2006年10月15日

海の生物の運動は気候に影響をおよぼす

くじら
 PhysOrg より。
 
 海水中の植物プランクトンは、太陽の光を浴びて栄養を作り出します。今回の研究では、植物プランクトンのもつ栄養が、はたしてどのくらいの化学的エネルギーを持っているかの計算がなされたそうです。この結果によると、人間全体が消費する全エネルギーの5倍にも及ぶことが分かりました。
 
 また、このエネルギーの一部は魚などの動物に取り込まれて、魚の運動のために使われます。魚の運動、というと、直感的にはあまり大したことのない規模のように感じられますが、実はそうではなく、運動にともなう海水の混合が気候の変動にある程度の影響をおよぼしている可能性があることをこの研究は示唆しています。
 
Marine life stirs ocean enough to affect climate
(海の生物は気候に影響を及ぼすのに十分なほどに海洋をかき混ぜる)
http://www.physorg.com/news79958130.html
 
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 海洋学者たちは世界規模で植物プランクトンに細心の注意を払っているが、これには正当な理由がある。海の食物連鎖の広大な土台を形づくる微視的植物は信じられないほどの力を生み出す。今回、フロリダ州立大学による先駆的な研究によって、これがどのくらいなのかが計算された――人間世界の年間総エネルギー消費量の約5倍だった。
 
 フロリダ州立大学の教授 William Dewar ひきいる海洋物理学者と海洋生物学者らは、植物プランクトンが新たな有機物のかたちで蓄える年間の化学的エネルギー量が、およそ63テラワットであると見積もった。これはきわめて多量である。1テラワットでも1兆ワットに等しい。2001年に全人間の消費したエネルギー量はこれと比べてわずかであり、13.5テラワットだった。
 
 そのうえ、海の生物圏――植物プランクトンを最後尾とする海洋生物の連鎖――は、その化学的エネルギーの富のうちの約1パーセント(1テラワット)を、機械的なエネルギーに使っている。これはクジラや魚からエビ、オキアミにおよぶ、空腹な海の泳ぎ手たちの水泳運動に現れる。コーヒーにスプーンを入れてクリームをかき混ぜるのと同じように、これらの水泳運動は水を混合させる。
 
 そしてこの植物プランクトンに支えられた攪拌(かくはん)の総量は、気候のコントロールに等しいかもしれない。
 
 「既存のデータを別の方法で解釈することにより、私たちは理論的に、海の泳ぎ手たちによって引き起こされる混合の量が、海面を吹く風と潮の影響によって引き起こされる深海の混合と同程度であることを予測したのです」と Dewar は語る。
 
 実際に、生物圏でおきる混合は、世界の海洋の深い冷水を海面までもっていくのに必要となる力の約3分の1を提供しているらしいと彼は説明する。これは立ちかわり、世界規模の気候システムにとって重要な、海洋のベルトコンベアの循環を完成させる。
 
 フロリダ州立大学ひきいるこの研究(「海の生物圏は海洋をかきまぜるのか?」)からの知見は、近刊の号の Journal of Marine Research 誌に登場する。これには、既に印象的となった、植物プランクトンに対する主なエネルギー仲介者の役割についても述べられる。
 
 影響を非常に受けやすい植物は、急減や急成長をつうじて、海面や海面近くでの環境の変化を示す信頼ある合図として機能するものと科学者たちはしばらく理解していた――そして大規模な光合成を通じて、巨大で一様な個体数の植物が大気からの二酸化炭素を飲み込むと、植物プランクトンは、気候の変化を反映するのと同じように、気候の変化に影響を及ぼしているのではないかと科学者たちは考えた。(訳がむずかしい・・。植物プランクトンは、気候から影響を受けるだけでなく、反対に気候に影響を及ぼしていることもあるんじゃないか、という意味です。)
 
 しかし、海洋の混合と気候の制御において、海の生物圏が想像以上の役割を持っていることを示している新たな計算に沿って、Dewar らは、人間と環境によるクジラや大きな魚の個体群が殺害されることによって、世界の海洋で起きている混合の全体に、無視できないほどの影響を及ぼしていたのかもしれないとも示唆している。

 
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 今までの僕の知識だと、環境と生態圏とがたがいに影響をおよぼしあうと言うと、たとえば森林と二酸化炭素の関係のような、陸上にかぎった狭いイメージでしかありませんでした。海洋の世界にこんなにも大きなスケールの現象がひそんでいて環境と関係を持ち合っているというのはかなり驚きです。
 
【参考リンク】
元記事Marine life stirs ocean enough to affect climate, says FSU study
 http://www.fsu.edu/news/2006/10/13/marine.life/

2006年10月13日

アメブロからのお引越し検討中

青  現在、アメーバブログからのお引越しを考えています。

 

 理由はわりと単純です。リニューアルのたびに、ブログ本体や管理者メニューのレイアウトが半強制的に変化させられてしまうというのが主な理由です。たとえば、管理者メニューの構成が変わっていたり、記事投稿画面に新しいボタンがついていたり。もちろん、管理者メニュー程度なら、そのたびに変わった内容を管理者のほうで頭に入れておけば問題ないのですが、ブログそのもののレイアウトも勝手に変えられてしまうというのがかなり困ります。いちおう、設定の変更で元に戻せるのですが・・・管理者メニューのGUIからは無理で、CSSファイルの手打ち修正でしか変更できないというのも厄介な点です。

 

 今回、強制的に表示させられることになったのは、管理者のプロフィール写真や、アメーバブログのユーザ同士の読者登録ボタンなど。何が何でもユーザ同士でコミュニケーションしてもらうぞ、というアメーバブログの意思が強く感じられます。あからさまにユーザの囲い込みを狙ってるわけで、そのためには強制的なレイアウト変更もやむをえない、と言ってるかのように感じます。

  

 というわけで、アメーバブログから引っ越して別の場所に移ろうと思い立ったのですが・・・、ここで、過去の古い記事はどうするのか?という問題に直面してしまいました。

 

 A案 : 旧ブログの内容を新ブログにコピーし、旧ブログは全削除。

 B案 : 旧ブログの内容を新ブログにコピーし、旧ブログはそのまま残しておく。

 C案 : 旧ブログはそのまま残しておき、今後の記事のみを新ブログに書く。

 D案 : 旧ブログの内容を新ブログにコピーし、旧ブログの内容を新ブログへの誘導リンクに書き換える。

 

 当ブログの各記事にリンクを貼って下さっている他ページのことを考えるとA案はナシ。記事を二重化するB案は悪くはないけど、たとえば旧ページの内容を修正したいときに新旧両方のページを更新しないといけなくなり、これもできれば避けたい。C案はよさげだけど、過去と現在の記事が複数のブログに分断されることになり、記事検索などでやや不便。

 

 となると残りはD案。

 もちろん、手作業で記事をひとつひとつコピーペーストしていくのは耐えられないので、これよりはマシな方法をとりたいです。ブログのフォーマットとして標準的な MovableType の形式でエクスポート(書き出し)してくれたら嬉しかったのですが、アメーバブログはその機能をサポートせず(当然)。そういうわけで、ここしばらくは、お引越し方法の検討のために更新が稀になるかと思いますが、何卒ご容赦ください。m--m

 

 あと、過去に作った「アメブロの全記事を一括表示するスクリプト」をちょこっと手直ししたのでダウンロード先を再掲しておきます。全記事表示の完了後、右クリック→「ソースの表示」で、記事の保存ができるようになりました。このスクリプトをベースに、お引越し用のが書けたらいいな。

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■ アメブロの全記事を一括表示するスクリプト

 http://liver.ld.infoseek.co.jp/ameblo/index.html

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2006年10月01日

音痴な人の脳の中

カラオケ
 news @ nature.comより。
 
 本記事は音痴の脳の構造について。

 「歌をうたうのが下手な人」は、英語で "tone deaf" とか "amusia" とか言うそうです。日本語で「音痴」というと、どちらかというとやや差別的な表現に聞こえるかもしれませんが、とりあえず他に適切で短い訳語がなかったので、以下では両方とも「音痴」と訳すことにしています。
 
 今回の研究によると、音痴の人々(おもに音程を判読する能力に劣る人々だそうです)の脳をMRIを使って調べてみたところ、白質とよばれる部分が、普通の人々とくらべて少ないことが分かったそうです。
 
Tone deafness shows up in the brain
(音痴は脳に現れる)
http://dx.doi.org/10.1038/news060925-4
 
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 音痴の友人に対し、その人には何か問題があるのだろうとつねづね思っていたのなら、今回の研究がそれを支持してくれた。音痴の人々は脳のある物質を欠いているらしいのだ。
 
 カナダ・モントリオールと、英国・ニューカッスルの研究者たちは、ヒバリのように歌える人々もいれば、カラオケマイクをつかんだ瞬間に周りを耳栓を取りに走らせる人々もいることの原因となる脳の部分を特定した。モントリオール神経学研究所の Krista Hyde らは、磁気共鳴映像法(MRI)を使って音痴の人々の脳を調べ、普通の音楽能力をもつ人々の像と比較した。
 
 両国の研究では同一の方法を用いた。各グループの結果により、脳の前部の領域(右下前頭回)に、音楽的健常者よりも音痴の人々の方が、白質がより少ないことが明らかになった。
 
 白質は脳の情報伝達に関与し、Hyde により見出されたこの白質の欠乏は、おそらく脳の右半球における通信を妨げており、これが音楽の理解を困難にしているのだと研究者たちは示唆している。
 
■ リズムに乗った
 
 音楽的な「行動」は、しばしば6つの能力に対する標準的なテストによって定量化される。拍の感覚、旋律を記憶する能力、音階、音程、音程の向き、リズムの変化を判読する能力がこれには含まれる。
 
 Brain 誌の研究が明らかにしたところでは、脳の白質の量は、リズムよりもメロディ(旋律)と調和していた。このことは、音痴とは音程にもとづく状態であるということを示した以前の研究と合致している。
 
 この新しい研究は、音楽的な行動と生体構造とのあいだの重要なつながりを示している。これは、音痴の状態を理解する上でのまさにブレークスルーとなり得る、と Hyde は語る。
 
 この研究は興味深い、と語るのは、ニューカッスル大学の磁気共鳴センターで脳の研究を行っている Andrew Blamire である。というのも、この研究が、積極的に音楽を聴こうとしているときの脳の反応の仕方の変化よりも、むしろ生体の構造の変化を探しているからだ。たとえば、ボランティアの被験者が歌を歌おうとしているときに撮影した音痴の脳のスキャンでは、白質に違いは現れなかった。
 
 この変化が聴覚皮質には現われていないことに彼は驚いた。
 
■ 遺伝的状態
 
 結果を改良するべく、拡散異方性画像(DTI)と呼ばれる技術を用いることを Blamire は提案する。これは白質で起きていることのより詳細を与え、これにより脳のある部分が他とどうつながり合っているかを追跡できる。
 
 Hyde はこれを開始したばかりであり、失読症と同じように音痴が遺伝的なものであるという自身の予感を裏付けるべく研究を行っている。
 
 彼女は最近、脳の同部の皮質の厚さもまた音楽行動テストと関連があることを発見した。「これは遺伝子がコントロールしていると思われる何らかのものです。これは開かれた話ですが、私たちはこれが先天的(誕生時から備わっている)であるという考えに賛同します。」と彼女は語る。他にも、音楽的才能は訓練可能なものであり、より多くの音楽にさらされることで、関連する白質がより成長するという提案もある。
 
 Hyde は、この問題を解決し、彼女が5年間ともに研究している音痴のグループの生活の質を向上させようと決心している。

 
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 そういえば白質について以前にこのブログで記事をひとつ扱っていたことを思い出しました。(参照:ウソつきの脳に異常あり?) 自閉症児の脳に白質がすくない傾向にあることが分かった研究です。どうやら白質という部分は人間のいろんな特性と関わっているみたいですね。今後さらに詳細が分かるようになってくると、音痴の効果的なトレーニング法とかが提案されたりするかもなあ。
 
【参考リンク】
元論文Morphometry of the amusic brain: a two-site study
 http://dx.doi.org/10.1093/brain/awl204

2006年09月25日

論文捏造とデータの罠

 先週に読んだ書籍2冊のご紹介。なんだか似たテイストの2冊です。


論文捏造」(著:村松秀、出版:中公新書)

総合:■■■■■(難しさ:■□□ 楽しさ:■■■ 満足度:■■■)

 論文捏造、と聞くと思い浮かべるのは何でしょうか。日本では、自殺者まで出した阪大・杉野教授のDNA複製にまつわる事件、韓国では、国の最高科学者第1号にも選ばれ、国民の大きな期待を背負った黄元教授のヒトクローン胚ES細胞にまつわる事件などがあると思います。

 本書は、アメリカ・ベル研究所で起きた、史上最大の科学論文捏造事件をめぐるドキュメンタリーです。本事件の中心人物であるヤン・ヘンドリック・シェーンは、超伝導に関するきわめて画期的な研究結果を発表します。名高いベル研究所から出た結果だということ、そして彼の指導的立場にあった人物がきわめて高い地位にいたということもあって、そのニュースは世界中を駆け巡り、彼は一躍スターに登り立つことになりました。その後3年のうちに、彼は Nature 誌に7本、Science 誌に9本という、信じられないほど素晴らしい成果を次から次へと発表するのですが、とあることが原因で、これらすべての実験結果が捏造であることが明らかになりました。

 NHKのBSドキュメンタリーで放送された番組の書籍版である本書は、本当にものすごく膨大な量の取材から構成されています。そして、シェーンが脚光を浴び始めてから、最終的に捏造を認定され研究所から解雇されるまでの一連の流れをみると、今回の事件の背景には、現在、僕たちが科学論文の捏造問題を考えるうえで欠かすことのできない要素のすべてが織り込まれていることに気づかされます。専門の分化のため、ある研究の正当性を厳しくチェックができる人が少ないという現状、捏造を告発することをはばかる研究者の風潮、掲載論文の正当性の保証を放棄していた当時のジャーナル誌、スター研究者を手放したくない研究所、そして成果主義のプレッシャーなどなど、今後の課題となる点が網羅されていると言えるでしょう。

 本屋で目にしたとしてもなかなかぱっと手に取りにくいと思われるタイトルですが、非常におもしろく読める良書だと思います。




データの罠」(著:田村秀、出版:集英社新書)

総合:■■□□□(難しさ:■□□ 楽しさ:■■□ 満足度:■□□)

 データにひそむ誤りを見抜く技術に関する書籍。巷には多くのデータがありますが、意図的であるか否かは別として、かなり客観性に欠いたデータというのも中にはあります。本書は、具体的な例を挙げ、それらにひそむ罠を解き明かしていきます。

 個人的におもしろかったのがTOEFLの日本人のスコアの平均点がかなり低い(世界169か国中155位)というデータを受けて、はたして日本人の英語力は本当に世界最低レベルなのか? という疑問に関する検証。やはり実際に検証してみると、TOEFLの平均点でもってそれぞれの国の人々の平均的な英語力を示していることはあり得ず、たとえばアジアの発展途上国では受験費そのものが物価とかけ離れて高いため、きわめて限られた人々しか受けることができない一方で、日本では学校によってはすべての学生に受けさせるところもあるぐらい、受験者のレベルにばらつきがあるというのです。単なる平均値では分からない事情が触れられないまま、結論のみが一人歩きし始めるというのは、英語力に限らずにあり得ることです。

 本書の後半では、今の世の中にあるいろんな問題を、データという観点から検証するというアプローチをとります。たとえばそれは、公務員、在日米軍、高速道路、公認会計士や建築士などなど、ありとあらゆる方面におよびます。たしかに、個々の話題について著者の指摘は正しくて、データの誤解釈やデータの悪利用が潜んでいることがよく分かるのですが、ちょっと話題が次から次へとぽんぽん移りすぎる感があり、全体として落ち着きがなくなっている感じがします。ただ個々の話題自体には興味深い指摘が含まれており、知人どうしの会話のネタにはなるかなあと感じました。

 あと、個々の話題に話が終始しているため、「結局どういうポイントに着目してデータを眺めれば、今後だまされることはなくなるか?」という、だましの網羅的なパターンが挙げられていないというのはとても勿体ない気がします。

 データを読み解く力に関連した書籍としては、「『社会調査』のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ」が超おすすめなので、ぜひご参照ください。

2006年09月23日

非倫理的な感情から連想するもの

 Science 8月9月号より。

 突然ですが、こんな実験をやってみて下さい。

 あなたは今までに、倫理にもとるようなことをした経験はありますか? 困ってる人を見捨てたとか、スーパーで物を万引きしたとか・・・。もしあれば、そのときの状況を詳しく思い出して下さい。そしてそのときにあなたはどんなことを感じたかについても、併せて思い起こしてみて下さい。

 ・・・思い出してみましたか?

 では次に、下のクイズをやって下さい。簡単な単語の穴埋めクイズです。空欄に適当な文字を入れて、意味の通る単語にして下さい。

 _らう     き_い      う__す 

 できましたか? 実験は以上です。どうもお疲れ様でした。下へスクロールさせて下さい。

 

 

 

 

 

 さて、今回紹介する研究結果が日本人(日本語)にも当てはまると仮定するならば、上のように非倫理的なことを思い起こした被験者は、反対に倫理的なことを思い起こした被験者とくらべて、「あらう」「きれい」「うるおす」といった、洗浄と関連性のある単語を選びやすくなるという傾向が出てくるのだそうです。

Cleanliness and Godliness--It's True
(清潔さと信心深いこと――それは本当)
http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2006/907/3

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手洗い  マクベス夫人は、ダンカン王の謀殺を企てた後で、想像上の血を手から落とそうと必死になっているとき、深遠で心理的な意味深い真実を表現していた。手を洗うことは、実際に人々の罪の意識を軽くしている、と研究者たちは Science 誌の明日の号(9月8日号)に報告する。

 物理的に清潔であることと、道徳的に清潔であることとは、宗教上の慣習と人々の心の両方において、肉体と精神のいずれもに当てはまる「清潔さ」といった言葉で示されるものとしてつねに密接に関係してきた。トロント大学で組織行動を教える Chen-bo Zhong と、イリノイ州シカゴのノースウエスタン大学のマネージメントの研究者である Katie Liljenquist は、この関連性を深く調査しようとした。まず彼らは、30名の学部生に対して、病気の友人を助けたなどの倫理的な行動をしたときの気持ちを思い起こしてもらい、一方、別の30名には、万引きなどの非倫理的な行動を思い出してもらった。両方のグループはそれから単語の穴埋めテストをおこなった。

 悪さをしたことを思い起こした学生たちは、洗浄に関連した言葉で単語を埋めやすかった(W__H を "WISH" ではなく "WASH" で埋める)。同様に被験者たちは、謝礼として殺菌ティッシュと鉛筆の間で選択をするよう言われると、非倫理的な行いを思い出した学生の3分の2がティッシュを取っていった――倫理的な行いを思い出した学生たちの2倍だった。

 これらの実験では、清潔さと道徳の間の関連性には深い根底があることが示されている一方で、下記の別の実験では、この二つの概念は互いに交換可能であるほど非常に近接しているということが示されている。この研究では、45名の参加者に、過去の非倫理的な行いを書き記してもらった。その後、22名には殺菌ティッシュが渡され、手を洗ってもらった。両方のグループはそれから、被験者を切望している大学院生を助けるため、これとは別の研究にボランティアをしてもらえないか、と尋ねられた。きれいになったと感じた学生たちは、罪を償う必要を感じなくなったのか、手を洗わなかった学生たちの74%と比べて、41%が助けをすることに合意した。

 バークリーのカリフォルニア大学の心理学者 Philip Tetlock は、この研究は非常に「巧妙」であり、彼自身でやっていればよかったと語った。「道徳と物理的清潔さとの間に心理学的な関連がある」ことをこの研究は示していると彼は語る。「実際、道徳的な清潔さに対する私たちの考えは、ある点において、不潔さや汚れに対して私たちがもつ根深い嫌悪感の隠喩的な延長であると思われるのです。」

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 実際に出題された問題は、他に「SH__ER(SHOWER? SHAKER?)」や「S__P(SOAP? STEP?)」など。ちなみに冒頭で示した単語テストは僕が勝手に作ったものなので、はたして本当に同様の傾向が出るのかは不明です。

 ここまではっきりした違いが見られるというのは面白いです。誰かに何かをしてもらうよう説得するときなど、ひょっとしたら今回の結果が応用できるかもしれませんね。

【参考リンク】
元論文Washing Away Your Sins: Threatened Morality and Physical Cleansing
 http://dx.doi.org/10.1126/science.1130726

2006年09月22日

ライオンのたてがみは雄のシンボルとは限らない

ツァボのライオン
 Reuters より。

 ライオンのオスのシンボルといえばたてがみです。ライオンのたてがみに関してはこれまでいくつかの研究があり、主要な研究の結果によると、色の濃さが強いオスの証なのだそうです。オスはたてがみで強いオスを見分けて無益な争いを避け、メスもたてがみの色で強い子孫を残すための相手を選んでいるのだそう。たてがみの色が強さを示す目印の役割を果たしていたのです。

 ですが、アフリカのツァボ(ケニア)にある国立公園にいるライオンのオスは、たてがみがなかったり、あるいは薄いたてがみしか持たないにも関わらず、メスのパートナーには恵まれていることが分かりました。右の写真は元論文(下記リンク参照)より引用しました。

 著者たちは、これは暑すぎるツァボの気候のためであり、気候への適応がたてがみの発達を抑えているのだと述べています。

Mane-less lions keeping cool: researchers
(たてがみのないライオンは冷涼を保っている、と研究者たち)
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?storyID=2006-09-15T235205Z_01_N152213_RTRUKOC_0_US-ENVIRONMENT-LIONS.xml

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 たてがみを持たなかったり、薄毛を首回りに伸ばしたオスのライオンがいるのはなぜだろうか。研究者たちが金曜日に報告したところによると、この問いへの簡潔な答えは、動物たちが涼しくしようとしているためであるという。

 「百獣の王」を連想させるふさふさしたたてがみの進化上の目的については研究が積み重なってきた。研究者の中には、競争相手の牙から首を守りつつ、メスを魅惑しようとしているのだと推測する者もいる。

 しかしシカゴのフィールド自然史博物館の研究者たちが述べたところによると、ケニアのツァボの野生保護地に住む、たてがみのない、あるいは薄いライオンが、多くのメスとの交際に恵まれているという。

 高温高湿のツァボ保護地のライオンと、これより寒冷で高標高のセレンゲティ平原に住むライオンとを比べると、ツァボのライオンは、一方と比べてたてがみが小さかったことを、この研究者たちは Journal of Zoology 誌に報告した。

 かの有名なライオンの攻撃性の原因となり、また髪の成長を妨げる(頭のはげた人間の男性のホルモンと同様)テストステロンを、ツァボのライオンはより多く体内に持っていると示唆していた研究者たちもいる。

 また、このライオンは、洞窟の壁画に示されている、現在では絶滅したヨーロッパのたてがみのないライオンの特性を受け継いでいるのかもしれない、と提案した者もいる。

 いまなお他の理論では、人を寄せ付けないツァボ保護地に住むたてがみのないライオンは、栄養不良や水不足に苦しんでいたり、あるいは、この地域のとげのある小低木を通過し、ギザギザを引っかいているうちにたてがみを切り離したのだと提案していた。

 しかしフィールド博物館の Thomas Gnoske と Kerbis Peterhans はこれらの理論を無視した。

 ツァボでの観察によると、オスたちは実際にはたてがみを伸ばすのだが、発達するのは後になってからであり、ずっとゆっくり成長し、セレンゲティのライオンほどふさふさにはならない傾向にあると彼らは述べた。

 ツァボのライオンの小さなたてがみは、交配する能力が減少することとは関係がなく、小さなたてがみのライオンは、誇りにおいて卓越したオスとなっていたのだと彼らは付け加える。

 「あらゆるライオンは、地域的な気候の形態にしたがってたてがみを発達させるのだろう」と著者たちは記した。

 「ある時点で、冷却することが他の進化上有利な点より優先するのです」と Peterhans はインタビューで述べた。「髪は生得的に、断熱材として機能します。そしてそれゆえ、きわめて高温で高湿な環境において、オスの温度的バランスを保つ能力を妥協させるのです。」

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【参考リンク】
元論文Dissociation between mane development and sexual maturity in lions (Panthera leo): solution to the Tsavo riddle?
 http://dx.doi.org/10.1111/j.1469-7998.2006.00200.x

2006年09月18日

健康な子供の骨にカルシウムのサプリは効果なし

カルシウム錠剤  Reuters より。

 日本でも子供向けの食品を中心に、カルシウム入りをうたった食品が数多く出回っていますが・・、今回のはかなり驚きな研究結果です。

 3000名近くの被験者を対象にした今回の調査によると、健康な子どもにカルシウムのサプリメントを与えたところ、腰や脊椎において、骨量の増加は見られなかったことが分かりました。一方で腕の骨にはわずかの増加が見られましたが、これで骨折のリスクが抑えられる、と言い切れるほどの効果は見込めなさそうです。

Calcium supplements unlikely to prevent fractures
(カルシウムの補給剤は骨折を防止しそうにない)
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?storyid=2006-09-15T154622Z_01_L14147685_RTRUKOC_0_US-CALCIUM.xml

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 研究者たちが金曜日に述べたところによると、健康な子どもに骨密度を高めるためカルシウムを補給しても、骨折を防止することはできなさそうである。

 タスマニア(オーストラリア)のメンジーズ研究所の科学者たちが、約3000名の子どもが参加した19の調査を分析したところ、カルシウムの補給を受けた子どもたちは、腕に骨ミネラル濃度の増加がわずかに見られたが、腰や下部脊椎には見られなかったという。

 「上肢に見られたこのわずかな骨密度の増加は、骨折のリスクに臨床上重要な減少をもたらしてはいないでしょう」と語るのは、British Medical Journal 誌に掲載されたこの研究の主著者である、Tania Winzenberg である。

 カルシウムは多くの食べ物で見受けられるものだが、補給剤をとることによって、子どもの骨をより強くする助けとなりえると考えられている。これにより後年の骨粗しょう症のリスクが減るだろうというのだ。

 どれだけの骨を幼年期に作り上げ、成人期に失ったかによって、骨粗しょう症のなりやすさが決定される。この研究者たちによると、最大骨量の少なくとも90パーセントが18歳までに達されると言う。

 研究に参加した3~18歳におよぶ子どもたちは、8.5ヶ月から7年にわたって、カルシウムの補給剤もしくは偽薬を与えられた。

 Winzenberg らは、腰、脊椎、腕といった全身の測定をもちいた密度検査で、子どもたちの骨の強さを測定した。その結果、腰や脊椎の骨密度の増加量は、両方のグループの子どもたちで同じだったことが分かった。腕では、補給を受けたグループの方がほんのわずかだけ多かった。

 この結果は、子どもの性別や民族的背景、運動レベル、年齢に関わりなく同じだった。

 「私たちの結果は、健康な子どもたちにカルシウムの補給剤を使用することについて、限られた支持しかしていません。」(Winzenberg)

 この科学者たちはさらなる研究を探し求めている。果物や野菜を多く食べているか、ビタミンDの濃度が高くなっているか、といったことがらは調べてみるべきだろう、と述べた。

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 もちろん今回の研究は、「健康な」子どもを対象にした調査ですので、たとえばカルシウムの吸収に問題のある子どもや、普段のカルシウム摂取量が極端にすくない子どもには、サプリメントにも効果はあるものと思います。

 とはいえ、「カルシウム強化食品で健康な骨づくり!」みたいなコピーはスーパーなどでも日常的によく目にしますね。ああいう食品は誰にとっても骨の健康に良い効果をもたらすはず、と何の疑いもなく感じていた自分にとっては、こうした結果は本当に意外に映りました。

【参考リンク】
元論文Effects of calcium supplementation on bone density in healthy children: meta-analysis of randomised controlled trials
 http://dx.doi.org/10.1136/bmj.38950.561400.55

2006年09月16日

ヒョウ柄模様の方程式

 Nature Digest 9月号より。

 動物の世界にみられる模様は本当に複雑です。

 たとえばシマウマの縞模様だったり、キリンの網目模様だったり、バリーション豊かな模様を見ることが出来ます。(参考:Wikipedia:キリンシマウマ
 
 さて、これほど複雑な模様なのだから、その仕組みは到底理解できないほどに込み入ったものに違いないと思うかもしれません。1952年、Alan Turing が提案する「反応拡散方程式」というモデルによって、こうした模様をうまく再現できることが明らかになれました。Turing は、「モルフォゲン」という2つの物質の互いの作用によって模様が生まれると考えました。驚くべきことに、彼の考えた方程式とは、2つの物質の量に関する1組の偏微分方程式に単純化されるものでした。
 
 この方程式は、反応と拡散という2つのプロセスが組み合わさったものです。活性的な反応と抑制的な反応からなる一連の化学反応に、物質の移動(拡散)というプロセスが組み合わさり、さらに物質ごとに拡散の速度が異なるという条件が満たされることで、こうした模様が生じるようになるのだそうです。詳細については「自己組織化&自己集合」がたいへん読みやすく詳しいです。

ジャガー(幼獣)  ですが、いくらかの動物では、Turing の反応拡散方程式のパラメータを調整するだけでは再現がどうやら困難だということが分かってきました。たとえばヒョウやジャガーの成獣の模様がそれです。いずれも幼獣の模様は単純なまだら模様なのですが、成獣になると、ヒョウの場合はあたかも花飾りのような模様、ジャガーの場合は小さな点を多角形が取り囲んだ模様を示すようになります。右の図は元論文(Liu R., et al. Phys. Rev. E., 74. 011914)から引用しました。上図はジャガーの生後2ヶ月の模様、下図は大人のジャガーの模様です。はたしてどのようにすればこの模様を再現することが出来るのか、という問題は研究者たちにとって謎だったようです。
 
ジャガー(成獣) 台湾・台中の国立中興大学の Sy-Sang Liaw らは、この方程式のパラメータを調節するだけではこの模様を再現することはできないだろうと考えました。そこで彼らは、幼獣にまだら模様ができるフェーズと、成獣の模様ができるフェーズの、2つの異なるフェーズに模様の形成過程を分けることを仮定しました。そしてその結果、最終的に1年間という期間を費やし、模様の再現に成功することができたのです。
 
 実際にどのような物質が上記のモルフォゲンに相当するのかは今回の研究でもまだ分かっていません。とはいえ、もし今回の過程が実際の動物で起こっているとすれば、動物の年齢と関係して、モルフォゲンの反応の関係が切り替わるしくみが働いているのは違いないだろうと言えます。
 
 こういう研究ってとても面白いなあと思います。1つのシンプルな規則だけでも複雑な模様ができあがるのに、さらにそこから2つめの規則に切り替わることによって、ますますバラエティ豊かな模様の世界が生まれるというのは、なんだか美しささえ感じますね。

【参考リンク】

元記事How a leopard changes his spots
 http://dx.doi.org/10.1038/news060731-15

元論文Two-stage Turing model for generating pigment patterns on the leopard and the jaguar
 http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevE.74.011914

2006年09月14日

父の匂いが娘の成長を決める?

父と娘  Science A GoGo 経由、Penn State Live より。右の写真の人物は田中角栄と田中真紀子ですが、本記事とはまず関係ありません。

 2000名近くの女子大学生を対象に、社会的な環境と、初経の年齢に関するアンケートをとったそうです。

 この結果を分析してみたところ、父親が不在の学生は、父親がいる学生と比べて、初経の年齢が早かったことが分かりました。さらに、現在までの不在の期間が長いほど、初経のときが早くなることも分かったそうです。

 さらにこれとは別の研究によると、人間の嗅神経系に、初経と関係のあるフェロモンの受容体があることが報告されているそうです。ここから本研究の著者たちは、父親が出すフェロモンが、娘にとって性的な成長を抑えているのかもしれない、ということを述べています。

Scent of father checks daughter’s maturity
(父親の匂いは娘の成熟をおさえる)
http://live.psu.edu/story/19397

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 ペンシルバニア州の研究者たちによると、父親からの化学的刺激によって、娘の性的な成熟のはじまりに遅れが生じているかもしれないという。近親交配を避けるための進化上戦略の一部としてだという。

 「生物学上の父親は、娘に対し抑制性の化学的シグナルを送り出します」と語るのは、ペンシルバニア州アルトゥーナの心理学助教授 Robert Matchock である。「これらのシグナルがないと、若い女性たちは、より早く性的に成熟する傾向にあります。」

 動物の世界では、性的な成熟に対し化学的刺激が影響をおよぼすというのはありふれたものであると Matchock は説明する。齧歯類の家族から、生物学的な父親が取り除かれると、娘たちはより早く成熟する傾向にあると彼は言う。

 「近年、ほかの専門家たちによって、ほとんど知られていなかったフェロモンの受容体遺伝子が人間の嗅神経系に発見されました。これは、初経あるいは初回生理の開始におけるフェロモンの役割とかかわりがあります」と Matchock は言う。彼の発見は American Journal of Human Biology 誌の最新号に掲載される。

 ペンシルバニア州の生物行動健康学の Elizabeth Susman と Jean Phillips Shibley 教授をふくむ研究者たちは、若い女性の社会的環境と性的な成熟との間の関連性を調べるべく、1938名の大学生の初経に関するデータを収集した。データには、女性たちの家族数や社会的環境、そして父親がいなかった期間の長さといった要因についての情報が含まれていた。

 「父親のいない若い女性は、父親がいる若い女性よりも、おおよそ3ヶ月早く成熟する(大人になる)ということを私たちの結果は示しています」と Matchock は語る。さらに、このデータは、父親が不在の長さと初経の年齢との間の関連性――不在のときが早いほど、初経が早くなるという関連性――があることを示しているだろうという。

 併せてこの研究結果は、異父兄弟や継兄弟(連れ子同士で結婚した時の血縁のない兄弟)がいることも初経の早さと関連していることを示している。都会の環境で生活する若い女性も、地方の環境の女性と比べて初経が早かった。これは、父親があり、教育レベルが同等の両グループを比較したときもそうだった。

 都会の環境は、両親の抑制性フェロモンから身を遠ざけ、親族でない異性からの魅惑的なフェロモンに遭遇する機会を多く与えているのだろうと Matchock は推測する。

 「刺激的な都会の環境が、両親からの抑制的な刺激を打ち消すというのはあり得ることです。」(Matchock)

 総合すれば、この研究は、人間的な例外を示すものなのではなく、交配を強化し、近親交配を避けるために、フェロモンの刺激がいかに性的な成熟を調節するかを説明するものであると、このペンシルバニア州の研究者たちは語る。

 「近親交配を避けることは、健康的な遺伝子を首尾よく広めるために重要であるため、フェロモンの利用といった近親交配を避ける戦略は、種を通じて保存されているのでしょう。」(Matchock)

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 記事をみるかぎり、人間のにせよ他の動物にせよ、父親から実際にフェロモンが出されたことを示す証拠はないみたいですね。記事中で紹介されている齧歯類の研究が気になります。

 とはいえ、もし本当に抑制性のフェロモンが父親が出ているとしたら、それはものすごく驚くべきことですね。動物には近親交配を避けるための用意が備えられているなんて・・とても興味がかきたてられることです。

【参考リンク】
元論文(Family composition and menarcheal age: Anti-inbreeding strategie)
 http://dx.doi.org/10.1002/ajhb.20508

2006年09月01日

男女比の不均衡がもたらすもの

 2004年の地球の全人口のうち、男性の占める割合は50.4%だそうです。ですが、世界のいくらかの地域では、この割合がくずれてしまい、男性の数が女性の数を圧倒的に上回るという状況になっています。

 こうした状況が生じた理由は様々で、一言でまとめられるものではありません。地域によっても異なってきます。また、こうした状況は当然のことながら独身男性の増加をもたらすことになるわけですが、このことは、社会の安定を脅かすような暴力的行為の増加を引き起こす可能性があると指摘されています。

Researchers warn of perils of gender imbalance
(研究者たちは性別の不均衡の危険を警告する)
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?storyid=2006-08-29T151107Z_01_HKG283325_RTRUKOC_0_US-MALES.xml

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 研究者たちは、男の赤ちゃんを選り好む文化について警告を発している。性別比の不均衡が非婚の男性をふやし、反社会的・暴力的行為のリスクを生じさせるだろうと言う。

 Proceedings of the National Academy of Sciences 誌に掲載された論文で、彼らは、中国とインドの一部で、今後20年間で男性が12~15パーセント多くなるだろうと述べている。男性の多くは、限られた教育しかもたない、地方の農民であるという。

 「家庭を持つ見込みを欠いた若い男性の数が増え、そうした男性は性的エネルギーのはけ口がほとんどない状態になるだろう」と記すのは、中国・浙江師範大学の Zhu Weixing と、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ小児保健研究所の Therese Hesketh である。

 「性別が、犯罪、特に暴力的犯罪と相関があるということはよく確立されている。このためこうした傾向は、反社会的行為や暴力のレベルを引き上げることになるだろう」と彼らは言う。さらに、この傾向は多くの社会において、安定と安全を脅かすだろうと付け加える。

 アジアや北アフリカの大部分において、すでに性別比はくずれている。女の子供の健康管理において、性別による中絶や差別により、女性の死亡が高くなってきている。

 「インドと中国だけで、いまや8千万人の女性が行方不明であると見積もられている」と彼らは記す。

 今月の British Medical Journal 誌に掲載された研究によると、中国は人口増加を制御するために1979年に一人っ子政策を導入したが、これにより、1980~89年に1.11だった男性-女性の比は、1996-2001年に1.23へ上昇した。

 世界銀行の図によると、2004年には、中国とインドで人口のそれぞれ48.6パーセントと48.7パーセントが女性だった。これとは対照的に、東アジアの総人口のうち、女性は49.1パーセントであり、全ヨーロッパと中央アジアでは52.1パーセントだった。

 論文で著者たちは、男女の産み分けの削減策、そして文化的考え方の早急な変化を求めている。さもなくば悲惨な影響がやってくるだろうという。

 「独身の若い男性が集まれば、組織化された攻撃の可能性が大幅に増し、このことは組織的犯罪やテロリズムにとって厄介な意味をもたらす」と彼らは述べた。

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 一般に、男の子の方を好む傾向にはいくつか理由があります。一つには、特に農村において、男性のほうが稼ぎが大きいからという理由。あるいは、家系を途絶えないようにするためだったり、遺産の相続が可能なためだったり、さまざまな理由が背景にあるようです。

 記事中でも挙げられていますが、男女の比についての事情は、国によってかなり異なります。一人っ子政策をとった中国の場合について記事では挙げられていますが、このほか、インドや韓国の状況もまた特徴的です。

 インドでは、そもそもきっちりとした出生数の把握が難しいという事情もありますが、地域による格差が大きいという特徴が見られるようです。インドの南部や東部では、人口の男女比は標準的(男105:女100ぐらい)なのに対して、パンジャーブ州などの北西部では、男120:女100という不均衡な構造です。(理由ははっきりとはしていないようです。)

 一方、韓国では、出産前診断による男女の産み分けが盛んに行われていました。そのため、胎児の性別判定が禁止になるまでの間は、出生の男女比がきわめて高い状態だったようです。実際、1992年のデータでは、第1子として出生した子の男女比は106:100なのに対し、第2子では113:100、第3子では196:100、第4子にいたっては229:100というたいへん異常な数字です。つまり、第1子で男の子を得られなかった夫婦が、第2子以降で出産前診断を積極的に行うようになったことを示しています。

 本記事の元論文は、男女比に関するさまざまな研究のまとめ的な内容になっています。ばーっと読んだ程度ですがかなり興味のわく論文を本当に数多く紹介していますね。この他のトピックについては記事を改めて紹介する予定です。

【参考リンク】
元論文(Abnormal sex ratios in human populations: Causes and consequences)
 http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0602203103

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