2008年12月21日

知能の高い兵士は戦死しやすい


 New Scientist より。

■ 知能の高い兵士はもっとも戦死しやすい
 Intelligent soldiers most likely to die in battle

 第二次世界大戦の兵士たちの知能指数(IQ)のデータを調べたところ、大戦を生き残った兵士たちのIQは、命を落とした兵士たちのそれよりも低いことが明らかになりました。

 この事実を発見したのは、英国エディンバラ大学の心理学者 Ian Deary です。彼は、英国の陸軍の人員記録を調べ、スコットランド兵士の戦時中の生死のデータを手に入れました。

 彼が調査対象としてスコットランドを選んだのには訳があります。スコットランドでは、1932年にIQテストが行われていました。言語や数、空間認識といった能力について、当時11歳だったすべての児童を対象にテストが行われていたのでした。

 すでにある研究では、児童期のIQは後年の知性と十分な関わりがあることが知られています。そこで彼は、児童期のIQと、兵士の生死との間にどのような関連があるかを分析しました。

 結果はどうだったか。両データベースで名前が照合できた男性兵士470名のうち、第二次世界大戦で戦死した兵士のIQは平均100.78だったのに対して、生存した兵士は平均97.42と、明らかに死亡者のほうが高いスコアだったのです。一般的にはIQが高い人ほど長生きする傾向がありますが、戦時中の兵士に限ってはこれと逆の傾向が見られていたのです。

 こうした傾向が出たのはなぜなのでしょうか? どうやらこの点については、はっきりした理由付けはまだできていないようです。一つの可能性として研究者は、近年の戦争では腕力よりも知力が重視されることが多く、IQの高い兵士は戦地の最前線へと立たされる可能性がより高かったのではないかと仮説を述べています。とはいえ、児童期のIQと戦死との関連性を調べた調査というのは少ないこともあり、今後はたとえば海軍や空軍などでの同様の調査を行うつもりとのことです。

 なるほど。まあ一概にIQといっても、そこには親の社会的地位や地域、教育の質など、いろんな要因が絡んでいるわけで、両者を単純に結びつけるというのは困難なんでしょう。

 この研究者たちはIQと寿命の関連の調査もやっていたりしてるようで(下記リンク参照)、今回の調査もその一環なのかなと思いました。軍隊など特殊な職業での傾向と一般的な傾向とを比べることで、両者の関係をはっきりさせようと考えているのかな、と想像しました。

【参考リンク】
・元論文:Childhood IQ and in-service mortality in Scottish Army personnel during World War II
しんりの手 :psych NOTe知能が低いと死ぬ危険度が1.4倍。反応時間のせい

2008年12月17日

ローマ軍の戦いの軌跡に新発見


 Science NOW より。

■ 古代の戦場がローマ軍の残留をほのめかす
 Ancient Battlefield Hints at Roman Persistence

 世界史の常識がまたひとつ塗り替えられたようです。領土拡大をねらうローマ軍の当時の行動をうかがい知る新たな遺物が発見されました。

 その遺物は、ドイツのニーダーザクセン州の南部にあるカーレフェルト(Kalefeld)という街の郊外にて発見されました。もともとはこの地で初めて遺物が発見されたのは2000年のことで、それはあるアマチュア考古学者の手によってでした。しかしながらその人物はもともと中世の要塞を探索していたそうで、それは公式な研究者らの目に触れられることなく、そのまま月日が流れていました。

 しかし2008年、このアマチュア考古学者は、公式な考古学者である Petra Loenne に自分の発見を見せました。彼女はこの遺物の重要性を見抜きました。すぐさまこの地での重点的な発掘がおこなわれることとなりました。

 それは一体どんな遺物だったのでしょうか。リンク先の記事に実物の写真があります。それは初期の馬蹄だったのです。明らかに中世のものではありませんでした。もっとずっと古い、ローマ帝国時代のものでした。さらにこの地の調査の結果、矢尻や槍先など、600個以上におよぶ遺物が発見されました。

 さらに木の部分に含まれる放射性炭素から年代が特定されました。また、残された硬貨などの情報から総合すると、西暦200~250年の間に、この地でローマ軍による大規模な戦いが行われていたことが明らかになりました。

 一体なぜ、この事実がそれほど重要だと言うのでしょうか? それを理解するためには、歴史を西暦9年までさかのぼる必要があります。

 当時、ローマ帝国は領土を地中海周辺からさらに広げるべく、ゲルマン諸部族の住む北東への侵攻を試みていました。しかしながら、西暦9年、「トイトブルクの森の戦い」と呼ばれる戦いにおいて、ローマ軍はゲルマン諸部族に大敗を喫します。当時の皇帝アウグストゥスの当初の計画では、ドイツ東部を流れるエルベ川に沿って長城を建築する予定だったのですが、2万人もの兵士を失ったダメージにより計画は頓挫し、これよりずっと西、ドイツの西端を流れるライン川沿いを長城とせざるを得なくなりました。それ以東の領土拡大はあきらめざるを得なくなったのでした。

 これまで考古学者たちの間では、このとき以降、ローマ軍がドイツに足を踏み入れることはなかったと考えられてきました。しかしながら今回の発見により定説がくつがえされ、トイトブルクの森の戦いの数百年の後にも、この地域にてローマ軍による軍事作戦が行われていたことが示されたことになります。

 現在もカーレフェルトでは発掘作業が行われています。この謎についての新たな知見は来年にも改めて発表されるだろうとのことです。

 わずかな馬蹄の遺物の発見からはじまって、歴史の定説が別のものになる。まさに考古学のおもしろいところだなあと感じます。ちなみにこの戦いはドイツ史にとって重要な位置づけであるらしく(民族の勝利の象徴らしいですが詳しくは分かりません)、ドイツでのこのニュースのインパクトはかなり大きいようです。追加の情報に期待します。

【参考リンク】
・元論文:不明

2008年12月14日

株取引がダムの水位を予測する


 New Scientist より。

■ 株式市場ゲームが生態学的災害を予測するかもしれない
 Stock market game may predict eco disasters

 環境の政策を立てるうえで、水などの天然資源の貯蔵量がどのように推移するかを予測することは非常に重要です。今回、オーストラリアの研究者らによって、マーケットの仕組みを取り入れてダムの水位を予想するというアイデアが実現されました。

 このアイデアを提案したのは、オーストラリアの政府機関CSIROとドイツのカールスルーエ大学の研究者らからなるチームです。彼らは、オーストラリアのニューサウスウェールズにある5つのダム施設の貯水量の推移を予測するべく、「オーストラリア・ナレッジ・エクスチェンジ」というサイトを立ち上げました。このサイト、利用者たちが今後の水位を予想して仮想の株式を取引するという、オンライントレーディングのサイトなのです。

 いったいどのようなトレーディングを行うのでしょうか。利用者は、このサイトに登録すると、初期資産として10万ドルの仮想通貨と、各ダムにつき1千株ずつの仮想株式が与えられます。株式を所有していると、月に1回、そのときの実際のダムの貯水量をもとに配当が支払われます。貯水量が100%なら1株あたり100ドルいう具合です。さらに利用者たちは、オンラインで株式を自由に売買することが可能です。したがって、利用者は、うまく貯水量を予想することで、売却益や配当益で所持金を増やせるわけです。

 こうして得られた現在の株価は、さまざまな知識をもったマーケット参加者にとって、もっとも妥当と思われる水準、いわば一つのコンセンサスであるといえるわけです。研究者らは、もしこの手法でコンピュータモデルよりも優れた結果が得られるのであれば、株価が政府の環境政策に影響をもたらすことも考えられるだろう、と期待しています。

 うーん、なるほど。はたしてマーケットがどのくらい正確な予測を持ち合わせているかについてはかなり議論が揉めそうな気がしますが、それでもアイデア自体はとってもユニークでおもしろいですね。むしろ、不確実さが多く見解が分かれがちな貯水量の予想という分野で、一種のコンセンサスを形にできるということが最も評価されるべきポイントなのだと思います。

【参考リンク】
Australian Knowledge Exchange

2008年12月13日

視覚的な記録力は想像以上にすごい


 ScienCentral より。

■ 悪魔は細部にやどる
 The Devil is in the Details

 僕たちの視覚的な記憶力は、想像よりもはるかに優れているのかもしれません。MITの研究者らによって、数千もの画像の特徴を短時間で記憶できることが示されました。

 人間の視覚的な記憶力を調べた研究は以前にもなされています。1970年代に行われたある実験では、被験者に1万種類もの画像を見せた後で2枚の絵を示し、どちらが以前に見たものかどうかを当ててもらいました。結果、83パーセントというすぐれた率で正答できていることが分かりました。

 しかしながらこの実験では、画像の詳細を覚えているかどうかまでは試されていませんでした。以前に見たか否かだけが問われていたのです。

 そこで心理学者 Aude Oliva らは、はたして被験者は見た絵の詳細まで覚えていることが可能なのか、調べることにしました。

 彼女らは18~35歳の被験者を集め、一般的な物体をえがいた画像を3秒おきに1枚のスピードで、計2500枚見てもらいました。栓抜きやドーナツ、携帯電話などの画像です。

 20分の休憩の後、被験者には2枚の絵が見せられました。ここでは以前の研究とは異なり、例えば携帯電話を見たかどうかだけでなく、それが開いていたか閉じていたかなど、詳細まで答えなければいけませんでした。

 結果はどうだったか。被験者の正答率は90%と、なお高い水準だったのです。被験者は、MITの学生や人より記憶が優れている人というわけではなく、ごく普通の人々でした。

 彼女は今度は、脳が、大量の視覚情報をどのように処理して記憶に留めているかを研究したいと考えているとのことです。

 で、車をどこに停めたかとか些細なことを忘れてしまう方に、彼女からアドバイス。「目にしたものに注意を払うことです。どこに鍵を置いたのか、どこに車を停めたのか。」ほんの一瞬、見るものに集中することで、忘れてしまうことを防ぐことができると述べています。

 なるほど。。実験は5時間半かかったそうで、とりあえずは被験者の皆さんお疲れさまでしたと言いたいです。それはさておき、リンク先のムービーで実際の画像が見られるんですが、思っていたほど些細な違いではないなあというのが正直な印象です。たとえば風景をみて木の本数を問うようなレベルの問題を想像してたのですが、それよりはもうちょっと全体的で、以前の研究に近い感じです。被験者は画像のどのレベルの詳細まで覚えているのかな。今後の研究でそのあたりが明らかになると面白いなと期待します。


【参考リンク】
・元論文:Visual long-term memory has a massive storage capacity for object details

2008年12月09日

懲罰はいかにして公共の福利に貢献するのか


 Science NOW より。

■ 恐怖という要素
 The Fear Factor

 罰は世の中にとって良いものなのか? 罰によって人の行動は本当によくなるものなのか? 公共プロジェクトを模した心理実験によって、この問題の新たな手がかりが明らかになりました。

 公共の福利のために協力することは、人間社会ならではの特徴です。人々は、徴兵とか税金などに応じるという行為を通じて、協力体制を築いてきました。協力にはコストがつきもので、中には安価でないものもあります。すると当然、抜け駆けして利益だけをただ乗りしようとする者が現れるわけで、社会はしばしば懲罰を与えることで人々に協力を促してきました。

 ですが、以前に行われた実験では、必ずしも罰が人々にとって良いとは限らない可能性が指摘されていました。この実験では、被験者たちは他のプレイヤーと協力しながら自分の所持金を増やすゲームをプレイしました。このゲームに、非協力的なプレイヤーには罰金を科すことができるというルールを導入したところ、最終的な各プレイヤーの所持金が導入前と比べ少なくなってしまうという現象があらわれていました。全体にとって罰が悪い方向に働いていたのです。

 そこで今回、英国ノッティンガム大学の Simon Gachter によって、この現象を再検証する実験が行われました。彼は、以前の実験で罰の良い効果が現れなかったのは実験の回数が少なすぎたためではないか、と考え、これを確かめるべく次のような実験を行いました。

 彼は、207名の被験者を三人一組のグループに分け、次のゲームを3人でプレイしてもらいました。まず各プレイヤーには20ポイントの資金が与えられます。次に、架空の公共プロジェクトを想定して、各プレイヤーはこのプロジェクトに好きな額の投資をします。各々の投資額が決まると、次に利益の配分がなされます。各プレイヤーは、自分がいくら投資したかに関わらず、3人の投資額の合計を2で割った額を受け取ることができます。当然、みんなが協力したときが最もよい配分が得られるわけです。

 さらに半分のグループには、非協力的なプレイヤーを罰する機会が与えられました。配分後、被験者は、自分の所持金を1ポイント消費することで、指名したプレイヤーの所持金を3ポイント減らすことができます。被験者は、このような投資→配分→懲罰のサイクルを、半分のグループは10回、もう半分のグループは50回繰り返しました。

 さて、結果はどうだったか。ラウンド数が10のグループの場合、罰則ルールありでプレイした被験者らの投資額は、罰則なしの被験者らよりも少なくなることが分かりました。これは以前の研究でも指摘されていたことで、今回改めて同じ現象が確かめられたと言えます。

 ですがラウンド数が50では、結果は逆転していました。罰則ありのときの方が、被験者らは協力的になり、多くの金額を投資していたのです。さらにこの場合、罰金として科した金額は全体を通じて少なくなることがわかりました。

 懲罰のためのコストが小さくなり、協力による収益増がこれを上回ったために、グループや個人がより裕福になったのだと研究者は記しています。

 なるほど。結果のグラフ(リンク先記事の「Supporting Online Material」から閲覧できます)を見てみましたが、上記以外にもいろいろと変わった傾向が出ていて面白いです。ラウンド数10のときの結果と、ラウンド数50のときの最初の10ラウンドと結果を比較してみても違いがあるというのがけっこう不思議。あと、最後の1ラウンドは多くが協力しなくなる点も不思議です。僕は詳細は読んでないのですが、興味のある方はぜひチェックしてみて下さい。

【参考リンク】
・元論文:The Long-Run Benefits of Punishment

2008年12月02日

ビンテージワインで温暖化ガスを測定する


 ABC Science より。

■ ワインの香りには気候のニュアンスがある
 Wine's bouquet has climate overtones

 温暖化への懸念が増しつづけている昨今、化石燃料を由来とする二酸化炭素量をどのように測定するかという問題はますます重要になってきています。そんな中、オランダの研究者が提案した手法は、ワインをつかって測定するという、一見なんとも風変わりなものでした。

 通常、化石燃料由来の二酸化炭素を測定するには、大気から二酸化炭素を採取してその成分を分析するというやり方が用いられます。そのため、いくつかの場所に測定ポイントが設けられているのですが、なにぶんその数が少ないという問題がありました。現在のところその数は、ヨーロッパ全土で10カ所足らずという状況です。したがって、時間的・空間的に精度のたかい知見を得るためには、ポイントの数を増やすことが欠かせないとされていました。

 そこでフローニンゲン大学の同位体研究センターの Sanne Palstra は、ワインに含まれる二酸化炭素の放射性同位体を調べるという方法で、この代替となるデータを得ることができないかと考えました。

 しくみはこうです。通常、炭素原子の質量量は12(C12)です。ですが、炭素原子のなかには、これとは異なる質量数をもったものが存在します。そのうちの一種、C14は、その名の通り質量数が14で、大気中や生物の体内にごく微量ながら含まれています。

 一方、多くの方がご存じのとおり、化石燃料は大昔の生物の死骸が起源です。C14は、時間とともに崩壊して窒素(N14)へと変化します。したがって、化石燃料を由来とする二酸化炭素は、C14の含まれる割合が実質的にゼロであると見なせるのです。

 ですので、ある年代のワインからC14の割合を調べれば、その年のブドウが大気中から吸収した二酸化炭素のうち、化石燃料由来のものの割合を計算することが可能である・・・このような筋書きを研究者たちは考えたのです。

 実際に各地のワインをもとに同位体の割合が測定されました。結果、スイスのアルプス産のワイン(化石燃料由来の二酸化炭素が十分ちいさいと考えられる)と比べて、イタリア北部とドイツのワインにおいて、他よりも多くの化石燃料の放出を確認することができた、と著者たちは述べています。実際、これらは工場や空港から近い場所とのこと。さらに研究者らは、年代もののワインを使うことで測定をさかのぼることも可能だ、と述べています。

 なるほど。なんであえてワインを使うのかな、というところがはじめ微妙に腑に落ちませんでしたが、よく考えてみると、ワインって産地と年代がきっちり管理されているわけですよね。信頼性という点からすると、もしかするとワインはこの上なく適したサンプルなのかもしれません。

 測定ポイントで測定した値とどれぐらい一致しているのかな。今後はそのあたりの信頼性の評価がやるべきことなのかなと思いました。

【参考リンク】
・元論文:Wine ethanol 14C as a tracer for fossil fuel CO2 emissions in Europe: Measurements and model comparison
核実験が残した産物

2008年12月01日

女性の手の細菌はバラエティ豊か


 ScienCentral より。

■ 手の細菌
 Hand Bacteria

 DNAの配列を調べるという新たな解析手法によって、人間の手のひらにどういった種類の細菌が存在するかを調べるという調査が行われました。結果、性別や手の左右によって様々な興味ぶかい傾向が得られることが明らかになりました。

 この調査を行ったのは、米国コロラド大学の Noah Fierer です。彼はもともとは、土壌や植物といった場所にある細菌や菌類を研究テーマにしている人物です。今回人間の手のひらを調査しようと思ったのは、純粋な好奇心からとのこと。彼は51名の大学生を集め、彼らの両方の手のひらにどういった種類の細菌があるかを調査しました。

 当然のことながら、人間の体表には数多くの細菌が存在しています。従来の手法では、いったいどういった種類の細菌が存在するかを確かめることは著しく困難でした。そこで彼は、DNAシーケンシングという新たな手法を用いてこの数字を出すことに成功しました。

 その結果はおもしろいものでした。

 細菌の種類はかなり多く、平均して1人につき150種類以上もの細菌が手のひらに生息していました。また、異なる2人を比べてみたところ、平均してわずか13%しか共通しておらず、全被験者の総数は4742種類と、たいへんバラエティに富んでいることが分かりました。

 また、細菌の構成が男女間で異なっていることも明らかになりました。細菌の個数でみると男女間でそれほどの違いはなかったのですが、細菌の種類でみると、女性の方が男性よりもバラエティが豊かだったのです。この原因として著者は、皮膚の酸性度のちがいによるのではと述べています。

 面白い傾向はこれだけではありません。1人の被験者でみても、右手と左手とで細菌の構成は大きく異なっていたのです。左右の手の細菌は、平均してほんの17%しか共通していませんでした。

 また、物に触れるなどした程度では、細菌の種類に変化は生じないことも分かりました。このことは、人によって個別の細菌パターンが存在する可能性を示唆していますが、季節のような長期間の経過によっても変化しないのかどうかについてはさらなる調査が必要とのことです。

 なるほど、同じ1人の人間でも左右の手で細菌の種類はまったく異なるというのはかなり意外でおもしろいです。可能性としては仮説のレベルではあるけれど、もし細菌のパターンが個人によって特別で季節を通じて変わらないというのであれば、指紋や声紋と同じように個人を特定する情報になり得るのかなあ、と想像してみると楽しいです。純粋な好奇心から始めた研究であると記事にはありますが、ぜひ世のためになる成果が出てきてくれればいいなあと思います。

【参考リンク】
・元論文:The influence of sex, handedness, and washing on the diversity of hand surface bacteria

2008年11月30日

鶏輸送車の後ろにご注意を?


 ポッドキャスト番組 60 Second Science より。

■ 鶏が道を渡った後は車を洗おう
 Wash Car after Chickens Cross Road

 農場から食肉処理場まで鶏を運送するトラックの後ろを自動車で追跡するという調査がおこなわれました。追跡後の車内を調べたところ、通常と比べてめだって細菌数が増加していることが明らかになりました。

 動物から発生した病原体は、さまざまなルートを介して周囲に広がっていきます。たとえば、農場の従業員はつねに感染の可能性に晒されていると言えます。この他にも、換気設備からの拡散や、排泄物の土壌からの拡散など、いくつかの経路が指摘されています。

 そこで、ジョンズホプキンズ大学の研究者 Ana Rule らは、これら以外にも病原体が拡散する可能性があるのではないか、と考えました。その上で、輸送のプロセスに注目し、ここにももしかすると拡散の可能性があるのではと考え、実際の輸送車を追跡するという調査を計画しました。

 彼らは、米国のデルマーバ半島にあるとある農場から、17マイル(約27km)離れた場所にある処理場まで鶏を輸送するトラックに対し、その後ろを乗用車で追跡しました。

 トラックでは鶏はすかし箱と呼ばれる檻のようなケースに入っていました。また、乗用車ではエアコンや換気扇はオフ、窓は全開にされていました。いずれも一般的に十分ありえるシチュエーションです。

 その後、乗用車の表面と車内の空気が検査されました。その結果、トラックを追跡した後の車内において、好気性菌の総数に増加が見られることが分かりました。これらの菌の中には、感染性や耐薬剤性のある腸球菌が含まれていました。

 今回の調査は、これまで見落とされていたトラック輸送という手段が、病原体のひとつの拡散ルートとなることを示していると言えます。今回のデルマーバ半島のように、農場の密度が高く、かつ交通量の多い地域において特に、食用動物の輸送にさらなる改良が必要である、と著者らは記しています。

 なるほど。具体的な数字が記事からは不明でしたが、とはいえ、深刻な病気の大規模感染を防ぐには、ありとあらゆる感染経路を対策しないとダメなわけです。今回の結果は、輸送トラックという一見大した影響がなさそうな経路でも、拡散の可能性が十分にあることを示したという位置づけになるんでしょうかね。

【参考リンク】
・元論文:Food animal transport: A potential source of community exposures to health hazards from industrial farming (CAFOs)

2008年11月29日

ハッピーな気分がもたらす志向


 [ EP: 科学に佇む心と身体 ] 経由、EurekAlert! より。

 突然ですが、こんな実験をやってみてください。

 A.あなたの今までの人生の中で、最も幸福だったのはいつでしょうか? それはどんな出来事があった日でしょうか。できるだけ鮮明に、そしてそのときどんなことを感じたかについてもあわせて思い出して下さい。思い出し終わったら、次に進んで下さい。

 B.以下には、1つの文と2つの選択肢からなる設問が並べてあります。1つ目の文には、ある行動が書かれてあり、その下には、それを別の表現で言いかえた2つの文が書かれてあります。あなたにとって、その行動をよく言い表しているのはどちらでしょうか? もちろん、正しい答えがあるわけではありません。個人的な好みに近い方を答えて下さい。設問は4問です。

 1.読む
   a.活字の行を追う
   b.知識を得る

 2.歯みがきをする
   a.虫歯を予防する
   b.口の中で歯ブラシを動かす

 3.じゅうたん用に部屋を測る
   a.リフォームの準備をする
   b.巻尺をつかう

 4.食べる
   a.栄養をとる
   b.かんで飲み込む

 以上で実験は終わりです。おつかれさまでした。

 さて、これと同様なテストが米国の大学生を対象に行われました。その結果、ポジティブな気分にさせられた人たちは、反対にネガティブな気分にさせられた人が「活字の行を追う」「口の中で歯ブラシを動かす」「巻尺をつかう」「かんで飲み込む」といった、<手段>を表す選択をとったのとは対照的に、「知識を得る」「虫歯を予防する」「リフォームの準備をする」「栄養をとる」といった、<目的>を表す選択をとる傾向があることが明らかになりました。

■ 幸せな顔をしよう:全体像が見えるようになる
 Put on a happy face: It helps you see the big picture

 この実験を行ったのは、シカゴ大学の Aparna Labroo とジョージア大学の Vanessa Patrick です。彼らは大学生を集め、上で述べたのと同様のテストを行いました。被験者の半分は幸せだったときのことを紙に書き出し、残り半分は不幸せだったときのことを書き出しました。さらにその後、上記と同じような設問を10問、回答してもらいました。

 いずれの設問も、「どのようにするのか」という手段を述べた選択肢と、「なぜするのか」という理由を述べた選択肢からできています。研究者たちは被験者らの回答を分析しました。

 結果はどうだったか。目的が選ばれた設問数を比べてみると、幸せなことを思い出した被験者で平均6.1問、不幸なことを思い出した被験者では4.6問と、幸せなことを思い出した人のほうが目的志向の答えを多くしたことが分かったのです。この傾向は、2択でなく、自由記述式の回答をさせたときも同じでした。

 これとは別に、こんな実験も行われました。被験者に昔を思い出すことはさせず、いきなり設問に答えてもらいました。ただし先ほどとは問題用紙が少し違っていて、問題文の横にスマイルマークまたはしかめ面マークが書かれていました。このようにして答えてもらった回答を見ても、やはり、スマイルを見て幸せな気分になった人のほうが目的志向の答えを選ぶことが分かったのです。

 ちなみにこの設問は、被験者がどのレベルの解釈をするかを調べるのによく用いられるものだそうです(*1)。これによると、目的志向の答えを選ぶことは、解釈のレベルとしてはより上位なのだそう。つまり、「どうやるか」と、目の前の課題をいかに解決するかに気をとられるのではなく、状況から一歩身を引いて、「なぜこの行動をとるのか?」と、抽象的な考え方をすることにつながっていると言うのですね。

 研究者らは次のように結論づけています。状況が良好だと感じ、ポジティブな気分になった被験者たちは、状況から距離をおいた心理になると。そしてこれにより大局的見地に立つことができ、ひいては上位レベルの考え方ができるようになったのだろうと述べています。

 うーん、この最後の理由づけの部分は理解が難しいなあというのが正直な感想。ですが、前向きな気分になることで余裕が生まれて、そもそもの「なぜ」を問えるようになったのかな、と直感的にはまあ納得できる結果だと思います。

 記事でも触れられていますが、たとえば冷蔵庫に笑顔の子どもの写真を貼っておくと、健康的な食材を無意識的に選ぶことができるかも、なんて感じに、僕たちの日常にすぐに適用できそうなところは面白いですね。あとは会社のミーティングは笑顔でやりましょうね、といった教訓とか。

 ちなみに上記のテストは、英文のテキストを僕が勝手に訳した上に、指示をいくらか端折っていますので、これで正確な傾向が出るかについては保証できません。あしからず。

【参考リンク】
・元論文:Psychological Distancing: Why Happiness Helps You See the Big Picture
・(*1):Levels of personal agency: Individual variation in action identification
ABC Science::Can You Smile Your Way to Success

2008年11月26日

トカゲの腕立て伏せの謎をロボットが解き明かす


 New Scientist より。

■ 逞しいロボットはトカゲの奇妙な行動を説明する助けとなる
 Macho robot helps explain lizards' odd behaviour

 トカゲ型ロボットを使って実際のトカゲの生態を調べるという一風変わった調査が行われました。調査の結果、これまで知られていなかったトカゲの腕立て伏せの動きの理由が新たに解明されることとなりました。それによると、トカゲはこの動きによって、周囲のライバルたちの注意を引こうとしているのだそうです。

 調査の対象となったのは、アノールトカゲと呼ばれる種類のトカゲです。北米南部から熱帯アメリカにかけて分布する動物です。

 このトカゲ、威嚇の際にたいへん変わった行動を見せることが知られています。このトカゲのオスは他のオスに出会うと、頭を上下させ、さらにのど袋を膨らませるという威嚇のポーズを見せます。ですが、しばしばその前に、四つん這いで腕立て伏せをするような動きを見せることがあるのです。一体なぜこのような行動をするのか、研究者たちの間では謎のままでした。

 そこでこの謎を解明すべく、米国ハーバード大学の研究者 Terry Ord らは、なんともユニークな方法で調査を行いました。

 彼らは、トカゲの動きの物まねをするロボットを開発しました。このロボットを実際のトカゲと対面させて、どのようなリアクションをとるかを調べることにしたのです。様々なパターンを調べるために、ロボットには頭やのど袋で威嚇する動きや、例の腕立て伏せの動き、あるいは他の種のトカゲが見せる動きなど、様々な動きに対応していました。

 このロボットを、プエルトリコの北東部の森林の奥に設置し、近くのトカゲの反応をビデオ撮影しました。結果、こんなことが分かりました。

 ロボットが腕立て伏せを始めたところ、数秒のうちに周囲のトカゲの注意がロボットに引き寄せられました。しかし一方で、腕立て伏せなしで威嚇行動をしても、他のトカゲはその動きに気付くことはありませんでした。

 つまり、腕立て伏せの動きは、僕たち人間が手をふって相手の注意を引くのと同様、トカゲにとっては周りのオスの注意を集める手段として機能していると考えられるのです。

 また、のど袋を素早く膨らませたり縮ませたりするという動きによっても同様の効果が得られることが分かりました。この動きは実際のトカゲはあまりやらない行動ですが、いずれも素早い動きという点で共通しています。研究者らはここから、素早さが注意を集めるポイントとなっているのではと述べています。

 なるほど。動物の行動を調べるためにロボットを作ってしまおうなんてアイデアは初めて聞きました。びっくり。そしてさらに驚いたのは、実際にトカゲの行動を解き明かすきっかけを与えてくれたという点。今後トカゲ以外の動物にももしかすると今回の手法が使えるのかなと興味がもたれます。

 トカゲロボットの実物のムービーは元記事をご参照ください。

【参考リンク】
・元論文:Alert signals enhance animal communication in “noisy” environments
ナショナルジオグラフィック ニュース::腕立て伏せで仲間の注意を引くトカゲ

<<前のページへ 1234|5|678910 次のページへ>>

アーカイブ