題に取り組みました。

 この研究を行ったのは、リーディング大学の進化生物学者 Quentin Atkinson と数学者 Mark Pagel らです。彼らは、世界の言語族系のなかから、メジャーな3種である、インド・ヨーロッパ語族、バントゥー語族(群)、オーストロネシア語族を調査のターゲットにしました。その中から計490もの言語を選び、それぞれについて基本的な単語を調べリストにしました。基本的な単語というのは、たとえば「私」「雨」「長い」「歩く」「なぜなら」など、頻繁に使われるような単語のことで、一般にはスワデシュリストと呼ばれるものです。

 次に、各言語間で、これらの単語がどのように変化していったかを追跡しました。その結果から、各言語の関係を表現したツリー図を作り上げました。この図をみれば、たとえば英語は(サクソン人がヨーロッパからイギリスに移ったときに)ゲルマン語から派生して生まれた言語だということが分かるわけです。

 さらに彼らは、このツリーに対し、とある数学モデルを適用しました。このモデルというのは、メンバーの1人の Mark Pagel が以前の研究で用いていたものの別バージョンで、もともとは、生物学の世界で、生物の進化を分子のレベルから追跡するために考え出されたのだそうです。遺伝子をキーにして進化の進み方を追いかけるのと同じように、単語をキーに言語の進化を追いかけたのです。

 このモデルを使った結果、こんなことが分かりました。言語に起きた変化のうち、多くの部分が、祖先の言語から派生した直後の時期に集中して起こっていたのです。たとえば、バントゥー語族の場合だと、この言語族で起こった語彙の変化のうち、全体の31パーセントが、祖先から派生したタイミングで生じていたのです。

 ではなぜこのような変化が特定の時期に集中していたのでしょうか? 著者らはいくつかの可能性を挙げています。ひとつに、複数のグループの人々が同じ土地で暮らすことになったときに、各々が自言語を他と区別するために変化させたという可能性。あるいは、少数の人々がグループから離れ別の土地で暮らし始めたときに、その人の発音の癖がそのまま受け継がれていったという可能性などです。

 なるほど、今回の結果がどれだけ正しそうかは、彼らがつかったモデルの正当性いかんに大きく関わるので、これを読むだけでは妥当性についてうまくコメントできないですね。。とはいえ、一つのアプローチから、生物の進化と言語の進化という、まったく異なる分野の知見が得られたという点はかなり魅力を感じます。


【参考リンク】
・元論文:Languages Evolve in Punctuational Bursts
・同論文記事:ABC Science OnlineNew languages evolve in sudden bursts
・Wikipedia:スワデシュ・リスト

2008年01月18日

90分の昼寝で長期記憶はアップする


 Scientific American のポッドキャスト番組、60-Second Science より。

■昼寝は新しい仕事の記憶を向上させる
 Naps Improve Memory of New Tasks

 仕事中に居眠りをしてしまったときの言い訳がひとつ増えるかもしれません。90分間の昼寝をとることで、脳の中の長期記憶の整理がより高速に行われるようになったということが、研究者たちの実験報告によって明らかになりました。

 実験を行ったのは、イスラエルのハイファ大学の Avi Karni 教授と Maria Korman 博士です。彼らは被験者を集めて、次のような2種類の実験をやりました。

 1つ目の実験では、まず被験者を2つのグループに分けました。実験の日の午前、研究者たちは両方の被験者に対し、指をある順番に曲げて親指につけるという動作のパターンを覚えて、できるだけ正確かつすばやく行うよう練習してもらいました。そしてその後、一方のグループには90分間の昼寝の時間を与えました。もう一方のグループには起きたままでいてもらいました。そして晩にふたたび被験者を集め、午前に練習した一連の動作を再度テストしました。

 結果はどうだったかというと、昼寝を楽しんだ被験者のグループにおいて、成績の大幅な向上がみられることが分かりました。一方で起きたままでいた被験者のグループには特に向上は見られませんでした。一晩たってからもう一度テストを行ってみると、両者の違いはなくなっていました。

 さらにこれとは別に第2の実験も行われました。こちらの実験でもやはり被験者を2つのグループに分け、両方のグループに対し、2時間の間隔をあけて2回、それぞれ異なる指の動作を学習してもらいました。かつ、一方のグループの被験者には、あいだの2時間のうち90分間だけ昼寝をしてもらいました。そして先ほどと同様、その日の晩にテストを行いました。先ほどと異なり、被験者たちは2パターンの動作を記憶したことになるのですが、行われたテストは、一度目に覚えたほうの動作のみがテストされました。つまり、二回目の学習のほうはフェイクで、一度目の記憶への妨げとするために行ったのです。

 結果はこうでした。起きたままのグループでは、晩のテストでも翌朝のテストでも成績に特に向上は見られなかったのですが、昼寝をしたグループでは、晩のテストではそれほど大きな向上が見られなかった一方、翌朝のテストで大きな成績の改善が見られたのです。

 つまり、学習を行ったすぐあとに昼寝をとることによって、2回目の学習による干渉の影響が大きく削減されたものと考えられます。研究者たちは、90分間の昼寝によって、被験者たちの脳の中で記憶の整理が行われたのだと記しています。

 研究者たちは、「睡眠中に生じる記憶プロセスの詳細なメカニズムはなおも不明だが、この研究の結果は、記憶の整理がスピードアップできる可能性を示しており、将来的にはこれを人工的に行えるようになるかもしれない」と述べています。

 とのことですが、むーん、両実験の解釈がなかなか難しいですね・・。第1の実験で、晩に見られていた両グループの違いが翌朝になるとなくなっていたのはなぜか? 第2の実験の晩のテストで昼寝グループの成績がよくなかったのはなぜか? 記事テキストや大学のプレスリリース(下記リンク参照)を読むかぎりでは、あいにく僕にはうまく説明ができないです。

 元論文の摘要をばーっと見る感じ、今回みられた傾向は、指を順番どおりに動かすといった「動きの記憶」に特徴的な現象だという感じのことが書かれてあります。より詳しく知りたい方はぜひ本文をどうぞ。

 ・・自信をもって仕事中の昼寝ができるようになるには、もうちょっと勉強が必要のようです。


【参考リンク】
・ハイファ大学のプレスリリース:Want to improve your memory? Take an afternoon siesta
・元論文:Daytime sleep condenses the time course of motor memory consolidation

2008年01月14日

ものの数え方はどのように進化するのか


 Science NOW より。

■ 数え方の進化は単純な工程ではない
 Evolution of Counting Is No Simple Operation

 僕たちは日常的に数という言葉を使って生活しています。普段はなかなかそのすごさを意識しませんが、言語において数というのは、たいへん高度な機能を持つものです。

 たとえばトンボやリンゴや魚や水滴を想像して下さい。これらは互いにまったく別のものです。ですが僕たちは、数を使うことによって、それが何であるかに関係なく、同じ「一二三・・」という共通した単位で数えることができるわけです。こうしたやり方は、対象を抽象化して認識する必要があるわけで、言語の進化という観点からすれば、かなり進んだものであると言えます。

 一方で、言語の中には、上記とは異なり、物ごとに特別の数え方をする言語が存在します。トンボを数えるときとリンゴを数えるときとで、使う表現が異なってくるのです。こうした言語は、先ほどの抽象的な数え方をする言語と比べて、進化上、初期段階の言語であると言うことができます。これまで研究者たちの間ではそう考えられてきました。

 しかし今回、ドイツのフライブルク大学の心理学者 Sieghard Beller と人類学者 Andrea Bender が報告したところによると、上で述べた原則に当てはまらない言語があることが明らかになりました。

 その言語は、ポリネシアのマンガレバ諸島のある言語です。この言語(何語と呼ぶのかは記事からは不明)の数え方はかなり特殊です。この言語の話者たちは、ふだんは抽象的な数え方でものを数えます。ですが、いくらかの種類の対象については、抽象的な数え方をせず、物ごとに特別の数え方をするのです。

 例を見ましょう。彼らはふだんは、1,2,3,4・・に相当する tahi,rua,toru,hā,・・を使ってものを数えます。しかし彼らは、「サトウキビ」を数えるときはこの体系で数えません。代わりに、2を表す tauga、4を表す rua tauga、8を表す hā tauga などの単位を組み合わせて数を表現します。さらに「熟したパンノミ」を数えるときはまた別の表現が用いられます。4を表す tauga、8を表す rua tauga、40を表す paua などを組み合わせて表現するのです。(なんのこっちゃ、と思われるかも知れません。つまり、1個とか3個とかいった数はこの体系では表現できないのだと思われます。)

 さて、ここからがポイント。このマンガレバの言語は、原オセアニア語(現在は消失)という言語から派生して生まれた言語です。で、この原オセアニア語というのは、上で挙げたような物ごとの数え方をやらない言語なのです。

 これはどういうことか? つまり、物ごとに特別の数え方をするというやり方は、原オセアニア語でいったん消失したはずなのですが、その後に生まれたマンガレバの言語にて再び復活したと言えるわけです。すなわち、従来考えられていたのとは反対の方向に言語の進化が起きたのです。

 ではいったいなぜ、こうした特別な数え方が復活したのでしょうか? 著者たちの考えはこうです。この特殊な数え方をつかうと、大きな数の計算をするときに筆算をやらずに済むという利点がある、と彼らは述べています。複雑な計算を簡潔にし、より高速に数処理を行うためこうした体系が編み出されたのだ、というのが彼らの考えです。

 今回の発見は、数の認識や数え方の体系がどのように進化してきたかを考えるうえでの大きな手がかりとなると言えそうです。

 ・・なるほど。この数え方は僕たちには一見ピンと来にくいですが、雰囲気的には、よく欧米人が卵をダースで数えてるのをイメージするとわかりやすいかもしれません。今回の研究のポイントは、こうした数え方が進化の過程でいったん消えたにも関わらず、再び復活した点にあると言えます。人々のライフスタイルに応じて、使いやすい数の表現を新たに発明した。柔軟な言葉の進化のしかたになんだか面白さを感じます。

【参考リンク】
・元論文:The Limits of Counting: Numerical Cognition Between Evolution and Culture

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