2008年11月24日

秋生まれの子供は喘息もちになりやすい


 Reuters より。

■ 秋の子供は喘息のリスクが大きいとの研究結果
 Autumn babies at greater risk of asthma: study

 風邪やインフルエンザのピークの時期の4ヶ月前に生まれた子供は、そうでない時期の子供と比べて、喘息を患うリスクが30パーセント高くなることが分かりました。

 子供の生まれた時期と喘息との関わりについては、すでにいくつかの研究がなされています。そのうちの1つ、北半球の子供を調べた調査では、秋に生まれた子供に、喘息を患うリスクが高くなっていることが示されていました。

 そこで今回の研究では、上記からさらに進めて、年ごとのウィルスの活動のピーク時期との関連が調べられました。

 調査を行ったのは、米国ヴァンダービルト大学の喘息研究センターのディレクター Tina Hartert によるチームです。彼女らは、テネシー州の9万5千件におよぶ小児の医療記録を分析しました。

 調査の結果、こんなことが分かりました。子供の誕生日と喘息を患うリスクとの関連を見てみると、RSウィルスと呼ばれるウィルスの年ごとの感染ピーク期に合わせてシフトしていることが分かったのです。

 RSウィルスとは、別名 Respiratory Syncytial(呼吸器合胞体)ウィルスとも呼ばれます。大半の子供は、生後3~6ヶ月のうちに感染するのですが、ほとんどは深刻な合併症を生じることなく回復します。

 Hartert は、RSウィルスの感染予防が、喘息の罹患を避けることにつながるのでは、と期待しています。現在はこの仮説の証明に取り組んでいるとのことです。

 なるほど。喘息といえばその人の一生にわたり影響を及ぼし続ける厄介な病気です。生後の数ヶ月間の徹底的なケアで罹患のリスクを効果的に下げられるかもしれないというのはとても魅力的ですね。

【参考リンク】
・元論文:Evidence of a Causal Role of Winter Virus Infection during Infancy in Early Childhood Asthma

2008年11月23日

宗教はものの見方をどのように変えるか?


 New Scientist より。

■ 宗教は視覚的な知覚を変化させる
 Religion alters visual perception

 信仰心をもった人と、そうでない人。今回発表された新たな研究によると、両者の間でものの見方にはっきりとした違いがあることが明らかになりました。ものの見方といっても、文字通りの意味です。

 これまでにも、文化によって視覚的認識の仕方に違いがあることは指摘されていました。例えば、以前にこのブログで紹介した研究では、アジア人は写真の全体を視野でとらえるのに対して、北米人は中心となる物体をじっと見つめる傾向があることが指摘されていました。(参照::文化はものの見方を左右するのか

 さて今回、オランダのライデン大学の心理学者 Bernhard Hommel が行った実験によると、文化的な背景が同じであっても、信仰によって視覚的な認識に違いが生じることが明らかになりました。

 彼のチームは、キリスト教徒(カルヴァン派)と、無神主義者からなる40名の大学生を集め、とある視覚テストを受けてもらいました。

 彼らは被験者たちにある図を見せました。たくさんの小さな三角形または正方形が寄せ集まって、1つの大きな三角形あるいは正方形を形づくっている図です。被験者たちは、設問に応じて、この図の全体あるいは要素の形(三角形か?正方形か?)をできるだけすばやく答えなければなりませんでした。

 結果はこうでした。いずれの被験者も、要素より全体の形の方がすばやく答えることができました。ですが、要素の形を答える時間を測ってみたところ、カルヴァン派信者の方が、無神論者よりも平均して30ミリ秒みじかい時間で回答できていたことが分かったのです。

 カルヴァン派といえば禁欲的な信仰生活を教義にもつ宗派です。Hommel は、外部の邪魔物よりも自己に注目するというカルヴァン派のやり方が結果に現れたのでは、と述べています。彼らは人生の多くを自己を気にかけることで過ごしてきたため、ものの見方が内向きになっているのでは、というのが彼の考えです。

 なるほど。教義との関係づけの仕方にすこし強引さを感じなくもないですが(教義そのものが原因だとは言い切れないはず)、結果自体はとてもおもしろいなと感じます。

 ひとくちに信者といってもその信仰の深さには個人差があるでしょう。やっぱり信心深さの度合いによっても見方に違いが現れるのかな?

【参考リンク】
・元論文:Losing the Big Picture: How Religion May Control Visual Attention

2008年10月26日

マウスの記憶の選択的消去が可能になった


 New Scientist より。

■ エターナル・サンシャイン薬は記憶を選択的に消去する
 'Eternal Sunshine' drug selectively erases memories

 「君のこの1時間の記憶は、悪いが消させてもらうよ・・・。」 SFか何かでありそうなワンシーンですが、遺伝子改良したマウスを用いた実験によって、こうした選択的な記憶消去の実現に、大きな可能性が示されました。

 この発見をしたのは、ジョージア州立医科大学の神経科学者 Joe Tsien です。彼と上海の華東師範大学との共同チームは、次のような一連の実験を行いました。

 まず彼らは、マウスに遺伝子操作をほどこして、α-CaMKIIと呼ばれる酵素を過剰に生み出すマウスをつくり出しました。このα-CaMKIIという酵素は、記憶の形成に大きな関連をもつことが知られています。

 次に彼らは、ある薬品を飲み水に混ぜました。この薬品は、一時的にα-CaMKIIの過剰生産をおさえるように設計された特別な薬品です。この水を飲ませることで、α-CaMKIIを通常レベルに保つように制御しました。

 さらにこのマウスに対し、電気ショックを使った学習を行いました。マウスに音を聞かせ、その直後に軽い電気ショックを与えたのです。マウスは音と電気ショックとの間に関連性があることを学びました。学習の1時間後に、音だけを聞かせてみたところ、マウスは電気ショックを恐れて固まった状態になりました。1ヶ月後も学習の記憶は残っており、再度、例の音を聞かせたところ、やはり同様の行動を示しました。

 しかしその後、薬品の投与をやめ、α-CaMKIIのレベルが過剰になるように切り替えたところ、たちどころにマウスは学習したことを忘れさりました。音を鳴らしても、怯えた様子を見せることはなかったのです。

 α-CaMKIIのレベルを通常に戻し、さらに2週間後に同じテストをした際も、やはり記憶は残っていないことが分かりました。つまり、一時的に思い出せない状態だったのではなく、記憶そのものがなくなったと言えるのです。

 さらにその他の実験から、特定の期間の記憶だけを選択的に消去することが可能であることも明らかになりました。実験の手順は不明ですが、α-CaMKIIが過剰なときに再学習を行ったときの記憶のみが消去され、それ以外の記憶は消えずに残っていることも示されたそうです。

 一体どんなメカニズムでこうした記憶消去がもたらされたのか? これについてはまだ定かではないのですが、記憶の生成時に生じた神経細胞の結びつきが、α-CaMKIIによって弱められたのではないかと研究者は述べています。

 なるほど。かなり複雑な実験をやっているようで僕にはなかなかポイントがつかみ切れませんね・・・。詳細が知りたい方はぜひ元論文をどうぞ。

 やっぱり気になるのは人間への応用ですね。悲惨な事故の記憶から起きるストレス障害への対処に期待がもたれると思います。遺伝子改良なしでどうやって同じ効果を得るかが重要になってくるのでしょうかね。また、研究者が警告しているように、不快な記憶は本来人間にとって必要なものである、ということも忘れてはいけない点です。


【参考リンク】
・元論文:Inducible and Selective Erasure of Memories in the Mouse Brain via Chemical-Genetic Manipulation
・ロイター::世界のこぼれ話::米研究者、マウスの記憶の選択消去に成功

2008年10月20日

モノクロテレビ世代はカラーの夢を見るか?


 New Scientist より。

■ 白黒ついた:テレビは夢に影響する
 It's black and white: TV influences your dreams

 あなたが普段みる夢は白黒でしょうか、それともカラーでしょうか。新たな研究によると、幼少期に白黒のテレビや映画を視聴していた人は、そうでない人と比べて白黒の夢を見やすいということが示されました。

 夢の色については研究者のあいだで議論が分かれています。1915年から1950年ごろにかけて行われてきた研究では、人々が見る大半の夢が白黒の夢でした。しかし、60年代になるとその傾向は変化してきました。最近の調査では83%の人がカラーの夢を見ていることが分かっています。

 この違いは一体なぜなのでしょうか? ひとつには、テレビや映画のカラー化の影響ということが考えられます。カラー化の普及はちょうどこの二つの時期の間に起きています。この時期のメディアの視聴が夢に影響をおよぼしたのではと考えられるのです。

 ですがこれには次のような反論があります。近年の調査では、被験者に朝起きてすぐに夢の色を記録してもらっていました。一方で、以前の調査では、日中のアンケートで夢の色を調べています。つまり、日中には夢の色など覚えていない可能性が高く、そうした人は白黒と答えてしまう恐れがあるのです。

 と、このように、夢の色へのメディアの影響の有無は、結局のところ定かにはなっていませんでした。

 以上が前おき。この問題を解決すべく、とある実験が行われました。

 実験を行ったのは英国のダンディー大学の Eva Murzyn です。彼女は60名の被験者を集めました。半数は25歳以下、半数は55歳以上でした。彼女は被験者らに、ふだん見る夢の色についての質問と、幼少期の映画・テレビ視聴についての質問からなるアンケートに回答してもらいました。さらにその後、毎朝にその日みた夢の記録を付けてもらうよう依頼しました。

 集められた結果はどうだったか。アンケートの結果と毎朝の記録の結果とで、目だった違いは見出されませんでした。つまりこのことは、以前と近年との結果の間に、調査方法による差の影響はなかったことを示していると考えられます。

 さらに、メディア視聴と夢の色との関係も調べました。すると、55歳以上の層のうち、幼少期にカラーテレビを見ていた人では7.3%が白黒の夢だったのに対し、白黒テレビを見ていた人では、約4分の1が白黒の夢でした。ちなみに25歳以下では白黒の夢の割合はわずか4.4%でした。

 昔の時代は、今ほどテレビや映画を視聴する機会は多くなかったのかもしれません。にもかかわらず、今回の結果は、幼少期に見たメディアのインパクトが数十年たった今でも残っており、意識に大きな刷り込みをもたらした可能性を示しているといえます。

 とはいえ、これでメディア視聴と夢の色との関係が全面解決したというわけではありません。被験者の見た夢はほんとうに白黒だったのか? 思い出すという行為にメディア視聴の影響があるのでは? このあたりの疑問が未解決なのは彼女自身も認めているとおりです。

 なるほど・・。報告を自己申告によらざるを得ない以上、夢の研究にはどうしてもいくらかの不確実さは残ってしまうのかもしれません。記憶違いをどのように減らすかが今後の研究のポイントになるのかな。

 そういう意味でちょっと気になったのは、1人の被験者に対してアンケートと記録の両方の調査をやってもらっている点。アンケートに答えるという行為それ自体が、夢を思い出すことに何らかの影響をおよぼすかもしれないなあと不安になりました。つまり、アンケートがいわば夢の宣言みたいなものになってしまって、夢を思い出すときに無意識にアンケートの内容にすり合わせてしまう恐れがあると思うんですね。より正確さをはかるには、アンケートのみのグループと毎朝の記録のみのグループとに分けるなどの措置が必要じゃないかな、と思いました。

【参考リンク】
・元論文:Do we only dream in colour? A comparison of reported dream colour in younger and older adults with different experiences of black and white media

2008年10月11日

最強のめざまし音を探す試み


 ABC Science より。

■ 矩形のアラーム音がより多くの命を救うかもしれない
 Square alarm tones could save more lives

 目覚まし時計をセットしたのにアラームに気付かずに眠りっぱなし・・・そんな経験がある人には必読のニュースです。

 煙検知器のアラーム音を調べた新たな研究によると、就寝中の火災による死亡を防ぐためには、従来つかわれていた高音の正弦波のアラームよりも、低音の矩形波のアラームを鳴らした方が効果的であることが確かめられました。

 煙検知器のアラーム音にはある程度の標準が定められています。音量は75デシベルで、リズムは ピピピ、ピピピ、という3つの音の繰り返しとするよう決められています。一方、音の高さについては特に標準はなく、メーカー自身の判断に任せられています。たいていのメーカーは、3000ヘルツ程度の正弦波を使っています。当然のことながらアラームには非常事態を確実に伝えることが重要ですので、3000ヘルツという高音の音を用いるのはわりと妥当な選択なのだそうです。

 しかしながら、統計をみてみると、就寝中の火災が原因で命を落としている人が多くいました。この中には、アラームが正常に機能しているにも関わらず、それに気付かずに眠り続けていた人が多くいました。

 そこで、オーストラリアのヴィクトリア大学の Michelle Ball 博士は、高音のアラームは、起きている人に危険を伝えるのには効果的でも、眠っている人にはそうではないのではないかと考えました。

 そこで彼女は、どの種類の音がもっとも効果的に人を起こせるのかを調べるという実験をおこないました。

 彼女は、子どもから大人まで、さまざまな被験者を集めました。そのなかにはアルコールを飲んだ人や、中軽度の難聴者を含んでいました。彼女は、被験者を寝かせたうえで様々なアラームを鳴らし、どのぐらいの割合で目を覚ますかどうか調査をしました。

 結果は予想とは違っていました。被験者を起こすには400から520ヘルツの矩形波の音がもっとも適していることが分かったのです。

 アルコールをとっていない成人の場合、従来の高音のアラームでは21%の被験者が眠り続けていたのに対して、520ヘルツの音では全員が目を覚ましました。また、難聴の成人の場合、従来では56%が眠ったままだったのが、低音ではわずか8%へと改善されました。

 正弦波とちがって、矩形波は複数の周波数の音がまざった複雑な音です。音量は同じでも、矩形波のほうが人間の耳にはうるさく聞こえるのだろうと研究者は述べています。また、難聴者は高音の聞こえからが悪くなることが多いため、低音のほうが効果があったのだろうとも述べています。

 うーん、周波数と波形のどちらか一方だけを変えたときの効果が元記事からはあまりよく分かりませんでしたが、とはいえ、アラーム音にここまで大きな改善の余地があるというのは面白いです。

 そういえば、僕たちの周りの目覚まし時計って、たいていが高音のピピピという音ですよね(あとはベルの音)。これってやっぱり時計メーカーの研究による選択なのか、それともここにも改善の可能性があるのか? 今回の結果が応用できるとおもしろいです。

【参考リンク】
・元論文:不明
(Journal of Sleep Research という雑誌に掲載予定です。)

2008年09月27日

アリは巣のカモフラージュに殉死する


 ScienceNOW より。アリの変わった習性が明らかになりました。

■ アリの最後の戦い
 Last Ant Standing

 アリやハチなどの一部の昆虫では、敵が襲ってきたときに、自分の命と引き換えに仲間を守ることがよくあります。今回、巣を隠すという目的のために命を捨てるという変わったアリの習性が明らかになりました。

 このアリは、ブラジルに生息する Forelius pusillus という種類のアリです。ポーランドのクラクフ農業大学の行動生態学者 Adam Tofilski らは、ブラジルの São Simão という地域のサトウキビ畑にすむアリの行動を調べたところ、とある奇妙な習性を発見しました。

 このアリは、毎日、夜になると、入り口の部分にフタをして中に入れないようにします。このとき、数匹のアリたちが、巣の中に戻らずに外に出たままになります。このアリたちは、それから50分という時間をかけて巣の入り口に砂をかけ、完全に周囲と見分けがつかない外見にカモフラージュをするのです。

 研究者たちは、この取り残されたアリたちを採取し、プラスチックの容器の中で一晩育てました。すると、採取した23匹のうち、翌朝まで生き残ったはわずか6匹しかいませんでした。

 このアリは非常に弱い生き物で、若くて健康な個体であっても、巣外で一晩も放置されれば簡単に死んでしまいます。したがってこのアリたちは、自殺に等しい行為をあえて選んで、巣をカモフラージュする行為に殉じたと言えるわけです。

  Forelius pusillus の巣では、毎晩こうした行動が繰り返されています。今回の発見は、外敵の襲来のとき以外で昆虫が自殺行為を選んだことを示す初の証拠といえます。働きアリが大量にすむ環境において数匹の命と引き換えに巣の防御を高めるという行動が、自然淘汰によって有利にはたらいているのだろう、と著者らは述べています。

 一体どういったアリが犠牲者に選ばれるのか、どういった脅威に備えているのか、といった点はまだはっきりしていません。今後、こうした動機が明らかになれば、昆虫たちの利他行動がどのように進化してきたかを知る手がかりとなることでしょう。

【参考リンク】
・元論文:Pre-emptive defensive self-sacrifice by ant workers

2008年09月20日

男らしい歩き方は自分に迫りくるように見える


 ABC Science より。

■ 男らしい歩行は自分に向かっているように見える
 Macho walks appear to be comin' atcha

 歩いている人物のアニメーションを被験者に見せ、この人物の性別と歩いている方向を判断してもらうという実験が行われました。すると結果、男性であると判断した人の多くが、この人物は自分に向かっていると答え、また逆に、女性と判断した人の多くは、遠ざかっていると答える傾向があることが分かりました。

 まずはこのページに行ってみて下さい。これは「point-light walker」などの名称で呼ばれるアニメーションです。いくつかの点がウニョウニョ動いているだけのものですが、一目見てすぐに歩いている人物の像が頭に描けると思います。左のバーを動かすと男女らしさを変えたりできて、楽しいです。

 中でも面白いのが回転ボタン。これをしばらく押して180°後ろ向きにさせてみると、とつぜん進行方向が変わって見えるんですね。「あれ、いきなり前向きになった!」と不思議な感覚を味わうことができます。

 さて、オーストラリアのサザンクロス大学の心理学准教授 Rick van der Zwan らは、このアニメーションをつかって、とある実験をおこないました。

 彼らは男5名女5名からなる被験者に対し、男らしさ女らしさをさまざまに調整したアニメーションを見せました。そしてこの人物の性別を判断してもらい、また、手前と奥のどちらの方向に向かって歩いているかを併せて答えてもらいました。

 結果の傾向は明らかでした。「男性である」と答えた人が多いときほど、手前方向に向かっていると回答した人の割合は大きくなっていました。また逆の場合も同様で、女性と答えた人が多いほど、奥方向と回答した人の割合が大きくなっていたのです。

 なぜこのような現象が起きたのか? 研究者たちは、生存戦略としてこうした判断が発達したのでは、という仮説を立てています。つまり、一般的に男性は女性と比べて攻撃的である可能性が高いと言えます。ですので、男性が歩いているの見つけたなら、こちらに迫りつつあると推測する方が、身を護るうえで有利だというわけです。

 今回の研究は、動きからその人について、性別や感情や性格などさまざまな情報を得る助けとなると言えます。この知見を応用して、たとえばセキュリティシステムの構築の際に、不審な行動を発見するなどの用途につかうことがやがて可能になるかもしれないとのことです。

 なるほど。結果のグラフのほうも眺めてみましたが、かなり明らかな傾向が見えていて驚きです。でも、歩き方の男女らしさが方向の直接の原因かどうかというのは、この記事を読むだけではハッキリしないなとも感じました。実は男女らしさは関係なく、物体の横はばとか、もっとシンプルな特徴が原因となってるのかもしれない。今後、人物以外のアニメーションならどうかといった情報が明らかになると、要因が絞られていっておもしろそうと思いました。

【参考リンク】
・元論文:Correlated changes in perceptions of the gender and orientation of ambiguous biological motion figures

(なお上記のアニメーションは適当に検索で辿り着いたページです。当研究の著者との関係は不明です。念のため。)

2008年08月23日

文明の誕生に災害が一役買っているかもしれない


 ScienceNOW より。

■ 動乱がローマの誕生をもたらしたのか
 Did Rumbling Give Rise to Rome?

 かつて文明が栄えた地域と、地殻プレートの境目の地域。いっけん関係のなさそうな2つの地域ですが、これらを地図上にプロットしてみたところ、驚くべき一致があることが明らかになりました。プレートの境界といえば、地震、津波、火山など、災害が起きるおそれが高いところです。もしかすると、災害の起こりやすい環境は、文明の誕生において何か重要な役割を担っているのかもしれません。

 この一致を発見したのは、米国アリゾナ大学の地質学者 Eric Force です。彼はキャンプ旅行の最中にこの両者の関係に気がつきました。地質図で確認してみると、古代文明の多くが、プレートの境界位置で栄えていたことが見て取れました。そこで彼は、この関係をより定量的に評価することにしました。

 彼は15の文明を調査対象として選びました。ローマ、エトルリア、ギリシア、ミュケーナイ、ミノア、西アジア(テュロスとエルサレム)、アッシリア、メソポタミア、ペルシア、インダス、アーリア、エジプト、中国です。彼は、人間が居住可能な土地がじゅうぶん存在すると仮定した上で、これらの文明の配置が偶然に生じたものである確率を計算しました。

 結果、詳細な計算の過程は記事には記されていませんが、エジプトと中国を除く13の文明について、プレート境界の近くに誕生したのは偶然とはいえないことが確かめられました。

 いったいなぜ、このような災害が多い地域で、文明が発生したのでしょうか? 地質学的には、境界ちかくは水が豊富であることや、火山噴火がよい土壌をもたらすことが知られていますが、これらがパターンを完全に説明するわけではありません。Force は他の説明としてこんなユニークな可能性を挙げています。つまり、災害が起こりやすいということが、人々に備えをさせ、社会を発展させる原動力となったのではないか、と。たとえば耐震性のある建物や、食物の貯蔵方法など、将来おこりえる危機や変化にそなえることが、文明の発展をスピードアップさせたのではないか、というのが彼の説明です。

 なるほど、この関係はおもしろいですね。ちなみに彼の論文ではもう一つ興味ぶかい事実が書かれてあります。文明から境界までの距離と、栄えた期間との関係をプロットしてみたところ、境界から離れた文明の方が、より長い期間さかえ続けていたことが分かったのです。境界ちかくの地域は、文明の発生そのものには適しているけど、長く繁栄し続けるには適さないということなんでしょうか? このあたり、より詳しい発見ができると面白いと思います。

【参考リンク】
・元論文:Tectonic environments of ancient civilizations in the eastern hemisphere

2008年08月17日

ビール・ゴーグル効果の存在が確かめられた


 New Scientist より。

■ ビール・ゴーグルは実在する――これではっきりした
 'Beer goggles' are real - it's official

 ビール・ゴーグル効果、というものをご存知でしょうか? アルコールを体内に摂取することによって、美人ではない女性が美人として観察されるようになるという現象のことです。バーで知り合った異性と一夜を明かした翌日、よく見たらちっとも好みでない相手だった・・・なんて経験がある人には(直感的には)同意できる現象でしょう。

 さて、この現象、飲み会のネタにするには打ってつけの話題なのですが、本当にこの効果が実在するかどうかは、科学的な観点からの証拠が十分ではありませんました。

 科学的な裏づけを探す研究は以前にもいくつか行われていました。たとえばある研究では、大学構内のバーの客に、アルコールを飲んでいるかどうか質問し、さらに顔写真をみせ魅力を評価してもらうという調査が行われ、結果、ビール・ゴーグル効果の存在を支持する傾向が得られていました。

 ですが、この結果ではビール・ゴーグル効果を立証できたとはいえません。別の研究では、定期的に飲酒をする人は、そうでない人と比べて、人の顔を魅力的と判断する傾向が高いことが知られています。したがって、バーで飲んでいる人をつかまえて魅力を評価してもらうというのは調査法として厳密とはいえないのです。

 そこで、より厳密さの高い評価を行うべく、飲酒のある/なしをコントロールした環境で比較実験が行われました。

 実験を行ったのは、英国ブリストル大学の Marcus Munafò 率いる研究チームです。彼らは84名の学生に対し、ライム味のノンアルコール飲料と、似た風味のアルコール飲料のいずれかをランダムに飲んでもらいました。その15分後、被験者と同年代の人物の顔写真を見せ、その魅力を評価してもらいました。

 結果は想像どおりでした。男女を問わず、アルコールを飲んだ被験者のほうが、ノンアルコールを飲んだ被験者よりも、顔写真をより魅力的と評価することが明らかになりました。

 プラス、特徴的だったのは、相手が同性でも異性でも同様の特徴が見られた点でした。以前に別の研究者によって行われた研究では、こうした魅力のアップは異性間でしか発生しないことが報告されていました。Munafò は、この現象への説明として、この効果は、異性との出会いをもたらす環境(ムードのある環境ってことでしょうか?)において、潜在的な性的パートナーに対し重点的に働いているのではないか、と述べています。

 なるほど。以前にスラッシュドットのニュースで、ビール・ゴーグル効果の大きさを定式化した(下記リンク参考)という話があったのを思い出しましたが、そもそも効果の有無がそれほどきっちりと確かめられていたわけではなかったのですね。

 元論文のアブストラクトを見てみると、他にも不思議な結果が出ているようです。飲酒をした1日後にもういちど同じ顔で魅力の評価をしてもらったところ、男性→女性の評価に限って、なおもアルコールを飲んだ被験者のほうが高い評価をする傾向があったとのこと。これも面白い現象ですね。

【参考リンク】
・元論文:Effects of acute alcohol consumption on ratings of attractiveness of facial stimuli: evidence of long-term encoding
・Wikipedia::ビール・ゴーグル効果
・スラッシュドット・ジャパン::どれだけ飲めば美人に見えてくるのか

2008年07月28日

森林火災の防止が温暖化を悪化させる?


 Science Now より。

■ スモーキーベアは地球温暖化を悪化させているのか
 Is Smokey the Bear Worsening Global Warming?

 森林火災を食い止めることは、より多くの二酸化炭素を吸収し、温暖化をとどめるうえで欠かせないことだと考えられてきました。ですが、今回あたらしく発表された研究によると、実際はその逆で、むしろ吸収する量は減ってしまうことがわかりました。この結果は米国の森林防火の政策に影響をおよぼすでしょう。

 もともと、落雷などを原因とする森林火災は、自然サイクルの中でみれば必要な営みです。火災によって小さな木が取り除かれ、生き残った大きな木の成長が促されるという効果があります。

 しかし1910年頃から、米国政府は、どんな小さな火災であっても消火するという方針をとり出しました。その結果、以前であれば取り除かれていた小さな木々は、消えることなく繁栄できるようになりました。

 さて、多くの方がご存じのように、木は光合成によりCOを吸収し、呼吸によりCOを排出します。その差が炭素として体内に貯蔵されます。でははたして、上のような森林の変化によって、COを貯蔵する力にはどのぐらいの変化が起きたのでしょうか? これまで、森林が貯蔵するCOの量を、時間的に比較するというのは行われたことがありませんでした。

 そこで今回、米国カリフォルニア大学の生態学者 Michael Goulden らによってこの比較が行われました。彼らは、1930年代におけるカリフォルニア州の269の区画での貯蔵量と、1990年代の近辺の260の区画での量とを比較しました。(具体的な測定方法は記事からは不明ですが、おそらく、樹種と体積、本数についての両時期のデータを入手してそこから計算したのでしょう。)

 その結果、1ヘクタールあたりの木の本数は、この60年間で約4パーセント増加していましたが、一方で、木々に貯蔵されたCOの量は、約34パーセント減少していたことが明らかになりました。

 大きな木は、小さな木々と競合状態になるため、渇きや風害、虫害などの影響を以前より受けやすくなったと言えます。その結果、大きな木々が少なくなったために、森林全体の貯蔵量が減ったのだと著者は述べています。

 今回の調査結果は、政府の森林防火の政策に影響を及ぼすことになりそうです。

 なるほど。森林火災を減らせば二酸化炭素の貯蔵量は増えるだろうとは直感的にだれもか想像することですが、実際はその逆になるんですね。意外です。

 今後の火災防止のポリシーはどのように変わっていくのかな。実際、すでにいくらかの地域では、自然発生的な火災は人命に影響しなければむやみに消火しないという方針がとられているようです。今回の結果は、温暖化という観点から見てもこうした方針が有効だよ、と言ってることになるのかな。

 個人的には、自然発生的な火災ならほうっておく、という方針がこれから先も本当に有効なのかどうかはちょっと疑問です。かつては「自然のサイクルの一部」といわれていた火災も、いまやその前提の自然が変わってしまったのであれば、もはや「自然のサイクルの一部」という言葉で片付けてしまってよいとは思えないからです。自然のなすままというアプローチよりも、記事でも少し言及されてますが、たとえば小規模の火災を人為的に起こすとかいった方法が必要になるのかもなあと感じました。

【参考リンク】
・元論文:Has fire suppression increased the amount of carbon stored in western U.S. forests?

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