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2005年01月08日

本当に? 「ヒーローものゲーム、子供の攻撃性増加の可能性」

 読売新聞の記事より。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050107i101.htm

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悪者が暴れまわるテレビゲームより、かっこいいヒーローが敵を倒すゲームの方が、むしろ子どもの攻撃性を高める可能性があることが、お茶の水女子大の坂元章教授らのグループ研究で明らかになった。

 坂元教授らは2001年11月から12月にかけて、神奈川県や新潟県などの小学5年生を対象に、よく遊ぶテレビゲームと攻撃性に関するアンケートを実施、1年後に同じ児童に追跡調査を行い、周囲の人への敵対心を表す「敵意」など、攻撃性に関する5つの指標について、その変化を調べた。

 6校の児童592人についての調査結果を分析すると、知的だったり、見た目がかっこよかったり、魅力的な特徴を持つ主人公が登場し、攻撃するゲームでよく遊んでいた児童は、1年後に「敵意」が上昇していた。

 「ひどいことをした悪者に報復する」という、暴力を正当化するゲームでよく遊んでいた児童も同様に「敵意」が高くなっていた。

 これに対して、攻撃回数が多い、たくさんの人を攻撃するなど、暴力描写の程度が高いゲームで遊んでいる児童の場合は、研究チームの予想とは反対に、むしろ攻撃性が低下していた。

 この結果を坂元教授は「かっこいい正義の味方だと、プレーヤーが自己同一視しやすいため」と分析している。
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 この記事を読んで、あれ、なんだかちょっとおかしいぞ、ということに気付いたのです。
 どうやらこの記事、相関関係と因果関係とを混同してるんじゃないか。

 この調査は、ある被験者のグループに対して、ゲームの嗜好と攻撃性増加の割合についてアンケート調査をしています。
 で、その結果を調べてみたところ、かっこいい主人公が攻撃するゲームでよく遊んだと答えた生徒は、1年後に攻撃性が増加していることが分かったそうです。
 でもそれって、つまり、ヒーローものゲームでよく遊んだグループと攻撃性の増加したグループとの間に、正の相関が見られたと言っているに過ぎないわけです。
 この結果では単に相関関係が示されただけであって、ここから「ヒーローものゲームが攻撃性を増加させる」という因果関係を引き出すことはできません。
 相関関係と因果関係がごっちゃになっているように思えるのです。

 もし因果関係を証明しようと思うのなら、もっと異なる調査方法が必要です。
 たとえば、被験者をA、B2つのグループに分け、現在の攻撃性についてアンケートをとる。
 Aの被験者には悪者が暴れまわるゲームを、Bの被験者にはかっこいいヒーローが敵を倒すゲームを、積極的にやるよう指示する。
 そして1年後に両グループの被験者に対しアンケートを取り、攻撃性増加の割合を測る。
 ・・・こんなふうな調査をやって初めて、因果関係を示したと言うことができるはずです。

 じゃあ、一体どうして今回のような調査結果が出たのか。
 いろいろな可能性が考えられそうです。
 たとえばあり得そうなのは、第3の要因の存在。
 つまり、調査に現れていない何か他の要因(生活習慣、両親の収入等々)があって、それがゲームの嗜好と攻撃性増加の両方に影響を及ぼしているのかもしれないのです。
 この記事ではそのような可能性については一切触れられず、ただ2つの因果関係の可能性だけが強調されてます。

 でも一応この記事の題目は、逃げ道でもとるかのように、「ヒーローものゲーム、子供の攻撃性増加の可能性」となってるので、100%間違ってるとは言い切れないのですが。
 あるいは、調査方法について詳細が分かれば、僕の誤解だったとハッキリするのかもしれません。

2005年01月24日

宝くじ:伊で破産者や一家心中など悲惨な事件相次ぐ(1)

 「毎日インタラクティブ」の記事より。

http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20050124k0000e040018000c.html

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 イタリアで「ロット」と呼ばれる数字選択式の宝くじをめぐり、破産者や自殺者が相次いでいる。20カ月近く出ていない「53」という数字を狙い、大金をつぎ込む人が続出しているためで、国民のロトへの熱狂ぶりは社会問題化している。

 ロットは1から90までの数字を最大五つ選ぶ賭け事で、11倍から最大9700万倍の当選払戻金が見込まれ、国内10都市で毎週2回、それぞれ抽選を行っている。このうちベネチアで「53」が03年5月以来、178回の抽選で出ていないことから、「次こそ53」という予想とうわさが全国に一気に広まり、賭ける人が急増した。

(中略)

 専門の精神療法学者は「『中毒者』の半数以上は女性で、老人のほか若い世代にも増加傾向が見られる」と指摘。一部の消費者団体は、政府に対し「しばらく『53』を賭けの対象番号から外すべきだ」と訴え始めている。
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 ひとまず、この記事の最後に登場している消費者団体は、「53」を賭けの対象番号から外すべきだ、と訴えるよりも、むしろ、自国民に確率の初歩の知識を教えて回るべきだ、と訴えた方が良いような気がします。

 おそらく、この手の誤解の原因は、「次こそ53が出やすい」という錯覚と、期待値の大きさに目が眩んで思考停止してしまうことにあるような気がします。

 ちなみに、ロットくじで、何かの数字が178回連続して一度も出ない確率は、
  90 × ( 85/90 )^178 = 0.00343... ≒ 0.34%
 になります。(計算に誤りのある可能性あり;)
 (追記:やっぱり少し計算違うっぽい。本当はこれより若干小さいはず。)

 この 0.34% という数字は、たしかにそれなりに低いように見えますが。
 あくまでこの数字は、「ある特定の178回の試行」についての確率だということに注意しないといけません。
 これまで長い期間ロットが行われてきたことや、あるいはロットを開催している国が世界中にいくつもあることからも考えると、今回の状況が極めて不思議な現象である、とは決して言えないと思います。

 極端な話し、次の二つの状況:
A:「53」が20ヶ月出ていない状況
B:「53」がつい昨日の抽選で出た状況
で、次の抽選に53が登場する確率は、どちらも 5/90 で違わないはずです。

 この社会問題にまでなっている現象を改善するには、例えば、テレビ局に依頼して簡単な実験を放送してもらうとかすれば面白いんじゃないかと思います。
 単純なコイン投げを何回も行う実験をやってみて、ほら、10回続けて表が出た場合と、そうでない場合とで、次にコインが裏になる確率はどちらも変わらないんですよ、と。
 次のロットで53を選ぶというのは、期待値が違うというだけで、当選する確率そのものは変わらないんですよ、次こそ53が出やすい、なんてのは大きな誤解ですよ、と諭してくれるような番組です。

 本当は、確率の期待値にかかわるパラドックスの話でもと思っていたのですが、こちらの話で時間がかかってしまったので、それはそのうち。

2005年01月26日

宝くじ:伊で破産者や一家心中など悲惨な事件相次ぐ (2)

 前回の日記で、イタリアのロットくじにまつわるニュース記事を扱いました。

http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20050124k0000e040018000c.html

 詳細についてはリンク先を参照してください。
 大雑把にまとめると、ここ178回のロットくじの抽選会で、当選番号に一度も「53」が登場していないために、全財産を注ぎ込んで破産したり自殺したりする人が続出し、社会問題化しているということです。

 その話題を受けて、前回の日記の中で、ある数字が178回連続して出ない確率を計算して載せました。

  90 × ( 85/90 )^178 = 0.00343... = 0.34% 

 と書いてアップしたのですが、その5分後に、計算が間違っていることに気が付きました。
 おそらく、若干大きめに見積もってしまっています。
 
 というわけで、正しい結果を得るべくあれこれ試みることにしました。
 ひとまず、問題を整理。
 
【問題】
 ロットくじの抽選では、一度の抽選で、1から90までの数字のうち、5つの数字が無作為に選ばれる(例えば、4、15、22、67、83)。
 さて、178回抽選を行って、あるどれかの数字がたったの一回も出現しない、という現象は、果たしてどの位の確率で起こるだろうか?

 さて、昨日今日と、この問題を考えていたのですが、すぐにピンと思い付くものでもない様子。
 高校時代の数学の記憶を手繰って、
1.余事象を考える。
2.確率漸化式を作る。

 の2つのアプローチ法を試すとうまくいくかもしれない、ということを思い出したのですが、どうやらこの方法でも、あっさりと解くことは無理なようです。
 やはり、かなりじっくりと考察する必要があるようです。

 というわけで、これとは異なる第3のアプローチ法でやってみようということになりました。
3.何だかよく分からないけどシミュレーションすればいいじゃない。

 数学の先生が聞いたら、「なんでもかんでもシミュレーションで解決しようとして。少しは解析的に考えなさい。」なんて怒られそうな発想ですが。

 そういうわけで、コーディング。
 178回の抽選を行って1~90の数字が全て出揃っているかどうか調べるという試行を、100万回繰り返しました。
 さて結果は、100万回の試行のうち、いずれかの数字が一度も出現しなかったのは、3019回。
 確率にして、3019÷1000000 = 0.003019 ≒ 0.30% ということになりました。
 やはり、最初に示した答え(0.34%)よりも小さい値が出ましたね。。
 
 とは言っても、それほど激減したわけでもないですから、一応のところ前回の主張に変更はなしということです。
 数字が出せたので(近似値ですが)、とりあえずは満足です。
 

2005年02月17日

英語力つけば「省エネ脳」に? 東大チームが実験

 アサヒコムの記事より。
 
 http://www.asahi.com/science/update/0216/005.html
 
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 英語が十分に身についた学生では、こめかみの奥にある脳の「文法中枢」が少ないエネルギーでも働く「省エネ型」になるらしい。酒井邦嘉・東京大助教授(言語脳科学)らが実験で確かめた。文法中枢は文字や言語の理解に関係があり、日本語を使う時にも働くと考えられている。活動ぶりを調べることで、言語障害を患った後のリハビリの効果判定などにも役立ちそうだという。

 研究チームは、右利きで19歳の東大生15人に協力してもらい、英語の不規則動詞の正しい過去形を瞬時に選んでもらう実験を行った。実験中、「機能的磁気共鳴断層撮影装置(fMRI)」で脳の活動ぶりを測定した。

 実験の結果、正答率が高い学生ほど、左のこめかみの奥にある文法中枢への血流集中が見られず、エネルギーを節約していることが分かった。正答率が低い学生では、文法中枢が活発に働いていた。

 この結果は、中学生を対象にしたこれまでの実験結果とは逆。中学生では、英語の成績が向上するにつれて、文法中枢の活動は活発化していた。

 酒井さんは「中学生から大学生にかけて英語が身につくにつれて、文法中枢の活動が高まる。熟達すると、節約型へとダイナミックに変化するようだ」と分析している。

 この結果は、16日発行の米神経科学会誌で発表する。

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 よく、「記事をより多くの人に読んでもらいたいと思うならば、何よりも、人目を引くインパクトのある見出しを付けるべきだ」と言われています。
 ですが、今回のこの見出しはちょっとやり過ぎだなあと感じてしまいます。

 この見出しを読んだだけだと、
 「英語の力がアップすると、何をするにも、脳を効率よく働かせられるようになる」
 と、早とちりしてしまう人が出て来そうな気がします。
 読者を煽って英語教育の広告をクリックさせる気か? と思わず勘ぐってしまいました。
 
 
 まあ、見出しへの突っ込みは置いておいて。 

 今回の研究については、ここに、より詳細な報告が載っています。
 詳細な報告を読んでみて、自分の誤解に気付いたのですが、

英語の成績の良い中学生 ・・・ 実験中、文法中枢の活動が活発
英語の成績の悪い中学生 ・・・ 実験中、文法中枢の活動が活発でない

 という図式ではなかったのですね。

 大学生を調べたほうの実験は、英語の熟達度の高い低いによって被験者をグループ分けして、両者の文法中枢の活発さを比較しています。
 一方で、中学生を調べたほうの調査は、英単語のトレーニングをやる前とやった後での文法中枢の活発さの違いを調べています。
 (前回の調査に関してはここを参照してください。)
 
 その結果、英語の学習を開始したばかりの中学生については、トレーニングにより英語の知識が増えると、脳の文法中枢の活動もあわせて活発になる。
 そして、学習がかなり進んだ大学生については、熟達度が高い人ほど、文法中枢の活発な活動を必要としない。
 ・・・ということを示せたというのが、今回の結論になるようです。

 (個人的に疑問に感じるのは、動詞の過去形の2択クイズの成績によって英語の熟達度の判定をするというのが、どれぐらい妥当なことなのか? ということですが。)

 今回の結果は、僕たちの経験と照らしてみれば、
 英語を習ったばかりの頃だと、過去形を一つ思い出すだけでも、「ええとなんだっけ」と懸命になっていたのに比べて、年齢を重ねてそれなりに英語に習熟した後では、さして苦労なくスムーズに過去形を思い出せる、という状況のことを言ってるのだと容易に対応付けできます。


 ところで、この辺りの分野に詳しくない人(僕もそう)には、始めこの記事を読んだときに、
 要は頭が慣れたってだけでしょ? この結果に何の意味があるの?
 と、感じた方がいるかもしれません。

 その問いへの返答を一言でまとめると、
 今回の研究成果は、上で述べたような人間の言語習得の過程を、脳の特定の活動部位の変化として視覚的にとらえることができた、という点において意味がある。
 というふうになるんじゃないでしょうか。 

2005年04月23日

ダンテは「慣性の法則」知っていた?

 タイトルを見て、おもわず吹き出した記事。
 だいぶん以前(4月8日)の読売新聞より。
 ウェブにも掲載されていたのですが、既にリンク終了しているようなので、記事検索から引っぱってきました。
 
 ダンテ、ガリレオより前に「慣性の法則」知ってた!?「神曲」に描写
 
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  ガリレオが「慣性の法則」を発見する300年以上前に、ダンテがその基本原理を理解し、叙事詩「神曲」の中に描写していたことが明らかになった。イタリア・トレント大のレオナルド・リッチ研究員の成果で、7日発行の英科学誌ネイチャーに掲載される。
 慣性の法則は「物体は、外部から力を受けない限り、同じ速度で動き続ける」という物理法則。ガリレオが17世紀前半に発表した。走行電車の中でジャンプしても同じ位置に落ちるのはこの法則で説明される。
 リッチ研究員によると、くだんの表現は、14世紀初頭に執筆された神曲「地獄編」の第17歌に登場。2人の詩人が翼の生えた怪物の背中に乗って地獄を下降する場面を描いた、「ゆっくりと泳ぐように進み 旋回しながら降下する されど顔に当たる風、下から来る風によってのみ飛んでいるとわかる」という部分。
 怪物が等速で飛んでいるため、乗っている主人公は動いているのがわからないほど静かだと感じている。リッチ研究員は、飛行経験がないはずのダンテが、慣性の法則を「驚くべき直感」で理解したうえで表現したと指摘している。
 
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 元ネタはここ
 この新聞記事のタイトルはなんとも煽り気味ですが、こういう文学の研究がネイチャーに載るっていうのは意表を付かれた感じで面白いです。
 せっかくなので「神曲」日本語訳より該当の箇所を見てみることにしました。
 以下の引用は、このサイトから。
 「地獄編(Inferno)」の第17歌、97行目から117行目の箇所。
 2人の巡礼者ダンテとベルギリウスが、ゲーリュオーンという怪物の背に乗り、第8連環という場所へ向かい降下を始めるシーンです。
 
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それからその人が叫ばれました。「さあゲーリュオーン、動き始めよ、
  ゆっくりとした動きで降下せよ、大きく広く回れ。
  お前は生きたる重みを運んでいることを覚えるべきである」

ちょうど小舟が岸から滑り降りるように、
  ゆっくりと下がり、どんどんどんどん、それは桟橋を離れました。
  そしてそれが宇宙でまったき邪魔物なしと感じると、
思いのままにそれは尾を揺り動かし
  ウナギのようにうねってそれを広げました、
  同時に足でそれは空中で風をはらみました。
もしパエトーンがもっと畏れたならばと、私は疑う――その時
  彼が父の太陽の戦車の手綱を落として
  私たちが今日(こんにち)見る空の光線を燃やしたのだ――
またもし可哀相なイーカロスがそうであったとしたら――彼の横腹が
  ロウが溶け始めて羽が落ちると感じて、
  父が叫んだのだ、「間違っているぞ、お前の進路は間違っている」――
しかしそれ以上にわたしが空中に居ると感じた時はもっともっと畏れたのでした。
  そしてあらゆる方向には何も見えずただ空(くう)のみ。
  わたしが坐るその獣のみがそこに有りました。
それはゆっくりと進んでいき、ゆっくりと泳ぎ、
  螺旋道(らせんみち)を降下する――しかしわたしはこのことを
  上からの微風と下からの微風で知っているだけだ。

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 怪物はらせん起動を描きながら降下しているので、ダンテの身体にはそれにともなう遠心力が働くことになります。
 ですがこの怪物は「ゆっくりとした動き」かつ「広く大きく」旋回しています。
 他の研究によると、このらせん軌道の半径は、およそ35マイル(60km)もあると見積もられているのだそう。
 そのため遠心力は非常に小さくなり、結果、風から受ける力の方を主に感じることになるのです。

 ちなみに、この記事の中で著者は他にもこんなことを述べています。 
 
ダンテは、円周率がおよそ 22/7 であることにも気付いていた。
 これは別の研究での指摘だそうですが。イタリア語の記事のため読むのは断念。
  
ダンテは、風の力のベクトルを、2方向に分解して記述している。
 上記の引用箇所の最後の部分。身体に受ける風の力ベクトルを、水平方向(顔にあたる風)と鉛直方向(下からの風)に分解しているとのこと。
 後者のはちょっとこじつけな感じがしますが。
 前者のはちょっと面白そう、導出の過程をちょっと知りたいなあ、と思うのでした。

2005年05月25日

「子に会いたくない」続々 人工授精で精子提供の「父」

 アサヒコムの記事より。

 

http://www.asahi.com/life/update/0523/001.html

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 第三者の精子を使った人工授精(AID)で、精子を提供した人の多くは「生まれた子どもが遺伝的な父親を知りたいと考えるのは人情」と認めつつも「会いたいとは思わない」と考えている。精子提供者を対象に、厚生労働省の研究班が実施した初めての調査で、そんな意識が浮き彫りになった。生まれた子どもの「出自を知る権利」の扱いが課題となっているが、精子提供者には強い戸惑いがあるようだ。


 AIDは国内では50年以上の歴史があり、すでに1万数千人以上が生まれたと推計されている。国内の精子提供者はすべて匿名。調査は慶応大学病院で98~04年に精子を提供した120人を対象に実施し、32人から回答を得た。


 遺伝的な父親を知りたいと思っている子どもたちがいることについては、67%が「そう思うのは人情で仕方がない」、18%が「当然の権利だ」と答え、理解を示した。


 その一方で、匿名が条件でも「会いたいと思わない」が88%に上った。「子どもが会いに来る可能性があるとしたら提供しなかったか」という質問には67%が「しなかった」と回答。「自分の生活や家庭が脅かされる」「子どもに何らかの責任を取らなければならないと感じる」などを理由に挙げた。


 厚労省の審議会は03年、第三者から精子や卵子、受精卵の提供を受けて生まれた子どもが15歳になった場合、遺伝上の親を特定できるとする報告書をまとめた。国はこの報告書を基に法案を提出する方針だったが、棚上げ状態が続いている。一方でAIDで生まれた子どもたちが、遺伝上の親を探す動きが広がっている。


(以下略)



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 以下、思ったこと、気づいたことを箇条書きで。

1.

 まず、現時点ですでに1万数千人以上もの子どもが人工授精で誕生しているということに驚き。

 しかも50年以上の歴史があるという事実も、ちっとも知らなかったです。不勉強。

2.

 これだけの歴史があって、多くの実施がなされているにも関わらず、父(精子提供者)と子との将来の関係についての議論が、いまなお発展途上の状態にあるというのはとても意外です。

 非配偶者間人工授精(AID)を法律として認めていく過程で、さまざまな議論が重ねられたこととは思うのですが、今回注目されている「子どもの出自を知る権利」については、当時はまだ十分には認識されてなかったということなのでしょうか。

 だとすれば、現段階での議論の成熟ぐあいと比較して、すでに誕生している1万数千人以上という数は、あまりに多すぎるように思えるのです。

 これが人工授精技術の先走りとみなされないかどうか、疑問に感じるところです。

3.

 以降は、野暮かもしれない突っ込み。

 今回の調査は、「120人を対象に実施し、32人から回答を得た」そうです。

 回答率の低さはさておき、たかだか32人分のデータしかない調査の結果に、百分率を使うというのはいかがなのかと。

 百分率は、母集団の数がせめて100人を超えてから使ったほうがよいと思います。

 

4.

 ・・・と思ってたら、とんでもないことに気づきました。

 記事によると、32人から回答を得たうち、67%が「子どもが会いに来る可能性があるとしたら提供しなかった」と回答したそうですが。

 32人の67%って、何人なんですか?

 何気なく読んでると、「ふーんだいたい3分の2なんだー」と流してしまいがちですが。

 32人のうち、もし21人が該当したのなら、その率は 21/32 ≒ 65.6%。

 22人が該当したのなら、22/32 ≒ 68.8% です。どこを四捨五入したって67%にはなりません。

 記事中の18%という数字も同様。

 なんだか、ちょっとあやしげな調査である可能性が高くなってきました;

 

2005年06月11日

米で新たな進化論争 「神」ではなく「知的計画」?

 アサヒコムの記事より。

http://www.asahi.com/science/news/TKY200506070244.html

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 「生命の誕生や進化の背景には知的な計画があった」という「Intelligent Design(知的計画=ID)」説を学校で教えようという主張が、米国で頭をもたげている。米国では、旧約聖書の創世記に基づき、天地と人類は神がつくったとするキリスト教右派が勢力を保つ。そうした宗教右派の「進化論を学校で教えるな」という主張とは表向き一線を画しているのがID推進派の特徴だ。

 米東部ペンシルベニア州ドーバーで5月17日、日本の教育委員会にあたる学校区の公選委員の予備選挙があり、争点はIDの扱いをどうするかになった。なぜ生命は誕生したのか、生物がいかにしていまの形を得たかは、進化論だけでは説明しきれず、そこに知的な計画が働いているというのがIDの主張だ。「神がつくった」とは言わない。

 

(略)

 

 IDネットのジョン・カルバート共同代表は「進化は事実だとしても、推し進める何らかの仕組みがあるはず。それがIDだ。特に地球誕生や生命誕生は、進化論では説明できず、現在の自然界を見ても、知的な計画の存在を多くの科学者が認めている」と言う。進化論を教えるな、とは主張しない。

 

 これに対し、進化論教育の維持を訴える非営利組織「全米科学教育センター」のユージニー・スコット代表は「憲法の政教分離原則によって公立学校で天地創造説を教えられないため、宗教色を薄めたIDを持ち出しただけ。科学で説明できない『穴』があると、それを『神』で説明しようとする、天地創造説を唱える人たちの手段だ」と話す。

 

(略)

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 記事中の全米科学教育センター代表の方のコメントが、すごく説得力があるように感じます。ID推進派がやっていることって、けっきょく、現行のルールの抜け道つくりに過ぎないんじゃないか。

 僕は、ID推進派の考えとは、意識的にあいまいな部分を含んだものだと思うのです。それこそが、神の存在、つまり政教分離の原則が書くことを禁じている部分なわけですが。このようなあいまいさを、教育内容のガイドラインに含ませてはならんと思います。

 

 もし仮に、教育ガイドラインにIDの考え方が載ることになったらと想像してみましょう。生徒たちは、学校で先生から、ガイドラインに沿って、「進化論で説明しきれない場所に、知的計画が働いていると考えられている」というふうなことを教えられるのでしょう。ですがとうぜんそのときに、「知的って、誰の知性?」という疑問が生徒の頭に浮かぶはずです。しかし、教科書を開いたところで、答えはどこにも書いてない。意識して書いてないのですから。最終的に、その質問の矛先は、学校の先生だったり、自分の両親に向かうのでしょう。そして、結果、答えは彼らの個人的な考え(つまり、神がつくったという考え)に置き替えられてしまう可能性が高いと思うのです。

 ・・・と、上のようなシナリオを、暗黙に意識しているのでは、と勘繰ってしまいます。ルールが禁じてないからと言って、あらゆる手を尽くして、特定の主張に誘導しようとするやり方に見えるのです。もしそうなら、ちょっと好ましくないなあ。どうなんでしょう。

 ところで、いくつかの宗教の指導的立場と呼ばれる人たちがとる姿勢は、これと対照的だと思います。科学に対し、歩み寄り、柔軟に対処しようという姿勢というのでしょうか。科学と宗教との共存の可能性を、謙虚な態度で見出そうとしていると思います。

 2つの例を紹介。

 たとえば、ヨハネ・パウロ2世。以下は、日経サイエンス05年6月号の「塩谷喜雄 いまどき科学世評」より一部引用。

 


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 ガリレオ復権の4年後、1996年10月に、ヨハネ・パウロ2世はダーウィンの提唱した生物進化論を「単なる仮説以上の根拠のあるもの」として容認する姿勢を示した。ダーウィンの進化論発表から130年余、イタリアの新聞は「人間の祖先は猿と、法王認める」と報じた。

(略)

 旧約聖書の創世記第1章から第11章まで、神によって万物は創られたとする記述と、真っ向から矛盾するような生物進化論に容易に与するわけにはいくまいという予想を裏切って、前法王は「進化論と聖書の記述は矛盾しない」「人間の精神は進化とは別」と、割り切った。

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 もうひとつは、ダライ・ラマ14世。

 以下は、カール・セーガン著「人はなぜエセ科学に騙されるのか」より一部引用。

 

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 私はこれまで宗教指導者たちと神学的な議論をしてきたが、そのなかでしばしば尋ねたことがある。それは、もしも中核となる教義が科学によって反証されたらどうするか、ということだ。この質問を現在の第十四世ダライ・ラマに投げかけたとき、彼はためらうことなく、保守的な宗派や根本主義の指導者が誰も言わなかったようなことを言った。ダライ・ラマは、「そうなれば、チベット仏教は変わらなければならないでしょう」と言ったのだ。「生まれ変わりのような(どの例にしようかと迷ったが)、真に中核となる教義でもですか?」と私は尋ねた。

「そうです」と、ダライ・ラマ。

「しかし」と、彼は目をキラリとさせながらつけ加えた。「生まれ変わりを反証するのはむずかしいでしょうね

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2005年07月30日

紙の指紋でまもるセキュリティ。

 

 SCIENTIFIC AMERICAN で遭遇した素敵なニュース。

 

Paper's Natural Fingerprint Could Be Built-In Passport Protection


(紙の生来の指紋がパスポート保護に組み込まれるかもしれない)

http://www.sciam.com/article.cfm?chanID=sa003&articleID=00049DB6-ED96-12E7-AD9683414B7F0000

 

 指紋といえば、人間を識別するのによく使われる目印です。指紋は人によって全然ちがっており、世界中を探したとしても、自分とぴったり指紋が一致する人にはまずめぐり会えないだろうといわれています。今回紹介するニュースは、紙やプラスチックの表面にも、人間と同様、生まれつきの指紋のようなものが備わっているという報告です。いわば指紋ならぬ紙紋。これを読み取って比べることで、パスポートのような重要な書類の偽造を区別できるかもしれないのだそうです。

 

 せっかくなので、英語記事を以下に全訳。

 

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 アイデンティティ泥棒(他人へのなりすましのこと)の増加を受けて、よりいっそう、パスポートや出生証のような重要な書類の真偽を確かめる必要が出てきている。今回、イギリスの物理学者が、紙の書類やプラスチックのカード、製品パッケージといった数多くの品物に、アイデンティティ確認のために使うことができる、生まれつきのパターンがあることを発見した。その構造は、制御可能なやり方で改変することが実質的に不可能であり、これらが詐欺対策の新たなツールとしての基礎を築くことになるかもしれない。

 

 反射のない表面は、微視的なレベルで見れば、どこもでこぼこの形状をしている。ロンドン大学インペリアルカレッジの James Dr. Buchanan と彼の同僚が、本日の Nature 誌で報告したところによると、「幅広い種類の紙・プラスチック・ボール紙の物体に対して、堅固な生来のセキュリティが秘められている」と、この特性ゆえの可能性について報告している。このチームは、集光レーザーを用いてさまざまな物体をスキャンし、4つの異なった方向からの光がどのように散乱するかを測定した。この光が平均値からどの程度離れているかを計算し、このゆらぎを1と0に変換することで、それぞれの物体で唯一の指紋コードを現像させた。同一のパッケージ内から取り出した2つ紙片をスキャンしたところ、これらから生成された識別子は異なるものだった。また、通常の使用のもとで、ある書類の指紋は、3日経ったあとも同一の状態であった。さらに、書類を小さなボール状に丸めたり、冷水に浸したり、180度で焼いたり、さんざんに痛めつけて試してみたところでも、指紋は容易に認識可能なままだった。

 

 このチームは、2つの紙片の指紋が区別できない可能性を 10-72 以下であると計算している。マット加工のプラスチックのような滑らかな表面では、これより確率は上がるものの、10-20 程度である。「私たちの発見は、認証と追跡の、新しくてよりシンプルなアプローチへの道を開いています」と共著者の Russel Cowbum は述べている。「これはセキュアなシステムで、たとえ発明者であってもこれを破ることはできません。必要なレベルの正確さで表面をコピーする製造過程が知られていないのですから。」

 

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 紙そのものが識別子になるってアイデアは、どうして今まで思いつかなかったんだろう、と思えるぐらいシンプルで効果的な方法ですね。書類に余計な情報を付加しない、という点がすごく好きです。もちろんこの手法が、偽造と対策のいたちごっこに終止符を打つというものではないですが、それでも、いち早く実用になればいいなあ、と望んでいます。

2005年08月15日

コンピュータ分析で明らかになるキープ文字

 New Scientist より、素敵なニュース。

 

 Computer analysis provides Incan string theory

 (コンピュータ分析で明らかになるインカのひもの理論)

 http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn7835

 

 古代インカ帝国のキープという文字は、縄に結び目を作ることで何らかの情報を表すのに使われており、これまで長らく解読不能とされていたそうです。今回、コンピュータを使った解析により、このキープ文字にひそむある特徴が解明されたそうです。


 例によって以下に翻訳。

 

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 古代インカの行政官が使用していた、ひもを使った不可解なコミュニケーションシステムの謎が、数百の様々な結び目のついた束をコンピューター分析することによってついに解明されようとしている。

 

 この発見により、アンデスの帝国の官僚政治が興味深くも垣間見え、ひもで書かれたインカの言葉が初めて解明されることになるかもしれない。

 

 綿や、ラマやアルパカの毛で編まれているこの謎のひもの束は、キープとして知られている。数千の補助的なひもがぶら下がった一本のより糸からできていて、ずらっと並んだ結び目が特徴である。発見されている600程度のキープのうち、大半は西暦1400年から1500年の間にさかのぼるものである。しかし若干のものは約1000年前のものであると考えられている。

 

 スペインの植民地の資料によると、キープは記録を保持しメッセージを伝達するのに何らかの方法で使われたようだ。しかし、これらのひもを使ってどのようにして有用な情報が伝達されたかは、多くの専門家を悩ませてきた。

 

結び目を解きほどく

 

 今回、アメリカ・マサチューセッツ州ハーバード大学の人類学者 Gary Urton と数学者 Carrie Brezine は、この結び目の暗号の解明に取りかかれたかもしれないと考えている。2人は、補助的なひもの数や位置、そして結び目の数や位置といった、キープのひもについてキーとなる情報を含んだ、探索可能なデータベースを構築した。

 

 2人は、現在のペルーのリマ付近にあるプルチュコ(インカの主要な行政拠点)で1956年に発見された21本のキープについて、このデータベースを用いてこれらの間の類似点を探索した。表面上の類似点から、キープにはつながりがあることが示唆されていたが、データベースにより次のような重要な数学的つながりのあることが明らかになった――何本かのキープ上の補助的なひもが表すデータを組み合わせると、より複雑なキープで見つかっているひもが得られるというのだ。

 

 このことから、キープは、5500キロメートル以上にわたり広がっていた帝国の様々な場所からの情報を照合するのに使われていたものと考えられる。Brezine は数学のソフトウェアパッケージの Mathematica を使ってデータベースを洗い出し、その他にも数学的つながりを探した。結果、いくつかのことが分かった。

 

最初の言葉

 

 「地方の会計士は、終わった仕事の情報を、上位の職階級へと転送していたのでしょう。連続した階級では、それぞれ下位の階級からの会計の総和をあらわす情報を転送していたのです。」と Urton は述べている。「このコミュニケーションを使って、ときには会計報告だったり、その他にも、人口・財政・軍隊といった、国にとって重要な情報を記録していたのです。」

 

 Urton と Brezine はさらに一歩踏み込んでいる。プルチュコのひもが、異なる地域のデータの照合を表しているとすると、21本のプルチュコのひもの全てで見つかっている、8の字の形の結び目は、場所そのものを表しているのかもしれない。もしそうだとすれば、これはインカのキープからこれまでに引き出された最初の言葉ということになるだろう。

 

 キープを完全に解読することはおそらく不可能でしょう、と Urton は述べている。しかし、キープのデータベースをさらに解析することにより、他にも生活の詳細が明らかとなるでしょう。新たな考古学上の発見は、また大きな驚きを投げかけてくれるのです、と Urton は New Scientist 誌に述べてくれた。

 

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 今回のように、人類学者と数学者とのタッグで行われる研究ってのは、すごく面白い感じがしますね。いったい普段は、2人の間でどんな議論が行われているんだろう、といろいろと想像してしまいます。現在キープ文字がどこまで解読されているのか知らないので完全な憶測ですが、今回の結果からさらに、どの結び目が何の数字を意味するか、というような情報がさらに得られることになればいいなあ、と感じます。

 

 なお、今回のニュースは Science Magazine
でも日本語記事が取り上げられてました。

 http://www.sciencemag.jp/highlights/20050812/

2005年08月16日

おしっこで電力供給

 今日も New Scientist より、ついつい吹き出してしまったニュース。

 New Scientist って、こういう、思わずえっと言ってしまうネタが多いんですね。

 

 Pee-powered battery smaller than a credit card

 (おしっこで電力供給される、クレジットカードよりも小さな電池)

 http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn7850

 

 下記に翻訳。

 

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 尿により電力供給される初の電池が、シンガポールの物理学者によって作り出された。クレジットカード大のそのユニットは、糖尿病のような病気のための安価な健康管理検査キットに向けた有用な電力源となり、さらに緊急時には携帯電話を動かすのにも使えるかもしれない、と彼らは述べている。

 尿を検査すれば病気の特定が明らかになるし、さらにこの新たな紙のバッテリーを使えば、この検査サンプルから診察デバイスに電力を供給することが可能になる。

 「私たちは、病気の検知に向けた、安くて使い捨て可能な、クレジットカードサイズのバイオチップを開発すべく努力しています。」とシンガポールのバイオ工学・ナノテクノロジー研究所の Ki Bang Lee は述べている。「私たちのバッテリーはそういったデバイスに容易に合体させることができ、尿や血液といった生体液と接触することで電気を供給します。」

 現在のバイオチップは、診察の検査を行うために、レーザスキャナのような外部の読取装置や、従来の電池のような外部の電力源を必要とする。Lee の技術は、1枚のプラスチックのチップの上に、センサと電池の両方ともを収容している。

 

 さらにもう一滴

 

 この設計は、従来のバイオMEMS(バイオマイクロマシン技術を利用した装置)を使った電池系を小型化しようとしてきた研究者たちの抱えている問題の多くを回避している。

 「多くの研究者たちが、系の電力源や電池、あるいはバイオMEMS装置を設計しようとしてきました。ですがこれまでは、従来のかさばる電力系や電池のサイズを小型化することでこれに対処しようとしてきたのです。」と Lee は説明する。「彼らは多くの問題に直面しました。」 それは例えば、十分な電気エネルギーを得るのが困難なことだと彼は付け加えている。

 尿で電力供給される電池では、ほんの0.2ミリリットルの尿を使うだけで、1.5ボルトの電圧――1.5マイクロワットの電力に相当する――を生み出すことが可能であると Lee は言う。そして電池が始めに活性してから15時間後に2滴目の小滴を加えると、補給した尿により、さらなる電気が生み出される。

 この電池は現在のところ、使い捨てのデバイスの利用に適している――ラップトップPCやiPodの電力供給にはいまだ至らないが。「ですが、たとえばもしプラスチックカード上に携帯電話や伝達装置を載せたならば、このチップは、使い捨て可能な、生体液で活性化される緊急時通信手段として機能するでしょう。この場合だと、サイズはクレジットカードよりも小さくなるでしょう。」と Lee は New Scientist 誌に述べた。

 

 ラップされたサンドイッチ

 

 この電池は、マグネシウムと銅の切片でサンドイッチされた、銅塩化物に浸した層状のフィルター紙でできている。そしてこの「サンドイッチ」を全部ひとまとめにして、プラスチックの薄板にする。結果、電池の厚さは1ミリメートル、長さは60×30ミリメートル――クレジットカードよりもわずかながら小さい――となる。

 電池を活性化させるために、尿の液滴が加えられると、液はサンドイッチ状のフィルター紙にしみこんでいく。化学物質が溶けて反応し、電気が生み出される。マグネシウムの層は陽極(電子を失う)として作用する。そして銅塩化物は陰極(電子を受け取る)として作用する。

 しかし Lee はこう付け加える。設計を変えたり、電極や電解液の物質を別のものにしたりすることにより、電池の電圧や電流、キャパシティを改良できるかもしれない。

 このシステムは、家庭での健康検査キットに使えるだろうと、彼は考えている。「長期的な目標は、人々が、病気検査のための使い捨てバイオチップを、どの薬局からでも買えるようにすることです。」と彼は言う。

 

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 この携帯電話を使っている自分というのがどうも想像できませんが(笑)、緊急事態のための用途としてはかなり効果のありそうな技術ですね。しかし、どうもよく分からないのですが、病気の検査キットのための用途って、はたしてどのぐらい小型化への需要があるものなんでしょうかね? カード大まで小型化したときに、いったい従来と違ってどんな利点が起こるのか? ちょっと気になります。

2005年08月23日

科学の世界で目立たない女性たち

 なんだか海外のいろいろな科学ニュースサイトで取り上げられているようなので、ここでもご紹介。

 

 Women 'take back seat' in science

 (科学の世界で目立たない女性たち)

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/4163248.stm

 


 例によって翻訳。今回の記事は友人が翻訳してくれました。


 

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 サイエンス最新号に掲載されたアメリカの研究者グループの記事によると、女性にとって、科学分野でキャリアを追求することは「いばらの道」である。記事によると、大きな進展がみられたにもかかわらず、学術機関は未だに多くの女性科学者の力を十分に活用することができていないという。

 女性科学者達は時に、大学の環境を「冷たい」ものに感じ、「無意識の差別」に直面する。

 彼女らは加えて、家庭や家族の生活とのバランスをとる上でも課題に直面する。

 「われわれが大きく前進したことは朗報です。」と語るのは、アメリカ、ウィスコンシン・マディソン大学の主執筆者の Jo Handelsman 教授である。「厄介なのは(問題なのは)男女が平等になるにはまだ道のりが長いということです。」

 Handelsman 教授と彼女の同僚は、女性を道からはずし、学術分野での才能を発揮することを妨げる多くの課題があると考えている。

 「米国の大学キャンパスには、ひそかな、また公にされた敵対心があるのです。中には明らかに違法な振る舞いもありますが、ほとんどは微妙なものです。それによって女性は、過小評価され、尊重されていないことを感じるのです。」

 Handelsman 教授と彼女の同僚は、一般的には、女性が障害に直面する分野は4つあるという。

 

・パイプライン

 特に工学や物理科学などの一部の分野では、博士号を取得したり、研究を続けることを勧められた女性の数は少ない。

・環境

 仕事をやめた女性科学者の多くが、その理由が同僚が敵意を持っていることだと語っている。研究者によると、この環境は「女性よりよい環境にいる」多くの男性には気づくことができないものだという。

・無意識の偏見

 報告によると、科学の分野にいる人々の中には無意識的に女性に対して偏見を持つ人がいるという。研究者は、研究が女性によるものであることを知ると、低い評価を与える傾向があることを明らかにしている研究を引用している。

・仕事と家庭の両立

 Handelsman 教授は家庭内の責任の大半は女性の肩にかかっているため、学術分野での道を進むことが困難になるという。

 

 「家族のケアをする責任が女性に偏っています。大学は家族の問題を解決する場ではないのです。」

 Handelsman 教授によると、大学内の授乳室や保育施設のように、変えることができることがいくつかあるという。これらによって、女性は家庭と仕事を両立させることができる。

 科学分野において女性が前進するための努力の影響を分析するためのイニシアチブである国立科学財団の ADVANCE プログラムの Alice Hogan ディレクターは、女性の才能に投資することは非常に価値があると考えている。


 「女性を科学や工学の分野に呼び込む上で大きな進歩を見せましたが、いまだに博士号を取得している女性は少ないのです。」

 この多くの才能ある女性科学者達を生み出すために投資をした後は、私達は多くの利益を得られるはずです。生産的で、創造的で尊敬される先生や研究者です。そして彼女らは(以前は)クローズだった分野に、より多くの生徒をひきつけることができるのです。

 

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 これまで、特に大学のような世界では、女性が安心して研究ができる環境への要望というものはそれほど大きくはクローズアップされてこなかったのかもしれません。これがたとえば企業の場合だと、女性が働きやすい環境であるか否かが、企業の社会的イメージと密接にかかわってくることもあってか、こうした改善にむけた動きが比較的活発になりやすかったのだと思います。(僕のいる会社でも、この記事で取り上げられてるような意識的問題への注意をうながすガイダンスがよく回ってきてます。)

 

 大学内に授乳室や託児施設を、という提案はとても良さそうですね。大学に残るか、就職するか、という選択に、より大きな自由度ができればいいなと思います。

 

 ところで日本の大学での動きはどのようになってきているんでしょう? こちらも興味のわくところです。

2005年08月27日

CO2が増えても木は大きくならない

 なかなか面白いニュースがあったので紹介。Scientific American より。

  

 植物は呼吸をしていますが、同時に、太陽の光をもとに光合成を行っています。光合成によって、植物は二酸化炭素を吸収し、酸素を吐き出します。だから、地球から植物がへると、それだけ二酸化炭素を吸収できる量が減ってしまいます。・・・というような話を、学校の理科の時間に聞いたことがあるかと思います。そのときに、何となくこう思った人がいるんじゃないでしょうか。「二酸化炭素が増えたら、それだけ光合成のための材料が多くなるんだから、木は二酸化炭素をいっぱい吸収して、でっかく育つんじゃないの?」 今回、この疑問についての研究の結果が発表されたそうです。

 

 

 Researchers Find That Carbon Dioxide Does Not Boost Forest Growth

 (二酸化炭素は森林の成長を促進しない)

 http://www.sciam.com/article.cfm?chanID=sa003&articleID=0001EBF2-3025-130E-B02583414B7F0000

 

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 過去1世紀にわたって、強い温室効果ガスである二酸化炭素の大気中の度合いが増加してきた。特に木のような地上の植物が、この変化に対しどのように反応するかについてはこれまで未解明なままだった。しかし、研究者たちの中には、二酸化炭素の濃度の上昇により、植物の成長が促進されるため、より多くの二酸化炭素を植物にたくわることができ、それによって大気中の二酸化炭素の増加をある程度おさえることができるだろうと考えている人がいる。今回、Science 誌に掲載された報告では、この主張に対する異議が唱えられている。スイスの森林の4年間にわたる研究により、二酸化炭素が増えたところで木の成長は促進されないということが分かった。

 

 バーゼル大学の Christian Korner が率いる研究チームは、500平方メートルにわたる落葉樹林の区画に、過度の二酸化炭素を4年間にわたってふきつけた。この区画の成木は、6ヶ月間の成長期のあいだ、1日につき2トンもの追加の二酸化炭素の中にさらされ、これにより、現在の大気中よりもおよそ50%多い炭酸ガスにふれることとなった。全体的にみて、木々は二酸化炭素を循環させ、空気中へのガスの再放出のスピードは速くなったものの、研究期間のあいだ、幹の成長や葉の生産に増加はみられなかった。これにより、過度の二酸化炭素に対して、すべての種が同じように反応するわけでないことが分かり、単一種に注目していた初期の研究には不備があることが明らかになった。

 

 この実験の立案者たちが述べるには、今回の新たな実験はまだまだ難点があり、そのためにこれは「現実と正確さとの間の妥協」とならざるを得ない。ひとつには、二酸化炭素の増加の影響を十分に理解するには、時間スケールがまだまだ短すぎる。(過度の二酸化炭素によって)地下の根組織が成長し、土壌の炭素をたくわえているという可能性だってある。将来的な研究では、今回の新たな結果が、ほかの品種のうち針葉樹や熱帯の木々についても当てはまるかどうかを確かめる必要があるだろう。

 

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 なんとなく感じるのは、なにか別の原因が成長のボトルネックになっていたという可能性ですね。日差しが十分でなかった? 地中の水分が十分でなかった? などの理由で、成長するための十分な栄養を得られなかったのかなと感じます。僕の前提知識・読解力およびこの記事の記述では分からないところが多いので、どうも考えづらいですが。

 

・ 区画内のすべての植物種で同じ結果だったのか?

・ 空気中の酸素の量は同じだったのか?

・ けっきょく、木々の二酸化炭素の吸収量は増えていたのか?

 

 興味のある方は、リンク先の関連リンクもぜひどうぞ。

2005年08月31日

米国人と中国人で違う、ものの見方

 Scientific Americanより。
  
 アメリカ人と中国人とで、写真を見るときの目の動かし方が違うことが分かった、という研究です。
 今回の記事は知人の翻訳です。
 
 Americans and Chinese Differ in Their World View--Literally
 (米国人と中国人で違う、ものの見方)
 http://www.sciam.com/article.cfm?chanID=sa003&articleID=00087E7F-7EC8-130A-8AB283414B7F4945

 
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 中国とアメリカの学生を調査した研究によると、両国の学生グループで写真の見方が異なるという。この発見は、これまで注目されていた、東アジア人と北アメリカ人の判断や記憶における文化的な違いが、実際に目を向けるものが異なるためであることを示している。
 
 北アメリカ人はシナリオを評価したり、重要なものをじっと見つめたりする際に、より分析的になる一方で、東アジア人は一般的に全体に目を向け、状況をより考慮に入れるということを示す証拠が数多くある。しかし、研究者達は、これらの相違が、記号化、情報検索や知覚認識プロセスにおける精神的な比較段階によるものなのか、報告バイアス(訳注:有意差の認められた調査しか報告されないというような偏りのこと)によるものなのかはまだわかっていない。
 
 この違いがいつ生まれるのかを突き止めるために、ミシガン大学の Richard E. Nishbett 氏と彼の同僚が、一連の実験を行った。この実験では、中国人とアメリカ人の学生が、写実的で複雑な背景の中に1つの物体を描いた様々な画像を目にする。参加者は、実験中、目の動きをとらえる機材を身につけ、違う背景の中に同じ物体が描かれた絵を見せられ、その物体を前に見たかどうかをたずねられる。
 
 研究チームが予測したとおり、中国人学生は背景の絵に注目していたが、アメリカ人学生は、重要な物体を中国人学生よりも素早く見つけ、かつ長い時間見つめていた。(リンク先 の画像では、アメリカ人学生の視線方向パターンが上部、中国人学生のパターンが下部に示されている。)これによると、アメリカ人は重要な物体の視覚的詳細を記号化するうえで中国人よりも優れていた。これはアメリカ人が、たとえその背景が異なっている時でも、その物体を前に見たかどうかという質問に対して、中国人よりうまく答えていたことの説明になる。
 
 Nisbett 氏と彼の協力者は、このような、物体と状況に対する注意の向け方の違いは、社会性における習慣から生まれてくるという。「東アジア人は、比較的複雑な社会ネットワークの中で、決められた役割を持って生活しています。それゆえ、状況へ注意を向けることは、うまく立ちふるまうために重要なのです。対照的に、欧米人はそれほど抑圧的でなく、自立を重視し、状況にあまり注意を払わなくてもよしとする社会の中で生活しています。」この研究結果は今週の Proceedings of the National Academy of Sciences 誌に掲載される。
 

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 画像の見方の違いは社会性の違いに原因がある、って説明はたしかに説得力があるように思えて、個人主義という考え方の強いアメリカと、主従関係の支配力の強い中国、というイメージによくマッチしてるなと感じます。
 
 でも、もし社会性が今回の違いの100パーセントの原因だとすると、アメリカ人も中国人も、産まれた直後の状態では両者の違いはかぎりなくゼロに近いはずだし、さらに、被験者の年齢が上がるにつれて、こうした違いは顕著になっていくはずですよね。実際のところはどうなんでしょう。
 
 そう考えたら、今回のように、被験者が学生だけってのはどのぐらいの偏りがあるんだろう? というところはすごく気になるところですね。できれば幅広い年齢層でも同様の実験をやってみて欲しいなあと思います。

2005年09月03日

ブログは自力で考える助けとなる

 ABC Science Online
より。

 今回は、ちょっと傾向が変わってブログのネタ。

 大学の講義にブログを取り入れている講師の紹介記事です。

 

Blogs help students think for themselves

(ブログは学生たちが自力で考える助けとなる)

http://abc.net.au/science/news/stories/s1450106.htm

 

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 ブログは、学生たちに自分の団体の外の人たちと討論させる。

 ブログは、学生たちがより批判的に考えて書く手助けとなっており、ブログがなかったら討論に参加しなかったであろう人々を討論へと引き出す助けとなり得る、とオーストラリアの研究者たちは述べている。

 シドニーの工科大学の講師である Anne Bartlett-Bragg の博士研究で、この予備的な発見がなされた。彼女は2001年から、講義にウェブログ(ブログ)を使っている。

 「(学生たちは)物事をより批評的に考えるようになります」と彼女は言う。「責任を持つということを学び、楽しみながら、教室や団体といった境界の外とコミュニケーションをしているのです。」

 Bartlett-Bragg はこう述べる。慣習的な講義では、学生たちは研究に対するアイデアや批判の源を、主に講師にたよってしまいがちになる。

 「私は、クラスで私が言ったことへの反応をエッセー内で書いている学生(の記事?)を聞いています。」と彼女は言う。「私は、自分の力で考え、異なった物の考え方を得てほしいのです。」

 ブログを有益なものにしているのはそのインタラクティブな性質だろう、と彼女は述べている。

 このような、ウェブをベースにした、アイデアや経験や意見について議論するフォーラムによって、学生たちは自分が学んでいることについて、大学外の他の学生や専門家たちと公に議論することができる。

 「情報にもとづき、証拠に裏付けされているのであれば、ブログには個人的な意見を書くようにしなさい、と学生たちにはうながしています。」

 Bartlett-Bragg が言うには、e(電子的)ラーニングの分野では、いまや多くの学者が自分自身のブログを持っているので、学生たちはそこに直接に参加することができる。

 

■ ピンをうとう

 

 ウェブログのもっとも強力な機能はピン(Ping)であると彼女は述べている。ピンによって、誰か他の人の記事について、自分のブログ上でコメント記事を書いた人を関連づけることができる。

 コメント記事を投稿するときに「トラックバック」ツールを使うと、そのことが執筆者に通知される。これによって、一般的には、議論のおさそいをかけたことになる。

 「それによって原文の執筆者に、誰かがそのことについて記事を書いているということが伝えられるのです。これは強力です。」

 記事へのコメントにだれもが反応を示すというわけではありませんが、多くの人はそうします。そしてこれは学生にとってはまさに贈り物のようなものです、と Bartlett-Bragg は述べている。

 「団体の境界の外にいるほかの人に対してコメント記事を書いて、その人が反応したり、あるいはより深い見解を戻してくれたりすると、そのような通知がなされます。」

 「普通の講義では与えることができないような新しい物の見方を得ることができるのです。」

 eメールリストや学内ネットのような大学のオンラインネットワークとは異なり、ブログは公のものでパスワード制限されていないのが独特な点だと彼女は言う。

 

■ 個人発信の責任

 

 学生は公共の領域でものを書くため、盗作・著作権・プライバシー・倫理・中傷についても学ばないといけない、と Bartlett-Bragg は語る。

 「なので彼らは、私に対して 『ああもう、書く前に考えないとダメですね』 というコメントを送ってくるという責任については完全に心得ています。」

 「私はこう言います。お気の毒に、自分で考えてみて下さいね。私たちはそのためにここにいるんじゃないかしら?」

 Bartlett-Bragg はこうも言う。彼女は、読んだブロガーの信ぴょう性や真実性の確かめ方を学生たちに教えている。

 ブログは幅ひろい参加者を討論にうながしていると Bartlett-Bragg は言う。

 「クラスでグループディスカッションをやったなら、何かを話している人と2人きりになろうとするだけです。」

 これはつまり、他の学生が何を考えているかは分からないということになる。

 「ですが、ウェブログに書けば誰でも読めます。学生は意見を持ち、他の学生はそれを読んで、等しく重んじるのです。」

 ブログはまた、講義のノートや、学生自身のアイデアや他人のアイデアへのコメントなど、たくさんの考えの集まりをカテゴリー化したり管理したりするのにもきわめて役立つと言う。

 

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 学術的な目的のためにブログがうまく機能する、という1つのケースをこの記事は挙げていますが、たぶん、こういった利用がうまく機能するためには、いくつかの条件があるんだろうと思います。

 

閲覧者の流動性

 この記事では、「公共の領域にあり誰でも読めてコメントできる」ということが挙げられてるけど、たぶんそれは本質の一部分でしかないと思います。それだったら、従来からのウェブページのスタイル(自分で html を書いて公開)と変わらないです。「書いた記事が多くの人の目にふれやすい」ことが大事なんじゃないかなと感じてます。せっかく記事を書いても、それが多くの人に読まれなければディスカッションが起こるはずもないです。実際、巷にあるブログサービスを見てみると、トップページの「現在の新着記事一覧」というスペースから、自分の記事が不特定の人の目にふれるようなしくみになってます。見知らぬ人からの訪問が多い、つまり閲覧者に流動性があることが欠かせないんじゃないでしょうか。

 

ある程度のクローズさ

 これは、巷のブログサービスについて、僕が個人的に思うことです。クローズとはいっても、排他的な意味ではないです。ものすごく会員数の大きくなったブログサイトなんかを見ていると、あまりに膨大な数のブログがありすぎて、自分の興味のあるテーマのブログに遭遇するチャンスがきわめて小さくなっているように感じるのです。検索機能をつかって絞り込む、というのも有効だけどけっこう大変だし、できればもっとスムーズに、似たもの同士が集まれたほうが良いです。

 

 おそらく、今回の記事の講師の方は、一般のブログサービスを利用しつつ、受講者のブログのリンク一覧なんてのを作って、受講者に配布したんでしょうね。そういう意味では、上の2つの条件がうまく満たされてたんじゃないかなと思います。

 

 僕が利用してるアメーバブログは、現在40個のジャンルごとに分かれてて、それぞれで新着記事の紹介やランキングをやってます。「学び・教育」というジャンル名だけど、学問や教育関係に限らず、資格試験、受験生・大学生の日記など、まだまだ範囲が広すぎるようにも感じています。サブジャンルみたいなのを導入して、もうちょっとクローズになってくれてもいいかなあ、と思うこのごろです。

2005年09月07日

羊はホントは賢い?!

羊

  ABC Science Online より、羊にかかわる科学ニュース。

 羊の科学ニュースといえば、僕は頭にドリーしか浮かんでこないわけですが、それを意識しながら読んだせいか、こっちのはなんともほのぼのしたニュースだなあ、と感じました。

Sheep smarter than we think
(羊はホントは賢い?!)
http://abc.net.au/science/news/stories/s1444224.htm

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 羊は、人々が思っているほど、頭が悪いわけではない、と語るのはオーストラリアのメリノ種の羊で実験を行い、その羊たちが学び、覚えることができることを発見した研究者である。

 CSIRO(豪州連邦科学産業研究機構)Livestock Industries で研究を行っている博士号の学生 Caroline Lee は、羊が複雑な迷路を抜け出すことができるだけでなく、繰り返すごとに反応がよくなってきているという。

「私達は羊が人間が思っているよりも賢いということを示しています。」

「羊が頭が悪いと通俗的に言われています。しかし、彼らは実際は高いレベルの認識力と学習能力を持っています。特に空間記憶の面でです。」

 Lee 氏は実験で、60頭の羊を18メートル×8メートルの迷路のスタート地点に立たせた。そこから、羊たちは反対側にいる仲間達をフェンスごしに見ることができる。

 群がる習性が強いため、(それゆえ頭が悪いと言われているのだが、)羊は仲間のところまでたどり着こうとした。

 3日に渡って行われ、6週間後に再度行われた実験では、どれだけ速く羊が迷路を抜け出て、行き詰まりでどれだけの時間を費やしたかを評価した。

 Lee 氏によると、1日目は羊は平均的に90秒で迷路の出口までたどり着いたが、3日目にはその時間は3分の2になり、道を誤る回数も少なくなったという。

 6週間して、羊は30秒で迷路を抜け出るようになったという。

 これが本能ではなく、認識力のためだということを示すために、一部の羊は、記憶をなくす薬、臭化水素酸スコポラミンを与えられていた。

 薬を与えられた羊は与えられていない羊と同じだけの行動を示すことができなかった。

■ みなが同じではない


 しかし、Lee 氏によると、この研究は、一部の羊が他の羊よりも賢いことを示しており、この研究は、認識力の低い羊と高い羊を選別するのに使われているという。

 CSIRO は現在、賢い羊の遺伝子を取り出すために、600頭の羊を選別している。

 「準備段階の結果では、認識の面での遺伝領域が実際にあるようです。」

 また、Lee 氏は、羊の飼育が自動化されているため、遺伝子的に賢い羊の群れを選別することができることは重要だと語る。

 例えば、ウォークスルーの計量システムでは、羊は計量器の上を渡り、水飲み場まで歩かなければならない。

 羊は自動的に計量され、その情報は農業経営者のコンピューターに送られる。

 「農業経営者は羊をよりよく監視することができ、作業量は減ります。」「賢い羊であればそのシステムによりよく対応することができるでしょう。」

■ A-mazing sheep

 Applied Animal Behaviour Science 誌に掲載される論文で Lee 氏は、この迷路は、一年生ライグラスの毒のような神経症状に関わる、空間的記憶や学習の異常を見る上で使われていると書いている。

 Lee 氏の研究は、羊に対して初めて迷路の実験を行ったもので、これにより彼女は Fresh Science 賞を受賞した。

 この研究は、2001年の Nature 誌に掲載された、羊が顔について不思議な記憶を持っていることを発見した研究の後のものである。
 

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 こういう迷路の実験って、ゴール地点にエサか何かを置いとくものだと思ったのですが、羊の場合は、お友達の羊をゴール地点に置いとくのが効果的なんですね。笑 

 このページ に、実験のようすを撮影した 画像&動画ファイル があったので、ぜひご覧になってください。トコトコと仲間のもとへ歩いている羊がやけにかわいらしいです。

2005年09月12日

リュックを背負って徒歩発電

 Scientific American より。

 これ、誰もが一度は想像したネタじゃないですかねえ?

 一言でいってしまうと、ウェアラブル(装着式の)な発電機です。

 

Pounding Pavement Generates Electricity When Wearing Novel Backpack

背負って歩くと電気を発生する新しいバックパック

http://www.sciam.com/article.cfm?chanID=sa003&articleID=000E2203-A303-1320-A30383414B7F00A7

 

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 科学者たちにより、「発電する」リュックサックが開発された。本日の Science 誌に掲載されたところによると、この新デバイスは、歩行者の腰の規則的な上下運動を電気エネルギーに変換する。おそらくこの新案は、兵士、救護員、科学者や、その他の遠隔地で移動する人たちに電力を供給する助けとなることだろう。

 

 外を歩いているとき、人の腰は、1歩ごとに5~7センチメートルの高さを上下する。ペンシルバニア大学の Larry Rome と彼の同僚は、この特徴を生かして、「負荷を宙吊りにした」新たなリュックサックを設計した。このカバンの土台には輪の形の枠があり、この枠は着用者の腰につながれている。この枠が上げられたり下げられたりするとリュックサックの中身も上下する。このようなホッピング状の動きにより、力学的エネルギーが生み出され、このエネルギーは今度はアタッチされたモータによって電気へと変換される。研究室での実験では、ボランティアたちは20~38キログラムのリュックサックを身に付け、約7.4ワットの電力が生み出された。これは小さな電子デバイスを複数個同時に動作できる電力だ。(この科学者たちが述べるには、対象の使用者が背負ったカバンの装備はほとんどが36キログラム以上であり、負荷のうちの最大25%は交換用バッテリーによるものである。)力学的エネルギーの量は、どのぐらいの重さが動いたかに関連しているので、リュックサックが重たかったり足取りが素早かったりすると、より大きな電力が生み出される。

 

 この科学者たちはこう述べる。パックパックの外部の金属枠(6キログラム以下)が対象の歩き方をわずかながら変えており、これにより、被験者たちの足取りにムダが少なくなっている(訳注:つまり発電量が減ってしまっている)。「代謝的なことを言うと、この枠は私たちが予期していたよりももっとチープにする(軽くする)べきと分かりました。」と Rome は言う。「着用者が使ったエネルギーは、自身が運んでいるエネルギー源によって埋め合わせされるでしょうが、この埋め合わせのエネルギーは、バッテリーの重さにはかなわないのです。」このチームは、現在は試作品であるこの設計を改良しようとしている。おそらくいつの日にか、長移動に交換用バッテリーを運び回さなくとも良くなることだろう。

 

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 20~38キログラムというと子供1人分の体重に等しい重さなわけです。しかもどうやら今のところは、発電したエネルギーよりも、装置全体を運ぶのにかかるエネルギーの方が大きいみたいで、実用化はもうちょっと先の話なのかなあと想像したりします。けれども、これがやがてウェストポーチぐらいの大きさになって、誰もが使えるようになったとすると・・いろいろと妄想が膨らんでいってすごく楽しいですね。

2005年09月18日

大量殺人者を統計手法で見つけ出せ

 New Scientist より、なかなかびっくりさせられるタイトルの記事です。

 僕はこの記事に登場する医師をちっとも知らなかったのですが、読んだだけで非常にぞっとする事件です。

 今後起こりえる、彼のような医師や、あるいは病院の不良医療を、できるだけ早期に発見・対処するために、統計的なアプローチが役立つかもしれないという記事です。

 

Statistics could have spotted mass murderer

(統計で大量殺人者が見つけ出せていたかもしれない)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn7958

 

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 統計的手法は、ふつうは産業のQC(Quality Control:品質管理)の手段として使われている。新しい研究によると、この手法で、イギリスの大量殺人医師 Harold Shipman を、より早期のうちに当局の手で捕らえることができていたかもしれないという。

 

 この手法は、恐るべき外科医や、業績の悪い病院を暴くのにも利用でき、現在、イギリスの保健医療委員会(公衆衛生サービスを監視する独立機関)による予備計画において試験されている。

 

 Harold Shipman はイギリス最悪の連続殺人犯であり、開業医・コミュニティの医師として、15人の患者を殺害したかどで2000年に有罪判決を受けた。しかし彼は1975年から1998年にかけて、さらに245人を殺害していたと考えられている。犠牲者はほとんどが高齢の女性患者で、致死量のモルヒネを彼の手によって投与された。Shipman は2004年1月に刑務所の独房で首吊り自殺をした。

 

 今回、イギリス・ケンブリッジの医療審議会の医療統計学ユニットの David Spiegelhalter 氏は、産業的なQC手法を Shipman の患者の死亡データに適用し、彼の凶悪犯罪を事前に検知することが可能だったかどうかを調べた。

 

 この方法は1943年に初めて使用され、砲弾や戦時中の軍需品の生産ラインにおいて、一貫した品質を保証するのに使われたと Spiegelhalter 氏は述べている。同様の統計手法は、今日では幅ひろい産業で使われている。しかし、これまで健康管理の実績に適用されたことはなかった。

 

 「数学が犯罪の取り締まりに応用できるのです。」とイギリス・バース大学の応用数学者 Chris Budd 氏は述べる。「統計手法は、多くの状況で、異常を検知するのに使えるアプローチです。」

 

■ 時間と場所

 

 Shipman の患者の死亡が過度かどうかを監視するだけでは、殺人者を検知するのには不十分だったと Spiegelhalter 氏は語る。介護ホームやホスピスで定期的に働いている開業医は、当然のことながら、患者の死亡率がより高いことが示された。

 

 しかし、死亡時刻や場所といった他の要因のクロスリファレンス(相互参照)が警鐘を鳴らしていたかもしれない―― Shipman の犠牲者の多くは、およそ午後3時、つまり午後の回診時に殺害され、また異常な数の患者が Shipman の在院時に亡くなっていた。

 

 イギリス・バーミンガム大学の別の研究グループは、2001年に、この殺人者を検知できるこれと似た統計的手法を提案した。このコンセプトは、1920年代の自動車製造におけるQCにもとづいている。しかしながら、Spiegelhalter 氏は、彼の手法は他とは違って、複数年のデータを同時に評価できるため、より強力であると考えている。

 

■ 子供の心臓外科手術

 

 両研究チームは、殺人者 Shipman の政府調査にこの発見を発表した。この調査の最終報告では、このような医師監視計画の導入を推奨しているが、まだ実現はされていない。

 

 「Shipman の調査では、犠牲者は、立証されたものが215名、疑わしいものが45名であると結論付けられました。なんらかの統計的監視の手順が実施されていれば、彼をより早く捕まえられていたのでは、と思うのは当然のことです。」と Spiegelhalter 氏は語る。新しい手法を利用することにより、「より早期の検知と多くの命を守ることが理論上は可能になるのです。」

 

 Spiegelhalter 氏の研究は、1997年のイギリスのブリストル病院において、心臓手術後の幼児期の死亡数が異常に高かったことも、これと同じ方法で突き止められたかもしれないと示している。1991年から1995年にかけて、ブリストル王立病院での心臓手術後のケア不良のために、最大35名の子供たちが亡くなった。

 

 Spiegelhalter 氏は現在、健康管理委員会に併せて勤めており、病院の実績監視にこの手法を適用しようとしている。

 

 これらの手法を現実世界の健康管理に適用することは、大きな方法論的チャレンジです。」と彼は言う。「産業とは関連のない、ばらつきに対する固有の原因が数多くあるからです。」いかなる監視システムも十分な注意のもとで適用されなければならないだろうと彼は述べる。

 

 Spiegelhalter 氏は、木曜にアイルランド・ダブリンの British Association Festival of Science 誌にこの発見を発表した。

 

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 記事を見る限りでは、取り上げられているケースは、実際に起きた医療死のデータを後から解析して判明した結論のようで、どうやらこれまでのところは、実際にこの手法で殺人者なり医療ミスなりを検知したことはないみたいですね。

 

 記事の終わりでも触れられていますが、仮にデータの中になんらかの相関が見出せたとして、じゃあ実際にその相関の原因は何なのか? ということを突き止めるのはすごく難しそうです。今後、この部分を突き止める一般的な手順が確立されるまでは、著者がえがくような監視システムの実現は遠いような気がします。そういう意味では、現在のところは、地道にデータ集めをして体系化の準備をするのが良いのかなあ、と感じます。

2005年09月29日

野球と緊急治療室の妙な関係

 New Scientist より、野球と緊急治療の関係について。

 海外のサッカーの試合では、視聴者がヒートアップしてフーリガン状態となり、多数のケガ人が出たりする、ということをよく聞きますね。ですがボストン市の野球のゲームでは、これと正反対の現象が起きているようです。

 

Visits to ER plummet during key baseball games

(重要な野球のゲームの間は緊急治療室の患者数は減る)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8052

 

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 地元の医師チームによると、ボストン市内の病院のER(緊急治療室)へ運ばれる患者の数が、同市のハラハラさせるスポーツ中継の間は減少したという。

 

 このチームによると、視聴者の多くを魅了するボストン・レッドソックスの試合中は、患者数は平均の8割にまで減少したという。しかし、ERへ運ばれる患者の数は、視聴者数が少ない試合の際は、平均を上回ったという。

 

 「この驚くべき発見は直線関係にありました。」と語るのは、このチームの中心となっている、アメリカマサチューセッツ州、ボストン小児病院の John Brownstein 氏である。

 

 研究者たちは、ボストン市内の6箇所の救急科で、2004年の11の主要な野球の試合中の患者数と、その日の平均的な患者数、そして前年の同時期の患者数を比較し、試合の視聴者数に対してこれらをプロットした。

 

■ レッドソックスの勝利

 

 レッドソックスが勝てば米国ワールドシリーズへ参加できる、対ニューヨーク・ヤンキースの試合は、ボストン市内広域では55%の人々が視聴していた。そして同時に、ERの患者数は15%低下した。

 

 しかし、ソックスが当然負けると思われていた別の対ヤンキース戦では、視聴者はわずか30%で、ERの患者数は平均を15%上回っていた。

 

 「もし何か影響があるとすれば野球だろうという予感がしていた。」と Brownstein 氏は語る。昨年、ソックスは1918年以来初めて優勝したため、2004年のワールドシリーズはボストンにとって非常に重要な出来事となり、また、研究にとっても理想的なケースとなった。

 

 一つには、この驚くべき相関関係は、人々はテレビを見ている間は、動かず、かなり安全な状態にあると説明することができる。「人々は家で野球を見ており、事故に巻き込まれることはないのだろう。」と Brownstein 氏は説明する。

 

■ 非緊急事態

 

 もう一つには、緊急治療室に運ばれる人々は本当の意味での医療緊急時にあるのではない、という説明もできる。「明らかに、このタイミングを説明する裁量的な要素があります。」と、共著者である、ハーバード大学医学部の Kenneth Mandl 氏は語る。

 

 彼は、これは必ずしも人々がシステムを乱用しているということではないと強調する。一般開業医は夜間や週末は開業していないし、また何らかの状況では、数日はむりでも2時間ぐらいなら治療を受けるのを後伸ばしすることもできる。「人々が銃による負傷をしていない、というわけではないのです。」と Brownstein 氏は語る。

 

 中には、緊急治療室が治療を受けるための唯一の方法である人もいる。「この国では多くの人々が保険に入っていないのです。」と、共著者のボストン小児病院の Ben Reis 氏は語る。「時に、治療を受ける唯一の方法が、ERとなるのです。」

 

 2つの要因を分離するため、交通事故に対するフットボールの試合の影響を研究していたカナダ・トロントのサニーブルック&ウィメンズカレッジ保健科学センターの Donald Redelmeier 氏は、なぜ人々が異なる時間にERに入るかというデータを、この研究者たちは示していると述べている。

 

■ ダイハードなファンたち

 

 1994年の研究では、フットボールの試合がある日はERの患者数が減少しているように見えることがわかっていたが、試合の時間を特定し、その時間の実際の患者数を比較したのは、Brownstein 氏のチームが初めてである。

 

 しかし、レッドソックスファンを自認するこの研究者たちは、3つ目の要因、つまり、レッドソックスファンはとりわけ頑丈なのだろうということも述べている。「ぜひ、他の都市の科学者たちには、そこのファンもレッドソックスファンと同じように、ダイハード(丈夫でしぶとい)だと示す創造的な方法を見つけ出してほしいものです。」と Brownstein 氏は語る。

 

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 思わぬところにそんな関係があったとは、話のネタとしてかなり面白いですね。こういう現象は、ついついひとつめの理由(みんなが家でおとなしくテレビ観戦してる)だけに決め付けて考えてしまいがちですが、この研究ではその他の可能性についても触れられていて良いと思います。

 

 とはいえ、それなりの治療が必要なぐらいのケガや発病をしておきながら、ガマンして野球を観戦しつづけるというのは、僕にはどうも想像できないですねえ。。3つめの理由ともども、近くの熱烈な野球ファンを観察して確かめたいところです。笑

2005年10月01日

古代言語の起源をコンピュータで探る

 Scientific American
より、コンピュータを使った言語解析の研究のご紹介です。

 

 今回の研究に代表されるように、最近は、以前はいわば「文系の世界」だった学問の領域に、コンピュータを使ってアプローチした研究結果にお目にかかることが多いように思います。

 

 それはたとえば、今回のような言語の研究だったり、他に文学や考古学など、ジャンルはあちこちにわたっていて、なおかつ話題的にすごく面白い。これからは、もはや理系と文系との間にきっちりとした区別はなくなっていくのかなあと感じます。

 

Evolutionary Tools Help Unlock Origins of Ancient Languages

(進化的なツールが古代の言語の起源を解き明かす助けとなる)

http://www.sciam.com/article.cfm?chanID=sa003&articleID=00074F10-365F-1333-B65F83414B7F0000

 

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 言語はどのようにして進化するかを理解するカギは、語彙ではなく、その構造にあると新しい報告は述べている。本日の Science 誌 に掲載された発見が示すところによると、進化生物学のツールの特徴をとり入れた言語学的手法により、1万年以上の昔の言語の秘密を解き明かすことができる。

 

 語彙の変化は急速であるため、これを使って言語が時間とともにどのように進化するかを追跡するという方法では、およそ8千~1万年しかさかのぼることはできない。マックス・プランク心理言語学研究所の Michael Dunn 氏とその同僚は、更新世(180万~1万年前)からの言葉を研究するため、単語どうしの関連の仕方にもとづいて言語を解析するコンピュータプログラムを開発した。彼らは、2つのグループの言語に対して、節の中での動詞の位置の特徴といったような、125の「構造的な言語の特徴」を含めたデータベースを開発した。第一のグループは16のオーストロネシア語族の言語からなり、第二のグループは15のパプア言語からなった。(リンク先の画像は、2つのグループの言語が話されている地域にある、アウトリガー・カヌーである。メラネシア島と呼ばれるこの島は、パプア・ニューギニアの東、オーストラリアの北東にある。)この研究者たちは、言語間の歴史的つながりを解明すべくこの新しいアプローチを用いたところ、オーストロネシア語族の言語について、語彙にもとづく従来の結果と、きわめてよく似た結果を得た。

 

 反対に、語彙にもとづく方法ではパプア言語について結果は得られなかったが、この新規の手法ではそれが可能だった。このことから、これらの言語は、両者間の地理的関係をみたすよう関連していることが分かる。添付の注釈によると、ニュージーランド・オークランド大学の Russell Gray 氏は、この新たな手法はまだ不確かであると注意をうながしている。しかし彼はこう主張する。「このアプローチは、他の地域の言語を調べている研究者たちによって、幅ひろく模倣されることになるでしょう。将来は、世界中の言語についてのウェブ・データベースが開発されるかもしれません。」

 

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完璧な砂のお城の作りかた

 ABC Science Online
より、タイトルを見た瞬間に吹き出してしまったのでご紹介。

 

 研究の動機はいたって真面目なのだけれども、研究紹介の導入の仕方があまりにお見事で、すごく引き込まれしまいました。

 

 次のイグ・ノーベル物理学賞の受賞はひょっとしたら彼らかもしれないなあ、と予測しておきます。

 

How to build the perfect sandcastle

(カンペキな砂の城のつくりかた)

http://abc.net.au/science/news/stories/s1470831.htm

 

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 砂はぬらすとより安定する。だが、完璧な砂の城をつくるためには、どのぐらいの水を加えるべきなのだろうか? 物理学者たちにより、砂8に対して水1によって完璧な砂の城ができると算出された。

 この研究は Nature Physics 誌の掲載に先立って公開され、砂の城の安定性についてを扱っている。

 しかしこの研究は、擁(よう)壁や防御用の材料の安定性を決定するのにも役立つ、と著者のマサチューセッツ・ウースターのクラーク大学の物理学の助教授 Arshad Kudrolli 氏は語る。

 「私たちの研究は、ある意味では、たとえば擁壁を建てる際のもっとも安定した角度はいくらか、を理解しようとする上での第一歩となります。」と彼は言う。(訳注:角度というのは、壁を断面から見たときの傾斜角のことのようです。)

 「もしこれがうまくいかなかったら、この材料は果たしてどうなるか。土地のどのぐらいの部分を失ってしまうでしょうか。」

 

■ ぬれた砂、乾いた砂

 

 粒状物理学を専門にする科学者たちは、ぬれた砂は乾いた砂よりも安定であることを知っている。

 これは、わずかな量の水を加えることにより、粒の間の「橋」を形成し、乾いた砂ではみられなかった引力を引き起こすからだ。

 しかしこの詳細は長く論議され続けてきた。

 海岸での幼少の記憶にヒントを得て、この研究者たちは、液体と粒子からなる、建造物をもっとも安定させるためのシンプルなモデルを調べた。

 彼らは、透明な回転ドラムの中で一連の実験を行い、さまざまな条件の下での砂の安定性を調べた。この研究者たちが調べたのは、さまざまな大きさの砂粒や、液体と砂のさまざまな比率、そして砂が崩れ落ちるまでのドラムの回転の速さである。

 彼らは結果を説明するのに数学的なモデルを用いた。これは砂山の表面で何が起きているか、そして砂山全体として何が起きているかにもとづいている。

 ここから、この科学者たちはもっとの安定した砂の城には何が最も適するのかを計算した。

 

■ 完璧な比率

 

 Kudrolli 氏いわく、いろいろな可能性が作用し得るのだが、その答えは、砂の量に対しおよそ8分の1の量の水を使うことだった。

 「2つを正しく混ぜることが必要です。」と Kudrolli 氏は述べる。「ちょうどの量より過不足になり得ます。」

 砂山の例には遊び半分の性格があるにもかかわらず、 Kudrolli 氏は、砂山の崩壊を防ぐための彼らのモデルは、どのような種類の擁壁がもっとも安定するか、という質問にその土台があるのだと述べている。

 技術者たちは何百年間もそのような建造物を設計してきたけれども、その背後の科学はあまり発展していないのです、と Kudrolli 氏は語る。

 この研究は「理想的な砂」、ガラスビーズと水を使って、山の積み方や崩れ方を調べている。

 これからは、自然の砂ではどうなるかについて、この研究者たちは関心を持っている。これらは非球形の粒で、大きさもさまざまである。

 

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 ついでだから自然の砂の方もいっしょに調べといてくれたら、話のネタにもなって最高だったのになあ、と勝手なことを思いつつ(少なくともガラスビーズよりは手配が簡単?)、擁壁を砂の城に例えるあたり、この研究者たちは本当に楽しんで仕事をしてるのだなあと大きく感銘を受けました。

 

2005年10月02日

V字飛行する飛行機

 Science Daily
より、鳥の動きにアイデアを得た、ジェット機に関する研究です。

 

Planes may one day fly in 'V' formations

(飛行機はいつかV字編隊で飛行するかもしれない)

http://www.sciencedaily.com/upi/index.php?feed=Science&article=UPI-1-20050930-14211900-bc-us-flight.xml

 

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 ロサンゼルスのカリフォルニア大学、ボーイング社、NASAの技術者たちは、いつの日にか飛行機は、雁のように「V」字編隊で飛行するようになるかもしれない、と述べている。

 

 雁、ペリカン、カモメのような渡り鳥は、V字編隊で飛行し、目の前の鳥を利用し航行することで、エネルギーを節約している。

 

 科学者たちは長い間、どのようにすればこれと同じことが飛行機で可能かを研究してきたが、2001年9月11日の攻撃により、研究の焦点がセキュリティへと変わった、と ABC News は金曜にレポートした。しかし、ジェット燃料の価格の急上昇により、このコンセプトが盛り返してきている。

 

 しかし、後方乱気流の中で飛行機を操縦するのは困難である。2001年11月にニューヨークを出発したジェット機は、そのわずかな後に墜落した。前方のジェット機の後方乱気流に巻き込まれたのである。

 

 この革新は、海運業や非商用の飛行機旅行にて利用されるようになるかもしれない。

 

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 たぶんこういうアイデアって、実際の鳥の飛行を見ているうちに思いついたアイデアなんでしょうかね。非常に高度な技術のかたまりといえる航空の分野で、自然の動物のふるまいから改良の発想を得ているというのはギャップを感じておもしろいです。

 

 とはいえ、この記事を見る限りでは、必要な課題への具体的な解決はしばらくペンディング状態であったらしく、現在のところ特に有効な方法が見出せているわけではなさそうです。V字飛行に関しては、まだまだ鳥のほうが大先輩のようです。

 

 

 今回の記事とは関係ないですが、飛行機に関しては、下記の記事もすごくおもしろいです。Wired News
より。

 

「歌う翼」で航空機の揚力が向上

http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20050930302.html

2005年10月08日

ペンギンの脱糞と、シロップ水泳

 Science Daily より、イグノーベル賞の受賞ニュースです。

 国内ではドクター中松が受賞したことで話題を集めていますね。

 ここでは、それ以外のステキな受賞者たちをご紹介です。そのうちどこかで日本語での紹介がされると思いますが、せっかくなので、ここで先立ってレポートです。

 

Penguins’ pooping power scoops Ig Nobel prize

(ペンギンの脱糞力がイグノーベル賞をとる)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8108

 

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 ペンギンはどれぐらい遠くまで糞を飛ばせるのか? 人間はシロップの中では水の中よりも速く泳ぐことができるのか? これらの疑問は難しい問題だったが、これの答えを出した人物たちが2005年イグノーベル賞を受賞した。

 

 このパロディの賞は、科学ユーモア誌の the Annals of Improbable Research 誌によって組織されており、「人々を笑わせ――考えさせる」ようなユーモアある科学的業績を表彰している。アメリカ・マサチューセッツ州・ケンブリッジにある、別の意味で有名な、ハーバード大学のサンダーズシアターにて発表された。

 

 アメリカ・ミネソタ大学の Edward Cussler 氏と Brian Gettelfinger 氏はイグノーベル化学賞を受賞した。人間はシロップの中で水中よりも速く泳げるかどうかを解明したことに対してである。この疑問は、オリンピックの競泳の選考会に向けトレーニング中だった、学生の Gettelfinger 氏が、スピードを増すにはどうすればよいか? と疑問に思ったところから始まった。

 

 2人はキャンパスに、2つの25ヤードの水泳プールでの実験を準備した――22個のさまざまなレベルの承認が必要だった。彼らは、水に混ぜる、列車20台分のコーンシロップを用意したが、ミネアポリス市は、シロップの排水が下水システムに過負荷をかけるため、2万ドルを要求してこの計画をやめさせた。

 

 そのかわりに、彼らは310キログラムのグアールガムの粉末を一方のプールに入れてかき混ぜた。「翌朝来てみましたが、良い光景ではありませんでした。」と Cussler 氏は New Scientist 誌に語った。「まるで鼻水を薄めたようでした。」

 

 しかし16人のボランティアの泳者にはストップはかからなかった。泳者は全員、各プールで2回の長さを泳いだ。シロップのプールから出てきれいな水のプールに行くときにはシャワーを浴びた。泳者を時間計測した結果、どろっとした液体は、泳者のストロークの力を高めるものの、身体への抵抗を大きくするため、両方に違いがなかったことを Cussler 氏はつきとめた。「これはおもしろかったです。」と彼は言うが、結局のところ、「まったくの無用でした。」

 

■ 脱糞の速度

 

 ドイツ・ブレーメン国際大学、フィンランド・オウル大学の Benno Meyer-Rochow 氏と、ハンガリー・エトヴォシュ・ローランド大学の Jozsef Gal 氏らにより行われた、ペンギンの糞の推進についての理論的解析に対して、イグノーベル流体力学賞が授けられた。

 

 抱卵中のヒゲペンギンとアデリーペンギンは、便意を催したとき、巣を離れ卵を冷気にさらすのを嫌がる。そのかわりに、お尻を外側に向け、尾を持ち上げ、発射する。だいたいの場合、飛び立った排泄物は、およそ40センチメートルの距離を飛ぶ。

 

 鳥の体長、肛門の組織、糞の速度や粘性を計算に入れ、この研究者たちは、内部の圧力が10~60キロパスカル(大気圧の0.1から0.6)に達することを算出した。人間ができる最大の圧力よりもずっと高い。

 

 しかしこれは、真剣な科学者にとっては決してつまらないことではない――「そう感じている人はほんのわずかです。」と Meyer-Rochow 氏は? New Scientist 誌に語る。「動物園の飼育係、文化人類学者、技術者、人間生理学者などからの反応を話せば、誰もが、小さな開口部から流体を放出するときの物理的特徴を調べるのは一般的に重要なことなんだと、理解してくれます。」

 

■ 他の受賞

 

・文学賞

 ナイジェリアのニューエイジのストーリーテラー――いわゆる419詐欺――の大胆なビジョンを称賛して。彼らの生き生きとした物語では、上品な口調で、巨大な財産(合法的に彼らのもの、あるいは正面から公正に盗める)をとりもどす手助けへの報酬を約束している。

 

・経済学

 マサチューセッツ工科大学の Gauri Nanda 氏に対して、仕事場の生産性への貢献をたたえて。彼女は Clocky を発明した。クッション付きの目覚まし時計で、スヌーズアラームが押されると、車輪で走り去り、身を隠す。人々を実質的にベッドから追い出すことにより、Clocky は仕事日に多くの生産的な時間を加えたことであろう――少なくとも理論的には。」とイグノーベル委員会は述べる。

 

・物理学

 きわめてゆっくりとしたペースの運動をたたえて。「ピッチのしずく」実験は、1927年にクイーンランド大学の故 Thomas Parnell 氏によって始められ、 John Mainstone 氏が現在も続けている。ピッチとはどろっとした黒いタールで、理論的には液体なのだが、固体のようにふるまうように見える。液体であることを示すために、Parnell はピッチをじょうごの中で溶かして冷ました。それから彼は、待って待って待ち続けた。最初の1滴が落ちるのに8年かかり、2滴目にはもう9年かかった。2000年には8滴目が落ち、今は Mainstone 氏は9滴目を待っている。

 

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2005年10月16日

ウソつきの脳に異常あり?

 Science a GoGo より、脳の構造に関するニュース。

 僕の周りにはあまりいませんが、世の中には、あまりに軽々とウソをつき、悪気もなくけろっとしている人がいます。

 どうやら、こういう人たちには、普通の人と比べてすこし違う脳の構造をしているらしい、ということが分かったようです。

 

Liar, Liar, Your Prefrontal Cortex Is On Fire

(ウソつきさんウソつきさん、前頭葉野が発火してるよ。)

http://www.scienceagogo.com/news/20050904005107data_trunc_sys.shtml

 

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 British Journal of Psychiatry 誌に掲載された研究によると、常習的にウソをついたり、他人を騙したりごまかしたりする人は、脳に構造的な異常があるという証拠が見つけられたという。

 

 南カリフォルニア大学の研究者たちは、正常な人がウソをつくときに、前頭前野――大半の人々に対して、良心の呵責を感じさせたり、道徳的な行動を行わせたりする脳の領域――が、高く活性化することを示した従来の研究を土台にしている。この新しい研究では、異常にウソをつく人の間で、この領域に構造的な違いがあるという証拠を提示している。

 

 この研究の被験者は、ロサンゼルスの一時雇用所から得られた。この研究者たちは一連の心理テストとインタビューを行い、誤りをする傾向にしたがって、被験者を分類した。「職業、教育、犯罪、家族の背景に関する説明に矛盾がないかどうかなどといった事柄を探しました。」と、この研究の共著者である Adrian Raine 氏は語る。分類を行った後で、Raine 氏と共著者の Yaling Yang 氏は、磁気共鳴影像法(MRI)を用いて、グループ間での脳の構造的違いを調べた。

 

 結果、ウソつきには、正直者の対象よりも、「白質」――脳を結び付ける――が著しく多く、「灰白質」がわずかに少ないことが分かった。白質は、灰白質をつなぎ合わせ連結させる「ネットワーク」の組織であるとこの研究者たちは説明する。どうやら、異常にウソをつく人は、白質が過剰で、灰白質が欠乏しているようである。道徳的な制限がより少ないことと、ウソをつく道具がより多いこととがあいまっていることになる。健常対照群と比べると、ウソつきは、白質が22%多く、前頭葉前部の灰白質が14%少なかった。

 

 前頭前野におけるネットワークが強ければ強いほど、その人はウソをつくのを制することができる、という考え方があります。そういった人たちの言語能力は高いです。ほとんどの場合、彼らは生まれつきに優位性を持っているのです。」と Raine は語る。健常者では、灰白質――あるいは白質につながった脳細胞――が、ウソをつく衝動を抑制する助けとなっている。「彼らはウソのための備えを持っており、そうでない人々が大ホラを吹く際に感じるような、抑止できない気持ちを感じることはないのです。」と彼は付け加える。

 

 「人は道徳的な決定を行う際に、前頭前野を頼りにします。健常者に、道徳的な決定をしてもらうよう依頼をすると、脳の前の部分が活性化します。」と彼は説明する。「もしこうしたウソつきに灰白質が14パーセント少なければ、道徳的な問題に対し注意を払わず、道徳的な問題を処理できなくなるということを意味します。灰白質が多ければ、こうした行動に抑制をきかせられたのです。」

 

 おもしろいことに、自閉症の子供たち――一般には、ウソをつくということに苦労している――は、白質と灰白質の比に逆のパターンを示している。「自閉症の子供たちがウソをつくのに困難さを感じ、同時に前頭葉前部の白質が少ないという事実は、ウソを容易につく前頭葉前部の白質の多い大人の結果と比べて、正反対でありながらも補完的なパターンを構成しているのです。」とこの研究者たちは述べた。

 

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 なるほど、僕はウソをつこうとするとすぐに表情に出てしまうので、自分はウソが下手な性格なんだなあと感じてました。こういう性格の違いが、脳の構造の違いとしてとらえることが可能かもしれないってのはおもしろいですね。

 

 ところで、こういう研究を目にするたびに感じるのですが、こうした、人間の性格と脳機能のはたらきとの関連を探ろうという研究は、実際の世の中に成果が反映されるとすれば、一体どのような形で反映されることになるのでしょう? おそらく、こういう研究が進もうとしている方向は、人間の性格と脳の構造の間には、これまで知られてなかったような関連性がまだまだ多くあるんだよ、ということを示そうとする方向なのかなと感じます。もちろんそれはそれで面白くて、驚くような知見がこれから色々と知られていくのだろうと思うのだけれど、その先にはどんな応用が控えているんでしょうかね? いや、無いなら無いで、悪いことではないと思ってますが。。

2005年10月21日

新しい単語はいかにして言語の一部となるか

 New Scientist より、言語の進化と、コンピュータシミュレーションに関わる記事。

 ものごとの名前がみんなの間でどのように共有されるかを、コンピュータシミュレーションで再現できたという研究だそうです。
 
How new words become part of a language
(新しい単語はいかにして言語の一部となるか)
http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8163
 
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 望まないeメールが初めてやって来たとき、人々はそれに対して、未承諾メールやジャンクメールのようなさまざまな言葉を作り出した。しかし最終的に「スパム」が、この現象を表すものとして選ばれた言葉になった。
 
 これは新たな物ごとが名前を必要とするたびに発生する過程だが、言語研究者たちは、中央の決定機関なしで、こうしたことがどのようにして起こるかをなんとかしてモデル化しようとしてきた。今回、とあるコンピュータモデルにより、この過程のはたらくようすが表された――そしてこのモデルは、最初の人間の言語がいかにして現れたかに対する洞察を与えることだろう。
 
 フランス・パリのソニー・コンピュータ・サイエンス研究所の Luc Steels と彼の同僚は、人々がいかにして言葉を作り用いるかを反映した、「ネーミング・ゲーム」というシンプルなコンピュータモデルを研究した。このゲームでは、仮想の環境の中で、「エージェント」のグループがたくさんの「オブジェクト」を持って生活している。それぞれのエージェントは、オブジェクトに対しランダムな名前を作り出す。そしてエージェントは対になって相互作用し、これらのオブジェクトについて「会話」を試みる。
 
■ ネーム・ゲーム
 
 相互作用のそれぞれにおいて、一方のエージェント(話し手)はあるオブジェクトに対する単語を述べ、もう一方のエージェント(聞き手)はそれを聞き取る。聞き手が単語を認識するのに失敗すると、そのオブジェクトに対する可能な名前を記憶する。しかしもし聞き手がその単語を理解したならば、両方のエージェントはこの単語を記憶に保持し、それ以外の自分が作ったり他から聞いたりした名前を破棄する。


 


 (訳注:ちょっとここは補足が必要のようです。各エージェントは、あるオブジェクトに対する「名前のリスト」を持っています。このリストの要素は、自分でランダムに作り出した名前だったり、あるいはそれ以前に他人から聞いていた名前だったりします。話し手は、自分のリストの中からどれか一つをランダムに選び、聞き手に示します。聞き手は、もし自分のリストにそれと同じ名前がなかったら(認識の失敗)、それを自分のリストに加えます。もしあった場合(認識の成功)は、やはり同様にそれを自分のリストに加えて、その後で、話し手も聞き手も、それ以外のリストの要素を全消去します。)
 
 何度も何度もくりかえすことで、この過程は、オブジェクトに対する言葉を人々がいかにして作り出し共有するかを反映する:彼らは絶え間なく新しい言葉を作り出すが、使用できるのは、他人が理解できる言葉だけである。そのため、使っている言葉の数は抑制される。
 
 独自の共有された語彙が出現するにはこれだけで十分であることをこのシミュレーションは示している。このモデルでは、それぞれのオブジェクトは、常に1つの単語のみを持つ結果となっている(
www.arxiv.org/physics/0509075
)。「このモデルは可能な限りシンプルなモデルです。」と Steels は語る。「しかしこのモデルは、集団がいかにして効率の良いコミュニケーションを発展させるかという問いの主な構成要素をとらえているのです。」
 
■ 文法の発展
 
 では、同様の過程が、人間の言語の歴史的な出現の助けとなり得たのだろうか? 「それは間違いないでしょう。」と語るのは、イギリス・エディンバラ大学の言語学者 James Hurford 氏である。しかし彼は、人間は、共通の言葉に加えて、文法のようなより豊かな構造を要求しており、このモデルではまだ説明できない点が現れていると強調する。
 
 Steels と彼の同僚は、文法の発展をとらえることのできる、より複雑なモデルを作り出そうとしている一方で、潜在的にコンピュータへ応用できることを見出している。たとえば、プログラマーは現在、効率的にコミュニケーションをとる目的の商的あるいは科学的なデータベースのために、標準を設立しなければならない。じきに、コンピュータに自分自身の共通言語を発展させることにより、お互いに会話をすることが可能になるだろう。

 
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 原論文の始めを見てみた感じでは、エージェントどうしはランダムに出会うと設定されているようです。ですがもちろん、これは現実の人間のふるまいとは大きなズレがありますよね。僕たちがふだん会話する人はだいたい限られているし、会話する人の数も人によって大きく違います。あとさらに、リンクの多い情報源からの影響は大きく受けているはず。たぶん、こうした事情は古代の人間でもそれほどは変わらなかったんじゃないかなと感じます。
 
 今回の実験は、そういう意味では、これからの研究の発展のベースになるという意味で大事なのかなと感じます。今回のモデルをベースにして、いろいろ複雑なかたちにしてみると、また変わった結果が出てくるのかもしれません。それはたとえば記事に挙げられているような、文法を生みだす要素がまずは欠かせないと思うし、あるいは、より実際の社会に近いネットワーク構成にしてみるとよいのかもしれません。たとえば方言とか、いったいどういった要素がそろうと初めて発生するものなのでしょうかね? なかなかに面白そうです。

2005年10月26日

ID裁判途中経過

 New Scientist より、とある裁判の途中経過の記事。

 

 いや、英語見出しを目にして、思いっきりカンチガイしてしまったのです。「ええっ、占星術が科学的理論だって判決が出たの??」。 

 誤解でした。このごろ話題になっているインテリジェント・デザイン(ID)論にかかわる裁判の途中経過の記事でした。


 


 と、上のような理由で本記事を最後まで読んでしまったので、そのまま翻訳です。

 

Astrology is scientific theory, courtroom told

(占星学は科学的理論である、と法廷での弁)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8163

 

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 よく知られたインテリジェント・デザイン(ID)の支持者と同じ基準を用いて審判を下すなら、占星学は科学的な理論であると考えられるだろう。彼らは、IDは科学であるという主張を正当化しようとしている。

 

 反対尋問の中で、IDの提案者である、ペンシルバニア州・ベスレヘムのリーハイ大学の生化学者 Michael Behe 氏は、彼の「理論」の定義は広範なため、占星学もまたそれに含まれると述べた。

 

 この審判は、ペンシルバニア州のドーバーという小さな町の、11名の保護者たちと地元の教育委員会との間の争いによる。委員会は投票により、ダーウィン的な進化論への疑いと、代替としてのID論を提案しているくだりを生物学の授業に読み上げるよう決定した。

 

 これはカリキュラムに天地創造説を導入しようとする試みであり、教育委員会のメンバーたちは福音主義的なキリスト教の信念により動機付けされていると保護者たちは主張する。政府資金による合衆国の学校で、主に宗教的な目的や影響のために子供たちになにかを教えるというのは不法であるという。

 

 ID論の支持者たちは、自然の中には、自然の選択によって進化してきたとするにはあまりにも複雑なものがあり、それゆえに知的な設計者の力がおよんでいるに違いない、と考えている。

 

■ 専門家の査読

 

 月曜、Behe 氏は被告側により証人席に呼ばれた。そこでID論は科学的な理論であり、宗教に「肩入れ」しているものではないと証言した。フィラデルフィアのペッパー・ハミルトン法律事務所の原告側弁護人 Eric Rothschild 氏による彼への反対尋問が火曜の午後に開始された。

 

 Rothschild 氏は裁判官に、科学的な理論を構成するものの定義が全米科学アカデミーにより提供されていると述べた:「理論:科学において、事実、法則、推論、そして試験された仮説とが連携した、自然の世界のある側面に対する十分な裏付けのある説明のこと。」

 

 ID論は、ほとんどすべての科学者や科学的な組織から拒絶されてきており、専門化の査読のあるジャーナル誌の検査を通過したことが一度もないため、Behe 氏は、この賛否両論ある理論はNASの定義には含まれないだろうと認めた。「これが十分な裏付けのあるものだと認めるであろう外部のコミュニティを提示することはできません。」と彼は述べた。

 

 Behe 氏は、科学者たちが実際にどのように理論を使っているかをより正確に表す、「より広範な」理論の定義を考え出したと述べた。「その言葉は、NASが定義したそれよりもずっと大雑把な意味で使われます。」と彼は述べた。

 

■ 仮説か、理論か?

 

 Behe 氏の定義は大雑把なので、占星学もこの定義に分類されることだろうと Rothschild 氏は述べた。彼はまた、Behe 氏の理論の定義はNASの仮説の定義とほとんど同一であるとも指摘した。Behe 氏はこの主張のいずれにも同意した。

 

 このやりとりは法廷の笑いを誘った。法廷は一般の教育委員会の地元メンバーでいっぱいだった。(訳?)

 

 Behe 氏はID論が科学であると堅持している。「私の定義のもとでは、科学的理論とは、物理的データや論理的推論を指し示す説明案なのです。」

 

 「あいつはすごいよ。ライオンの洞穴に入ったダニエルだ。」と言うのは、科学に興味を持って審判に参加している地元の退職者の Robert Slade 氏である。「でも彼が大学の生物学の授業で教えているなんて信じられないよ。」

 

 反対尋問は水曜も続き、11月4日に審判が終了することになっている。(訳注:記事中の曜日は10月17日~の週です。)

 

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(以前の記事)

米で新たな進化論争 「神」ではなく「知的計画」?

大学生の精神に入り込むID論

2005年10月29日

テーブルのぐらつきをなくす方法


 news @ nature.com
より、喫茶店でイライラした経験のある人へのグッドニュースです。

 

How to keep four feet on the ground

  Mathematical proof ends wobbly table woes

(4本の脚を地面につける方法――悲しきテーブルのぐらつきに数学的証明が幕を下ろす)

http://www.nature.com/news/2005/051024/full/051024-3.html

 

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 カフェやレストランで、ぐらつくテーブルに出会ってばかりいないだろうか。絶望しないように。妥当な制限のもとで、4本の脚がみなしっかりと地面に立つような位置にテーブルを回転させることが常に可能であると、ある物理学者が証明した。

 

 Andre Martin 氏がこの問題を研究する気になったのは、スイス・ジュネーブのCERN(ヨーロッパ粒子物理学研究所)――彼はここで高エネルギー物理学の難解な問題に取り組んでいる――のテーブルがぐらつくことにウンザリしていたからだ。

 

 CERNのカフェテリアのテラスでコーヒーを飲む人なら、テーブルがたいてい3本の脚しか地面につかず、わずかに触れただけで飲み物をこぼしてしまうことに気づいている、と Andre Martin 氏は述べる。

 

 何度もそういう目にあっているうちに、Martin 氏は、テーブルを回して安定する位置を探すことに気がついたのだろう。「私は常にそういう位置を見つけることができました。」と彼は言う。「うまくいくことにしばしば人から驚かれます。」

 

 10年以上前、安定した状態がつねに存在することの証明を見つけようとMartin 氏は決意した。彼はそれを見つけ、さらにそれを1998年のサマースクールで発表したが、彼はその証明を書き上げることができず、ある場合はその証明が完全には正しくないことに気がついた。

 

 今回、Martin 氏は、もっと漏れのない場合を得たと確信しこれを公開した。「数学者は興味をもつだろうと感じていました。」と彼は説明する。

 

■ 正方形の解決法

 

 数学的に記述できる問題に持ちこむために、いくつかの単純化する仮定を行わなければならなかった。一つに、正方形の四隅に脚があるようなテーブルだけを彼は考えた。そしてそれぞれの脚は1点のみで地面に触れているものと仮定した。

 

 一方で、地面自体は、しばしば自然の中で見られるよりも従順(訳注:仮定が厳しい)である。でこぼこはいくつあってもよいが、極端に急なカーブや高さの変化はない:表面の2点間の傾きは15°以上になってはならない。

 

 「自然と比較するとこれは平坦です。」と Martin 氏は認めている。しかし、ならしの悪いコンクリート面やでこぼこの多い芝生ならおそらくこれらの条件に合うだろうと彼は付け加える。この条件の限りで、テーブルの4本の脚をみな地面に触れさせるような置きかたが常にあるということを Martin 氏は示したのである。

 

 一般に、テーブルの天板は完全には水平にはならないが、その傾きは小さいだろう。

 

 CERNの司書である David Dallman 氏は、脚の配置が正方形でないテーブルにも彼の証明が拡張できるかどうかについて Martin 氏に質問した。Martin 氏は、4本の脚が1つの円周上にあればできるのではないかと考えているが、厳密は証明はまだである。

 

 これがCERNのコーヒーブレイクの間に役立つかというのはまた別の問題である:そこの地面があまりに不規則だということもある。「草地や舗装タイルがあるというのがテラスでの問題です。」と Martin 氏は語る。

 

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 この研究者の人、本職とはぜんぜん関係のないネタにハマリこんでしまい、そのままとことんまで調べてしまいました。

 

 僕の周りにもこういう性癖の人はけっこういるようです。ひとたび気になりだしたら、何らかの結論が出るまで気がすまないんですよね。そういえば僕も以前にサイコロの確率なんてものに病みついてしまいましたが(軌跡
)、これはそれとは及びもつかないレベルの高い結果です。

 

 こういうニュースを聞いてたいへん困るのは、今度自分がカフェに行ったときに、ついついはりきってテーブルを回転させてしまいかねない、ということですね。今度やってみよう。

2005年11月05日

鏡で苦痛を軽くする

 New Scientist より、気持ちと痛みについての記事。

 

 CRPSやRSIという名称で知られる症状の患者に、鏡を使って自分の「正常な」姿を見せてやることで症状に改善がみられたという研究結果です。

 

Ease pain by taking a good look at yourself

(自分をよく見ることで苦痛を軽減する)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8246

 

 今回は翻訳むずかしかった。。

 

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 手足の慢性疼痛に苦しんでいる患者の一部にとって、思いもよらない救世主が見つかった――鏡だ。研究者たちによれば、複合性局所疼痛症候群(CRPS)や反復運動損傷(RSI)をもつ人々に、こうした薬をつかわない治療法が有効であるという。脳をだまして身体のゆがんだ像を修正させるためだというのだ。

 

 CRPSは、手首を骨折した人の3分の1に発生する。支持ギブスを外した後で、手・腕・肩に予期せぬ持続性の痛みを感じる。あまりに苦痛がひどくなることもあるため患者の中には腕を切り落としてくれと懇願する者もいる、とイギリス・バース大学の Candy McCabe 氏――今回この新たな鏡療法を作り出した――は語る。

 

 この研究では、8人のCRPS患者を、長い鏡の前に座らせた。これらの鏡の置き方によって、各被験者は患っていない側の半身しか見えず、もう半身には同じ側の反射像が見えるようになっている。(訳注:つまり左右対称の自分の姿が見えるわけですね。)

 

 その結果、痛む腕がある方の半身が視界から隠れ、患者たちは、あたかも両腕ともが患っていないかのように見えた。患者たちは、その像に集中し、見ているものが自分たちの真の描像であると信じ込むよう告げられた。

 

 「患者たちのうち3人はすぐさま痛みがなくなりました。その他の人はこれより若干時間がかかりました。」と McCabe 氏は語る。「ですがいったん鏡が取り除かれると、痛みが戻ってくるのです。」しかし、鏡療法をくりかえすことで、6人の患者は完全に痛みがなくなった。例外となった2人は、手足の腐敗や実際の物理的な歪みという込み入った状況だった。

 

■ 洗練された身体イメージ

 

 この実験以来、McCabe 氏はこの技術を使って、他の多くのCRPSやRSIの患者の治療に成功したと述べている。脳の身体の知覚のしかたと実際の身体の状態とのミスマッチによって痛みが生じているのだと彼女は確信している。

 

 脳は絶え間なく身体にシグナルを送っており、手足の形や重さ、それらの位置といったことを予見している。感覚神経系は情報を送り返してやることで、脳が身体のイメージを洗練させることを可能にしている。

 

 「腕がギプスの中で動かせないとミスマッチが起こります。」と McCabe 氏は言う。「脳は腕にシグナルを送りますが、何も戻ってきません。そうしてそれが引き金となって、それに対する痛みの感覚がやって来るのです。」

 

 ギプスが外されるとたいていの人は混乱から自然に復帰するが、3分の1の人は苦痛を感じ続ける。「鏡のトリックは、脳に身体のイメージをリセットさせ、苦痛を止めるのです。」と彼女は語る。

 

■ 軽いうずき

 

 これらの脳のミスマッチの理論をテストするさらなる研究で、McCabe 氏とバース英国王立リウマチ病院の同僚たちは、41人の健康なボランティアたちに実験を行った。以前の実験のように、各々は二等分する鏡の前に座って左右対称の自分の身体を見ており、その像が自分たちの真の姿だと信じ込むように言われた。

 

 被験者たちは、鏡の像を見ながら、2本の腕を異なる方向に動かすよう言われた――これにより、かくれた腕の実際の動きと、鏡で見える見た目の動きとの間にミスマッチが生まれることになる。

 

 「ほとんどすぐさまのうちに彼らは見えない腕に感覚を感じ始めました。それは軽程度のうずきから心地悪いレベルの痛みまでさまざまでした。」と McCabe 氏は語る。「あまりの痛みに、試験の20秒間持ちこたえなかった人もいました。」

 

 サリー大学のヘルスエルゴノミクス・ローベンスセンターのRSI専門家 Peter Buckle 氏は、実際と見た目の動きとの間に差異を作ることによって脳が混乱するというのはよく知られていることだと語る。しかしこれはRSIの要因ではないと彼は考えている。「RSIは何百年もあり続けており、炎症や神経のダメージを含んだ、まさに現実の物理的症状なのです。」と彼は述べている。

 

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 ばーっと調べてみた感じですが、RSIとCRPSは特徴や仕組みがぜんぜん違うようで、きちんと2つを区別して扱うべきかもと感じました。RSIは、テニス肘や腱鞘炎のような、繰り返し運動による骨格的な障害で、最近はケータイの文字入力のし過ぎでも起こっているようです(From:Hotwired JAPAN
「携帯機器での入力」で反復運動過多損傷(RSI)が急増
)。一方のCRPSは、四肢離断後の幻肢痛なども含まれている症状で、すでに治療には精神科的なアプローチが取り入れられているようです。

 

 それにしても、痛みの感覚が、目からの情報にこんなにも敏感に反応するというのは初めて知ったし、それが左右対称な姿というやや不自然な映像であっても、CRPS患者に効果的であるというのは驚きです。

 

 そういえば、僕たちが注射を受けるときにも「痛くない」と思い込むことで本当にその効果が得られるケースがあるようですね(From:Garbagenews.com
?: 注射の痛みも気持ち次第? 「思い込み」で痛み軽減との研究結果
)。気持ちの持ち方で痛みをコントロール、という点では今回の鏡の場合と同じだけど、はたしてつながりがあるのでしょうか?

2005年11月13日

温暖化でワインの味が落ちる

 ABC Science Online より、地球温暖化とワインについて。

 

 僕たち人間にとっては、今後数十年で大気の温度が数度上がるなんてことを言われても、「なんか暑い日が多くなるみたいだけどまあ死ぬほどじゃないや」という程度でしかないわけですが、言うまでもなく、農作物をはじめとした植物にとってはものすごく致命的な問題です。

 

 今回はその一つ、ワイン用のブドウに温暖化がもたらす影響についての記事です。

 

 ちなみに記事元はオーストラリアの科学ニュースサイトです。

 

Wine suffers as planet warms

(地球温暖化でワインが被害を受ける)

http://abc.net.au/science/news/stories/s1500496.htm

 

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 オーストラリア産ワインの鑑識家は、風味の劣る一滴をたしなむ必要が出てくるかもしれない。気候の変化がブドウの産地に打撃を与えるためだ。温暖化会議でこうした内容が述べられる予定である。

 CSIRO海洋大気研究所の Leanne Webb が語るには、彼女のモデリングにもとづけば、オーストラリアのワイン生育地は温暖になり、そしてほとんどのケースで乾燥するようになる。

 よくないことに、ブドウの風味と香りは影響を受け、質の劣った単純なワインとなる。

 一部の品種はある地域から完全になくなってしまい、乾燥した状況が、灌漑(かんがい)の必要性を2003年までにほぼ2倍にするかもしれない。こうしたコストは消費者にふりかかる。

 しかし、価格の上昇がブドウの生産の増加によって埋め合わされて、オーストラリアのワイン生産家は以前は不可能だったブドウの品種を生育する機会を得るだろうという点は良いニュースである。

 

■ 上昇する温度

 

 Webb 氏は来週の2005年度温暖化会議で、オーストラリアの多くのワイン産地の温度は0.3℃から1.7℃上昇する見込みであると述べることになっている。

 2070年までにはブドウ栽培地の年間平均温度は0.8℃から5.2℃上昇するだろう。

 これにより作物の年間サイクルのあらゆる側面が影響を受けるだろう。まずは緑の収穫量の増加からだと彼女は語る。

 「大半の地域で、芽が出るのが早くなります。・・・そしてすべての場合で収穫日が早くなるでしょう。」と彼女は言う。

 たとえば、オーストラリアで最も暖かくかつ最大のワイン産地である南オーストラリアのリバーランドでは、2030年までに発芽は4日早く、収穫は11日早くなるであろう。

 温暖な気候と収穫の早期化による二重の効果は、ブドウの品質にインパクトを及ぼすだろうと彼女は語る。

 「より暖かな気候で収穫した場合、どうしてもブドウの品質は低くなるのです。・・・暖かな気候では、異なる生化学的な経路をたどることになるからです。」と彼女は言う。

 「暖かな気候では、複雑な風味や香りの特徴が得られにくくなります。温度を上昇させると、ワイン生産者の腕によっては、ブドウの品質は低くなり、ひいてはワインの品質が低くなることになります。

 

■ 乾燥した状況

 

 Webb 氏は言うには、ニューサウスウェールズ州のハンター地域はより湿潤になると予測されるが、その他の地域はより乾燥する。

 彼女のモデルによると、ニューサウスウェールズ州のリベライナのブドウ生産家は、2030年までに、穀物を灌漑するために年に1500~8500百万リットルの余分の水が必要になるだろう。

 しかし生産家は、灌漑によって失ったものを、収穫の増加によって(再び)得ることになるかもしれないと彼女は述べる。

 「暖かくなれば、ヘクタール当りでより多くのブドウを生産できることになるでしょう。」と彼女は言う。

 

■ 変化への順応

 

 別の品種を導入することで、ワインの生産家は気候の変化に順応することができると Webb 氏は語る。

 「以前は育たなかった別の場所で栽培を開始することができます。」と彼女は言う。

 たとえばカベルネ・ソービニヨン種は寒冷地では成熟しないし、ピノ・ノワール種は温暖地でも生きぬく。

 そして、いくらかのブドウの特定の地域以外での生育を禁止しているフランスやイタリアとは異なり、オーストラリアには移動する余地がある、と彼女は述べる。

 

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 僕はあまりワインに詳しくありませんが、特に高品質なブドウを作るうえでは、微妙な天候のヨミだとか、その土地で長年かけて築くようなノウハウがすごく重要な気がします。単に、灌漑をしたり別の品種を導入したりすれば変化に順応できる、というのはそこまで簡単なことでないと思うし、そういうふうに品質が不安定な状況だと、灌漑の資金を回収するのも容易ではないかなと感じます。そのへんの試算もあれば、一体どんなものなのか、気になるところですね。


 


 どうやら日本でも、こうした適地の移動が起こりつつあるようです。(From:長野県のおいしい食べ方
::長野県産ワインの違いをお教えします
) リンク先によると、最適地とされていた山梨県が長野県に移りつつあるとか。

2005年11月19日

死の迫ったゴミムシダマシは一発かます

Dying beetles go out with a bang

(死の迫ったゴミムシダマシは一発かます)

http://www.newscientist.com/channel/sex/mg18825254.000.html

 

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 死が迫ったとき、将来への蓄えはもはや重要ではない。すべてはこの場所この時にある。

 

 このような思想をかいつまんでプリントしたTシャツを、チューリッヒのスイス連邦工科大学の生物学者 Ben Sadd はかつて目にした。「『俺はガンで死ぬ―セックスをさせてくれ』と(そのTシャツには)書いてありました。」

 

 今回 Sadd 氏とその同僚は、ゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)がこれと同じようなことをするのを発見した。ゴミムシダマシは、死に至るほど重大な障害を免疫系に受けると、性フェロモンを生産することに自分のリソースを差し向ける。

 

 Sadd 氏は、20体の未交尾のオスのゴミムシダマシの体内にナイロンを注入して免疫系に負荷を与えた。そして円盤状のろ紙の上にそれぞれを隔離した。彼はそれから、メスのゴミムシダマシにろ紙を選ばせて(負荷ありのゴミムシダマシのろ紙・負荷なしのゴミムシダマシのろ紙・未使用のろ紙)、メスたちがどのろ紙に引き寄せられていったかを記録した。

 

 フェロモンの強さは直接には測定できなかったが、あり得る可能性として、メスを引き寄せようとする土壇場の努力において、このオスたちは性フェロモンという「最後の投資」をしたために、免疫に障害を及ぼしたオスのろ紙の上にメスたちはより長く滞在したのだと Sadd 氏は語る。「免疫に障害を及ぼしたオスの匂いは、普通の'元気な'オスよりのそれよりもメスを引きつけるのです。」と彼は言う。

 

 この研究は近刊の Journal of Evolutionary Biology 誌にて掲載される。

 

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 どうやらフェロモンというのはきわめて微量にしか存在しない物質らしく、何万匹もの昆虫からやっと数ミリグラムが精製できるという少なさだそうです(しかも精製方法が壮絶!)。おそらく今回のゴミムシダマシも、微量すぎて性フェロモンを判別できるだけ測定ができなかったか、あるいは、そもそも性フェロモンの物質の特定がまだなされてないのかもしれません。

 

 今回の研究では、その代わりにメスの滞在時間でもってフェロモンの強さとみなしているようですが、こういう評価方法ってよく使われるものなんですかねえ? この方法がどれだけ妥当なものなのか、ちょっと気になります。(それ以前に、オスにろ紙を選ばせた場合の結果が不明ですが・・。)ばっと調べてみた限りでは該当の論文は見つからず。

 

 でも、もし本当に、死を悟った昆虫が決死の覚悟で自分の遺伝子を残そうとするふるまいをするのなら、それはとても不思議で面白いことですね。

2005年11月20日

汚染物質と自殺率に関連あり?

 Science A GoGo より、自殺と汚染物質との関連性についてのニュース。

 

Pollutants Linked To Suicide Rate?

(汚染物質は自殺率と関係している?)

http://www.scienceagogo.com/news/20051014022722data_trunc_sys.shtml

 

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 神経毒の汚染物質は、ノースカロライナ州のコミュニティでの自殺率の上昇を引き起こしているのだろうか? 製紙工場やその他の工業用施設の隣に位置するこのコミュニティは、持続的な自殺率の上昇をこうむっている。研究者たちは、これが硫化水素やその他の浮遊物質の排出と関連しているのかもしれないと考えている。

 

 この研究は、ノースカロライナ大学の精神科医によって行われ、第18回米国精神医学会議で発表された。ノースカロライナ州ソールズベリーでの自殺の増加と、近辺の工場から受けた化学物質とのあいだの関連の可能性を示した、従来の研究に対する検証である。1994年からの10年間で、ソールズベリー近辺の自殺率は年間10万人あたり38.4人であったことがこの研究から分かった。これは州全体の平均のおよそ3倍である。こうした数字の増加は、近辺のアスファルト施設や石油浄化施設から排出された硫化水素やその他の潜在的な神経毒に低いレベルで慢性的にさらされることと関連するかもしれないと考えられていた。

 

 動物を使った研究によって、硫化水素が神経毒であることが示された。セロトニン・ノルエピネフリン・ドーパミン・アスパラギン酸塩・GABA・グルタミン酸塩といった、脳内の化学物質のレベルを変化させるのである。

 

 この新たな研究で、研究者たちは、他のノースカロライナ州の地域――田舎のヘーウッド郡――の自殺率に注目した。1990-1996年で住民10万人あたり11.8人の率から、1997-2002年の間で住民10万人あたり約21.1人へ、およそ2倍になっていた。自殺率は1997年以来上昇を続け、2000年には10万人あたり29.7人のピークに達した。

 

 「製紙工場に運営上の変化が起こったこの期間に自殺の増加があったことが明らかに分かります。」とこの研究の指導的立案者である Richard H. Weisler 博士は語る。「ヘーウッド郡での1997年の自殺の急上昇は、1996年末に行われた漂白濾過液サイクルへの切り替えと対応していました。自殺の増加と運営上の変化との間に関連があるかどうかはまだ決まっていません。」

 

 ヘーウッド郡の製紙工場は、ピジョン川へ放出された廃液から、塩素やその他の神経毒をとりのぞく助けとするために、漂白濾過液サイクル(BFR)を用いている。しかし Weisler 氏は、汚れた空気を犠牲にして川がきれいになるのかどうか、疑問を抱いている。「BFRのために潜在的に引き起こされる塩素化合物の燃焼によって、施設のボリューム増加の可能性と同じように、ダイオキシンやその他の有害な化合物の大気中への排出の増加が引き起こされていたのかもしれません。BFRへの切り替えは、黒液の燃焼をともなっており、それが空気の質の問題増加を引き起こしていたかもしれないのです。」と彼は説明する。

 

 研究者たちによると、アスファルト施設・製紙工場・下水処理場に関する他の研究では、職業上レベルでの硫化水素(上限10分間で100万分の10の濃度)にさらされることで、緊張感・躁病・痴呆・暴力が引き起こされえることが示されている。近辺の住民がさらされたよりも低いレベルで、脳内の化学物質が影響を受けるかどうか、さらなる研究で調査すべきであると Weisler 氏は考えている。

 

 Weisler 氏によれば、より優れた大気のモニタリング、そして漂白濾過液サイクルを用いることの再評価もまた必要であるという。研究の共著者であるデューク大学の Jonathan R.T. Davidson 博士はこう結論付ける。「自殺に対するもう一つの潜在的リスクを、この研究結果は示しているのかもしれません。ですがこのことは将来的な研究で確かめなくてはなりません。」

 

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 僕が気になるのは、1997年以降に増加した自殺率について、その増加した分に相当する人たちは、はたしてどんな理由で自殺を決めたのか? ということですね。それ次第で、汚染物質と自殺の関連性についての考察もかなり変わってきそうです。

 

 この記事を読むと、汚染物質が脳の化学物質のレベルを変えたことで精神的に不安定になって自殺する、というシナリオがなんとなく類推されるのですが、それ以外にもいろいろなシナリオが考えられる気もします。たとえば、1997年以降、汚染物質に由来する病気にかかる人が増加したために、結果的にそれに比例するかたちで病苦による自殺が増えた、という流れがあり得そう。いろいろな理由が考えられそうなだけに、なにかに特定するというのはすごく難しそうです。今後の調査にも期待。

 


 (参考:リンク先
にある、日本の自殺の原因・動機別状況を見てみると、想像していたよりも、病苦による自殺の率が高いということに気づかされます。日本のデータなので参考とするには不適切ですが・・。)

2005年11月23日

カラフルなシャボン玉

 シャボン玉

 Popular Science より。写真を見た瞬間にぐっとツボにきました。

 これはびっくり。色付きのシャボン玉です。
 ピンクやブルーやイエローやら、普通のシャボン玉では絶対にあり得ない色がついてます。
 しかも、服についてもちゃんと色が消えてくれるそうです。
 リンク先のページに実物のシャボン玉の写真があるので、ぜひこれは一度ご覧になってください。
 ああ、やってみたい。。。

The 11-Year Quest to Create Disappearing Colored Bubbles
(見えなくなる色付きシャボン玉を作る11年間の探求)
http://www.popsci.com/popsci/science/0a03b5108e097010vgnvcm1000004eecbccdrcrd.html

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 化学薬品のやけど、ダメになった洋服、11年間という年月、50万ドル――世界で最もポピュラーなおもちゃを改良するのは容易なことではない。しかし、1個のシャボン玉を着色しようという発明家の取り組みの成功は、この世の色の使い方を変えるかもしれない。

 Tim Kehoe は自分の白目を群青色に染めてしまった。彼はさらに、自分の顔、車、バスタブを数個、そして相当数の子供たちも染めてしまった。彼は自分の家族を避難させなければならなかった。家が有毒ガスで充満してしまったからだ。かつてのキッチンはみなダメにしてしまった。ミネソタ州セントポールの35歳の発明家 Kehoe 氏がこんなことをしたのも、ひとえに、彼が10年以上前から持っているアイデアを実現させる努力によるものである。実現はできないだろう、と繰り返し言われ続けてきたアイデアだ。色つきのシャボン玉である。

 いや、汚れのないシャボン玉を光がとらえたときに見える、虹色がゆらぐ効果のことではない。Kehoe 氏のシャボン玉は、球全体から単色のあざやかな色を発する――緑色のシャボン玉、オレンジのシャボン玉、ピンクのシャボン玉などだ。このシャボン玉は、CEOたちをクスクスと笑わせ、あ然とした母親たちを恐れおののかせる。シャボン玉とは透明なものだという考えに慣れているため、予期ができない。不自然なまでに美しいシャボン玉である。

 Kehoe 氏はこのようなシャボン玉を26歳のときに作った。わずかに2年間、調理場をめちゃめちゃにしたり薬品で火事を起こしたりした後のことだ。彼はこれを玩具会社の重役たちに見せた。重役たちはこれを「holy grail(聖杯)」と呼んだ。そしてシャボン玉の常であるようにそのシャボン玉も割れた。その際に、内部の染料が、洋服やカーペット、壁、肌に散りかかり、触れるものをみな汚していった。重役たちは彼に、重役室のテーブルを洗い落とせるシャボン玉を持って出直してくるよう告げた。

 9年後のことだった。その間の年月、Kehoe 氏は果てしない熱心さで、混ぜたり沸かせたり煎じたりを続けていたが、ほとんど成功しなかった。やがてある日、彼は頑固な粘り強さにより50万ドルの財政的支援を得た。染料化学者を雇うのに十分な額だった。一緒になって、彼らは Kehoe 氏の執念を、彼がかつて望んでいたよりもずっと驚くべき成果にまでのし上げた。可能とは誰も思わなかったというシンプルな理由ゆえ、この成果を予期していた者は誰ひとりいなかった。分かったのは、汚れをつけない色付きシャボン玉の秘密は、色の化学における革命の鍵をひらく染料だということである。色を消滅させることができればよいのである。

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 (記事の続きはリンク先をどうぞ。。)

2005年11月24日

吸血昆虫で血液採取

 New Scientist
より、こんなやり方が実際にあったんだー、と思ったニュースです。

 

 動物の血液がほしいのだけど、その動物を捕獲して採取するのがむずかしい、という状況があります。あるいは、捕獲することによってその動物に過度なストレスを与えてしまい、適切な血液の成分が調べられないという状況があります。

 

 そんな状況で役立つのが今回の手法だそうです。血を吸う昆虫をつかって、目的の動物の血液を吸わせる方法です。

 

Parasitic insects recruited to collect blood samples

(血液サンプルを収集するのに寄生虫が見出される)

http://www.newscientist.com/channel/life/mg18825266.000

 

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 ハイテクの注射器に最新の発見がおとずれた。Dipetalogaster maximus という吸血昆虫は、1回の食事で4ミリリットルの血液を採ることができる。供血者には麻酔が注入されるため何も感じない。

 

 ベルリンの野生生物研究協会(the Institute for Zoo and Wildlife Research)の Christian Voigt の手によって、昆虫たちは仕事にかりだされる。野生生物からの血液サンプルを手に入れる手段として彼はこの昆虫たちを飼っている。こうした動物は、他の方法でサンプルを集めるのが難しいのである。

 

 Voigt 氏はすでにこの手法を使って、巣作りをしているアジサシのストレスホルモンのレベルを、鳥たちを捕獲せずに測定した。(しかし、)これ自体が鳥たちにはストレスの多いことである。彼は、人工的な卵の中に昆虫たちを入れた。卵には昆虫たちの口先が通るのに十分な大きさの穴が開いており、この卵を鳥の巣に彼はそっと差し入れた。(Journal of Ornithology 誌, DOI: 10.1007/s10336-005-0027-3) 彼はまたこの手法を用いてコウモリの狂犬病感染を調査した。「他の方法では、生きたコウモリから血液サンプルを得ることはできません。」と彼は語る。

 

 Voigt 氏は針を挿入して昆虫の腹部からサンプルを回収する。彼が言うには、昆虫たちは、満腹のお腹を他の空腹な Dipetalogaster に刺されることに慣れているので、容易に回復する。

 

 虫が吸っている間に連続的に血液を回収することもでき、彼はこれを痛みのない注射器として効果的に使っている。そしてこの虫にはダニのような他の吸血動物にまさる大きな利点がある。「お腹いっぱいになったら、ベリーを摘むようにつまみとればよいのです。」

 

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 昆虫の身体から血液サンプルを回収っていうと、何となく映画の「ジュラシックパーク」を連想しますね。(恐竜の血を吸った蚊がそのまま琥珀に閉じ込められたのでしたっけ。)

 

 はじめにこの記事を読んだときの印象は、これってなんだかすごく風変わりな、まるで裏技のような方法だなあと感じたわけです。ですが、改めて考えてみると、対象の動物をつかまえて人工的な注射を差し込んで採取するという従来のやり方のほうが、よっぽど動物にとって不自然な方法だなあということに気付かされます。今回の昆虫たちは、吸血を生きる糧とする、いわばその道のエキスパートですね。

2005年11月26日

プリンタに秘密の暗号が?

 ABC Science Online
より。これって本当にそうなの? と信じられない記事。

 

 ふだんから僕たちは、プリンタやコピー機によくお世話になっています。

 言うまでもないですが、こうした機器のすばらしいところは、どんな文書であろうとも、一瞬のうちに同一のものを作ることができるという点です。

 ですが、もし僕たちの知らないうちに、印刷した文書にこっそりと秘密の暗号が埋め込まれているとしたら・・・、どうします?

 

 と、まるでスパイ映画にありそうなシチュエーションを書いてみたわけですが、どうやら、米国のプリンタやコピー機には、貨幣偽造の対策として、本当にこんなことをやっているものがあるらしいです。

 この記事によると、こうした機器で印刷された文字を拡大してよくよく見てみると、小さな点(ドット)の集まりの中に秘密の暗号が埋め込まれており、この暗号を解読すれば、その文書を印刷をした日や時間、あるいはその機器がどこで生産されたのか、といった情報が分かってしまうようです。

 

 

Secret printer code tracks users

(プリンタの秘密の暗号がユーザを追跡する)

http://www.abc.net.au/science/news/stories/s1490847.htm

 

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 いくらかのレーザープリンタから生み出される小さなドットが秘密の暗号となって、政府は偽造者を突き止めることが可能である、と新しい研究は結論付けている。これはプライバシー擁護者の反感を巻き起こしている。

 

 電子フロンティア財団(EFF)が言うには、最近、同財団の研究者たちが、小さな追跡(トラッキング)用のドットにひそむ暗号を解読した。

 

 米国の諜報部が公表するところによると、このトラッキングは、偽造者を特定するため、カラーレーザプリンタ製造業者数社との間で結んだ取り決めの一環であるという。

 

 「少なくともプリンタの1ラインからのドットに、文書が印刷された日時と、プリンタのシリアル番号がコード化されていることが分かりました。」とEFFの研究者 Seth Schoen は語る。

 

 黄色のドットは直径1ミリメートル以下であり、青い光線や拡大鏡、顕微鏡を使わないと見ることができないとEFFは述べている。

 

 諜報部の広報担当は、直接的にこの報告を確認することはしなかったが、政府機関が「偽造通貨の作製におけるプリンタ・コピー機の不法利用を阻止すべく、予防的な技術的対抗を行うよう他の政府機関や産業と協力して取り組んでいる」ことを認めている。

 

 この広報担当が言うには、これらは「通貨の複製に限定された特定のもの」であり、この動作は「個人のコンピュータのハードやソフトの利用を追跡・測定するものでは決してない」。

 

 プライバシー・言論の自由・技術的革新を促進するグループであるEFFは、たとえ偽造を止めることが目的だとしても、この動きにはプライバシーにとって厄介な意味合いがあると述べている。

 

 これと同一の情報をつかって、政府は反体制派を追跡することができるだろう、とEFFの広報担当は言う。

 

 「国際的に、反体制派が言うことや、反体制派を追跡することに高い関心を持つと思われる政府があります。」と広報担当は語る。そして、これは米国政府との協定のように思われるが、この暗号の解読が容易であるという事実は、他の政府が、同一の暗号を他の目的につかえることを意味している、と付け加える。

 

 「ヨーロッパからのページを試験したところ、これらには同一のコードがありました。」と Jeschke 氏は述べる。

 

 ゼロックス社の広報は、「セキュリティ上の理由のため」、同社は具体的な技術についてのコメントはしないと述べている。

 

 「ゼロックス社は、顧客に関わる情報を共有することを日常的にしていません。」と広報は語る。「私たちは、他の製造業者と同様に、政府捜査機関が求めてきた際には助力をしています。」

 

 この報告は厄介だと語るのは、プライバシー権利情報センターの Beth Givens である。

 

 「他にどんな秘密の追跡のしくみが世にあるのかという問いをはぐらかしています。」と彼女は語る。

 

 このシステムは、匿名でいられる基本的な権利をおびやかし得るものだと Givens 氏は言う。

 

 EFFの上席弁護士 Lee Tien は、政府はこの技術により反体制派を見つけるのが容易になるだろうと語る。

 

 「1980年代のロシアの地下出版のような、政治的・宗教的なパンフレット・小冊子を作成する秘密裏の民主主義運動は、単純な紙の文書にもつねに匿名性を必要とするでしょう。」と彼は言う。

 

 「さらに悪いことに、これは、政府と民間産業が、プリンタのような日常設備に妥協をほどこして私たちのプライバシーを弱めるという協定を、いかに秘密裏に行っているのかということを示しています。次に来る論理的な問いはこういうものです。技術が私たちを裏切ることを請け負うような協定に、他にどんなものがなされていたのか、あるいは今もなされているのか? という問いです。」

 

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 記事中には、この技術は「通貨の複製に限定された特定のもの」だと書かれてありますが、とはいっても、コピーしたものが貨幣だろうと普通の文書だろうと、おかまいなしにこうした情報が埋め込まれるような気がするのですが、どうなんでしょうか。もしそうだとすればとても危なっかしいものだと思うのですが。。

 

 時間がありそうなら、この人たちの資料をちゃんと見てみたいな。

 

2005年12月05日

酒は心臓病に効くわけではない

 そろそろ忘年会シーズンに突入ですね、ということで、今回はアルコールネタ。

 BBC NEWS
より。

 

 思うに、アルコールに関する話題というのは、特にそれが酒飲みにとって都合のよいものであればあるほど、速いスピードで広まっていくんじゃないでしょうかね?

 もちろんその理由はいうまでもなく、正当化を推し進めたくなる酔いの気分にあるわけですが。。

 

 そういう意味では、今回の情報は、お酒の場での話題としてはあまり広まりにくいものかもしれません。

 

Alcohol's health benefits doubted

(アルコールの健康への利益に疑い)

http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/4491314.stm

 

 

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 適度なアルコール摂取が心臓にもたらす利益よりも、損害のほうが勝っているだろう、と研究者たちは述べている。

 

 The Lancet 誌に掲載された発見が示唆するところによると、1日にグラス1~2杯のワインを飲むというのは、そんなにはよい考えではないかもしれない。

 

 過去の研究では心臓に対するメリットがいくつか示されているが、ニュージーランドのチームによれば、この研究には不備があると言う。

 

 実際、飲酒が多いほど心臓の防御が高いことを示す証拠のほうが多い、と彼らは語る――アルコール依存者は、比較的「きれいな」動脈を持っているというのだ。

 

 しかしながら、この例ではその他のリスクのほうが利益をはっきりと上回っている。研究主任であるオークランド大学の Rod Jackson 博士と彼のチームはこう言う。「軽度から適度の飲酒から得られる冠状動脈の保護はきわめて小さく、損失を上回るということはないでしょう。」

 

 「適度から重度の飲酒は、おそらく冠状動脈を保護しますが、既知の悪影響のほうが利益を上回るでしょう。」

 

 「もしそうならば、公にむけた健康上のメッセージははっきりしています。アルコールの健康上の利益は損失よりも大きいという窓口を仮定してはならないということです。うまい話はおそらくはないのです。」

 

 1970年代と1980年代に発表された様々な研究によれば、アルコールは、適度であれば心臓にとってよいものだろうと示唆されている。

 

■ 祝祭の酒はOK

 

 これらの初期の所見は、さまざまな研究からの知見を足し合わせて立証されたものだった。これらの研究では、心臓病のリスクの20%~25%の減少が、軽程度の飲酒と関連していることを示していた。

 

 しかし Jackson 博士のチームはこう語る。アルコール消費量よりもその他の要因のほうがこの知見に大きく効いているわけではないということは、この研究がなされたやり方では確実には言い切れないのである。

 

 イギリス心臓病支援基金のリーダーである Belinda Linden はこう語る。「このことが意味するのは、軽度から適度のアルコール消費は、冠状動脈性の心臓病に対してほんのわずかの予防しかもたらさない一方で、適度から重度の飲酒による利益は、アルコールがもらたしえる損害全体がこれを上回るだろうということです。」

 

 「朗報なのは、特に祭りの期間中など、適度であればアルコールを楽しむことはなおできるということです。軽度から適度のアルコール消費がじっさいに心臓に害をおよぼすことを指し示す証拠はないのです。しかしながら過度の深酒が健康に好ましくない影響をおよぼすのは違いありません。」

 

 「私たちは人々に、特に心臓の保護のために飲酒を始めるのを勧めるべきでありません。もっと安全な選択の余地があるのですから。」

 

 「私たちのアドバイスに変わりはありません――心臓病のリスクを下げる最良の方法は、タバコを吸うのであれば禁煙すること、運動レベルを上げること、ヘルシーでバランスのとれた食生活をすることです。」

 

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 記事中にも繰り返し書かれてありますが、今回の研究が言っているのは、「適度な飲酒は心臓にとってプラスではない」ということであって、決してマイナスだと言い切ってるわけではない、と理解しておかないといけません。

 

 じゃあ実際はどうなのか? という問いについては、答えは定かではないけど、現状そういう証拠はとくに出ていない(のでたぶん大丈夫だろう)ということですね。

2005年12月10日

高さ1kmのビル建設が計画される

 New Scientist
より、建築のニュース。

 1000メートルというと、単純にみて東京タワーの高さの3倍。

 間近で見たときの衝撃はどんなものなんでしょう・・?

 

Architects plan kilometre-high skyscraper

(建築家はキロメートル級の超高層ビルを計画している)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8445

 

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 英国の建築家によって、キロメートルの高さの超高層ビルの青写真が描かれた。彼はクウェートにて依頼されたこの建築物で、記録を破りたいと思っている。

 

 1001メートルというこの巨大なタワーは、現在の世界最高である台湾の台北101(509メートル)の高さのほぼ2倍である。この新たな建物ができれば、ドバイで建築中にある建物のバージュ・アルアラブ(2008年にいったん完成し、700~800メートルの高さになると予期される)も小さく見えることだろう。

 

 英国ロンドンに拠点を置く建築会社であるエリック・キューネ・アソシエイツ社がこの超高層ビルの計画を立案した。この設計はまだ公表されていないが、同社はクウェート政府と建設について協議中であると報じられている。

 

 代表者たちは Architects' Journal 誌に述べたところによると、クゥエート政府は、マディーナト・アルヘイリアという都市か、あるいは「絹の都市」への建築の依頼を考えている。この超高層ビルは7000人が収容可能だが(訳注:7万人の間違い?)、建設に推定840億ポンド、完成に25年かかるという。(訳注:bn. = billion は、米国では10億、英国では1兆と訳すそうですが、この場合はどちらが正しいのでしょう・・? ひとまず上は10億で翻訳。約17兆円。)

 

■ 3階建てエレベータ

 

 英国のエンジニアリング会社であるアラップ社の超高層ビル専門家である Mohsen Zikri は、このようなきわめて高い建物は、設計者にとって並ならぬ課題をもたらすだろうと語る。たとえば、効率的に人々を上下できるだけのエレベータ(リフト)を組み込むというのは困難なことだろう。

 

 「建物が高くなるにつれたくさんのエレベータが必要になりますが、それにより建物の中心部(のスペース)を消費するのです。」と Zikri 氏は New Scientist 誌に語った。従来のエレベータではなく、2階建てエレベータや、場合によっては3階建てエレベータを使うことでこれを解決できるかもしれない、と彼は語る。

 

 Zikri 氏によれば、その他の問題に、建物の最上部で風によって引き起こされる動きを制御できるようにすることがある。いくらかの超高層ビルでは、振り子のようなカウンターウェイト(釣り合いおもり)を建築物の最上部に組み入れ、横の動きを弱めることで管理している。

 

 またこのような背の高い建物の設計では、周辺の風が回転するのを防がないといけない。地上で強力な渦を発生させるからだ。最後に Zikri 氏は、建設作業は、物流上の大規模な難問を課すであろうと述べた。

 

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 いろいろ調べてみると、日本でもバブル期に、1000メートル級のビルの計画が提出されていたそうですね。技術的な問題が山積みだということはこの記事でも書かれてあるとおりですが、それ以上に決定的なのは、やはり採算性の問題のようです。

 

 今回の記事で初めて2階建てエレベータというものの存在を知りました。すでに台北101で稼動しているようで、文字通り、2階分のスペースがそのまま上下するそうです。複数のエレベータの位置をムダがないようにコントロールするというのはすごく難しい問題だと聞きますが(知人の卒論テーマがそれでした)、複数階となると、さらに段違いで難しい問題になるのでしょうね。

 

2005年12月18日

宇宙科学のために女性たちはベッドへゆく

 BBC News
より。

 なんだか読むだけで頭に血が昇ってしまいそうな実験です。

 

Women go to bed for space science?

(宇宙科学のために女性たちはベッドへゆく)

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/4526132.stm

 

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 12名の女性が、足を頭よりも高くしたままベッドの中で2ヶ月間を過ごした――すべては科学の名においてである。この実験は、無重力状態の効果を再現するよう設計され、フランスの欧州宇宙機関によって実施された。

 

 スイス・スコットランド・フィンランド・フランスからのボランティアの女性たちは、6度の角度で後ろに傾けられ、ベッドの中で毎日のあらゆる活動を行わなければならなかった。

 

 現在は最終テストを終えて元に戻り、この女性たちは、将来の女性宇宙飛行士の助けとなったことに誇りを感じていると述べている。

 

 欧州宇宙機関(ESA)は、この研究の結果は、宇宙の任務がさらに進んだものとなり、長期間にわたるようになるにつれて起こり得る医学的問題を、科学者が予期するための助けとなるだろうと望んでいる。

 

 女性たちは180以上のテストを受け、11月30日にベッドから出られるようになるまで、定常的なビデオによる精査を受け続けた。

 

 彼女たちは3つのグループに分かれ、1つは特別な規定食を食べ、1つはある筋肉運動を行い、他は対象群として利用された。

 

■ 「幼年期の夢」

 

 60日の「ベッド療養」の間、彼女たちは、本・テレビ・音楽・インターネットアクセスが許されていたが、直接の接触は医療スタッフとのみだった。

 

 フランスのツールーズのMEDES医療研究センターで計101日間生活した後で(これにはベッド療養の終わりの3週間も含まれる)、彼女たちのリハビリテーションは来週に終わることになっている。

 

 医師たちが予期することには、物理的な影響には、顔のむくみ・鼻づまり・痛みやうずき・筋肉の損失・骨質量の減少が含まれるであろうという。

 

 ボランティアたちは25歳~40歳におよび、健康で、英語またはフランス語に流暢であり、参加に対して15200ユーロ(約210万円)が支払われた。

 

 Stephanie Gacher(31)は、記者会見で、宇宙に行くという幼年期の夢が手の届く距離に来ていることに「誇りを感じる」と述べた。

 

 AFP通信社の引用によると、Martine Riou は、「将来の女性宇宙飛行士に自分の一部を差し上げたのです。」と語った。

 

 他の12名のグループは、今年の初めにベッド療養の期間を完了させた。

 

 11カ国からの12の科学チームがこの研究に関わっている。来年度にはこれらの発見が公表され始めることだろう。

 

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 こういう実験っておそらくはとても重要なんでしょうね。そういえば前に日本でもいくつかこれに似たような実験をしているのを聞いた記憶があります。たとえば、

  1.20分寝て40分起きる、を3日間繰り返す。

だったり、あるいは別の実験では、

  2.窓のない室内で外界から隔離され4週間生活する。

ということをやっていました。たしか体内のリズムの変化を調べる実験だったはず。

 さらにここに今回のを加えて、

  3.ベッドで寝たままの体勢で2ヶ月生活する。本・音楽・ネットやり放題。

ちょっとした「究極の選択」みたいになりますね(笑)。3つのうち、やるならどれ? みたいな感じです。僕なら1番かなぁ。

 

 たぶん日本の実験では、学生のバイトを雇って実験したものと思うのですが、今回の記事の場合、被験者が自分の役割を意識しながら実験に臨んでいるというのが印象的ですね。

2005年12月24日

左右対称なダンサーはより魅力的

 ABC Science Online より。

ダンス

 よく美容整形の広告で、シンメトリー(左右対称)な顔に変わりましょう、みたいな宣伝を目にすることがあります。
 人間は左右対称な顔や身体に魅力を感じるようですが、今回の記事では、ダンスの動きの対称性が人をひきつけているかもしれないことが分かったようです。

Symmetrical dancers are spunkier
左右対称なダンサーはより魅力的
http://www.abc.net.au/science/news/stories/s1491192.htm

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 新しい研究によると、ダンスを踊ることは、ある人の身体がどれぐらい左右対称かを示しており、最も頼りになる相方として選ばれるうえで利点を与えてくれるかもしれない。

 ニュージャージー州ラトガース大学の人類進化学センターの William Brown 博士率いるチームは、Nature 誌の本日の号にこの発見を報告する。

 この研究者たちは、ダンスの能力が対称性と関係があるかどうか調べるために、183名のジャマイカ人のティーンエイジャーたちが、同じポピュラー曲で1分間のダンスをする動きを撮影した。

 ダンスをする人の動きを再現するコンピュータアニメの人物像を作るために、彼らはモーションキャプチャの技術を用いた。

 顔が見えず中性的な人物としてコンピュータ処理されたダンスの像は、ダンスをした人の知人たち155名に示された。だれ一人、見ている個人を認識できず、そのため外見やなじみの深さに影響を受けることはなかった。

 ダンスしている人の対称性は、肘・手首・ひざ・足首・脚・耳・中指・薬指・小指をそれぞれマッチさせることによって評価された。

 そしてその結果は、左右対称の男女が、非対称な人々に圧勝した。

■ ベストダンサーは最も左右対称

 女性たちは、左右対称な男性によるダンスを圧倒的に好み、それだけでなく、男性たちは、女性ほど強い関係ではないものの、左右対称な女性によるダンスを好んだ。

 「父親の子孫への投資が母親より少ない種では、男性をえらぶ際に、女性はより選択的になる傾向があり、それゆえに男性はより求愛行動に投資をするのです。」と Brown 氏は語る。

 「人間を対象にした私たちの結果はこの予測と相互に関連があるのです。左右対称な男ほど見栄えがよく、女はそれに注目するのです。」

 対称性と性とダンス能力には重要な相互作用がある、とこの研究者たちは語る。

 「左右対称な男性は、非対称な男性よりもずっとダンスがうまいと評価されました。ダンス能力の分散の48%を占めたのです。」

 「左右対称な女性は、非対称な女性よりもずっとダンスがうまかったにも関わらず、女性の対称性は、ダンス能力の23%しか占めませんでした。」と彼らは付け加える。(訳注:ちょっとこのへん意味分からず。)

 しかし彼らは、対称性がなぜそれほどに重要なのかまでは述べず、さらなる研究が必要だと言った。

 「よりリズミカルだったり、よりエネルギッシュだったり、よりエネルギーの効率がよかったり、あるいはこうした要素の組み合わせだったり、魅力的なダンスは踊るのが難しいのかもしれません。」と彼らは言う。

 「ダンスの能力は生殖上の成功と関係があるのでしょうか? 私たちは、同じ人々からの長期間にわたるデータをもとに、この問いに取り掛かる予定です。」

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 男性が女性を選ぶときのほうが、選び方に特徴が出ないっていうのは理解できますね。子孫を残すときに、男性は出すものさえ出してしまえばそれで終了ですが、一方で、女性は出産までのあいだ自分の身体に子供を身ごもるため、遺伝子的に相性の良くない男性が相手だと、流産の可能性が高まり、ひいては自分の身も危険にさらされる。よって男性は極端にいえば「女性なら誰でもいい」し、女性は「生理的に受け付けない」男性のタイプがあるし、男性の見きわめに大きな注意を払おうとする、ということを聞いたことがあるのですが、どこで聞いたか忘れてしまったうえに、どのぐらい一般に認められていることなのか知りません。どうなんでしょう。

 今回の実験は、ジャマイカ人を被験者に選んだようですが、別の国の人だとどういう結果になるのかな、というのは当然気になるところですね。やっぱりダンスの種類によって、ある程度の傾向が分かれたりするんでしょうか?

2005年12月25日

背の低いグラスだと飲みすぎに?


 ABC News より、忘年会シーズン真っ盛りの方へのニュース。

 シャンパングラスやハイボールグラスのようなほっそりとしたグラスと、マティーニグラスや水割りグラスのようなずんぐりしたグラス。これらのグラスに酒を注ぐとき、後者のグラスには、ついつい多めに注いでしまうという傾向があるようです。

 背の低いグラスで飲むお酒といえば、ウイスキーやバーボンなど、アルコール度数のとっても高いものばかりですね。度数がキツいだけでなく、多めに注がれる可能性が高いという、まさにダブルパンチのお酒だと言うわけです。反対に、背の高いグラスで飲むことの多いお酒、たとえばリキュールを先に入れてソフトドリンクで薄めて作るようなタイプのカクテルなんかは、間違って薄すぎになる可能性が小さいということですね。こうした傾向にはなんだか皮肉すら感じます;

Watching What You Drink? Check Your Glass
ちゃんと飲みものを見てる? グラスを確認。
http://abcnews.go.com/Health/wireStory?id=1438636&CMP=OTC-RSSFeeds0312

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タンブラー
 休日のアルコールを目いっぱい楽しみたいだろうか? もしそうなら、バーテンダーがどんな種類のグラスに手を伸ばしたかに注意を払おう。

 BMJ誌(以前は British Medical Journal 誌)に金曜に掲載された研究によると、背が高くほっそりしたグラスと比べて、背が低く幅の広いグラスは、熟達したバーテンダーでもうっかり多く注いでしまう傾向にあるという。

 これが意味するのは、スクワットタンブラー2杯の酒は、実際には2と1/2杯分の効き目があるかもしれないということである。そのため、飲酒に気をつかう人は、マティーニグラスでなく、かわりにハイボールグラスで頼みたがるかもしれない。

 「『まあ、バーテンダーは自分が何をしてるか知っているよ。』と人々は言います。なるほど、ほとんどの場合は、バーテンダーは自分が何をしているか知っています。ですが、彼はこうした幻覚の餌食となってしまうのです。」と語るのは、指導的立案者である、コーネル大学のマーケティングの教授 Brian Wansink である。

マティーニグラス  Wansick 氏は、容器の形にもとづく体積の誤判断を引き起こす、いわゆる量のゆがみの幻覚を、トレーニングによって修正することができるかどうかを見出したいと考えている。

 研究者たちは、イリノイ大学アーバナシャンペーン校の198名の学生を募り、ボトルから1と1/2オンス(訳注:約42グラム)の酒を2種類のグラスに注いでもらった。背の高く細いグラスと、背の低く幅の広いグラスだ。学生たちは、背の高いグラスよりも、ずんぐりしたグラスのほうに30パーセント多い量を注いだ。学生の中には、練習で10回注いだ後ですら誤判断した者もいた。

 熟練したバーテンダーはわずかに良い結果だった。フィラデルフィアの86名のバーテンダーは、忙しく働いている最中、酒を注ぐよう頼まれると、背の低いグラスに20パーセント多い目に注いだ。タスクに念入りな注意を払うよう頼まれたバーテンダーは、目標よりわずかに多かった。

 訓練や集中や経験は、この「背の低いグラスに多く注いでしまう」効果をほんのわずかしか減らさないと Wansick 氏は結論付けた。

 この余分のアルコールは積み重なる。1杯ごとに25パーセント多いアルコールを摂るということは、1時間にカクテルは1杯だけ、を守ろうとしているバーの常連客やパーティ好きの計算を歪めるかもしれない。

 この効果は疫学的な研究をも歪めるかもしれない、と Wansick 氏は語る。グラスあたりのアルコール消費量が25パーセント誤って表示されるかもしれないからだ。もしバーテンダーが自分の注ぐ量について寛大すぎるのであれば、バーやレストランにとっての金銭的なかかわりについては言うまでもない。

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 これは何となく実感のわく結果です。

 自身の経験から憶測してみると、グラスの底面積が正確に見積もれていないのが影響してるかなと感じます。ふつう、体積は「底面積×高さ」です。底面積は「縦×横」なので、もしグラスの底の半径が2倍違えば、底面積の違いは4倍です。だから当然、両者の違いを補うためには、底が狭いほうの水面の高さを、広いほうの4倍にしないといけません。ですが、実際の気持ちの上では、底面積の比は半径比を2乗したものだ、ということがどうもすんなり理解できず、ついつい、長さの比による判断のほうに頼ってしまうと。人間は、長さと比べて、面積を直感的に評価するということが実は苦手なのかもしれないなあ・・・、と勝手ながら推測してみました。

2005年12月31日

二日酔いの治療法を追え

 忘年会シーズン真っ盛りですね、という挨拶はもう抜きにして、また本日もアルコールネタです。New Scientist より。

 

Hunting a cure for the holiday hangovers

(休日の二日酔いの治療法を追う)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8511

 

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 ずきずきする頭痛、吐き気、からからの口、部屋が回っているようなうんざりした揺れる目まい――昨晩は少し飲みすぎてしまったのかな、と感じながらの目覚めだ。二日酔いは楽しいものではないが、「迎え酒(さらにアルコールを摂ること)」という勧めから、冷たいピザにいたるまで、たくさんの「治療法」というものが存在する。しかしこれらは科学的な解析の対象になったことはほとんどなかった。真の治療法は存在するのだろうか?

 

 訳してて初めて知りましたが、迎え酒って英語で "hair of the dog" と言うんですね。かみついた犬の尾の毛で狂犬病が治るという迷信からだそうです。

 

 英国のエクセター・プリマス大学ペニンシュラ医学部の研究者たちは、アルコールの二日酔いを防いだり治療したりすることに対する医学的介入のランダム化比較試験について、医療データベースやインターネットを検索し、また専門家や製造業者にコンタクトをとった。

 

 彼らは8つの異なる動因をテストする8個の試験を見つけ出した。プロプラノロール (ベータ遮断薬)、トロピセトロン(吐き気・目まいの薬)、トルフェナム酸(痛み止め)、果糖やブドウ糖、栄養補助食品のルリヂサ、チョウチンアゼミ、ヒラウチワサボテン、イーストベースの調合剤である。

 

 試験の多数は有益な効果を示さなかったが、3つの試験――ルリヂサから抽出したリノレン酸、イーストベースの調合剤、トルフェナミック酸――は、「わずかながらいくらかの効果を示しました。確実と言い切るには時期尚早ですが。」と、この研究を実施した Edzard Ernst は言う。

 

 「テストした治療法が広範囲にわたることから、二日酔いの背後にはどんなメカニズムがあるかという理解には不足があるということが分かります。」と彼は付け加える。

 

 Ernst 氏は、治療法が見つかるのは疑わしいと思うと述べたうえで、これを見つけるうえで道義的な問題があることを指摘した。「無害だと思うゆえに、より多くのアルコールを摂ろうとしかねないのです。」

 

 「二日酔いによって、自然はあなたに、アルコールは良くないと伝えているのです。」と彼は述べ、こう付け加えた。「二日酔いの症状を避けるもっとも効果的な方法とは、禁酒と節制を実践することです。」

 

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 まあ、最後のはごもっとも、という感じですね。

 即効果のある対処というのは、今のところはどうやら可能性が低いようです。

 

 僕の数々の不幸な個人的体験から思うのは、二日酔いというのは、翌朝にどうこう対処するものではなく、前日の寝る前の対応がすべてだろうなと感じるわけです。だいたいの場合、「こりゃ明日は二日酔いだろうな」というのは自覚できてると思うので、そうなったときは、・身体を冷やさない、・テンションを上げる、・鼻腔を広げる、・吐けるときは吐く、 などの対処で何とかなってます。

2006年01月20日

メッカ巡礼者の事故を防げ

 最近はライブドア関係のニュースがすっかりテレビを埋め尽くしていますが、その少し前に、かなり衝撃的なニュースが伝えられていました。
 「メッカ巡礼者が将棋倒し、死者少なくとも345人」(ロイター)
 この見出しに思わず自分の眼を疑った方も多いのでは。
 
 過去にも同様の被害が出ており、年々その対策が強化されていたようですが、今回の悲劇は、補修工事を行うわずか数日に発生したとのことです。
 
 以下は、New Scientist より、今回の事故と対策についての記事です。
 なお、訳文中にでてくる「ハッジ」とは、ムスリムが実践するメッカ大巡礼のことを指す言葉だそうです。
 
Hajj crowd-pressure must be eased to avoid tragedy
(メッカ巡礼者の群集の圧力は、悲劇を避けるため緩和されるに違いない)http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8583
 
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 構造の再設計や細かな群集管理技術によって、ハッジ巡礼者の投石儀式でのさらなる悲劇のリスクを減らすことができるかもしれない、と専門家は述べている。
 
 木曜日、サウジアラビアのミナにて、悪魔を象徴した3本の塔に到達しようと巡礼者が殺到して、362名が死亡した。メッカの真東にあたるミナには、ハッジ巡礼のために250万人の人々が集結していた。
 
 100万人を超える巡礼者が礼拝時間後に塔に集まるため、投石の儀式は特に危険である。3本の塔のうちの1本に石を当てようとして、前方にいる巡礼者たちは互いに押し合うだろう。
 
 当局によると、木曜日のこの悲劇は、巡礼者たちがジャマラート橋(塔に接近できる上階)の入口に置かれた荷物につまずいたことにより起こったものであると言う。後方にいた人々が前へ殺到したため、倒れた人々は押し潰されて圧死した。
 
 しかし専門家たちは、この絶大なスケールの投石儀式には本質的に危険があると述べている。「きつく押し込められた空間にそれほど多くの人がいれば、事故が起こるリスクや可能性はきわめて高くなります。」と語るのは、英国の会社クラウド・ダイナミクス社の群衆行動の専門家である Keith Still である。「やれることには限界があるのです。」
 
 1990年には、この地に通じるトンネルの中で1462名が圧死し、2004年には圧死により251名の人々が死に至った。同様の事故は1997年と1998年にも発生した。
 
■ 橋渡し
 
 過去数十年の間、専門家たちは圧死事故のリスクを減らすためいくつかの方策を取り入れてきた。群集制御の助力とするべく、2004年には防壁と案内係、巨大なビデオスクリーンが導入された。
 
 しかし、この悲劇は、圧死事故のリスク低下のための主要な修復工事の開始が予定されていたほんの数日前に起こっている。現在の2段構成の構造は5階建てに置き換わることになっており、より多くの巡礼者が同時に塔に近づくことが可能になる。
 
 一説によると、これにより塔の周りの圧力が劇的に減少するだろうという。「人数を減らし、空間を増やすことが可能になるのです。」と語るのは、英国グリーンウィッチ大学の緊急状態のモデリングの専門家 Ed Galea である。
 
 足元の地形を微妙に変えることによっても圧死事故のリスクを減らせるだろうと Galea 氏は付け加える。「急な動きは避けつつも、正しい人の流れを保つのがよいです。」と彼は New Scientist 誌に述べた。
 
 しかし Still 氏と Galea 氏は、巡礼者にリスクについて教えることも、さらなる悲劇を避けることに大きく依存してくるだろうと述べている。「本当に必要な措置は、行動上の変化です。もちろんこれは一晩で可能な代物ではありません。」(Still)
 
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 群集行動の制御を専門にしている会社があるんですね。。歩行者通路や避難経路の設計をやっているようです。資料が充実していてかなり面白そうなページです。
 
【参考リンク】クラウド・ダイナミクス社 :http://www.crowddynamics.com/

2006年01月28日

虫から作る食品着色料

 ABC News
より。記事自体はそれほどユニークというわけではないですが、この記事で初めてコチニールという着色料を知ったのでご紹介。

 

 「コチニール」とか「カーマイン」という名称で、日本でもよく知られ広く使われている着色料があります。

 僕は今まで全く知らなかったのですが、この着色料、なんと、昆虫を使って作られるのだそうです。

 

 日本では厚生省により安全性と有効性が確認された「指定添加物」として、ラベルに記載することが義務付けれられていますが、この記事によるとどうやら米国ではこれまでそうではなかったようです。以下は、米国で今回新たにこの着色料の表示義務が課されるかもしれないという記事です。

 

Beetlejuice: Using Bugs as Food Dye Is Legal and Common

(ビートルジュース:食品の着色に昆虫を用いることは合法かつ一般的)

http://abcnews.go.com/Health/story?id=1549583

 

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 「ビートルジュース」とは、単なる映画の名前ではない――食品製造業者は、特定のヨーグルトやジュース、キャンデーなどの食品を着色するために、砕いたメスのコチニールビートルを日常的に用いている、と本日の The Wall Street Journal 誌はレポートした。(訳注:ビートルジュースという題の映画があるそうです。これ
。)

 

 ショッキングなことだがこれは完全に合法である、と当誌は伝えている。食品製造業者は、昆虫をベースにした含有物を記載しなくともよい。昆虫は自然の一部だからだ。記載しなければならないのは、FD&C Red No. 40 のような人口の着色料だけだ。

 

 しかしこれはじきに変わるかもしれない。食品医薬品局(FDA)は、業者に対してコチニールビートルの添加物を「カーマイン(カーミン)」あるいは「コチニール」として記載するよう推奨することになるかもしれない。

 

 なぜだろうか? 菜食主義者や、清浄を保とうとする人々、ある種の食品にアレルギーのある人々にとって、食品にコチニールビートルを用いることは問題があると分かったからである。

 

 公共の健康の支援運動団体であるアメリカ公益科学センター(Center for Science in the Public Interest)は、FDAに対し、人々の食習慣に対立したりアレルギーを引き起こしたりするような含有物をもっとはっきりと記載するため、食品表示の必要条件を変更するよう長く要求してきている。

 

 そのウェブサイトにはこう述べられている。「コチニール抽出物とは、ペルーやカナリー島などのサボテンのプラントに住む、コチニールビートルの卵から抽出された着色剤です。・・・ これらの着色剤はアレルギー反応を引き起こすことがあり、その範囲はじんましんから生命を脅かすアナフィラキシーショックにまで及びます。」

 

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  知識の泉 Haru’s トリビア
赤色の食品に注意を!!・・・コチニール色素の裏話
によると、カンパリ、かまぼこ、ソーセージ、シャネルの口紅、ファイブミニ、いちごミルクなどなど、本当に多くの場面で使われているようですね。

2006年01月29日

ウソを見破るアルゴリズム

 New Scientist より。コンピュータで人のつくウソを見破ろうとする試みです。
 
Algorithm detects Canadian politicians' spin
(アルゴリズムでカナダの政治家のスピンを見破る)
http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8615
 
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 この十余年でもっとも猛烈な争いとなるカナダの選挙が月曜日に行われ、現職の首相と保守党の候補者との間で、政治弁論の激しいやりとりが熱を帯びてきている――しかし、より信頼できるのはどちらの方なのだろうか。
 
 新しいコンピュータアルゴリズムによると、自由党の首相 Paul Martin は、保守党の指導者 Stephen Harper や新民主党の指導者 Jack Layton よりも、ずばぬけて演説の主題を「スピン」させているという。
 
 「スピン」というのは、この場合、「一見したところの意味が、話し手や書き手の真意と異なるようなテキストやスピーチ」と定義される、と、このアルゴリズムの開発者であるカナダ・オンタリオのクイーンズ大学 David Skillicorn は語る。(訳注:一般的に、情報を都合よく選んでごまかし、自分に有利なように操作し広めることをスピンと呼ぶそうです。)
 
 彼のチームは、政治的指導者の最近の選挙演説の文章のなかから、ごまかしに関わりのある88個の単語の使用パターンを分析した。それぞれの演説中でのこれらのパターンの頻度を測定し、全候補者の演説についてその数の平均をとった。Martin 氏は124のランクを得た。Harper 氏と Layton 氏はそれぞれ73と88のスコアだった。
 
 「力のある政党は、挑戦的な政党よりも、スピンを行おうとするのだろうと思います。」と Skillicorn 氏は語る。「彼らには守るべき業績があるのです。」
 
■ 傷のついた経歴
 
 自由党には、カナダの与党として14年間地位を保ってきたという長い経歴があるが、この一年は、不法な寄付やリベートの告発により、その経歴に傷がついてしまっている。多くの政治専門家たちは、投票で確実にリードし、この選挙で自由党を失脚させるような保守派の登場を予期している。
 
 「タップダンスの一番うまい人が、スポットライトの下にいる人なのです。」と語るのは、世論調査会社イプソス・レイド社の上席副社長 John Wright である。「プレッシャーが指し示すことでしょう。」
 
 Jason Kenney のような保守派議員は、自分たちの指導者が誠実であることの証明だとしてこの分析を見ている。「彼(Harper)は退屈な人だと世の人々は思っていたが、今やスピンのない真っ正直な人間だと認識されます。」
 
 しかし自由党の広報 Ken Polk は同意しない。「アルゴリズムがそんなことを示したのなら、そのアルゴリズムにはかなりの研究が必要です。」と彼は言う。
 
■ 尋問者の戦略
 
 そのコンピュータアルゴリズムは、米国・オースティンのテキサス大学の James Pennebaker により構築された心理学的モデルに基づいている。数百人の被験者が話すウソと真実とを研究し、ごまかしに関連のあるパターンを明らかにした。たとえば、第一人称代名詞(I, we, me, us など)や、例外的な言葉(however や unless など)の使用が減少することなどである。
 
 このパターンはおそらく、相手が本当のことを言ってないときに尋問者が利用するような肉体的合図(瞳孔拡大や呼吸の変化など)とまさに同じように、潜在意識に由来するものであると彼は言う。
 
 Skillicorn 氏はこの技術を、首相演説に適用することを決めた。その前に、エンロン社の経営幹部たちが、2001年の同社の悪名高い倒産の以前に取り交わしていたeメールのテキストを調査するのにこの技術を使うつもりでいる。
 
 このアルゴリズムはいまだ改良作業中であると彼は認めるが、「この差分で、結果はかなりよくなると思います。」と言う。

 
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 ちなみに実際の選挙の結果はどうだったかというと、上記記事で正直者と評されていた Harper 氏ひきいる保守党の勝利だったそうです。(From:カナダローカルニュース総選挙、保守党勝利、ハーパー少数政権誕生
 
 ところで、ウソをつくときの発言に第一人称の単語が少なくなる傾向があるというのは初めて知りました。おもしろい。クイーンズ大学のウェブサイト(ここ)に Skillicorn さんの論文が置いてありました(これ:pdf)。論文によると、一人称の単語を使わないようにする背景には、発言から自分を乖離させようとする意図が働いているとのこと。さらに、however や unless などの表現が少なくなる背景には、「作り話」を首尾一貫させるためにできるだけ難しくない文章を好む気持ちがあるようです。
 
 リンク先の論文中には、この他にも、ウソをつくときの傾向が挙げられています。どうやら「ネガティブな感情を表す言葉」や「動作動詞」が多くなるそうですが・・・本当なんですかねえ。

 このアルゴリズムで、怪しい発言に潜むウソも見抜けるかも・・?

2006年02月03日

科学者の子供は自閉症になりやすい

 BBC NEWS
より。

 

 自閉症という障害は、たんなる気持ちの持ちようという問題ではなく、生まれつきの脳の障害なのだという認識がすでに常識として広く知られています。さらに、この障害には遺伝的な要因があるということも、まず間違いないこととして一般に考えられています。

 

 さて、今回の記事によると、科学者のような分析力に富んだ人々からは、自閉症をもつ子供が生まれる可能性が高くなっているそうです。

 

 本記事中に挙げられた数々の実験結果をみてみると、自閉症の原因を突き止めることって本当に難しい問題なんだなあ、とつくづく感じます。

 

Scientific brain linked to autism?

(科学的な脳は自閉症と関連がある)

http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4661402.stm

 

(BBC NEWS の記事って訳すの本当に難しい・・)

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 専門家たちが議論するところによると、たとえば科学者のような物事をよく分析するような夫妻からは、自閉症の子供が生まれる可能性が高いという。

 

 この現象は、診断における近年の自閉症の増加を説明する手がかりとなるかもしれない、とケンブリッジ大学の Simon Baron-Cohen 教授は語る。

 

 物事をいくらか分析的に考えるような遺伝子は、一方で社会的・コミュニケーション的なスキルを損なっているのかもしれないと彼は考えている。

 

 この分野に弱みがあるということは、自閉症の主要な特徴である。

 

 およそ100人に1人の子供が自閉症の形態を持っていると考えられている。患っているうちの大多数が少年である。

 

 診断者数は増加しているように見えるが、これはただ単に、自閉症の状況に気付いた数が増していることが理由であると考えている人もいる。

 

 Archives of Disease of Childhood 誌に掲載された論文の中で、Baron-Cohen 教授は、科学者や数学者、技術者のような人々を「システム化屋」と名づけている。

 

 システム化屋はシステムを分析することに熟達している――それは自動車だったり数学の方程式だったりするが――それらがどのように動作するかを解明する。

 

 しかしまた彼らは生活の社会的方面に関心を払わない傾向にあり、些細なことにとりつかれたような振る舞いを示すことがある。自閉症に関わりのある典型的な特性だ。

 

■ 一連の証拠

 

 Baron-Cohen 教授は、システム化屋はたびたび互いに引かれあうと考えている――そしてこうして子孫に「自閉症」の遺伝子を受け渡しやすくなるのだという。

 

 全英自閉症協会のメンバー1000名を調査した結果を彼は引用している。この調査によると、自閉症スペクトラムの状態にある子供をもつ父親と祖父は、システム化の職業に就く割合が2倍であることが分かったという。(訳注:この調査の論文はこれ:pdf

 

 加えて、自然科学の学生は、自閉症の身内の数が人文科学の学生のそれよりも多く、そして数学者は、一般集団よりも高い割合で自閉症スペクトラム状態にある。

 

 他の研究によると、自閉症の子供をもつ母親と父親は、自閉症の特性を測定するアンケートでいずれも高いスコアをとることが分かった。

 

 また、脳のスキャンを行った研究によると、自閉症の子供をもつ母親は、しばしば男性と関わりのある脳活動のパターンを示すことが示された。

 

 自閉症の増加は、システム化屋にとって出会いが互いに容易になってきているという事実と関わりがあるのかもしれないと Baron-Cohen 教授は語る。これは、国際会議の到来や、これらの分野で働く雇用機会や女性が増えているということによっている。

 

 全英自閉症協会の Richard Mills はこう語る。「社会はすべての新しい研究を歓迎します。特に、自閉症の本質やありえる原因を理解する助けとなったり、私たちが個々人をいかにサポートするかを告げてくれるような研究です。」

 

 「英国で50万人以上の人々が自閉症の形態を持っています。それは専門家のサポートを必要とする、生涯にわたる発達障害なのです。」

 

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 「自閉症の原因は何か?」という問いのほかに、「本当に自閉症は増えているのか?」という疑問も同様にたいへん大きな問題のようです。参考程度に日本国内の状況をばーっと調べてみると、実は、現在の時点でもまだ確かなことはいえない状況のようです。実際に行われた診断の結果によると、たしかに、昔と比べて自閉症の頻度が高くなっているようにも見えるらしいのですが、だからといってそのことからすぐさま「自閉症が増えている」と言い切れるわけではありません。その主な理由には、昔と比べて検査の精度が高くなったこと、また、自閉症という言葉の定義が広くなったことなどが挙げられるとのことです。

 

 そう思うと Baron-Cohen 教授が記事中で推測している、システム化屋どうしが互いに出会うことのできるチャンスが増えている、という説明は僕にはすこし疑問です。たしかに国際会議や女性雇用機会の増加など、自分と似たような境遇にいる異性と出会うチャンスは多くなったというのは正しいと思うけど、それよりもむしろ、たとえば交通機関や通信手段の発達など、自分とは違う分野の人と交流する機会多くなっていることが大きく効いているんじゃないかな、と感じます。実際のところはどうなんでしょう。

 

【参考リンク】

autism research centor : http://www.autismresearchcentre.com/arc/default.asp

(ページ左の「publication」からいろいろ論文読めます)

2006年02月04日

鍼と薬のプラシーボ効果を比べる

 Science a GoGo
より。

 

 プラシーボ、という言葉もすっかり身近に定着してきた言葉だなあ感じます。たとえば風邪を引いた人に対して、「これはうちの祖父から伝わるとってもよく効く薬だよ」とか言ってただのシロップを飲ませると、あたかも本当の薬を飲んだかのように効果が現れてくるという現象のことをプラシーボ効果と呼びます。

 

 今回の記事は、プラシーボの薬と鍼(はり)を患者に試してその結果を比べたという記事。薬と鍼という別の種類のプラシーボを比較したというのは珍しい研究だそうです。

 

Ritual A Critical Element Of Placebo Effect

(儀式はプラシーボ効果の重要な要素)

http://www.scienceagogo.com/news/20060101222555data_trunc_sys.shtml

 

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 いわゆるプラシーボ効果の性質は科学者たちに驚きを与え続けている。研究室での数多く実験が、プラシーボに対する強い心理学的反応を検出しているためだ。そしてさらに拍車をかけることに、British Medical Journal 誌に掲載された新しい研究は、2つの異なるプラシーボ治療による効果を比較することによって、プラシーボの調査にさらなる一歩を歩ませている。

 

 ハーバード大学医学部の研究者たちは、新しい治療の効果をテストするのに、臨床試験でたいていプラシーボを使用しているが、あるプラシーボを別のプラシーボと対抗させたのはこの研究が初めてである。そのような実験は誤っているかもしれず、研究者 Ted Kaptchuk は「これは正反対の研究です」と認めている。Kaptchuk が注目したプラシーボは、偽鍼装置と不活性薬(偽薬)である。

 

 慢性的な腕の痛みをもつ250名以上の被験者を含むこの研究は、2つのフェーズでおこなわれた。最初のフェーズでは、被験者の半分は偽鍼をうけ、もう半分は2週間にわたり偽薬を与えられた。このフェーズでは、偽鍼の効果が偽薬と比べて強められたとする強い証拠は見出されなかったことが分かった。

 

 しかしこの研究の第2のフェーズでは、結果はより興味深いものだった。このフェーズでは、半分の患者を偽鍼装置に入れ、実際に鍼を試したときと対比して調べた。そしてもう半分には偽薬を与え、実際の痛み止め薬を試したときと対比した。このフェーズでの両方の試行は、より長い期間について行われた。

 

 この結果は次のことを示した。偽鍼をうけた患者たちは、試行の期間に偽薬をうけていた人々よりも、苦痛や症状の重傷度が大きく減少したと報告した。このことは、用いられるプラシーボのタイプによってプラシーボ効果が変わるということを示している、と研究者たちは述べている。「装置の医療的儀式によって、偽薬よりもプラシーボ効果の増強をもたらすことができたのです。たとえば細菌感染の治療薬など、薬と比較した際に、儀式が意味を持たない状況は数多くあります。」と Kaptchuk は語る。「ですがその他の手段は正しいでしょう。いくらかのケースでは、この儀式は重要な要素となり得るのです。」

 

 この結果は、痛みの感覚や状況の重症度については、患者たちの主観的な報告にもとづいている。一方で Kaptchuk は、この研究の結果は、臨床環境におけるプラシーボ効果の存在を指し示す新たな証拠となると述べている。

 

 また彼は、医師が患者に副作用についてを告げたことにより、直接的に患者たちがその作用を体験するということの証拠をこの結果は示していると考えている。この研究で予期されるよりも前に、この研究者たちは、インフォームドコンセントを行うことによって、警戒した患者たちが、自分の身に起こり得る副作用を(本当に)引き起こしてしまうということを示した。鍼による一時的な痛み、薬による倦怠感や口の乾きなどだ。プラシーボを受け取った人々のうち、偽鍼を受けた25パーセントと偽薬を受けた31パーセントの患者が、偽の治療では起こり得ないにもかかわらず、まさに告げられていた副作用を感じたと報告した。

 

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 治療の設備が大がかりだと、それだけ信じ込もうとする意識も強くなるってことなんでしょうね。たしかにそれは理解できるなあ。「金かかってる装置だよ」とか言われると僕の場合は効果てき面だと思います。

2006年02月25日

自閉症者の能力は過小評価されている

 BBC NEWS より。

 以前に当ブログでも紹介したのですが、科学的思考などの能力と、自閉症とのあいだに関連があるということがいろいろな研究で指摘されています。(参考:科学者の子供は自閉症になりやすい )リンク先で紹介した記事では、科学者といったいわゆる「システム化」の能力に長けた人からは、自閉症の子供の生まれる可能性が高いという可能性が示されています。

 

 これに関連した今回の記事では、現在ひろく用いられている知能検査の方法では、自閉症の人々の知能をきちんと評価できていない、ということを指摘しています。

 

Autistic ability 'underestimated'

(自閉症の能力は「過小評価」されている)

http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/4740178.stm

 

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 米国セントルイスでの科学会議にて、自閉症と診断された人々の知能は過小評価されているということが述べられた。

 

 モントリオールの科学者たちによる研究によると、知能を測定する現在の方法は不正確であるという。

 

 自閉症の人々に正しい刺激を与えることによって、生得の技能を引き出す助けとできるとこの研究の著者たちは言う。

 

 このことにより、自閉症の人々が雇用市場やより広範な社会において大きな役割を果たす助けとなるかもしれない、と研究者たちは述べた。

 

 Laurent Mottron 博士は、「自閉症スペクトル」障害の人々(普通または平均以上の知能を持つ)と、「本当の自閉症」の人々(精神的障害を特徴とすると彼は述べている)とのあいだの相違点を指摘している。

 

 (訳注:自閉症スペクトル障害という言葉について。社会性やコミュニケーションや想像力といった能力の障害を、軽度から重度までひっくるめて連続的(スペクトル)にとらえた言葉だそうです。ですので、本文中の "real autism" という言葉に対する「本当の自閉症」という訳はちょっと適切でないかも。)

 

 ウェクスラー・スケールは、自閉症の知能を測定するうえで最も幅ひろく用いられる手法の一つである。自閉症障害と診断された人々は、テストの言語理解のパートで概してきわめて低いスコアをとる。

 

■ 異なるスコア

 

 しかしモントリオール大学の Mottron 博士らは、全体的にみて、自閉症の被験者は、レーヴンマトリックス検査(Raven's Progressive Matrices)と呼ばれる別のテストでずっとよい成績を出すことを見つけた。言葉が不自由である自閉症の人の中には、並外れてよい成績の人もいた。

 

 彼は、このテストは「自閉症の知能を正確に評価する手段」となるかもしれないと述べている。

 

 このモントリオールの研究者たちは、自閉症と診断された人々は、特に他の人々が困難とするような特定の仕事を通じて、社会において潜在的に大きな役割を果たすことになるかもしれないと説明する。

 

 彼はこう付け加える。自閉症の子供たちに対する現在の教育法の中には、彼らの能力を刺激しようとする簡単な教材を与えるというものもある。

 

■ 文化的露出

 

 その代わりに、より進んだ情報の中に自閉症の人々をさらすことで、彼らの生得の技能を開花させることができると Mottron 博士は考えている。

 

 「よりずっと高度な教材、たとえば、文字・印刷物・音楽といったきわめて高度に組織化された教材を彼らに与えると、彼らの能力のピークが現れることに気付かされます。」(Mottron 博士)

 

 「2,3歳になったばかりの彼らに高度な教材を与えると、彼らはそれを統合させるということが分かります。」

 

 自閉症の人々は、法律や科学の特定の分野といった、高度に組織化された仕事に適しているかもしれない、と彼は述べている。

 

 「自閉症の知能をどのように測定するかといったことに加えて、測定をいつ行うかといった疑問もあります。」(Mottron 博士)

 

 自閉症の知能のデータは、しばしば小児期(およそ4,5歳)に集められていた。これは、自閉症の人々が知能の最大のポテンシャルに到達する年齢に足りないと彼は説明する。

 

 このモントリオール大学の研究者たちは、米国セントルイスでの American Association for the Advancement of Science の年次大会にて発表した。

 

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 ちなみに、記事中に登場するウェクスラー式の知能検査というのは、皆さんも学校のときにおそらくやったことがあるじゃないでしょうか。検査の一部が紹介されてました(ここ
)。(基準の年齢が不明ですが)1分間で8問以上できれば平均以上のスコアだそうです。

 

 もう一方のレーヴンマトリックス検査というのはこれ
(swf)ですね。図形の規則を発見して空欄を埋めるという検査です。リンク先のFLASHで一通りテストを受けることができるので、試してみるのもいいかも。

2006年03月11日

文字を使わないソフトウェア

 CNN News より。

 

 インドと聞いて僕がなんとなくイメージするのは、知的水準や勤労意欲が高いITエンジニアが多くいるというイメージなのですが、たぶんそういうイメージは、IT分野に限定した、インドのうちごく限られた一側面でしかないわけです。

 

 01年のインドの国民の識字率は約65%、さらに女性に限れば、およそ2人に1人しか読み書きができない状況だそうです。そのために、子どもの病気に関する知識が不足したり、あるいは高利貸に不当な扱いを受けたりすることもあるそうです。

 

 この問題へのアプローチのうちでもっともストレートなのは文字の教育です。一方で、こうしたコストや時間がかかる方法の他に、文字の理解を必要としないインターフェースを考えようというのが、今回の記事で紹介するアプローチです。

 

Software helps the illiterate find work

(読み書きができない人の求職を助けるソフトウェア)

http://edition.cnn.com/2006/TECH/ptech/03/02/microsoft.illiterate.tech.ap/index.html?section=edition_technology

 

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 マイクロソフト社のソフトウェア Office と Windows OS は、多忙で器用な「情報労働者」にとって日常的なものである。これらは複雑なビジネスの問題を解決する最新のテクノロジーだ。

 

 しかしながら、同社のインドの研究開発ラボではこれよりずっと異なる問題に取り組んでいる。技術をいかに使って、読み書きのできない人々に手を貸し、一人でコンピュータを使えるようにするかという問題だ。

 

 マイクロソフト社は、地方の支持団体と協働し、インドの読み書きのできない国内労働者と、彼らの力を探し求めている家庭とを結びつける助けとなるシステムの試作を開発した。読み書きのできない人々が技術進歩の恩恵を受ける広いツールをつくりあげるための第一歩として、テクノロジーによって求職がいかに効率的になるかをインドの女性たちに理解してもらうことが目標である。

 

 このソフトウェアは、水曜にマイクロソフト社の従業員に展示された。同社のさまざまな研究開発センターの従業員が年に一度あつまる、リサーチ・テックフェストの一部としてである。中国・インド・英国・米国に位置する研究者たちが、広範囲なテクノロジーや実用アプリケーションをさまざまに提示する。

 

 このインドのプロジェクトの研究者たちが語ることに、彼らは、この技術はどのぐらい有効か、なぜ人々がこれを使いたがるのか、という予想を打ち破らなければならなかった。

 

 研究者は「自分が必要とするアイデアに協力をするかもしれません。ですが、ひとたび読み書きのできない人々と一緒に働いてみれば、そういった人々が何を必要としているかが分かることでしょう。」と語るのは、マイクロソフトインド研究所の代表取締役 P. Anandan である。

 

 このシステムは画像・ビデオ・音声コマンドを用いて、どんな仕事が入手可能か・賃金はいくらか・場所はどこかを女性たちに伝える。

 

 当プロジェクトを監督する研究者 Kentaro Toyama が語るには、第一の大きなハードルは、国内の労働者に実際に通じるのはどんな種類のコンピュータ画像なのかを理解することだと言う。

 

 たとえば、汚れた皿の写真では実物的すぎる――実際にこれらの皿を洗うのだと女性たちは考えてしまう。だが、皿が水に打たれているリアルなイラストだと、うまくいく。

 

 また、女性たちは近辺を住所ではなく目印で関連付けている。そのために、インタラクティブな地図や言葉による指示を、それを表すように調整しないといけない。

 

 何度も修正を重ねたものの、この研究者たちはあることに気付いた。女性たちは、この技術の使い方を理解したが、一方で、仕事を見つけるのになぜ今までの口コミよりもコンピュータ化されたシステムの方がよいのか理解しがたく思っていたのであった。

 

 やがて研究者たちは、あるビデオを作製した――よく知られた "Bollywood" 映画(インド映画産業をさす言葉)を念頭に置いたものだ――仕事がもう一つ欲しいと夫にぼやく女性が、コンピュータを使って仕事を見つけるというものだ。これはうまくいった。

 

 今はこのシステムを導入の仕方を考え出そうとしているところだ、と研究者たちは語る。国内で仕事を持つ女性の大半がコンピュータを所有していないためだ。一つの選択肢は、コミュニティの中央のキオスクに設置することだ、と Toyama は語る。

 

 読み書きのできない人々がコンピュータを最大活用する方法についても研究を行っているカーネギー・メロン大学の教授 Raj Reddy は、インドの地方村での彼の所期の研究から、地方の住民がテクノロジーから必要とするものと、これらの人々が本当に欲しいものとの間にはズレがあることが分かったと言う。

 

 たとえば、遠隔地の地域のだれかに電話や車やテレビをあげたところで、感謝はされるが何も得られないだろうと Reddy は言う。

 

 「しかしそうした人々のところに行って『PCをあげましょう』と言っても、いったいぜんたい何のことを言っているのか、そうした人々には分からないのです。」と彼は語る。「私が解決しようとしているのがその問題です。『これはPCではありません。これはいろんな形をとる装置なんです。』こう言おうと思います。」

 

 ほとんど言語スキルを持たないインドの地方の人々は、最初は、馴染みの深いタスクをコンピュータでやることに最も興味をもつだろうと Reddy は語る。たとえば、コンピュータをベースにしたビデオ会議で家族と会話したり、コンピュータを使ってビデオを視聴したりしようとするだろう。

 

 そこから、コンピュータを使って農機具を注文したり病気の子供の医療治療を得たりできることを、研究者たちは彼らに教えることができるだろうと彼は望んでいる。

 

 マイクロソフト社の技術審議会メンバーでもある Reddy は、この理由から、イラスト風のイメージを使ったマイクロソフト社のアプローチは時代を先駆けていると語る。しかし分野における同社の努力はしかるべき注目をほとんど受けていない、と彼は語る。

 

 「ニルバーナ(ヒンドゥー教・仏教用語:至福の境地)への道は数多くあります。」と彼は言う。「これらの問題にアタックできるやり方はたくさんあるのです。」


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2006年03月12日

心で動かすコンピュータ

New Scientist より。

 

 頭皮に電極をくっつけて、脳の活動をコンピュータへの入力とするという技術です。

 昔からこういう話はよく聞くけれど、僕の頭の中ではSFのイメージがまったく抜けていません。ですが本記事を始めとしたいろいろな記事を見てみると、十分実用と言えるほどの水準までこの技術が達していることを思い知らされます。

 

Mental typewriter' controlled by thought alone

(思考のみで制御されるメンタル・タイプライター)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn8826

 

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 思考の力のみによって制御されるコンピュータが、ドイツの大手見本市にデモ展示された。

 

 この装置によって、麻痺患者がコンピュータを操作したり、腕を切断した人が電動の義手を操作したりする方法が提供されるだろう。だがこれには、コンピュータゲームやエンターテイメント産業のような、医療以外の用途もある。

 

 Berlin Brain-Computer Interface(BBCI)――通称「メンタル・タイプライター」――は、ドイツ・ベルリンのフラウンホーファー研究所と、ベルリン・フンボルト大学医学部シャリテの研究者たちによって作成された。ドイツ・ハノーバーのエレクトロニクス展示会CeBitにて披露された。

 

 この機械は、カーソルの動きを心の中でコントロールすることによって、コンピュータスクリーン上にメッセージをタイプすることを可能にしている。ユーザは、脳波(EEG)信号として知られている脳内の電気的活動を測定する電極つきの帽子を装着しなければならない。

 

 「非常に奇妙な感覚です。」と語るのはシャリテの Gabriel Curio である。「このポテンシャルが巨大であることは、見物客をみれば分かると思います。」

 

■ 学習アルゴリズム

 

 ユーザは、心の中でカーソルを150回動かす経験を20分間だけおこなえば、この装置を操作することができると Curio は語る。装置が、人の運動皮質(運動に関わる脳の領域)の領域の活動を高速に認識するためだ。「トリックは、フラウンホーファー研究所で開発された機械学習アルゴリズムです。」と Curio は語る。

 

 コンピュータ制御用埋め込み電極の専門家である John Chapin は、EEG検出技術は急速に前進していると認めている。「近年、非侵襲性の側において多くの進歩がありました」と彼は New Scientist 誌に語った。

 

 麻痺患者や腕を切断した人の助けとしてこの装置の商用版を開発したいと彼は望んでいる。

 

 脳・コンピュータのインターフェースは、医療を超えた範囲で用いることができると Chapin は付け加える。「脳からの信号は、コンマ1秒のアドバンテージを与えます。」と彼は述べる。この装置は、新しいゲームコントローラを作り出したり、他の用途に用いたりできるかもしれない。彼らは、運転の補助としてこの機械をつかえるかテストを開始している。突然の反応を察知して、運転手よりも早く車のブレーキを制御することが可能だからだ。

 

 次のステージは、頭皮に電極を直接とりつけなくともよい帽子を開発することだ。これによってこの装置はより使いやすくなり、装着者の不快感を少なくすることにちがいない。


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 記事中に登場する Brain-Computer Interface というのは、現在でも非常に多くの研究室で扱われているテーマだというだけでなく、既にこうした器具を扱う企業が誕生しているんですね。ちっとも知りませんでした。。


 


【参考リンク】

Cyberkinetics 社 : http://www.cyberkineticsinc.com/

2006年03月21日

ジェスチャーからウソを見破る

 BBC NEWS
より。

 

 みなさんは、ウソをついているときの自分の振る舞いがいつもとどう違うか、意識したことはありますか?

 一般的には、「鼻をかく」「髪を触る」というイメージが知られていますが、今回の報告によると、どうやらこうしたイメージは実は正しくないのかもしれないのだそうです。

 

Liars 'too self aware to twitch'

(ウソをつく人はイライラを意識しすぎている)

http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4824426.stm

 

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 研究によると、神経質でイライラしたウソつきが自分の鼻や髪を触っているというイメージは、それ自身がウソ(誤り)であるかもしれないという。

 

 イタリアとイギリスの研究者たちが発見したところによると、人々は、ウソをつくときじっとしていようとするという。ボディランゲージが自分の本心を明かすことに強く気づいているためである。

 

 このチームは、130名のボランティアに対し、正直および不正直な一連の発言をしてもらうよう依頼し、彼らをモニターした。

 

 Journal of Nonverbal Behaviour 誌に掲載されたこの研究によると、ウソをついた人は、本当のことを話した人よりも、鼻を触る回数が20%少なかった。

 

 この研究の共著者である心理学者 Samantha Mann 博士は、一般的には、人々はウソをつくときに鼻をこすったり髪を弄んだりするものという認識があると語る。

 

 こうした動作は、自己適応のジェスチャーとして知られている。不安定さや無防備さを感じている人に安堵感をもたらす役割をもつ。

 

 こうした衝動の言いなりにならなければ、ウソをつく人はとてもじっとしていられなくなり、本当のことを言う人と同じように質問者を目で見ようとする、と彼女は主張する。(?このへん訳不明)

 

 彼女はこう付け加える。「ウソをつく人はより神経質になり、キョロキョロそわそわしたりするものと人々は予期しますが、私たちの研究はそうではないことを示しています。」

 

 「ウソをついている人は、より一生懸命考えなくてはなりません。一生懸命考えるとき、私たちは集中しているため、動きが少なくなり、じっとしてしまいがちになるのです。」

 

 彼女はこう付け加える。「私たちは、自分がウソを付いていると分かると、とたんに自分の振る舞いを意識するようになるのです。」

 

 「大半の人々は、動きをするのをまったくやめてしまう傾向にあります。」

 

 イタリアのポーツマス大学とベルガモ大学のチームは、ボランティアたちの手の動きについて、7つのカテゴリーで変化を探した。

 

■ 自己適応ジェスチャー

 

 彼らが発見したことによると、ウソをつく人は、自分が本当のことを言っているかどうかを問題にしているときに、とりわけ、証拠を隠そうと手を尽くすのだという。

 

 強い疑いにおかれた人々は、要点を強くするために、あるタイプのジェスチャーを使うことが多くなった。

 

 比喩的なジェスチャー――愛情を示すため胸に触れる、大きさを表すため手を結ぶなど――は、ウソをつくときには25%多くなった。

 

 発言を強調するため指さしを繰り返すといったリズミカルなジェスチャーは、ウソをつく人の方が多く用いた。

 

 しかし、髪や鼻、他の身体の部分を触るといった、専門家が「自己適応ジェスチャー」と呼ぶボディランゲージの使用は、ウソをつく人のほうが15~20%少なかった。

 

 ごまかしとボディランゲージの間のつながりについて調べている心理学者の Peter Bull 博士は、誰かが鼻を触ったならその人はウソをついている可能性が高いとする誤解が一般的にあると語る。

 

 彼はこう語る。「ピノッキオのウソつきの鼻はないのです。鼻を触ってもウソをついているということにはならないのです。」

 

 「もしそうなれば、人々はウソをつくのをやめることでしょう。」

 

 被験者があるタイプのジェスチャーをするときに何を言っているか、より詳細に分析することが必要だと彼は語った。

 

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 本記事のほかに、僕が聞いたことがある有名なウソつきの特徴は「やたらと饒舌になる」ですかねえ。比喩的なジェスチャーやリズミカルなジェスチャーといった、努めて気丈に振舞おうとしているイメージとも合ってる感じがしますね。

 

 ウソつきに関連するそのほかのトピックは当ブログで何回か取り上げています。よろしければ以下の記事もどうぞ。。

・「ウソを見破るアルゴリズム

・「ウソつきの脳に異常あり?

2006年03月26日

13と14番目の氷の構造が解明された

 PhysOrg.com より。

 これまで、氷を研究している研究者の間では、氷の12種類の構造のタイプが知られていました。ですが今回、新たに13つ目と14つ目の氷の構造が明らかになったそうです。

 

 ・・・と、このようなことを書くと、何のこっちゃ? と思われるのは間違いないでしょう。僕たちが知っている氷といえば、グラスの中に入ってる、あの冷たくて固い氷のほかに考えられないのですから。

 

 ふつう、固体の物質というのは、その物質を作り上げている原子や分子が、きっちりと規則正しくならんだ構造をしています。実は、その分子の並び方は1通りではなく、温度や圧力などの環境に応じて、いろんなパターンの並び方があるそうなのです。水(HO)の場合、可能性としてあり得る並び方のパターンは14種類あり、氷I ~ 氷XIV と名前がつけられています。さらにそのうち 氷I ~ 氷XII の12パターンは、分子の並び方が既に知られています。(僕たちが日常よく目にするいわゆる「普通の氷」は、そのうちの 氷I(氷Ih) と呼ばれる形態です。)氷I から 氷XII の分子の構造については、本記事下の参考サイトがすごく役に立ちますので一度ごらんあれ。たとえば 氷VII は、温度は100℃以上、さらに液体の水に沈む「熱い氷」なのだそうです。これで氷と言われてもやっぱり違和感あるなあ。

 

 改めて、今回の記事は、これまで知られていなかった 氷XIII と 氷XIV の分子構造が明らかになったという記事です。

 

Scientists identify two new forms of ice

(科学者たちは新たな2種の氷の形態を特定する)

http://www.physorg.com/news12103.html

 

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 セ氏マイナス160度付近の温度で凍結するという、これまでに知られていなかった2種類の氷の形態が研究者たちによって発見された。この研究者たちは、氷XIII と 氷XIV と名づけられていた、この新たな形態の原始的構造を解明したと述べている。

 

 Science 誌に掲載されたばかりのこの結果は、生命維持のプロセスでの水の役割について、私たちの理解を促進する助けとなるかもしれない。さらに、この新たな氷は、外惑星の氷に覆われた衛星の上にも存在するかもしれないとこの研究チームは考えている。

 

 CCLRC(研究会議中央研究所会議)と UCL(英国ロンドン大学)との共同によるオックスフォード大学のチームがこの研究を行った。長いあいだ、氷の12種類の形態については研究者たちに知られていたが、ずっと低い温度の氷がこのほかに存在するという、多くの人が思っていた考えが、今回の発見によって裏付けされた。

 

 オックスフォード大学の化学科の Christoph Salzmann 博士はこう語る。「これらの形態の氷が存在することは理論からは知られていました。しかしながら、それらが形づくられるであろう低温度というが問題でした。それゆえに、低温度で分子の可動性を高め、相の形成を促すようなきっかけを探さなければならなかったのです。」

 

 CCLRC の Paolo Radaelli 教授はこう語る。「水分子が完全に整列するよう促進すること――まず普段はそうなりません――が、この発見へのカギでした。」

 

 Salzmann 博士の手法は驚くほどシンプルだった。ほんの数滴の塩酸と、注意深く調整された圧力が秘訣だった。このとき測定可能だった形成の温度は、およそセ氏マイナス160度だった。そして、オックスフォードシャー州にある世界有数のパルス中性子施設 ISIS の強力な中性子装置からの光線をもちいて、その原子構造があきらかになった。

 

 それ以前の氷の形態 氷XII を発見したチームの一員でもある UCL の John Finney 教授はこう語る。「研究者たちは、そのような形成の方法を40年以上も探し続けてきました。今回それが見つかって、この驚くべき――かつきわめて重要な――単純分子による結晶の挙動についての知識を、ついに完成させる道が開かれたと思います。」

 

 この発見によって、氷の多くの結晶の形態における水素結合についてさらなる知識が研究者たちに得られた。この発見は、化学的・生物学的プロセスにおける水分子について現状の理解について進歩をもたらし、化学や構造生物において用いられる計算モデルにも向上がなされることだろう。

 

 低温度での水のふるまいを理解することにより、太陽系での水の状態やふるまいに大きな洞察がもたらされる。おそらくは地表への隕石の衝突の結果として、高圧低温の氷の形態は、外惑星上に存在するものと考えられている。

 

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 ちなみにその論文というのはこれ。

 "The Preparation and Structures of Hydrogen Ordered Phases of Ice"

 http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/311/5768/1758

 「Figures Only
」で見られるのが、氷XIII と 氷XIV の構造の図だそうです。。

 

【参考リンク】

・氷の多様性(日本語:熱い氷などについて。かなり分かりやすくて面白いです。)

 http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/phys/crys/ice/lect6.html

・The Phase Diagram of Water(英語:氷I ~ 氷XII の分子構造。眺めるだけでも面白い。)

 http://www.lsbu.ac.uk/water/phase.html

2006年04月02日

祈りは病気の癒しになるか

 news @ nature.com ?より。

 

 「はたして祈りには良い効果があるのか」という問いに対して、1800名もの患者を対象にした、過去最大規模の実験が行われたそうです。

 

 どうやらこの問題の研究は過去にも数多く行われてきたようで、これらの結果からは、祈りには好影響があることが確かめられた一方で、場合によっては悪影響もあり得るということが分かっているようです。(From:フィトアロマ研究所たより
::サンフランシスコ病院 遠隔ヒーリング研究
)ですが、こうした研究には被験者の数が少ないといった問題があり、これまで、厳密に祈りの効果のあるなしを調べた調査というものはなかったようです。

 

 一方で、こうした臨床試験に予算をつぎこむべきではないとする意見もあるようです。特に今回のように、「祈りが実際にささげられてるか否かは効果に影響ない」ということを証明しようとする動きに対して大きな反発があるように感じます。まあ、そのことが実際に世間一般に完全に認知されてしまったなら、祈りの効果そのものが激減するのでしょうが。。

 

Study challenges prayers for the sick

Clinical trial of prayer draws fire from critics.

(病気への祈りに挑む研究 ――祈りの臨床試験が批評家の批判の的となる)

http://www.nature.com/news/2006/060327/full/060327-16.html

 

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 離れたところでささげられる祈りは、心臓手術からの回復の助けとならないばかりか、健康上の問題を大きくしているかもしれない。賛否両論わかれる大規模臨床試験――お金の無駄と批判されている――の結果はそう示している。

 

 見知らぬ人の集団からささげられる祈り――いわゆる代理祈祷――は病気の患者の助けとなりうる、と信じている人は多くいる。この考えは以前は少数の研究において検証されてきた。しかしその結果ははっきりとせず、このテーマは多くの議論の余地があった。一つには、その手法に欠陥があったかもしれないということ、そして関わった人々の数が少なかったということがその理由だ。

 

 この新しい研究は、離れたところでの祈りの力を検証するうえでもっとも大規模で厳格な研究であり、新薬の臨床試験で使われるのと同じ検査手順が用いられている。

 

 研究チームは、米国の6病院で冠状動脈バイパス手術をうける予定の患者たちを募った。患者たちはランダムに3つのグループのうちの1つに割り当てられた。約600名は、自分たちに祈りがささげられているかもしれないと告げられたものの、実際はそうではなかった。別の600名は、祈りがささげられているかもしれないと告げられ、実際もそうだった。残りの600名には祈りがささげられ、自分たちもそのことを知っていた。

 

■ 余計な不安

 

 試験中の毎晩、研究チームは祈りをささげる患者たちのリストを3グループのクリスチャンにファックスし、クリスチャンたちは、手術の成功とすみやかな回復に対して祈りをささげた。各患者は、2週間にわたり祈りのリストに載せられた。医師たちは、術後30日間の全ての患者について、医療的な合併症がないか観察を行った。

 

 自分たちに祈りがささげられているかどうか分からなかった患者たち(訳注:はじめの2グループ)は、祈りによって健康上の違いは生じないことが分かった。しかし、自分たちに祈りがささげられていると知っていたグループは、合併症(主に不整脈)のリスクがおよそ14%高かった。おそらく、より不安になったためだろうと治験責任医師は推測している。

 

 科学と宗教の調査研究に出資をおこなう組織である John Templeton 基金より資金をうけたこの研究は、American Heart Journal 誌に掲載された。

 

■ 信用の検証

 

 少なくともいくらかの研究者たちは、この試験には240万ドルかかっており、時間とお金の大きな無駄づかいであると考えている。「このような研究は必要ありません。」と語るのは、ニューヨーク市コロンビア大学の祈りと医薬の権威である行動科学者 Richard Sloan である。

 

 祈りは多くの人々によって高く評価されており、それが機能するか否かを科学者が実験的に検証する必要はないと Sloan は述べている。「宗教的経験をおとしめるものです。」(Sloan)

 

 マサチューセッツ州ボストンのハーバード・メディカル・スクールの Jeffrey Dusek は、この研究を決定したことをこう擁護している。「この領域の研究に科学的な厳密さをまさに与える機会と感じました。」しかし今やこの研究はおこなわれており、この研究を続けるべきかということには疑問の余地があると彼は語る。

 

 ホノルルのハワイ大学の精神身体医学の専門家である精神科医 Jon Streltzer が語るには、科学者は、患者の信念が自身の健康を高めるかといった問題や、あるいは親近な身内の祈りや気遣いが役に立つかといった問題など、宗教の健康への影響について、もっと有益で測定可能な問題を問うことができるという。「科学が超自然現象を調べられるとは私には思えません。」

 

 「心理学的な側面はさらなる研究に値します。」(Dusek)

 

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 そもそもこういう研究があること自体僕には初耳だったわけですが、「自分は見知らぬ人から祈られてる」と自覚するとかえって手術後の心臓に悪い影響が出るというのはなんだか面白い結果ですね。

2006年04月09日

ウィルスが電池の材料に

 Reuters.com より。

 

 ウィルスに遺伝子操作をほどこして、ナノスケールの材料をつくろうとする研究だそうです。

 

 今回の記事では、M13という種類のウィルスを改変して、コバルトや金といった金属原子と結びつく性質を持たせることによって、ウィルスに導線の役割をもたせることができたと報告されています。こうした導線は、リチウム電池の電極に適用でき、将来的には微小なバッテリーとして使えるかもしれない、とのことです。

 

 こういう話を聞くと、わざわざウィルスに導線の役割をもたせる必要ってあるの? ということが疑問に感じますよね。ですがここがこの研究の非常に面白いなと思えるポイントで、もしウィルスを望みのはたらきをする材料に改変できたならば、あとはウィルス自身がもつ力を利用して、量産のコストをおさえながら、繁殖させたり組織化させたりしてナノ材料を作り出すことができる、というところがミソのようです。

 

Viruses 'trained' to build tiny batteries

(ウィルスを”調教して”極小の電池を作る)

http://today.reuters.com/news/newsarticle.aspx?type=scienceNews&storyid=2006-04-06T223852Z_01_N06188547_RTRUKOC_0_US-SCIENCE-VIRUS.xml

 

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 極小の機械を作ろうとしている研究者たちは自然の力を頼りにした。ウィルスに処理をほどこして金属をひきつけ、これを使って微小電池用の微細線をつくるのだ。

 

 結果得られたナノ細線は、微小なリチウム電池の電極に用いることができ、そしてそれは極小の機械への電力供給に用いられることだろう、と研究者たちは Science 誌の金曜日の号で報告している。

 

 マサチューセッツ工科大学のグループ率いる研究者たちの国際チームは、単純で容易に操作できるウィルスであるM13ウィルスを用いた。

 

 「われわれは、ウィルスを使ってコバルトのナノ細線を室温で合成・構築した」と研究者たちは記している。

 

 彼女らはM13ウィルスの遺伝子を組み替えて、ウィルスの外層(外殻)が特定の金属イオンと結びつくようにした。彼女らはこのウィルスを塩化コバルト溶液のなかで培養して、ウィルスの体長に沿って一様に酸化コバルト結晶を鉱化させた。

 

 彼女らは所望の電気的効果を得るために、金をわずかに加えた。

 

 ウィルスは自分自身では繁殖はできず、細胞――この場合だと細菌――の中で成長しなければならない。ウィルスから遺伝物質を注入されると、その細胞はウィルスのコピーを排出する。

 

 このウィルスは規則正しい層のかたちをしていると研究者たちは報告した。

 

 結果得られたナノ細線は、電池電極の陽極として機能するという。

 

 米粒のサイズから既存の補聴器の電池サイズまでいたる電池を作り上げたいと彼女らは考えている。

 

 ウィルスのそれぞれ(つまり細線のそれぞれ)は、わずか半径6ナノメートル(1メートルの10億分の6)の半径、全長880ナノメートルであるという。

 

 「われわれは、以前はウィルスを使って半導体や磁気鋼線を組み上げていた」とこの研究者たちは記した。

 

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 このごろは、モバイル機器について見れば、ストレージやアプリケーションなどの技術は本当にものすごい勢いで進歩しているなと感じますが、その一方で、バッテリー持続時間の方はそこまでの勢いでは改善してないなと感じますね。

 今回の技術が実際に応用されるときがやがて来るのでしょうか。。


 


【参考サイト】

Virus-Enabled Synthesis and Assembly of Nanowires for Lithium Ion Battery Electrodes
(原論文)

ScienCentral Video News:Virus Battery
?(本記事よりもうちょっと詳しいめ。)

2006年04月22日

宇宙船からメッカに祈る

 New Scientist より。

 

 宇宙ステーションやシャトルで人間が生活する上で注意しなければならない問題は? と聞かれると、いろいろな事柄が思い浮かびます。食事の問題、トイレの問題、健康の問題などなど。そして併せてこれらの問題に対しては宇宙食やトイレ用チューブなどの対処法が考えられていることもよく聞く話です。

 

 さて、この他にも検討すべきことはあります。ついつい忘れてしまいがちですが、特定の人々にとっては、宗教上の習慣をシャトルでもやりたい、ということも非常に重要な問題です。

 

 たとえばイスラム教では、日の出や日没などのタイミングに合わせて、メッカに向かって祈りをささげるという習慣があります。もちろんこれは地上にいれば問題なく行えるわけですが、はたしてこれが宇宙空間になると、いったいどのタイミングで、どちらに向かって祈りを行えばよいのでしょうか?

 

When you're in orbit, which way is Mecca?

(軌道上にいるとき、メッカはどっち?)

http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn9031

 

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 マレーシア宇宙庁は、宇宙飛行士の候補者たちがいかにして宇宙でイスラムの習慣を実践するかを決定しようとしている。この4名の宇宙飛行士の候補者のうち、3名がムスリムであり、そのうち2名は、将来、ロシアの宇宙飛行に選ばれることになっている。

 

 軌道を周る宇宙船にひとたび乗ってしまえば、飛行士たちは地球を90分ごとに1周する。伝統的に、ムスリムは1日に5回、空の太陽の位置に応じた時刻に祈りをささげる。「1日」をわずか90分の長さであるとして受け入れるなら、祈りを順守することは難しい問題となるだろう。

 

 同様の問題は、昼または夜が長期間におよぶ極地域の近くに住むムスリムにも生じる。そのような状況では、たとえ危険を冒して極に挑んでいるのであっても、特定の比較的高緯度では、ムスリムは望みのままに祈りをささげるべきである、とイスラム法学者たちは伝統的に述べている。

 

 「イスラム法学者なら、朝・正午・午後・日没・夜の祈りにおおよそ対応する時刻を選び出せばよい、と宇宙飛行士たちに助言するだろう。」と語るのは、米国ジョージア大学の宗教学教授 Alan Godlas である。

 

■ 小沐浴

 

 さらに、ムスリムは祈るときにメッカの方角を向く。地球の周りを時速28000キロメートルで駆け巡っていては、メッカの方向を正確に示すことはかなり難しいだろう。Godlas は、地球の方を向いていればそれで十分だろうと述べる。「預言者が幅をもって指示をしたという、一般的指示のようなものの例はあります」と Godlas は語る。

 

 そしてムスリムは祈りの前に、沐浴として知られている洗浄の儀式を行う。しかし宇宙では水は慎重に用いられる。宇宙飛行士たちは、小沐浴のあいだ、水を両手間に保ちつつ身体を潤さないといけないだろうと Godlas は語る。

 

 地上では、注ぎ口からの水を腕に伝わさせるのが理想的だが、微小重力では水は下方向に流れない。水がないとき、清潔な岩を使って手を拭いてもよいと学者たちは取り決めたと Godlas は述べている。その手で前腕を洗い、顔と足を洗う。

 

 サウジアラビアの宇宙飛行士 Sultan Salman Al-Saud は1985年にシャトルで飛び立った。彼はムスリムの宗教的祝日の最後を示す新月(ラマダーン)をシャトルの窓から見るように計画されていた。

 

■ 電子的燭台

 

 約50名の科学者、宇宙飛行士、宗教学者、大学研究者が「宇宙でのイスラムと生活」というセミナーのため4月25,26日にマレーシアに集まることになっている。

 

 地球の上空で他の宗教のお祝いをする方法を人々は見出してきた。イスラエル初の宇宙飛行士 Ilan Ramon ――シャトルコロンビアの事故で亡くなった――は信仰の深いユダヤ教徒ではなかったものの、シャトルではユダヤ教の掟にかなった食べものを食べ、安息日を守った。しかし Ramon は7回の日没ごとに安息日を守ったのではなく、地上でのタイミングに合わせた。

 

 NASAジョンソン宇宙センターの操作心理学(訳注:"operational psychology" を直訳)のチーフである Walter Sipes は、メノラ(ユダヤ教のろうそく立て)は宇宙ステーションでの長いミッションでは要求されていなかったと語る。小さな電球のメノラを送ることは可能だろうと彼は語る。

 

■ 宗教のストリーミング

 

 宇宙ではキリスト教は長い経歴がある。アポロ29号の宇宙飛行士のうち、23名はプロテスタントで6名はカトリックだった。

 

 長老派信徒の Buzz Aldrin は、月着陸船が月面に到達すると聖餐を行った。そしてアポロ8号のミッションで月を周回している最中、Frank Borman は、彼が属する監督教会派の人々に、クリスマスイブの信徒奉事者に間に合うように地球に戻れなかったことを謝罪した。(訳注:礼拝時の当番みたいなものらしいです。)Borman たちは創世記の本を読んだ。

 

 今回、宇宙飛行士たちが希望すれば、NASAは礼拝のストリーミングビデオを送信できる。国際宇宙ステーションにはクリスマスツリーもある。「いくらかの人々にとっては、宗教は大きな安らぎとなります。私たちはこれを尊重したいのです。」と Sipes は New Scientist 誌に語った。

 

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 日常的な習慣として宗教的儀式をする、ということが少ない僕にしてみれば、こうした問題に大きな検討がなされるというのはなんだか意外にうつりますね。

2006年04月23日

セクシー画像で男の決断力は鈍る

 BBC News より。

 

 セクシーな画像を見せられた男性は、見せなかった男性と比べて、合理的な判断をする能力に違いが見受けられたという記事です。

 

Sex cues ruin men's decisiveness

(セクシーな目印は男性の決断力をだめにする)

http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4921690.stm

 

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 とてもきれいな女性を目にすると、男性は意思決定能力が混乱した状態に投げ出されるということが、とある研究から示唆されている。

 

 ベルギーの研究者たちの研究によると、テストステロンの多い男性はこの影響が強いという。

 

 金銭のゲームをする直前の男性に、セクシーな女性の画像やランジェリーが示された。

 

 Proceedings of the Royal Society B 誌の研究によると、こうした男性たちは、魅惑的な画像を見せられなかった男性よりも、不公平な提案をより受け入れたことが分かったという。

 

 これが示唆することは、セクシーな合図は、特に生来のテストステロンのレベルが高い男性において、思考を乱しタスクに集中することを妨げるということである。

 

 ルーバン大学の研究者たちは、176名の18~28歳のヘテロセクシャル(異性愛)の男子学生にお金のゲームをさせ、公平なプレイをするか検査した。

 

 しかし最初に、男性の半分は数種類のセクシーな目印を見せられた。

 

 44名の男性のグループには評価用の写真が示された。いくらかには風景が示され、残りには魅惑的な女性が示された。(訳注:どうでもいいですが、この評価用の写真というのは、胴の部分があらわになっている、下着ないしはビキニ姿の女性モデルだそうです。。)

 

 37名からなる別のグループは、ブラジャーもしくはTシャツのいずれか一方の質感・生地・色の評価を行うように言われた。

 

 そして第3の95名のグループには、高齢の女性もしくは若年のモデルのいずれか一方の写真が示された。

 

 そして各グループは2人1組になりゲームを行った。両者に10ドル(訳注:正しくはユーロ)が与えられ、提案者は分割方法を提示し、もう一者はその提案を受け入れるか拒むかする。

?

 後者の者が提案を受け入れた場合、そのお金はその提案の通りに分配される。拒んだ場合は、両者とも何も得られない。

 

 このゲームは、狩りや食料を共有する状況の実験室モデルとして考案された。

 

■ 「影響をうけやすい」

 

 この検査の結果、「セクシーな目印」を見せられた人々は、そうでない人々よりも、不公平な提案をより受け入れやすいということが示された。

 

 実験に参加した男性たちのテストステロンのレベルも検査された。これは薬指と人差し指の長さを比較することによって行われた。

 

 薬指の方が長ければ、それはテストステロンのレベルが高いことを示している。

 

 この研究者たちは、この研究中でテストステロンが最大レベルの男性たちが最も悪い結果を出したということを発見した。彼らがセクシーな画像にとりわけ敏感なためであると彼らは述べている。

 

 この研究を行っている研究者の一人 Siegfried DeWitte 博士はこう語る。「私たちは、自分たちはみな理性的な生き物であると思いたがっていますが、私たちの研究が示すのは・・テストステロンレベルの高い人々はセクシーな目印にきわめて弱いということなのです。」

 

 「周囲にそうした目印がなければ、そうした人々は普通にふるまいます。」

 

 「しかしセクシーな画像を目にすると、衝動的になるのです。」

 

 「こうした傾向が出ていますが、彼らがそうした目印に無力だということではありません。」

 

 「ホルモンレベルが一つにありますが、それに対処する術を身に付けることは可能です。」

 

 この研究者たちは同様の検査を女性に行った。しかしこれまでのところ、視覚的な刺激が女性のふるまいに影響をおよぼすことは見出されてはいない。

 

 バッキンガムシャー・チルターンズ・ユニバーシティー・カレッジの心理学の主任講師 George Fieldman 博士はBBCニュースのウェブサイトにこう述べた。「男性がセクシーな目印に乱されるという事実は進化上の経験と一致します。そうすることが予期されているのです。」

 

 「男性は自分の遺伝子を受け渡す機会を探しています。」

 

 この研究は多くの人がうすうす思っていたことを裏付けたのだと彼は語る。

 

 「魅惑的な女性と、容貌の劣る男性によって示されているものとの間で選択をするよう言われた場合、男性は、本来ほど冷静にはいられないのでしょう。」


 


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 今回の記事では、僕にとっていろいろと知らないことが初めて登場してきました。

 

 まず、テストステロンというのは、男性の性ホルモンで、闘争心などを促進・ 発達させる働きがあるそうです。男性は胎児のときにさらされたテストステロンの量が多いほど、薬指が人差し指に比べて長くなることが知られているようです。

 

 それと、記事中に登場するゲームは、経済学の世界では「最後通牒ゲーム」として知られているゲームだそうです。このゲーム、金銭的な観点のみから判断をするならば、提案者がどんな数字を提示しようとも、それがゼロでない限り、回答者はそれを受け入れると回答するのが合理的であると言えます。回答者は拒めば自分の取り分がなしになるのですから。しかし実際にはそうはならず、相手への好意や、自身の利他心・平等志向などといったことがらに左右される結果になるようです。(ばーっと調べた限りの理解なので、誤解してたらすみません。)

 

 さて、記事で触れられているように、今回の結果は、僕たちが直感的に感覚と非常によくマッチしていますね。とはいえ、正直なところ、今回の評価がどのぐらい定量的に妥当性のあるものなのか、といったところが残念ながら僕にはよく分からないです。興味のある方は、下記の原論文をどうぞ。

 

【参考サイト】

Digit ratio (2D:4D) moderates the impact of sexual cues on men's decisions in ultimatum games
(原論文)


2006年05月06日

コーヒーで説得は成功しやすくなる

 ABC Science Online より。

 

 カフェインを摂ってから説得を受けると、摂らなかった場合と比べて、説得に応じるケースが多くなったという実験結果についての記事です。

 

 今回の研究によると、誰かに何か説得したいことがあるときには、事前にコーヒーを1杯飲ませておくと、応じてくれやすくなるかもしれないのだそうです。

 

 カフェインを摂ると、注意力や記憶力が増すことになり、その結果として、相手の言うことをより聞こうとするようになるとのことです。

 

Coffee makes us say 'yes'

(コーヒーは私たちに「はい」と言わせる)

http://www.abc.net.au/science/news/stories/s1627382.htm

 

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 もし周りの誰かを自分の考え方のとおりにさせようと思うのなら、その人が1杯のコーヒーを飲んでいたかどうか確認するようにしよう。カフェインは私たちに説得を受け入れやすくさせることを研究は示している。

 

 オーストラリアの研究者たちによると、カフェインの摂取により、私たちの情報を処理する能力は上昇し、説得力あるメッセージに耳を傾け理解をする程度が大きくなるという。

 

 彼らは人々に、カップ2杯のコーヒー相当のカフェインもしくはプラシーボをとらせた前と後で、自発的な安楽死および妊娠中絶に対する考え方について質問を行った。

 

 人々はまた、カフェインを摂ったあとで、説得力のある議論の文章を示された。

 

 この実験により、「カフェインは、メッセージのシステム的処理を推進させることを通じて説得力を増加させる」ことが示された。

 

 しかし、カフェインは人々をより良い気分にもさせ、これによりメッセージに賛同しやすくさせる、とこの研究者たちは述べている。

 

 この研究はクイーンズランド工科大学のウェブサイトに投稿され、European Journal of Social Psychology 誌の掲載に投稿されている。

 

■ このことは広告にどんな意味をもつか?

 

 カフェインが私たちのメッセージの内容をよく吟味する能力を増加させるということをこの研究は示唆している、と語るのは、共著者の Blake McKimmie 博士である。

 

 彼が言うには、この研究は広告を行う人にとって意味があるという。というのも、朝食の時間など、人々がカフェインを消費するであろう時間に広告をスケジュールすべきであることをこの研究は示唆しているからである。

 

 しかしながら、コーヒーをたくさん飲みすぎると、議論の強さよりもむしろ些末な要因に気をとられがちになる。

 

 「ですから、広告を見ているとき、実際の製品よりも売っている人の魅力に気を取られやすくなるかもしれないのです。」と彼は語る。

 

■ 脳へのカフェイン

 

 行動神経科学の専門家であるモナッシュ大学の Pradeep Nathan 助教授(この研究には関わっていない)は、カフェインは脳を含んだ中枢神経系に刺激を与え、ここで神経伝達物質に影響をおよぼすのだと語る。

 

 カフェインは記憶を向上させ、手元のタスクにより大きな注意を払わせる、とこの研究者は述べている。

 

 「カフェインは注意力を実際に向上させ、そして記憶を向上させ得るものです。より注意深くなり、特定の物事への考え方は変わり得るものだということを人々に思い起こさせます。」(Nathan)

 

 「より注意深くなればしめたものです(それは広告にとってまさに意味あることだ)。できるだけ多くの人々に自分の広告に興味を持って欲しければ、人々の注意を引くという原則にのっとり、広告はうまくいきます。(このへん訳不明;)

 

■ でもそれって続くの?

 

 Geoff Kelly は、特定のメッセージ(への関心)を人々に買わせる方法について、政府や企業に助言を行っているオーストラリアのコンサルタント会社の役員である。

 

 彼は、説得にはさまざまな段階があり、成功へのカギは、その説得が長期間であるか否かにあると述べている。

 

 「多くの物事が説得の手段となり得ます。しかしそれらは長期間にわたって続くのでしょうか?」

 

 「もし私があなたをディナーに連れ出す魔法の技術を持っていれば、それはうまくいくでしょう。しかしだからといって、私があなたを誘い出せたというわけではないのです。」(訳注:説得が長期間に及ぶ場合、瞬間的な興味を持たせることができても、しばらく時間が経つと興味が覚めてしまうのなら効果がないよ、ということでしょうか。)

 

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 元論文は見つからず。具体的な数字が知りたいなあ。

 記事中には広告を出す時間帯うんぬんの話が登場していますが、言うまでもなくこれは、「コーヒーをいつ飲むか」だけを基準にして評価するならば、という但し書きがつく話ですね。もちろん、人が注意力を増すのはいつかという問題は、コーヒー以外の要因がたくさん絡んでくるし、今回の結果で一概に判断できるとは到底いえなさそうな感じがします。


 また、記事中で触れられているように、どういった種類の説得か、という区別はかなりの度合いで結果を左右していそうです。

2006年05月07日

中国で今年最大の人工降雨

 ABC News より。

 実は今まで人工降雨というものをちっとも知らなかったのでご紹介です。

 日本ではなかなか想像がつきませんが、北京市では慢性的な水不足に悩んでおり、その経済的な損失が問題になっています。そのため、中国では、必要に応じて、人工的に雨を降らせるということをやっています。

 人工降雨の仕組みは比較的シンプルで、ロケットを雲に向かって打ち上げ、上空でロケットからヨウ化銀や二酸化炭素などの物質を放出させることにより、これらの物質を核にして水滴が形成されやすくなる、というものです。

 中国では人工降雨は非常に頻繁に行われていて、ばーっとあちこちのサイトを見てみたところによると、人工降雨がおこなわれる回数は年に千回のオーダー、テレビでは人工降雨による天気予報がおこなわれているのだとか。

China Makes Artificial Rain for Beijing
(中国は北京に人工降雨を行う)
http://abcnews.go.com/Technology/wireStory?id=1928877


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 中国の天気の専門家たちは、化学薬品を用いた、北京で今年最大となる降雨を計画している。これは干ばつを軽減し中国首都のちりを洗い流す助けとなる、と新華社通信は金曜日に報告した。

 新華社通信によると、北京の人工影響天気弁公室(訳注:本文中のWeather Modification Office という単語に相当する名称かと)は、163本のタバコサイズのヨウ化銀棒を載せた7発のロケット弾を北京の空に打ち上げた。

 発生する反応は0.4インチ(約18ミリ)の雨をもたらす。これは今年最大の降雨であり、「干ばつを軽減し、土壌を潤し、大気のちりを取り除いて空気の質を高める」という。(新華社通信)

 これは世界の多くの場所では普通でないことだが、中国はここ数十年間、人工降雨の利用を研究してきており、しばしば干ばつに悩む北方にて用いている。先月は、ここ10年で最悪の風塵に襲われた後で、北京をきれいにするため、これとは別の人口降雨が生成された。(訳注:「利用しようと研究する」という意味の英単語 "tinker" には「下手にいじくりまわす」という意味もあります。)

 雲への種まきに実際に効果があるかどうかは、科学のコミュニティの中で議論のテーマとなっている。2003年には、米国の全米科学アカデミーは、背後にある科学は「弱すぎる」との疑問を呈した。
 
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 この他、ヨウ化銀を使うことの健康や環境への負荷の評価については、現在のところ正確に調べたデータというものはないらしく、経済的な利点のみが先行しているところがあるのかなあと感じます。

 人工降雨については日本でも需要があり、以前から実験が行われているようです。いくつか参考になるサイトへのリンクを下記に示しますので、興味のある方はどうぞ。。

【参考サイト】
Sankei ECONET(2004/4/27)::「現代版雨ごい」が経済救う 年490億円の効果 環境影響の懸念も
 http://www.sankei.co.jp/eco/news/2004/04/27-4.html
中国大連面白写真と独り言::人工降雪
 http://spaces.msn.com/beijingsan/blog/cns!FF7E9F234D7B80C8!3192.entry
国土環境株式会社::人工降雨・降雪
 http://www.metocean.co.jp/new/inet/vol6/wr_kouu1.htm

2006年05月15日

日誌と窯で地磁気を推定

 news @ nature.com ? より。

 

 "paleomagnetics (-ism)" という単語があるそうです。「古地磁気学」と訳されるこの学問は、古い時代の地球の磁場の変動をさぐる学問です。

 

 この学問を通じて、地球の磁場の性質への理解が深められるほか、たとえば地球内部の岩石の移動などを検出を可能にしたり、あるいは、年代不詳の岩石などの年代を推定することを可能にしたりという応用ができるようです。

 

 僕はまったく知りませんでしたが、ウェゲナーによる大陸移動説、これを証明してみせたのも古地磁気なのだそうです。

 

 今回の記事は、かつての航海士たちの残した航海日記に記された情報、それと、古代遺物に刻印された地球磁気(特にかまど跡はよいサンプルが取れるとか)を使って、昔の地球時期の推定ができたという記事です。

 

 どうでもいいことですが、当初、"ship logs(航海日誌)" という単語を、誤って「船の丸太」だとカン違いして途中まで読み進めていたことは、恥ずべき事実です;;

 

Ancient mariners reveal tales from the Earth's core

  Ship logs and pottery show how the geomagnetic field has changed.

(古代の水夫たちは地球のコアからの物語を明らかにする

  ――航海日誌と窯元は地球磁場がいかに変化したかを示す)

http://www.nature.com/news/2006/060508/full/060508-11.html

 

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 水夫たちが17、18世紀に七つの海を往復していたとき、彼らは自分たちの航海日誌が、いつか地球の磁場の歴史を再構築しようとする研究者たちの助けをするとは考えてもいなかった。

 

 英国・リーズ大学の地球物理学者 David Gubbins らは、昔の航海用データを用いて、これを考古学の人工産物から得られた記録と結び付けることにより、1590年から1840年の間(Francis Drake によるゴールデン・ハインド号の航海から Charles Darwin によるビーグル号の航行にいたるまでの時期)の磁場の方向や強さがどのように変化したかを調べていた。

 

 体系化された地球磁場の記録は、物理学者 Carl Friedrich Gauss により測定法が考案された、19世紀中頃からしか存在していない。これらの測定結果は、それ以来、磁場の強さがおよそ年に0.05%でだんだんと減少してきていることを示している。

 

 「このような高い比率で磁場の強さが減少してきていることは多くの人々の興味を引いています」と語るのは、カリフォルニア州のラ・ホイヤにあるスクリップス海洋学研究所の地球物理学者 Cathy Constable である。「それは次の地磁気の逆転現象へ向かっていることの証拠であると見なされています。」

 

 逆転現象においては、地球の磁場が一時的に衰え、その後に南北極が逆転する。このプロセスが何によって起こるかは十分には理解されていないが、地球内の溶解したコアの循環パターンの変化とおそらく関わりがあるとされている。こうした逆転現象は100万年ごとに生じる。

 

 Gubbins らが今回 Science 誌に報告したところによると、近年の磁場の減衰は、偶然にも、測定自体が開始された時期ごろから始まったばかりであるという。航海日誌を用いて記録を250年ぶん後ろに伸ばすことにより、彼らは、1840年ごろまでは地球磁場の強さはほぼ一定で、そこから減り始めたことを突き止めたのである。

 

 「この新しい記録は、この傾向が一時的なものに過ぎないことを示しています」と Constable は語る。そのため、地磁気の反転が差し迫っていると予測するのは時期尚早であると彼女は言う。

 

■ 時間に凍結

 

 1840年以前の地球の磁場の強さについて私たちが持っている最良の記録は、岩石や考古学の人工産物によるものだ。地中や窯元の鉄などの磁性体の原子は、岩や窯が加熱後、冷却されたときの地球の磁場と一致しており、これにより、磁場の強さについての情報を明らかにしている。

 

 1600~1800年の地球の磁場は今日ほど急速には減衰していなかったという兆候をこのデータから発見していた研究者たちもいる。しかしこれらの記録はつぎはぎなものであり、ここから計算される地球の磁場の強さは不正確さをはらんでいる。

 

 よりよい見積もりを得るために、Gubbins らはこれらのデータを、長期間にわたる磁場の方向のより正確な情報と結びつけた。これらのデータの集合は、地球磁場の挙動の仕方についての既知のモデルに関連付けされ、磁場の強さの全体像が抽出された。

 

 方向についての情報を得るため、この研究者たちは航海日誌を調べた。数百年昔の水夫たちは、太陽や星々を観測して「真の北」を決定し、そして羅針盤で示された「磁気的な北」との間の違いを書き留めた。「こうした測定がいかに正確なものだったかは非常に驚くべきことです」と、マサチューセッツ州ハーバード大学の Jeremy Bloxham は語る。彼は1980年代末の歴史的記録の蓄積のさいに Gubbins とリーズ大学の Andy Jackson と共同研究を行った。

 

■ 歴史の再制定

 

 Bloxham は、水夫たちはもっとも近い程度で測定を行い、比較的正確な記録を行ったのだろうと述べている。しかしそれらの記録にはしばしば系統的な誤差がある。これは、経度を決定する信頼ある方法が18世紀に考案されるまで、水夫たちが自分たちの位置を常に正確に知っていたわけではなかったという事実による。このことに関連して、研究者たちは水夫たちのデータを整理するのに20年近くを費やしてきた。

 

 この長いプロセスによって、地球の磁場の長期にわたる詳細像が今回明らかになった。決してよくある棒磁石の周りの磁場のような簡単なものではない。磁力線は単に地球の極から発生しているのではなく、磁場はつぎはぎ状であり、磁力線が反対方向に入り込む「逆の流れ(reverse flux)」の領域をもつ。(訳注:磁場が "patchy"(つぎはぎの)ってどういうこと?)この研究者たちは、これらの磁力線は過去4世紀にわたって変化していると語る。南半球のスポットは、現在では全く明らかだが、1840年以前にはほとんど現れていなかったと言う。

 

 1800年代に地球のコアで何かが起こり、磁場のふるまいに変化が起きたのだろうと彼らは語る。次の段階は、何がそのような変化を引き起こしたかをより理解するため、別の場所で、磁場の変化率が変わった時期の歴史的記録を調べることだ、とこのチームは提案している。


 


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 「古地磁気学」でグーグルしてみると、いろいろと面白そうなサイトが見つかりますね。下記の富山大学の特集ページは読みやすく、ざっと読んでみるのにおすすめです。

 

【参考サイト】

元論文(Fall in Earth's Magnetic Field Is Erratic)

 http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/312/5775/900

富山大学::特集・対談::古地磁気学って何?

 http://www.toyama-u.ac.jp/jp/Academic/research/special/004_hirooka/index.html

2006年05月25日

エコノミークラス症候群の本当の原因は?

 news @ nature.com ?より。

 

 エコノミークラス症候群というよく知られた現象についての記事です。

 この現象は、長い時間シートに座り続けることによって、身体の血の巡りが悪くなることが引き金となって発生するとされています。血の巡りが悪くなることで血栓が生じ、急に立ち上がるなどの動作によってこの血栓が一気に肺動脈の方へと流れ着き、血管を詰まらせ、心臓の機能に障害をおよぼします。

 

 しかし、長い時間座り続けるということだけがはたしてこの症候群の原因なのか? 他に原因はあり得ないのか? といったことが、現在も議論の話題となっているようです。

 

What causes blood clots on long-haul flights?

(長期間のフライトで血塊を引き起こすものは?)

http://www.nature.com/news/2006/060515/full/060515-7.html

 

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 「エコノミークラス症候群」に低酸素レベルがもたらす影響についての研究が再び議論の的となった。潜在的に死に至る血塊が形成されるという深部静脈血栓症(DVT)のリスクが、長時間のフライトによっていかに増加するかという問題についてである。

 

 動かずに長い時間座ることで血流が制限され、そうした血塊のリスクが増加するということはよく知られているが、研究者の中には、リスクの原因となる別の要因があるかもしれないと提案する者もいる。

 

 長時間のフライトの人々と、地面に座った人々とを比較した研究によると、理由は定かではないが、2つのグループの間に違いがあることが示された。研究者たちは、乗客のストレス、質の悪い空気、低い湿度、低い気圧、宇宙線に曝されるといったことにこの説明があるかもしれないと示唆している。

 

 レスター大学(英国)の William Toff は、低気圧とそれに伴う低酸素レベルがこの原因であるかも知れないという意見の追求を行うことにした。しかし、ボランティアの被験者を低気圧状態においた後で、このことが血塊のリスクに影響を及ぼしたとする証拠を見出すことはできなった。

 

■ 高所の人々

 

 Toff の研究に参加した70名以上の健康なボランティアたちは、圧力室で8時間×2のセッションを過ごした。一方のセッションは、普通の地上の気圧で、もう一方は高度2438メートルに等しい低気圧状態だった。これは国際線の規制のもと、キャビンで許されている最も低い気圧だと Toff は語る。

 

 「このキャビンの圧力は、乗客が曝される可能性のあるワーストケースのシナリオを表しています。」もっとも長期間にわたる巡航レベルのジェット旅客機は、概してキャビンの気圧が高度1524~2134メートルと同等を保っている、と Toff は付け加える。

 

 2つのセッションのそれぞれの前後でボランティアは採血を受け、血塊の初期の兆候である4つの指標について検査を受けた。この研究者たちが Journal of the American Medical Association 誌に報告したところによると、2つのグループの間で顕著な違いは見受けられなかったという。

 

 飛行機、電車、自動車による長距離旅行でのDVTの主要な原因は「長時間にわたって動かず座っていること」だろうと Toff は語る。

 

■ 窮屈なキャビン

 

 しかし、これでこの問いに幕が下りたと考えない者もいる。窮屈なキャビンの状態が DVT の唯一の原因ではないと結論づけた研究が最近の Lancet 誌に掲載された。この研究の共著者である Suzanne Cannegieter は、キャビンの低酸素は要因として除外できないだろうと述べている。

 

 ライデン大学メディカルセンター(オランダ)の Cannegieter らは、DVTのリスクが比較的高い参加者(経口避妊薬を服用している女性や遺伝性素因のある人々)の8時間のフライト後に採取した血液サンプルには、映画館のシートに8時間座らせ続けた同様の人々よりも、血液凝固の兆候が多いということを示した。

 

 以前の研究の中には、低酸素レベルが血塊にもたらす影響を示唆する研究があった、と Cannegieter は指摘する。やはりこれが飛行機旅行中の問題を説明する最もあり得る候補だと彼女は言う。

 

■ ハイリスク・ロープレッシャー

 

 Toff、Cannegieter いずれのチームも、高リスクのボランティアたちを低気圧室におき、あり得る関連性についてさらなる理解を得たいと考えている。

 

 こうした研究には、フライトをシミュレートする実験室が助けになる。ドイツ・ホルツキルヒェンのフラウンホーファー建築物理研究所(IBP)に、今月初め、Airbus 310 の断面を取り囲むような実験室が公式に発足した。当研究所の Andreas Hagen Holm は、これは13000メートルの高さの飛行機のキャビンの状態をシミュレートできる初の地上ベースのシステムであると語る。このシミュレータは、振動・騒音公害・空気の質・気圧といったことが人間の健康にもたらす様々な影響を除外する助けとなるはずだ。

 

 それまでのあいだは、乗客へのアドバイスは変わらない。長いフライトの最中はちゃんと辺りを動き回ろうということだ。Toff が news@nature.com に語るところによると、彼は火曜日の晩に大西洋をわたってボストンに飛行する予定だった。道中は、定期的にふくらはぎの筋肉を縮め、キャビンを歩き周っているだろうね、と彼は述べた。

 

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【参考サイト】

元論文(Effect of Hypobaric Hypoxia, Simulating Conditions During Long-Haul Air Travel, on Coagulation, Fibrinolysis, Platelet Function, and Endothelial Activation)

 http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/295/19/2251


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2006年05月28日

霧をつかむ昆虫の技

 ScienceNOW より。

 

 「とらえどころがない様子」を表す言葉に「雲をつかむ」という言い回しがありますが、今回の記事は、雲ではなく「霧をつかむ」話です。

 

 砂漠に住むいくつかの種類の昆虫たちは、水の少ない砂漠で生き延びるために、数々のテクニックを持っています。特にユニークなのが、霧が立ち込める中、砂丘で逆立ちをして水を集める方法。水をはじく性質の表皮と、そこにある溝をうまく使って、霧から集めた水分を、動かずに口まで運ぶことができるそうです。

 

 下記の参考リンクに、逆立ちの様子のイラストがあります。その和名も「キリアツメ属」の「サカダチゴミムシダマシ」なんだとか。

 

Water, Water Everywhere

(どこでも水を)

http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2006/525/1

 

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 霧から水を絞り出す砂漠の昆虫が科学者たちにインスピレーションを与え、文字通り空気から水分をつかみ取るナノ材料を生み出した。この発明により、乾燥した地域での水の供給を増やし、また同様の設備を用いることで、繊細な診断検査のために少量の液体の流れを正確に制御できるだろうと専門家たちは述べている。

 

 Stenocara beetle(ゴミムシダマシの一種)は、地上でもっとも乾燥した場所のひとつのナミブ砂漠に生息する。アフリカの南西に位置するこの地域は、降雨がほとんどない上に予測不可能で、河川はない。朝になり大西洋から厚い霧が流れ込むと、この昆虫は砂丘の頂上に登り、三角倒立をして、背中を風に傾ける。水の小滴はなだらかな隆起の頂上部に集まり、小さな隆起上にある、ろう質で撥水性のある溝に流れ落ちる。ここで昆虫の殻下の水は口へと分流するのだ。(ScienceNOW, 1 November 2001)

 

 この昆虫の水収集設計を模倣するため、ケンブリッジ・マサチューセッツ工科大学の材料研究者 Michael Rubner と化学工学者 Robert Cohen らは、水をはじき(疎水性)、その上に吹き付けた水がほぼ球形の水滴のままになる粗塗りを作成した。まず、ガラス上の高分子フィルムに皺(しわ)をよせ、マイクロメートルサイズの山と谷を作った。そして、谷に水滴が捕らわれるのを防ぐために、ガラスのナノ粒子を撥水性のあるテフロンのような分子でコーティングし、これで表面を加工した。

 

 この材料でさらに水を捕らえるために、この研究者たちは Stenocara beetle からもう一つの手がかりを得た。彼らは水をつかむための隆起を、たくさんの小孔のあいた荷電高分子(訳注:charged polymer?)に作り、「水を吸い上げるナノ毛細管やナノスポンジのように」機能させたと Rubner は語る。この高分子は、霧から水を収穫するのために、繊維のような他の表面にもプリントすることができるだろう、と彼らは Nano Letters 誌の6月14日号に報告した。

 

 この新しい材料は、現在の霧を捕らえる網――水のほとんどは集められずに通り過ぎてしまう――よりもずっと効果的だと語るのは、この昆虫のユニークな体表について最初に記した、オックスフォード大学の動物学者 Andrew Parker である。「人々の生活の助けとなる可能性があります。ほとんどの場合は、そこからお金を作り出す可能性は少しもありませんが。」と彼は語る。

 

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【参考サイト】

元論文(Patterned Superhydrophobic Surfaces: Toward a Synthetic Mimic of the Namib Desert Beetle)

 http://pubs.acs.org/cgi-bin/sample.cgi/nalefd/asap/html/nl060644q.html

ナミブ砂漠の奇虫(逆立ちのイラストあり)

 http://www.afftis.or.jp/konchu/mushi/mushi93.htm

Fog-harvesting for water - clouds on tap (英語:霧をとらえる網と思われる写真) http://www.scienceinafrica.co.za/2003/march/fog.htm

2006年06月02日

社名の発音のしやすさは株取引数を左右する

 Science A GoGo より。

 僕は株に手を出したことがまったくないのですが、株をやる人の間では「IPO」という言葉はありふれた言葉なのでしょうか・・?

 本記事で登場するIPOというのは、「新規株式公開」をさす言葉で、未上場企業が証券市場に新規に株式を公開(上場)することです。

 ばーっと検索してみた感じ、IPOの取得を狙い目にした本当に数多くのサイトがあることに気づかされます。どうやら、新規公開の直後は、価格が値上がりする傾向が強いこと、そしてその値幅が大きいといったことから、投資家の間でも、ハイリスクかなり魅力的な投資先としてとらえられているようです。(ちがったらごめんなさい。)

 今回の記事は、会社の名前が読みやすい簡単な場合と、そうでなかった場合とで、取引数に違いが見られたという研究報告です。

What’s In A Name? Stock Performance!
(名前にはどんな意味がある? 答えは株式取引。)
http://www.scienceagogo.com/news/20060430033547data_trunc_sys.shtml

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 プリンストン大学の2名の心理学者による、アメリカの2つの主要な証券取引での新規株式公開(IPO)を調べた研究が示すところによると、人々は発音がより簡単な名前の新規公開株を購入する傾向にあると言う。一般的には数桁の数字で表されるティッカー・コードが容易に発音できるかどうかにもこの効果は及んでいる、と同大学の Adam Alter と Danny Oppenheimer は語る。

 「この研究が示すのは、投資をするという、人々がもっとも理性的であろうとするときであっても、精神的なショートカットが行われるということなのです。」と Oppenheimer)は語る。「これらの発見は、心理学が経済理論に非常に大きく影響するという考えに寄与します。」

 この2人の心理学者が、こうした発音の簡単さと出来高との間の関係に出くわしたのは、もともとこれとは別の効果を探していたときだった。彼らは学生のグループに、一連の架空の株式がどのぐらい取引されるかを、その株の名前のみに基づいて見積もってもらった。「私たちは学生たちに会社名のリストを渡し、『どのぐらい株の取引が行われると思いますか』と問いました。」と Oppenheimer は述べる。「そのとき私たちがもっぱら興味があったのは、情報処理が簡単だという感情に対する人々の解釈をコントロールできるかどうかということでした。もとは市場や会社について研究しようとはしていませんでした。株式は興味ある調査領域にすぎなかったのです。」

 しかし、学生たちの解釈をコントロールしようというこの研究者たちの試みにも関わらず、その関係はきわめて強かった。そこで彼らは、実験室をこえて、この2つの変数の間の関連を、2つの大きな米国の株式市場――ニューヨーク証券取引所と米国証券取引所――で調査した。現実世界においても、同様にこの影響があることを彼らは発見した。株式の名前や標識記号がより「流ちょう(発音しやすい)」であるほど、初期の株式の取引は多くなったのである。

 「新規株式公開後、1日、1週間、6ヶ月、1年の間隔をあけて見ました。」と Alter は言う。「この効果は新規株式公開のすぐ後にもっとも強くなりました。たとえば、もしあなたが1000ドルから始めて、発音しやすい名前の上位10社に投資したならば、あなたは発音しにくい下位10社に投資していたよりも333ドル多く得ることになるのです。大きな会社は、小さな会社よりも、より発音しやすい名前を採用し、より大きな投資をひきつけるという可能性はあると思います。」「しかし、この効果は会社の大きさに関わらず存在しているのです。業種、国籍、その他の要因の影響を制御したときにこの効果があることも私たちは示しました。」

 「これは株式取引において役割を果たす唯一の要因ではありません。」と Oppenheimer は言う。「その他の多くの経済的・心理的要因も、まちがいなく同様に役割をはたしています。この研究は、心理学が経済学よりも重要であると主張するものではありませんが、ある程度は、株式取引のモデルを構築する際に心理学的な変数を無視することはできないと言えます。」

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 完全に合理的な判断のみで動いていると思われる経済の世界であっても、実際にはそんなことはなく、たとえば最後通牒ゲーム(参考記事:セクシー画像で男の決断力は鈍る)に代表されるように、感情的な要因に行動を左右されることがある、というのはよく聞く話です。

 とはいえ、僕には、どの株を購入しようか迷っている投資家が、いったいどういう気持ちで読みやすい名前の会社を選択しているのか、というのはなかなか想像できませんねえ。実際に株に手を出してみると分かるのかな?

 以下、よた話ですが、本記事を翻訳する上でいちばん悩ましかったところが、タイトルの "What’s In A Name?" の文でした。ざっと調べてみると、どうやら、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」に登場する表現みたいです。そこでは、「名前とは何だろう? バラを他の名前で呼んだとしても、その甘美な香りはそのまま・・・」という感じだそう。英語記事って、こういう凝ったタイトルが付けられることがあるなあ。こうした言い回しを味わえるようになれるともっと面白いのだろうなあ、と感じます。

【参考サイト】
元論文 (Predicting short-term stock fluctuations by using processing fluency)
 http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/103/24/9369
・元記事 (News@Princeton : 「Study: Stock performance tied to ease of pronouncing company's name」)
 http://www.princeton.edu/main/news/archive/S14/90/01C38/

 (てか本記事はほとんどここからのコピーですね・・訳し終わってから気づきました)

2006年06月03日

世界最古の栽培植物はイチジクかもしれない

 ABC News より。

 

 イスラエルのジェリコにある遺跡で、古代の人々がイチジクを栽培していた跡が発見されたそうです。

 

 このイチジクは、ドライ加工され保管されていました。また、当時の人々が、突然変異で生まれた変種から有益な品種を選り分けて育てていた可能性も示されています。

 

 イチジクに限って言えば、これまでの考古学者の認識では、約6500年前に栽培されていた記録があるようですが、今回発見された跡は11200~11400年前と推定されており、かつての記録を大きく塗りかえることになります。

 

 そして、今回の発見により、農業の開始時期の見積もりが、従来から約1000年まき戻されることになるかもしれません。そうであれば、同じ場所から発見されたドングリ・大麦・オート麦とともに、イチジクが世界で最古の栽培植物とみなせるかもしれません。

 

Figs Said to Be First Domesticated Crop

(最初の栽培作物と言われるイチジク)

http://abcnews.go.com/Technology/wireStory?id=2030590

 

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 羊乳チーズ添えの焼きイチジクを堪能している食通たちは気づいてないかもしれないが、イチジクには味わい深い歴史がある。

 

 考古学者たちが報告するところによると、約11400年前に古代の人々がイチジクの木を育てていたという、この果物を最古の栽培作物たらしめる証拠が見つかったという。

 

 この発見により、中東にて小麦・大麦・豆のような農作物が耕作されていたという最古の証拠よりも、イチジクの利用が1000年ほど前だったことになる。

 

 古代のこの果物の残がいは、古代ジェリコ北部のヨルダン谷にある村落地ギルガルIで見つかったと、ハーバード大学 Ofer Bar-Yosef と、バーイラン大学の Mordechai E. Kislev と Anat Hartmann は、Science 誌の金曜日の号に報告している。ギルガルは11000年以上前に、無人になった。

 

 発見されたイチジクは、人々の消費のため乾燥させられていたようである、と研究者たちは述べている。

 

 このイチジクの種類は突然変異の変種で、木から落下しないものの、木の上になり続け、柔らかく甘い味になっている。種はつくらず、芽を植えて繁殖させなければならない。

 

 「単為結実の突然変異が起こると、その結果生じる果物が新たな木を作らなかったことに人間は気づいたに違いありません。そしてイチジクの木の栽培は、一般的な習慣となったのです。」と Bar-Yosef は報告の中で述べている。「特定の変種のイチジクの木を植えるというこうした意図的な行動に、私たちは農業の始まりを見ることができます。人間の介入がなければ、この食用のイチジクは生き永らえなかったことでしょう。」

 

 ここで発見されたその他の食べものには、ドングリや野生種のオート麦、野生種の大麦が含まれていたが、それ以外に栽培されていた農作物はなかった、と彼らは述べた。

 

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 教養の少ない僕の勝手ごとをいうならば、イチジクというと、あまりぱっとしない印象の果物なわけです。ですが、実は果物の中でもっとも歴史が古いのがイチジクなんですね。聖書の中でもっとも多く登場するのがイチジクですし、エデンの園でアダムとイブの身体を覆っていたのもイチジクの葉だとされています。一説には、禁断の果実としてアダムが口にしたのもイチジクであるという解釈もあるとか。

 

【参考サイト】

元論文 (Early Domesticated Fig in the Jordan Valley)

 http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/312/5778/1372


2006年06月18日

見ための鮮度に騙されない方法

 ABC News
より。

 独身のときと比べて、今は圧倒的に自宅で食事を作る機会が増えました。何をいまさら、と言われそうですが、冷蔵庫の中の管理ってけっこう悩ましいものなんですよね。つい先日は、冷蔵庫にあった賞味期限切れの牛乳をドキドキしながら飲み、これを受けて本記事を訳してみることにしました。たまにはこんな趣の記事も、ということで・・。

 今回の記事は冷蔵庫の中身の鮮度について。サラダ、チーズ、肉など、意外と見かけによらず、実は安全だったり危険だったりします。

Is the Food in Your Fridge Safe to Eat?
(冷蔵庫のその食べものは食べても安全か?)
http://abcnews.go.com/GMA/Consumer/story?id=2058496

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 ニュージャージーの Stanisci 一家には子どもが3人いるので、食べものはすぐになくなる。

 「たぶん、食べものを買いに週に2、3回は買いものに出かけているに違いありません」と母の Kathy Stanisci は言う。

 しかし、これだけ頻繁に買いものに出かけているにもかかわらず、キッチンのいくつかの品物は、消費期限よりも時間が経っているかもしれないと彼女は認めている。

 Good Morning America(TV番組名)の週末編では、ジョージア大学の食品安全センターの理事長である Michael Doyle 博士に、Staniscis 家の冷蔵庫を調べてもらい、どの品物がまだ食べられ、どの品物が捨てるべきであるかを見てもらった。

 Doyle がはじめに関心を持ったのは、Staniscis 家の6日経ったデリターキーだった。彼はそれを研究室に買って帰ったところ、数十万もの細菌がいることが分かった。

 「腐りかけているのだろうな、と思いました。」と彼は言う。

 デリミートを保存しておくのは最大でも4日と彼は推奨する。

 「デリコーナーで肉を買うことは、ときに、あらかじめ処理機でパックされた肉を買うよりもわずかながら高リスクになることがあります。処理のさいに、処理機は肉を熱処理し、細菌数がきわめて少なくなるように扱うからです。」と Doyle は言う。

■ 腐敗は見かけによらない

 一方で、Staniscis 家の消費期限切れの卵は大丈夫だった。市販の卵は、細菌数を低く保つ消毒剤で処理されるのだと Doyle は言う。

 低温殺菌牛乳も細菌に耐久性がある。1、2週間後に味が悪くなり始めるが、有害ではない、と Doyle は言う。

 マヨネーズは殺菌した酢で作るため、冷蔵庫で1年間は無事である。ケチャップもそうだ。

 しかし、Staniscis 家の食べかけの2週間経ったミックスサラダのパックは、大丈夫そうに見えたものの、多数の細菌がいることが分かった。

 「レタスの袋を開けたら、この袋はすぐに食べるものと考えることが大事です。細菌が中に入るであろう環境にさらしたからです。」と Doyle は言う。

 残り物に関しては、Stanisci 家のわずか1晩前の鶏肉とサヤインゲンに、10万個の細菌がいることが分かった。しかし3日経った持ち帰り用チーズ、5日経ったチーズピザは比較的すくない細菌数だった。

 「すべての残りものが、同じように製造されるのではありません。」と Doyle は言う。「ですから、大ざっぱに言って、調理済み肉製品のようなとても痛みやすいものであれば、3,4日が最大だということです。」

 一般的に信じられていることとは対照的だが、ラップやアルミホイル、タッパーは食品を新鮮な味にしてくれるものの、食品の貯蔵期間を伸ばすわけではない。そしてカビが生えた場合は、もしそれがブロックチーズの表面に見られるのなら、その塊を切り捨てればよい。しかし一切れのパンに見られるのなら、パン全体を捨てないといけない。目に見えないカビが他の切れに広がっているかもしれないからだ。

 おそらく、食べものの貯蔵期間を伸ばすためにできる唯一の最良のことは、冷蔵庫を確実に華氏40度(セ氏4.4度)以下に保っておくことだ。

 「華氏55度(セ氏12.7度)まで温度が高くなる家庭用冷蔵庫を見たことがあります。もはや冷蔵庫とは言えません。」と Doyle は言う。「私たち微生物学者はそれを培養器と呼びます。そんなふうにして細菌を育てるのです。」

 ABCの Nancy Weiner が Good Morning America Weekend Edition 誌にこのストーリーを報告した。

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2006年07月02日

タバコをライトに変えた人の禁煙率は低い

タバコ

 今回はタバコのネタです。Reuters より。

 タバコにはいろいろな種類があります。マイルドセブン、キャメル、ホープなどなど、それはもうたくさんの銘柄がありますが、1つの銘柄だけ見ても、レギュラー、ライト、スーパーライト、スペシャルライト・・・いろんな種類のバリエーションがあって、買う人はよく混乱しないなあと思ってしまいます。

 さて、このレギュラーとライト、ぱっと見た名前の感じからすると、何となくライトの方が身体の負担が小さいのかなと感じます。なので、たとえば禁煙を考えてる人の中には、今まではレギュラーを吸っていたけど、今度からライトに落として徐々に慣らしていこう・・と考えてる人がいそうです。

 ですが、今回の記事によると、健康のためにライトタバコに切り替えた人は、切り替えなかった人よりも、禁煙する率が低くなったという調査結果をレポートしています。

People who smoke "lights" less likely to quit
(「ライト」タバコを吸う人々は禁煙する可能性が少ない)
http://today.reuters.com/news/newsArticle.aspx?type=healthNews&storyID=2006-06-30T145040Z_01_COL048083_RTRUKOC_0_US-SMOKE-QUIT.xml

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 「ライト」タバコはレギュラーの銘柄よりも安全であるという誤解は、いくらかの喫煙者のタバコ断ちを妨げているかもしれない、と新たな研究は示唆している。

 研究者達は、12000人以上の現および元喫煙者のうち、3分の1以上が、「健康上の」理由でライトタバコに切り替えたと述べていることが分かった。そして、こうした喫煙者たちのうち、喫煙の習慣をやめた人の割合は、通常のタバコから切り替えなかった人々の半分でしかなかった。

 この発見は、American Journal of Public Health 誌オンライン版に掲載された。多くの喫煙者がライトタバコを禁煙の代用品と見ているかもしれないという懸念を確かめる上でこの発見が役に立つ、と語るのは研究の主執筆者であるピッツバーグ大学医学部 Hilary A. Tindle 博士である。

 ライトタバコはレギュラータバコと同じだけ致死的なリスクがあることがいくつかの研究で示されているにもかかわらず、「ライト」や「ウルトラライト」や「低タール」という名前のついたタバコは、一般の人々をだまし、これらが健康上のリスクの低下をもたらすと人々に思わせている。このような批判が長く高まってきている。

 ライトタバコは、煙を機械で測定した際に、出されるニコチンが少なく、有毒化学物質のレベルが少ないことからそのような名前が付けられている。しかし、実際の生活では、喫煙者は、銘柄に関わらず、かなりの量のニコチンやタバコの化学物質を吸い込んでいる。

 ライトを使用している人々は、たとえばより多くのニコチンを得るためにより深く吸い込んだり、あるいは単純により多い本数のタバコを吸ったりする、と専門家達は述べている。

 喫煙をする上でライトタバコはより健康的な方法ではないことは明らかだが、一方で明らかでないのは、ライトタバコは実際にいくらかの人々の禁煙を妨げているのだろうかということだと Tindle は Reuter Health に述べた。今回の発見はそれがその通りであることを示唆しており――そしてまた、ライトタバコは健康の脅威が少ないのだという「今なお一般に広まっている誤解」を浮き彫りにしているのだ、と彼女は述べた。

 この結果は、2000年に行われた、32000人以上の合衆国成人の政府健康調査に基づいている。12285人の現もしくは元喫煙者のうち37パーセントが、健康のリスクを減らすためにライトタバコを特に利用していたと述べた。

 合衆国の人口全体で推定すると、30万人以上の喫煙者が、喫煙に関係する病気の可能性が低くなったと誤って考えていることをこの数字は表している。

 「人々の誤解を正すためにやるべきことがあります。」と Tindle は語った。

 広報活動でこのメッセージを理解させる助けができるかもしれません。医師たちは、喫煙中の患者を診察する際に、ライトタバコは禁煙の代替ではない点を強調することができるでしょう。

 パッケージのラベルもまた、ライトタバコの健康上のリスクについてのより特別な警告を伝えることができる。

 1960年遅くに合衆国で導入されて以来、ライトタバコは、タバコ売り上げのおよそ85パーセントの額まで成長している。

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 ライトに切り替えた人のほうが禁煙する率が低いってのは何だか不思議な結果ですね。「ライトだし、1本ぐらい吸っちゃっても、まあいいか」みたいな、気持ちの上でのプレッシャーの違いがあるんでしょうか。

 本記事の翻訳のためにいくつかのサイト(主にJT)を見て周りましたが、知らずにけっこうびっくりした事実がけっこうありました。よく、タバコのパッケージを見ると、「タール○mg、ニコチン△mg」という記載がありますよね。あの数字って、「タバコ1本の原料に含まれる量」じゃなかったんですね。正しくは、「タバコ1本の煙を機械にかけて測定した量」なのだそう。なので、吸い方の個人差による違いがかなりあるため、場合によっては記載値以上のニコチンを摂取することも十分にあるのだとか。。

2006年07月13日

和音を幾何学的に表現する

音符  New Scientist より、音楽に関連する話題です。    いわゆる古典的な西洋音楽と呼ばれる作品には、よく使われる典型的な和音の進行があります。たとえば、「C→F→C→G→C」のような和音の進行はよく耳にするし、とてもきれいに聞こえます。    一方で、現代音楽と呼ばれるジャンルの作品には、こうした「基本的」な進行にあてはまらない楽曲が多く存在しています。譜面をみると、音階の上下を表す臨時記号がところせましと並んでいて、とても一目で演奏できそうにない複雑な和音です。    現代音楽の和音の進行は、従来の音楽の基本ルールから見れば、とうてい受け入れられないルール破りの曲のはずなのですが、にもかかわらず、聴く人の耳には心地よく聞こえています。実際、このことは音楽理論家にとって謎だったようです。    今回、和音の進行を、とある幾何学的平面上での点の移動ととらえることで、この理由を説明できるようになった、ということがレポートされています。

Geometric maps reveal hidden beauty of music
(幾何学的マップが音楽の隠された美を解明する)
http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn9500

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 和音の進行を可視化する新たな方法により、慣習的な作曲、経験的な作曲のいずれもが耳に心地よく聞こえることの理由が明らかになる。この方法によって作成された音楽マップは、経験の浅い作曲家がよりよい作品を作るうえでの案内役となるだろう、と研究者たちは示唆している。
 
 「自分の音楽クラスの新入生にこれらを配って、『これは西洋音楽がどのように成り立つかを理解するよい方法だ』と話すつもりでいます。」と語るのは、米国ニュージャージー州プリンストン大学の Dmitri Tymoczko である。
 
 この新たなマッピング手法を考案した Tymoczko は、西洋音楽が時を追うごとにますます複雑になってきたと説明する。初期の作品は、和音ごとの音符数が比較的すくなく、単純なハーモニーだった。そして作曲家たちは、ある和音から次の和音への移りかたについて、厳格な決まりに従っていた。
 
 しかしながら、現代の作曲には、以前には音楽的に受け入れられないとされていた複雑なハーモニーが含まれている。今では作曲家たちは、どのような和音を互いの後に続けるかということについて、より多くの自由を手にしている。
 
 しかし、音楽の慣習を破っている現在の作品がなお私たちに良く聴こえるのはなぜだろうか。Tymoczko は、自分のマップがこの答えを明らかにすると考えている。
 
■ 完全なハーモニー
 
 これらのマップでは、一つの点が一つの和音に対応する。この枠組みは、CとGの音符からなる和音の示す点が、音階で近接した音符の組み合わせ(わずかにピッチの高い『シャープ』のC#とG#の音符からなる和音など)の隣の位置に来るように構築されている。
 
 マップ上のある点からもう一方への距離が小さいほど、和音の遷移は耳によりよく聴こえる。したがって、たとえば、「完全四度」「完全五度」として知られている2つの音程(訳注:「ドファ」「ドソ」のこと)――ロックをも含んだ、あらゆる種類の西洋音楽で広く行き渡っている標準的な遷移である――が示す点の間は、短い1ステップ分しか離れていない。
 
 短いステップは、慣習的にはつながりが少ないとされていた和音の間にも存在しえる。19世紀の作曲家 Frederick Chopin が書いたピアノ・プレリュード ホ短調は、これらのマップ上の、きわめて短い線に沿って音程が動く。以前の音楽理論家たちは、Chopin の用いた和音の連続がなぜ心地よく聴こえるのか説明に苦しんでいた。
 
 それとは対照的に、かなり長めの距離――耳障りな遷移でもある――は、音階の低い端の和音と、高い端の近接した組のあいだに存在する。
 
 Chopin の作品の和音の進行を示すビデオ(訳注:上記リンクからたどって下さい)で見ることができる。ビデオでは、作品中の4音符和音を、2組の2音符和音に分けている。
 
■ もう一つの次元
 
 和音を表現する際の音符を書く順序は、幾何学的には違いをもたらし得るが、音楽的には違いをもたらさない(CGはGCと同じように聴こえる)という点を Tymoczko は強調する。この食い違いを解決するため、このマッピングシステムは「非ユークリッド」幾何学を利用している。
 
 非ユークリッド幾何学は1世紀以上もの間ひろく受け入れられてきているため、Tymoczko は誰もこの手法を発見していないことに驚きを感じている。「ある意味では、これは100年前に発見されていたのです。」と彼は言う。

 和音の進行を表すのに必要となる次元数は、和音中の音符の数に対応している。したがって、3音符和音からなる音楽作品は3次元で表され、4音符和音からなる作品は4次元で表現される。このビデオ(訳注:上記リンク参照)は、4音符和音を含んだ Chopin の作品の4次元空間の断面を示したものである。

 このマップは、現代音楽がよく聴こえるのはなぜかという問いを説明する助けとなっている一方で、未知の和音の進行を明らかにしてはいない。Tymoczko は、「これらの手法が、以前は知られていなかった和音の進行を魔法のように示してくれたなら、それはとても素晴らしいことでしょう。しかし、作曲家たちは、この空間を探索するという良い仕事を(既に)していたのだと思います。」

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幾何学的マップ
 この幾何学マップを右図に示しました。(クリックで拡大。)元論文(下記リンク参照)に掲載の図を元に、日本語のドレミの表現に書き直しています。

 右の辺と左の辺とが上下反転してつながっているという、少し特殊な特徴です。楽器をお持ちの方は、図を見ながら音を鳴らしてみると面白いかもしれません。
 
 この図は2次元空間、つまり2音符の和音についてのものですが、下記のリンクからたどれる「Supporting Online Material」(Movie S4)では、3次元や4次元バージョンのマップも見られますね。4次元のは見てもさっぱり意味が分かりませんが・・。
 
【参考リンク】
元論文(The Geometry of Musical Chords)
 http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/313/5783/72
PianoBoard(パソコンのキーボードでピアノ演奏ができるフリーソフトです。)
 http://hp.vector.co.jp/authors/VA035664/soft.htm#pb

2006年07月17日

離婚男性は心臓病のリスク大、女性は逆

離婚届
 New Scientist より。
 
 デンマークの30~60代の人々を対象に、生活のスタイルと心臓の病気との間の関連を調べる調査が行われたそうです。
 
 これによると、離婚した男性は、そうでない男性と比べ、突然心臓死で死亡するリスクが高いことが分かりました。しかし反対に、女性の場合だと、離婚した人のほうが突然心臓死のリスクはそうでない女性よりも小さかったのだそうです。
 
Living alone may double heart disease risk
(一人きりで生活することは心臓病のリスクを2倍にしているかもしれない)
http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn9543

 
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 一人きりの生活は心臓病のリスクが2倍になる――関連性の可能性を調査した過去最大のプロスペクティブ(前向き)研究はそう示唆している。しかし、女性に限っては、離婚が心臓をある程度良くしているかもしれないことも同研究は示している。

 (訳注:プロスペクティブ研究というのは、最初に健康な人の生活習慣などを調査し、その後、この集団を前向き、つまり未来に向かって追跡調査して、後から発生する疾病を確認する研究手法です。) 

 デンマーク・オルフスの Aarhus Sygehus 大学病院の Kirsten Nielsen らは、オルフスに住む30から69歳の人々についての、国の健康データベースの情報を用いた。彼女らはまた、2000~2002年の個々人の健康記録も調べた。

 このチームは、急性冠症候群として知られる種類の心臓病(心臓麻痺や突然心臓死)人々を患わせやすくするリスク要因を理解しようとしていた。

 調べた138000以上の人のうち、646人は突然心臓死と診断された。一人きりで生活している50歳以上の男性、60歳以上の女性は特にリスクがあった。これらのグループは、全調査対象集団のうち8%しか構成していなかったにもかかわらず、1ヶ月のポジティブな診断(?)における全死亡数のうち96%以上の割合を占めていた、と Nielsen は記している。

 全体でいうと、突然心臓死のリスクは、一人きりで生活していた人々のほうが、誰か他の人と生活していた人々よりも2倍高かった。しかしながら、離婚した約10000人の女性は、離婚していない女性と比べてこの症候群のリスクが40%減少していた。とはいえ、この研究では、離婚した女性のうちの何人が再婚したかは不明である、と研究者たちは述べている。

■ 前向きな特性

 不幸せな結婚から脱出する方法を探し求める女性は前向きな特性を示すと Nielsen は語る。「人生における悪状況を受け入れたくないのです。」この前向きなふるまいが健康を伸ばしているのではと彼女は推測する。この研究では、離婚した約8000人の男性は、突然心臓死のリスクが高かった。

 一人きりで生活することと心臓の健康が良くないこと(これには血管狭窄を含む。参考:Absence makes the heart grow weaker : 不在は心臓を弱くする)との間の関連性が他の研究では示されていたが、一方で Nielsen は、この研究は、この関連性を調査する最大のプロスペクティブ(前向き)研究であると述べている。この新たな証拠により、専門家たちが心臓発作のリスクのある患者をより特定できるようになることを望んでいる。

 この研究は、既発見の様々なリスク水準の原因を特定するよう計画されていたわけではなかったとは言え、一人きりで生活する人々は、ホームドクターにかかったり健康的な食事をとることが少なかったのかもしれない、とこの研究者たちは示唆している。

 「一人になって幸せな患者もいれば、不幸せな患者もいます。これらの集団は異なるものなのでしょうか。先へ進むため、領域を区別しなければならない類の問題です。」と、米国ミネソタ州ロチェスターのメイヨークリニックの心臓内科医 Allan Jaffe は語る。
 
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 男性と女性とでまったく反対の傾向が出るっていうのは不思議な話ですね。

 記事で触れられているように、女性は離婚を人生の再出発ととらえるという傾向にあるのかな。そう考えると男性の方は、離婚の事実をいつまでも引きずる傾向がどちらかというと強いのかもしれません。あるいは、もっと単純に、今まで料理なり日常生活の面倒を見てくれていた妻が離婚によっていなくなり、不摂生な生活をせざるを得なくなった男性が多いのかなあとも感じます。心臓病以外の病気の率も、やはり離婚した男性のほう高くなってるんでしょうか。

 本記事に関連する記事としては、綺麗山さんのブログ「しんりの手 :psych NOTe」の「自殺されると身内も後追い。特に男性」の記事が挙げられます。こちらも本記事と同じくデンマーク人を対象にした調査で、自殺についてです。これによると、妻が自殺したときに夫が後追い自殺する割合は、その逆(妻が残された場合)と比べて3倍高かったのだそう。

【参考リンク】

元論文(Danish singles have a twofold risk of acute coronary syndrome: data from a cohort of 138 290 persons)

 http://jech.bmjjournals.com/cgi/content/abstract/60/8/721

2006年07月23日

モテるトカゲになる方法

トカゲ  BBC News より。
 
 人間にかぎらず、あらゆる動物は、異性の気を引くためにいろいろな飾り付けを試みます。たとえばクジャクなどの一部の鳥は、自分のカラフルな身体を異性にアピールします。カラフルということはそれだけ捕食者に見つかりやすいわけですから、それにも関わらず生き延びている自分はそれだけ体力的に優れているのだぞ、とカラフルなクジャクは異性にアピールすることができるわけです。(他にもいくつか説があるようです。)

 他にも有名なのはフェロモンです。今回の記事で登場するトカゲに、餌にビタミンDを与えてみたところ、異性をより惹きつける分泌物を身体から出すようになったことが分かったそうです。

 このトカゲは自分でビタミンDを合成することはできないので、食べ物から摂る必要があります。したがって、ビタミンDをたくさん摂ってることを、分泌物を通じて周りに知らせることで、「自分はたくさん食べ物を食べている健康なトカゲだよ」と異性にアピールしているのかもしれないのだそうです。

Vitamins could boost attraction
(ビタミンは魅力を高めるかもしれない)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/5194300.stm
 
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 ビタミンなどの必須栄養素が、異性を惹きつけるフェロモンとして機能しているかもしれない。少なくともトカゲにおいてはだが。

 これは、スペインのある研究チームによる研究の結論である。このチームは、オスのイワトカゲにビタミンDを補給した。(訳注:"rock lizard" に対する適切な訳語が不明だったのでとりあえずイワトカゲとしておきます。下記で出てくるイベリアイワトカゲも同様です。)

 彼らは、こうしたオスからの分泌物によってメスが興奮状態になることを、Royal Society journal Proceedings B 誌に報告している。(訳注:正しくは Proceedings of the Royal Society B 誌)

 ビタミンDが人間においても同じ役割を果たすかどうかは定かではないと研究者たちは述べている。

 トカゲにおいては、オスの分泌物にビタミンが存在することは健康の証であり、進化的な立場から見れば、メスがパートナーを選ぶ有用な目印かもしれない、と彼らは示唆している。

 「必須栄養素の大半も、この分泌物中にあります。」と語るのは、マドリードの国立自然科学博物館の Jose Martin である。

 「オスのトカゲは、体内に持っているものを分泌物中に出しており、これが健康の良し悪しを反映しているのでしょう」と彼は BBC ニュースのウェブサイトに述べた。

 「他のトカゲの種では、分泌物に大量のビタミンEが見つかりました。ビタミンDと同様の機能を持っているのだろうと思います。」

■ 化学的コミュニケーション役

 動物たちは、つがいとなる異性を惹きつけるために、フェロモンを化学的コミュニケーション役として用いる。多くのフェロモンはステロイド族の化学物質に属し、人間には無臭である。

 ビタミンDは、イベリアイワトカゲの免疫系に重要であり、またカルシウムの代謝を促す。

 イベリアイワトカゲは肌で十分なビタミンDを合成することがしばしばできないため、食物を通じて得る必要がある。

 ビタミンDの補給を受けたオスたちは、後肢から、これと非常に関連性が高い化合物であるプロビタミンDを多く分泌したことを、Martin 博士のチームは発見した。

 オスの後肢からの分泌物は、巣の周辺を動き回る際に地面に塗り付けられる。これは匂いのマーキングとして機能する。

 分泌のプロセスはトカゲにとって、エネルギー上のコストとなっていたのかもしれない。そのため、健康で餌を多く摂っている個体は、おそらくはより多くの分泌物を生産するのだろう。

 ビタミンDの補給をうけたオスからの分泌物によって、メスたちはより興奮した――舌をちらつかせる回数を増やすことでオスに合図を送ったのである。メスたちは、健康でビタミンを与えられたオスの領域においてより多くの時間を過ごしたことも彼らは発見した。

■ 自然の魅惑

 自然では、他の必須栄養素も性的な魅惑のために使われる。

 鳥や魚は、カロテノイドの化学物質に由来する色を用いて、視覚的により魅力的になろうとする。

 プロビタミンDやビタミンDが、人間を含めた他の生物種で役割を果たしているかどうかは明らかではない。

 しかしこの分野には、さらなる研究のための数多くの方法がある。

 「これらの(フェロモン)ステロイドの代謝や、テストステロンのようなホルモンの影響について、さらなる知識を得ないといけません」と Martin 博士は語る。

 「プロビタミンDは、コレステロールやテストステロンに非常に似たステロイドで、同じ代謝経路にあるため、これらは互いに変換することが可能です。」

 「ですので、これら2つは非常によく似ているかもしれないのです。」
 
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【参考リンク】
・元論文(Vitamin D supplementation increases the attractiveness of males' scent for female Iberian rock lizards)
 http://www.journals.royalsoc.ac.uk/openurl.asp?genre=article&id=doi:10.1098/rspb.2006.3619

2006年07月26日

行動は言葉において雄弁なり

 ScienceNOW
より。

 同じ言葉でも、言い方によって微妙に意味合いが違って伝わるということはよくあります。微妙に異なるだけならまだしも、ときには正反対のこととして伝わることもありえます。今回の報告は、言葉の表現のしかたによって、ある種の情報を伝えることができたとする実験結果についてです。

Actions Speak Louder in Words
(行動は言葉において雄弁なり)
http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2006/721/2

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 母国語を共有しない誰かと会話をしようとしたことがあるなら、相手の言っていることを、その言い方だけによっていくらか直観できたことがおそらくあるだろう。怒り、幸せ、そして当惑さえも、言語の障壁をすっかり乗り越える。今回、新たな研究が示すところによると、話すことに便乗する情報は感情だけではないことが示された。私たちは無意識的に、身の回りの物体についての重要な詳細を、言葉で表現することのみによって伝えるのである。

 言語とは主として象徴的なものである――大半の時間、私たちは言葉をつかって考えを伝える。しかし、あるものを「どのように」言うかということは、「何を」言っているかということと同じぐらい重要になり得る。「よお、いい車だな!」と熱っぽく言うことは、皮肉っぽく言ったときよりもずっと異なる含意がある。しかし、車がどこにあるか、とか、どこに向かっているのか、といった話のパターンによって他の情報を伝えることはできるのだろうか。

 これを解明するため、シカゴ大学の心理学者 Howard Nusbaum らは、24名の大学生に対し、スクリーンを横切るドットを表現してもらうよう依頼した。学生たちは、次の2つの文 "It is going up(上がっています)" と "It is going down(下がっています)" の1つを使うように言われた。上がっているドットを表現するとき、学生たちは、下がっているドットを表現するときよりも声のピッチが平均して6ヘルツ高くなったことをこのチームは発見した。同様のことは、別の24名の学生にコンピュータスクリーンの文を読んでもらったときにも生じた。このことは、言葉に含まれる方向の情報にしたがって人々は声の音を変えるということを示している。もう一つの実験では、研究者たちはドットの速度を変えた。ドットを表現する際、ドットが速く動くと学生たちはより早口で話すことが分かった。

 しかし、こうした言葉の合図を聞き手側はとらえているのだろうか。このチームはこれを確かめるべく、ドット速度実験に参加した学生たちの声を録音したものをボランティアに聞かせた。ボランティアたちは、63%の時間、ドットが速く動いているか遅く動いているかを正確に予測した。これは、ボランティアたちが、文が話される早さからドットの速度についての情報を集めたことを示している。NusBaum は、言葉の早さやピッチを変えることは手のジェスチャーに類似しているかもしれない(たとえば子どもの丈を表すのに、尻の高さに手をもっていく)と語る。彼はこうした声の変調を、「スポークンジェスチャー」と読んでいる。このチームは、この結果を Journal of Memory and Language 誌の8月号に報告した。

 スポークンジェスチャーは科学者たちに見落とされていた、と語るのは、タラハッシーのフロリダ州立大学の認知心理学者 Rolf Zwaan である。「たとえその言語をしゃべれなくとも、その言葉がどのように話されるかにもとづいて、何が起きているかについていくらかのことをとらえることができる」ために、スポークンジェスチャーは重要であると彼は言う。マディソンのウィスコンシン大学の心理学者 Art Glenberg は、この発見は「人間のコミュニケーションを、私たちの知る、他の動物が用いる他神経系に対し関連づけるものである」と付け加える。たとえば、サルの甲高い声は、上からワシが襲ってくることを意味するし、また別の甲高い声は、下からのヘビを意味する。

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 自分自身の経験を思い出してみると、確かにそういうところがあるかも、と感じますね。特に、ドットの速度に応じて話すスピードが変わるというのは、言われてみるとまさにその通りで、この現象に今まで誰も注目していなかったというのが驚きに思えるほどです。

 とはいえ本記事では、録音した音声を聞かせてドットの速さを当ててもらう実験についても書かれてありますが、これは僕には「ふーん、まあそりゃそうだろうな」という感じ。おそらく今回の実験は、「音声を聞いて動きが速いか遅いか判断してください」なんてことを被験者に伝えたと推測するのですが、もし自分が被験者なら、そりゃもちろん、話すスピードの速い遅いを意識して聞き分けて、それをヒントに判断しようとすることでしょう。

 また記事では、声の音程の上下についても触れられてあります。この記事を読む限りでの判断ですが、この実験にはまだまだ検証の余地があるんじゃないかなと感じます。たとえば "It is ascending(上昇しています)" とか "It is descending(下降しています)" とか、別の表現に変えてみても同様の現象は見られるんでしょうか? 実験で用いた "up" と "down" が、たまたま音程の上がり下がりしやすい発音なだけかもしれない。いろんな表現を織り交ぜて試してみると面白そうです。そしてさらに理想を言うと、母国語の異なる2人の被験者を並べて、2人の間で今回の実験と同様のコミュニケーションが成立するのか? という点はぜひ調べてみて欲しいポイントです。


【参考リンク】
元論文(Analog acoustic expression in speech communication)
 http://dx.doi.org/10.1016/j.jml.2006.03.002

2006年07月28日

調査自体が対象に影響をおよぼす

アンケート  EP: end-point 経由、The News & Observer より。

 大学生に対して、運動に関するとあるアンケートをとったそうです。そしてその2ヵ月後に再度質問をとって、この2ヶ月で何回の運動をしたかということを尋ねました。すると、アンケートを受けた学生は、そうでなかった学生よりも多く運動をしたことが分かったそうです。

 アンケートをすることによって、相手がそのトピックをより強く意識するようになり、その結果、実際の行動に変化が生じるようになったとこの結果は示しています。

 さて、ここまでなら結構なことなのですが、この現象は、ドラッグの使用のような、好ましくない行動にも適用されてしまうのです。このため、たとえばドラッグ対策のためにアンケート調査をしたのに、それがかえってドラッグ使用を増加させてしまう、ということが起こり得るわけです。

Survey questions themselves may affect behavior
(調査の質問それ自体が行動に影響を及ぼす)
http://www.newsobserver.com/662/story/462624.html

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 ある研究によると、ドラッグをしたいと思っている大学生に対して、違法ドラッグの使用に関する調査の質問をすると、それだけでその行動が増すという。このことは当然のことながら研究者を神経質にしている。

 共著者であるデューク大学フュークアスクールオブビジネスのマーケティング教授 Gavan Fitzsimons は、「人々に質問をすると、それが行動を変化させるのです」と木曜に述べた。この誘発効果は、「私たちの多くが信じたいと思っていることよりもずっと大きい」ものになりえる。

 研究者の質問によって影響を受けるのはドラッグ使用だけではない、と Fitzsimons は語る。どれだけ運動をしているかを尋ねられると、その後でより運動をするようになります。追跡実験では、授業のサボリや飲酒について質問を受けた学生たちはサボりや飲酒が増えたのです。

 この研究が学術誌 Social Influence 誌の6月号に登場して以来、Fitzsimons の研究チームは、患者たちにうつや自殺思考について質問することが事態を悪くするかどうか関心がある保健従事者からの問い合わせを処理している。政治活動についての世論調査を受けた人々は政治的により活動的になるのではと考えている研究者たちもいる。

■ この研究はどのように行われたか

 これらの研究に対して、Fitzsimons と、共著者であるフィラデルフィアのペンシルバニア大学のマーケティング教授 Patti Williams、ニューヨークのバルーク・カレッジの Lauren Block は、167名の学部生のサンプルを2つのグループに分けた。第1のグループの学生は、今後2ヶ月にどのぐらいドラッグを使用するつもりかを答えてもらった。第2のグループの学生は、今後2ヶ月にどのぐらい運動をするつもりかを答えてもらった。

 2ヵ月後、両者は、何回運動を行ったか、何回ドラッグを使用したかを質問された。第1のグループの学生は、平均して2.8回ドラッグを使用したと述べた。2ヶ月前にドラッグの使用について質問されなかった第2のグループの学生は、平均して1.1回ドラッグを使用したと述べた。

 運動については、以前に運動の予定について質問を受けていた学生は、質問を受けていなかった学生よりも3分の1回多く運動をしていた。

 平均の取れた2つのグループを整理すべく、研究者たちは調査の始めに、過去のドラッグ使用や、ドラッグに対する態度について質問をした。これにより、ドラッグ使用の増加は、「すでにドラッグを使用する傾向やリスクがあるグループのみに限って当てはまる」と結論付けることができた、と Fitzsimons は語る。「ドラッグを一度も使ったことがない人々は、自分の否定的意見を固めただけでした。」

 しかしながら、調査の質問はなおもリスクをもたらす、とペンシルバニア大学教授の Williams は警告する。

 「非常に難しい問題です。政策立案者は今もこうした質問をする必要がありますが、害は及ぼしたくないのです。」と彼女は言う。「リスクのある行動について質問をするときはいつでも、単に質問することによって、その行動にすでに前向きな意向を持っている人々に対し、肯定的な態度を活発にする可能性があるのです。」

 この分野の標準を決定している、カンザス州レネクサのアメリカ世論調査協会の会長 Cliff Zukin は、この研究を驚くべきものと呼んだ。彼は、はたして大学生のドラッグ使用が容易に誘発されるのだろうかと考えている。この影響が一見よりも穏やかであることを示唆している。

 「調査は、行動に影響を及ぼさないように計画されています」と、ニュージャージー州ニューブランズウィックのラトガーズ大学の世論調査の専門家である Zukin は言う。「しかし、ある話題について人々に話しかけるとき、その話題について考えさせることになるのです。」

 この新しい発見は、「私たちに質問の言葉遣いについて本腰を入れて考えさせるものだ」と彼は述べた。

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 質問が意識に影響をおよぼす今回の現象は、僕たちの身の回りでもすでに利用されていますね(意図的にやってるかどうかは別として)。たとえばアンケートのこんな設問はよく見かけます。「普段はどのぐらいの頻度で○○を使用していますか?」「□□というキャンペーンはご存知でしたか?」「○○を購入すると△△という特典があることはご存知でしたか?」などなど、回答する側は、単なる質問だと思って答えるわけだけど、本人が自覚しないうちに相手の売りたい商品のイメージが頭に刷り込まれているのかもしれません。

【参考リンク】
元論文(Simply asking questions about health behaviors increases both healthy and unhealthy behaviors)
http://www.journalsonline.tandf.co.uk/link.asp?id=vl8068112n766558

2006年08月01日

冷えたスイカは栄養が少ない

スイカ  Reuters News より、軽めのネタ。

 梅雨も明けてこれから暑さが増していくところですが、冷えたスイカが大好きな人にはちょっと残念なニュースです。

Ice-cold watermelon is less nutritious
(よく冷えたスイカは栄養に劣る)
http://today.reuters.com/news/newsarticle.aspx?storyID=2006-07-27T123438Z_01_N26406455_RTRUKOC_0_US-WATERMELON.xml

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 冷やしたスイカは爽快なものだが、米農務省の研究者たちが水曜日に報告したところによると、室温に出されたスイカよりも栄養に劣る可能性があるという。

 室温で貯蔵されたスイカは、冷蔵されたスイカや採れ立てのスイカよりも多くの栄養をもたらすことを、研究者たちは Agricultural and Food Chemistry 誌に報告した。

 米農務省のオクラホマ州レーンのサウスセントラル農業研究ラボラトリーの Penelope Perkins-Veazie と Julie Collins は、カロテノイド――太陽による損傷に対抗できる抗酸化物質――の物質と、スイカの日々の生活とに注目した。

 スイカは、スイカやトマトを赤くする抗酸化物質であるリコピンが豊富であり、心臓病や数種のガンを抑える助けとなるとされている。

 Perkins-Veazie と Collins は数種のスイカを、華氏70度(セ氏21度)、華氏55度(セ氏13度)、華氏41度(セ氏5度)で14日間貯蔵して検査した。(訳注:以下の数値はセ氏で記します。)

 セ氏21度(空調の効いた建物の室温)に貯蔵されたスイカはいずれも、おおむね多くの栄養素を含んでいたと彼らは報告した。

 採れ立ての果物と比べると、セ氏21度で貯蔵されたスイカは、40パーセント多くのリコピン、50~139パーセント増しのベータカロテン(体内でビタミンに変換される)を含んでいた。

 「私たちの研究で用いたスイカはみな、収穫の際に十分熟したものを栽培業者に選んでもらった」と研究者たちは記した。

 スイカは収穫後も栄養素を生成し続け、冷やすことによってこのプロセスが遅くなるということをこの発見は示していると彼らは述べた。

 「スイカの消費期限は、収穫後、セ氏13度で14~21日間である」と研究者たちは記した。

 冷蔵庫の温度(5度など)では、スイカは腐敗を始め、1週間後には傷を作り始める、と彼らは記した。

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 つまり、冷たいスイカが大好きな人にとっての最良のソリューションは、常温で保存しておきつつ、食べる前に急速に冷やす、ということになるわけですね。

【参考リンク】
・元論文(Carotenoid Changes of Intact Watermelons after Storage)
http://pubs.acs.org/cgi-bin/sample.cgi/jafcau/asap/abs/jf0532664.html

2006年08月07日

天候は地球をふらつかせる

地球儀
 ABC Science Online より。

 中学校や高校のときに、地球の自転について習ったことがあると思います。

 斜めに傾いた地球の絵がかかれてあって、地軸が南極と北極を串のように貫いていて、軸を中心にくるくる回っている、おもちゃのコマのような感じの図です。

 すでに知られている事なのですが、実はこのイメージは正確ではありません。地軸がさす方向というのは、一定ではなく、ふらふらと揺れ動いているのです。ちょうど、コマの芯がまっすぐ固定しておらず、前後左右に振れているイメージだと思います。

 この現象には、大きく2つのタイプがあります。一つはチャンドラー揺動と呼ばれる、約14ヵ月(433日)の周期の揺れ動きで、これは海の水の循環が、気温や塩分濃度の変化や風によって影響をうけ、海底に加えられる圧力が変動するというのが原因であるとされています。もう一つは、季節に応じた揺動。軽く調べた範囲ではきちんとした情報が入手できませんでしたが、おそらく太陽との間ではたらく引力の影響によるものと思います。

 2005年の冬は、この2つの揺動が重なって互いに打ち消しあうという非常に稀な時期だったようです。この時期に見られるわずかな揺動を調べてみると、上記の2つとは異なる新しい揺動が明らかになりました。大気圧の高低に応じた、ちいさなオーダーの揺動が起きていることが分かったのです。

Weather makes Earth wobble
(天候は地球をふらつかせる)
http://www.abc.net.au/science/news/stories/s1705212.htm

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 地球の自転のわずかな変動を検知し測定するというめったにない機会を利用した結果、天候によって惑星が軸上でふらつくということが研究者たちによって確かめられた。

 極でのふらつきは、20セント硬貨サイズからDVDサイズにおよぶセンチメートルの規模であると、米国海軍観測所の天文学者 Thomas Johnson は語る。

 「これらのループは2、3日の規模です」と Johnson は言う。この時間枠では、天候により、宇宙で地軸のさす方向が引っ張られ変動する。

 天候のふらつきを調べるために、ベルギーの研究者たちは、2005年11月から2006年2月までの特別な時期を活用した。この時期は、地球の揺動においてよく知られた2つの大きな成分が打ち消しあい、小さな揺動によるシグナルがかき消されないようになる。

 この2つの成分は、現在の深海の変化によると考えられている433日の揺動と、季節の変化に対応する年一度の揺動である。

 これらは極の位置を野球の内野サイズほどのスケールで変化させる、と Johnson は語る。6.4年ごとにこれらは互いに打ち消しあう。

 「つまりこれは最初で最後のチャンスでした」と語るのは、ベルギーの王立天文台の Sebastien Lambert である。天候の影響を探し出すため、GPSのデータを用いて、時間精度の高い計測をおこなった。

 「もういちど機会を得ようと思ったら、6年以上待たなければならなかったでしょう。」

 Lambert と彼の同僚の Veronique Dehant は、この発見を Geophysical Research Letters 誌に発表する。

 また Lambert は、この期間中の特定の揺動を、アジア、ヨーロッパの大気圧系に関連付けることができた。

 この関連性により、天気予報から地球揺動のわずかな変動を予報することも可能になる。

 小さな揺動を計測することは、航空、計時、通信システムにとって重要だと語るのは、NASAのジェット推進研究所の Richard Gross である。

 「宇宙探査機を追跡するには、地球の回転がいかにして変化するかを知らなければなりません」と Gross は説明する。

 1千万キロメートル離れた場所では、地球の数センチメートルのズレが、宇宙探査機との通信の成功、もしくはコンタクトをまったく失ってしまうという差を生み出し得る。

 「何かを別の惑星に上陸させようとしているなら、これはもっとも重要です」と彼は言う。

 地上では、天候の揺れ動きもまた重要である。GPSや軍用航行システムの誤差を拡大させ、より大きな揺動の予測・修正に用いるモデルの計算を狂わせ得るためである。

 これらの揺動の修正がなければ、「精度は数桁悪くなるだろう」と Johnson は述べる。

 「レーガン・ナショナル空港(ワシントンDCの近く)の緯度では、この変化量は、滑走路に着陸するか、ポトマク川にぶつかるという違いになり得ます。」

 時計の調整をしたり、衛星通信のタイミングをとるときにも、この揺動を考慮に入れる必要がある。

 「これらはみな、最近の地球の方向データを必要とするのです」と Johnson は述べる。

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【参考リンク】
元論文(Rapid variations in polar motion during the 2005-2006 winter season)
http://www.agu.org/pubs/crossref/2006/2006GL026422.shtml

2006年08月20日

簡単なダイエット法――皿を小さくしよう

アイスクリーム
 Reuters より。

 ダイエットに関心のある人にとって非常に興味深いニュースです。
 この記事を読んだ方は、自分の食器を買い替えにいくとよいかもしれません。

Plate size influences portion size
(皿の大きさは取り分のの大きさに影響をおよぼす)
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?type=healthNews&storyID=2006-08-18T004221Z_01_SIB802519_RTRUKOC_0_US-PLATE-SIZE.xml

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 体重を減らしたい? 小さな皿で食べてみよう。より小さな器やスプーンを使うことで、食べ物を食べる量が抑えられたことを新たな研究は示している。

 「人々は、小さなサイズの器やおそらくは給仕用のスプーンを使って、消費を制御する助けにしようとするかもしれません」と、研究者たちは American Journal of Preventive Medicine 誌に記している。

 「体重を減らすことに関心がある人々は、より小さな器やスプーンを使うべきです。一方、体重を増やす必要がある人々――栄養不良や高齢の人々――は大きなものを使うよう勧められるでしょう」と、コーネル大学の Brian Wansink 博士らは付け加える。

 先行の研究では、ティーンエージャーたちは、背が高くて細いグラスに対して、背が低くて幅の広いグラスよりも77パーセント少ない量のジュースを注いだことを研究者たちは発見している。同様に、別の研究では、フィラディルフィアのバーテンダーは「ハイボール」グラスに対し、タンブラーに注いだよりも少ない酒を注いだことが分かっている。これらの研究が示すのは、器やスプーンのサイズに応じて、人々は盛り付ける分量を調節しているかもしれないということである。

 Wansink のチームは、調査のため、アイスクリームソーシャルに参加していた中西部の大学の学部生、職員、大学院生をふくんだ85名の栄養学の専門家に研究を行った。参加者はランダムに、17オンス(約0.5リットル)もしくは34オンス(約1リットル)の器、2オンスもしくは3オンスのスプーンを与えられ、アイスクリームを盛り付けるよう言われた。

 (訳注:アイスクリームソーシャルというのは、アメリカ中西部で行われている習慣です。それぞれの家庭のオリジナルレシピで作ったアイスクリームを持ち寄り、食べながら親交を深めるというイベントだそうです。)

 その後、アイスクリームの重さが量られ、また参加者は、どのぐらいのアイスクリームを盛り付けたと思うか、そして器とスプーンのサイズは普段使っているものとどのぐらい異なるかについて簡単な調査を行った。

 大きな器を受け取った参加者たちは、無意識のうちに、小さな器の人々よりも31パーセント多くのアイスクリームを盛り付けた。大きな給仕スプーンを使った人々も、器のサイズにかかわりなく、アイスクリームの盛り付け量は14.5パーセント多くなった。そして成人のほぼ全員(85人中82人)が、盛り付けたアイスクリームをすべて食べ切った。

 全体的に見て、大きな器と大きな給仕スプーンの人々は、小さな器と小さなスプーンの人々よりも、約57パーセント多くのアイスクリームを盛り付け、そして食べた。

 「ですが、注意すべき大事なことは、一般的に人々は、栄養学の専門家ですら、多く盛り付けてしまうことに気づいていないことです」と著者らは記している。

 「専門家さえもこうしたきっかけにつまづく羽目になるという事実は、こうした錯覚がいかに偏在的で破滅的かを示す一助になっているのです」と Wansick は記述の中で述べている。

 Wansick らによると、この発見に基づけば、「肥満患者は家で小さな器とスプーンを使って、過剰な消費を減らそうとするかもしれない」という。

 他方で、栄養不良の人々の間では、「大きな器とスプーンによって、ふだんの小さな器やスプーンよりも食べ物の摂取を多くするだろう」と彼らは結論付けている。

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 この記事に登場する Wansick さんの研究は以前にもこのブログで取り上げました。

 「背の低いグラスだと飲みすぎに?」では、ずんぐりしたグラスは、ほっそりとしたグラスよりも、ついつい多めのお酒を注いでしまう傾向があることが分かりました。おもしろいのは、たとえプロのバーテンダーであっても量の見積もりに失敗してしまうという点。それと似たように、今回の記事では、栄養学の専門家さえも器やスプーンの大きさに左右されてしまうのいうのは面白いです。(栄養学の専門家は盛り付けの専門家ではありませんが・・;)

 ところでこの著者たちは、年末の時期にアルコールの研究、そして暑い夏の時期にアイスクリームの研究を発表してますね。狙ってやっているのかな・・?

【参考リンク】
元論文(Ice Cream Illusions: Bowls, Spoons, and Self-Served Portion Sizes)
 http://dx.doi.org/10.1016/j.amepre.2006.04.003

2006年09月01日

男女比の不均衡がもたらすもの

 2004年の地球の全人口のうち、男性の占める割合は50.4%だそうです。ですが、世界のいくらかの地域では、この割合がくずれてしまい、男性の数が女性の数を圧倒的に上回るという状況になっています。

 こうした状況が生じた理由は様々で、一言でまとめられるものではありません。地域によっても異なってきます。また、こうした状況は当然のことながら独身男性の増加をもたらすことになるわけですが、このことは、社会の安定を脅かすような暴力的行為の増加を引き起こす可能性があると指摘されています。

Researchers warn of perils of gender imbalance
(研究者たちは性別の不均衡の危険を警告する)
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?storyid=2006-08-29T151107Z_01_HKG283325_RTRUKOC_0_US-MALES.xml

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 研究者たちは、男の赤ちゃんを選り好む文化について警告を発している。性別比の不均衡が非婚の男性をふやし、反社会的・暴力的行為のリスクを生じさせるだろうと言う。

 Proceedings of the National Academy of Sciences 誌に掲載された論文で、彼らは、中国とインドの一部で、今後20年間で男性が12~15パーセント多くなるだろうと述べている。男性の多くは、限られた教育しかもたない、地方の農民であるという。

 「家庭を持つ見込みを欠いた若い男性の数が増え、そうした男性は性的エネルギーのはけ口がほとんどない状態になるだろう」と記すのは、中国・浙江師範大学の Zhu Weixing と、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ小児保健研究所の Therese Hesketh である。

 「性別が、犯罪、特に暴力的犯罪と相関があるということはよく確立されている。このためこうした傾向は、反社会的行為や暴力のレベルを引き上げることになるだろう」と彼らは言う。さらに、この傾向は多くの社会において、安定と安全を脅かすだろうと付け加える。

 アジアや北アフリカの大部分において、すでに性別比はくずれている。女の子供の健康管理において、性別による中絶や差別により、女性の死亡が高くなってきている。

 「インドと中国だけで、いまや8千万人の女性が行方不明であると見積もられている」と彼らは記す。

 今月の British Medical Journal 誌に掲載された研究によると、中国は人口増加を制御するために1979年に一人っ子政策を導入したが、これにより、1980~89年に1.11だった男性-女性の比は、1996-2001年に1.23へ上昇した。

 世界銀行の図によると、2004年には、中国とインドで人口のそれぞれ48.6パーセントと48.7パーセントが女性だった。これとは対照的に、東アジアの総人口のうち、女性は49.1パーセントであり、全ヨーロッパと中央アジアでは52.1パーセントだった。

 論文で著者たちは、男女の産み分けの削減策、そして文化的考え方の早急な変化を求めている。さもなくば悲惨な影響がやってくるだろうという。

 「独身の若い男性が集まれば、組織化された攻撃の可能性が大幅に増し、このことは組織的犯罪やテロリズムにとって厄介な意味をもたらす」と彼らは述べた。

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 一般に、男の子の方を好む傾向にはいくつか理由があります。一つには、特に農村において、男性のほうが稼ぎが大きいからという理由。あるいは、家系を途絶えないようにするためだったり、遺産の相続が可能なためだったり、さまざまな理由が背景にあるようです。

 記事中でも挙げられていますが、男女の比についての事情は、国によってかなり異なります。一人っ子政策をとった中国の場合について記事では挙げられていますが、このほか、インドや韓国の状況もまた特徴的です。

 インドでは、そもそもきっちりとした出生数の把握が難しいという事情もありますが、地域による格差が大きいという特徴が見られるようです。インドの南部や東部では、人口の男女比は標準的(男105:女100ぐらい)なのに対して、パンジャーブ州などの北西部では、男120:女100という不均衡な構造です。(理由ははっきりとはしていないようです。)

 一方、韓国では、出産前診断による男女の産み分けが盛んに行われていました。そのため、胎児の性別判定が禁止になるまでの間は、出生の男女比がきわめて高い状態だったようです。実際、1992年のデータでは、第1子として出生した子の男女比は106:100なのに対し、第2子では113:100、第3子では196:100、第4子にいたっては229:100というたいへん異常な数字です。つまり、第1子で男の子を得られなかった夫婦が、第2子以降で出産前診断を積極的に行うようになったことを示しています。

 本記事の元論文は、男女比に関するさまざまな研究のまとめ的な内容になっています。ばーっと読んだ程度ですがかなり興味のわく論文を本当に数多く紹介していますね。この他のトピックについては記事を改めて紹介する予定です。

【参考リンク】
元論文(Abnormal sex ratios in human populations: Causes and consequences)
 http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0602203103

2006年09月14日

父の匂いが娘の成長を決める?

父と娘  Science A GoGo 経由、Penn State Live より。右の写真の人物は田中角栄と田中真紀子ですが、本記事とはまず関係ありません。

 2000名近くの女子大学生を対象に、社会的な環境と、初経の年齢に関するアンケートをとったそうです。

 この結果を分析してみたところ、父親が不在の学生は、父親がいる学生と比べて、初経の年齢が早かったことが分かりました。さらに、現在までの不在の期間が長いほど、初経のときが早くなることも分かったそうです。

 さらにこれとは別の研究によると、人間の嗅神経系に、初経と関係のあるフェロモンの受容体があることが報告されているそうです。ここから本研究の著者たちは、父親が出すフェロモンが、娘にとって性的な成長を抑えているのかもしれない、ということを述べています。

Scent of father checks daughter’s maturity
(父親の匂いは娘の成熟をおさえる)
http://live.psu.edu/story/19397

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 ペンシルバニア州の研究者たちによると、父親からの化学的刺激によって、娘の性的な成熟のはじまりに遅れが生じているかもしれないという。近親交配を避けるための進化上戦略の一部としてだという。

 「生物学上の父親は、娘に対し抑制性の化学的シグナルを送り出します」と語るのは、ペンシルバニア州アルトゥーナの心理学助教授 Robert Matchock である。「これらのシグナルがないと、若い女性たちは、より早く性的に成熟する傾向にあります。」

 動物の世界では、性的な成熟に対し化学的刺激が影響をおよぼすというのはありふれたものであると Matchock は説明する。齧歯類の家族から、生物学的な父親が取り除かれると、娘たちはより早く成熟する傾向にあると彼は言う。

 「近年、ほかの専門家たちによって、ほとんど知られていなかったフェロモンの受容体遺伝子が人間の嗅神経系に発見されました。これは、初経あるいは初回生理の開始におけるフェロモンの役割とかかわりがあります」と Matchock は言う。彼の発見は American Journal of Human Biology 誌の最新号に掲載される。

 ペンシルバニア州の生物行動健康学の Elizabeth Susman と Jean Phillips Shibley 教授をふくむ研究者たちは、若い女性の社会的環境と性的な成熟との間の関連性を調べるべく、1938名の大学生の初経に関するデータを収集した。データには、女性たちの家族数や社会的環境、そして父親がいなかった期間の長さといった要因についての情報が含まれていた。

 「父親のいない若い女性は、父親がいる若い女性よりも、おおよそ3ヶ月早く成熟する(大人になる)ということを私たちの結果は示しています」と Matchock は語る。さらに、このデータは、父親が不在の長さと初経の年齢との間の関連性――不在のときが早いほど、初経が早くなるという関連性――があることを示しているだろうという。

 併せてこの研究結果は、異父兄弟や継兄弟(連れ子同士で結婚した時の血縁のない兄弟)がいることも初経の早さと関連していることを示している。都会の環境で生活する若い女性も、地方の環境の女性と比べて初経が早かった。これは、父親があり、教育レベルが同等の両グループを比較したときもそうだった。

 都会の環境は、両親の抑制性フェロモンから身を遠ざけ、親族でない異性からの魅惑的なフェロモンに遭遇する機会を多く与えているのだろうと Matchock は推測する。

 「刺激的な都会の環境が、両親からの抑制的な刺激を打ち消すというのはあり得ることです。」(Matchock)

 総合すれば、この研究は、人間的な例外を示すものなのではなく、交配を強化し、近親交配を避けるために、フェロモンの刺激がいかに性的な成熟を調節するかを説明するものであると、このペンシルバニア州の研究者たちは語る。

 「近親交配を避けることは、健康的な遺伝子を首尾よく広めるために重要であるため、フェロモンの利用といった近親交配を避ける戦略は、種を通じて保存されているのでしょう。」(Matchock)

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 記事をみるかぎり、人間のにせよ他の動物にせよ、父親から実際にフェロモンが出されたことを示す証拠はないみたいですね。記事中で紹介されている齧歯類の研究が気になります。

 とはいえ、もし本当に抑制性のフェロモンが父親が出ているとしたら、それはものすごく驚くべきことですね。動物には近親交配を避けるための用意が備えられているなんて・・とても興味がかきたてられることです。

【参考リンク】
元論文(Family composition and menarcheal age: Anti-inbreeding strategie)
 http://dx.doi.org/10.1002/ajhb.20508

2006年09月18日

健康な子供の骨にカルシウムのサプリは効果なし

カルシウム錠剤  Reuters より。

 日本でも子供向けの食品を中心に、カルシウム入りをうたった食品が数多く出回っていますが・・、今回のはかなり驚きな研究結果です。

 3000名近くの被験者を対象にした今回の調査によると、健康な子どもにカルシウムのサプリメントを与えたところ、腰や脊椎において、骨量の増加は見られなかったことが分かりました。一方で腕の骨にはわずかの増加が見られましたが、これで骨折のリスクが抑えられる、と言い切れるほどの効果は見込めなさそうです。

Calcium supplements unlikely to prevent fractures
(カルシウムの補給剤は骨折を防止しそうにない)
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?storyid=2006-09-15T154622Z_01_L14147685_RTRUKOC_0_US-CALCIUM.xml

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 研究者たちが金曜日に述べたところによると、健康な子どもに骨密度を高めるためカルシウムを補給しても、骨折を防止することはできなさそうである。

 タスマニア(オーストラリア)のメンジーズ研究所の科学者たちが、約3000名の子どもが参加した19の調査を分析したところ、カルシウムの補給を受けた子どもたちは、腕に骨ミネラル濃度の増加がわずかに見られたが、腰や下部脊椎には見られなかったという。

 「上肢に見られたこのわずかな骨密度の増加は、骨折のリスクに臨床上重要な減少をもたらしてはいないでしょう」と語るのは、British Medical Journal 誌に掲載されたこの研究の主著者である、Tania Winzenberg である。

 カルシウムは多くの食べ物で見受けられるものだが、補給剤をとることによって、子どもの骨をより強くする助けとなりえると考えられている。これにより後年の骨粗しょう症のリスクが減るだろうというのだ。

 どれだけの骨を幼年期に作り上げ、成人期に失ったかによって、骨粗しょう症のなりやすさが決定される。この研究者たちによると、最大骨量の少なくとも90パーセントが18歳までに達されると言う。

 研究に参加した3~18歳におよぶ子どもたちは、8.5ヶ月から7年にわたって、カルシウムの補給剤もしくは偽薬を与えられた。

 Winzenberg らは、腰、脊椎、腕といった全身の測定をもちいた密度検査で、子どもたちの骨の強さを測定した。その結果、腰や脊椎の骨密度の増加量は、両方のグループの子どもたちで同じだったことが分かった。腕では、補給を受けたグループの方がほんのわずかだけ多かった。

 この結果は、子どもの性別や民族的背景、運動レベル、年齢に関わりなく同じだった。

 「私たちの結果は、健康な子どもたちにカルシウムの補給剤を使用することについて、限られた支持しかしていません。」(Winzenberg)

 この科学者たちはさらなる研究を探し求めている。果物や野菜を多く食べているか、ビタミンDの濃度が高くなっているか、といったことがらは調べてみるべきだろう、と述べた。

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 もちろん今回の研究は、「健康な」子どもを対象にした調査ですので、たとえばカルシウムの吸収に問題のある子どもや、普段のカルシウム摂取量が極端にすくない子どもには、サプリメントにも効果はあるものと思います。

 とはいえ、「カルシウム強化食品で健康な骨づくり!」みたいなコピーはスーパーなどでも日常的によく目にしますね。ああいう食品は誰にとっても骨の健康に良い効果をもたらすはず、と何の疑いもなく感じていた自分にとっては、こうした結果は本当に意外に映りました。

【参考リンク】
元論文Effects of calcium supplementation on bone density in healthy children: meta-analysis of randomised controlled trials
 http://dx.doi.org/10.1136/bmj.38950.561400.55

2006年09月22日

ライオンのたてがみは雄のシンボルとは限らない

ツァボのライオン
 Reuters より。

 ライオンのオスのシンボルといえばたてがみです。ライオンのたてがみに関してはこれまでいくつかの研究があり、主要な研究の結果によると、色の濃さが強いオスの証なのだそうです。オスはたてがみで強いオスを見分けて無益な争いを避け、メスもたてがみの色で強い子孫を残すための相手を選んでいるのだそう。たてがみの色が強さを示す目印の役割を果たしていたのです。

 ですが、アフリカのツァボ(ケニア)にある国立公園にいるライオンのオスは、たてがみがなかったり、あるいは薄いたてがみしか持たないにも関わらず、メスのパートナーには恵まれていることが分かりました。右の写真は元論文(下記リンク参照)より引用しました。

 著者たちは、これは暑すぎるツァボの気候のためであり、気候への適応がたてがみの発達を抑えているのだと述べています。

Mane-less lions keeping cool: researchers
(たてがみのないライオンは冷涼を保っている、と研究者たち)
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?storyID=2006-09-15T235205Z_01_N152213_RTRUKOC_0_US-ENVIRONMENT-LIONS.xml

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 たてがみを持たなかったり、薄毛を首回りに伸ばしたオスのライオンがいるのはなぜだろうか。研究者たちが金曜日に報告したところによると、この問いへの簡潔な答えは、動物たちが涼しくしようとしているためであるという。

 「百獣の王」を連想させるふさふさしたたてがみの進化上の目的については研究が積み重なってきた。研究者の中には、競争相手の牙から首を守りつつ、メスを魅惑しようとしているのだと推測する者もいる。

 しかしシカゴのフィールド自然史博物館の研究者たちが述べたところによると、ケニアのツァボの野生保護地に住む、たてがみのない、あるいは薄いライオンが、多くのメスとの交際に恵まれているという。

 高温高湿のツァボ保護地のライオンと、これより寒冷で高標高のセレンゲティ平原に住むライオンとを比べると、ツァボのライオンは、一方と比べてたてがみが小さかったことを、この研究者たちは Journal of Zoology 誌に報告した。

 かの有名なライオンの攻撃性の原因となり、また髪の成長を妨げる(頭のはげた人間の男性のホルモンと同様)テストステロンを、ツァボのライオンはより多く体内に持っていると示唆していた研究者たちもいる。

 また、このライオンは、洞窟の壁画に示されている、現在では絶滅したヨーロッパのたてがみのないライオンの特性を受け継いでいるのかもしれない、と提案した者もいる。

 いまなお他の理論では、人を寄せ付けないツァボ保護地に住むたてがみのないライオンは、栄養不良や水不足に苦しんでいたり、あるいは、この地域のとげのある小低木を通過し、ギザギザを引っかいているうちにたてがみを切り離したのだと提案していた。

 しかしフィールド博物館の Thomas Gnoske と Kerbis Peterhans はこれらの理論を無視した。

 ツァボでの観察によると、オスたちは実際にはたてがみを伸ばすのだが、発達するのは後になってからであり、ずっとゆっくり成長し、セレンゲティのライオンほどふさふさにはならない傾向にあると彼らは述べた。

 ツァボのライオンの小さなたてがみは、交配する能力が減少することとは関係がなく、小さなたてがみのライオンは、誇りにおいて卓越したオスとなっていたのだと彼らは付け加える。

 「あらゆるライオンは、地域的な気候の形態にしたがってたてがみを発達させるのだろう」と著者たちは記した。

 「ある時点で、冷却することが他の進化上有利な点より優先するのです」と Peterhans はインタビューで述べた。「髪は生得的に、断熱材として機能します。そしてそれゆえ、きわめて高温で高湿な環境において、オスの温度的バランスを保つ能力を妥協させるのです。」

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【参考リンク】
元論文Dissociation between mane development and sexual maturity in lions (Panthera leo): solution to the Tsavo riddle?
 http://dx.doi.org/10.1111/j.1469-7998.2006.00200.x

2006年09月23日

非倫理的な感情から連想するもの

 Science 8月9月号より。

 突然ですが、こんな実験をやってみて下さい。

 あなたは今までに、倫理にもとるようなことをした経験はありますか? 困ってる人を見捨てたとか、スーパーで物を万引きしたとか・・・。もしあれば、そのときの状況を詳しく思い出して下さい。そしてそのときにあなたはどんなことを感じたかについても、併せて思い起こしてみて下さい。

 ・・・思い出してみましたか?

 では次に、下のクイズをやって下さい。簡単な単語の穴埋めクイズです。空欄に適当な文字を入れて、意味の通る単語にして下さい。

 _らう     き_い      う__す 

 できましたか? 実験は以上です。どうもお疲れ様でした。下へスクロールさせて下さい。

 

 

 

 

 

 さて、今回紹介する研究結果が日本人(日本語)にも当てはまると仮定するならば、上のように非倫理的なことを思い起こした被験者は、反対に倫理的なことを思い起こした被験者とくらべて、「あらう」「きれい」「うるおす」といった、洗浄と関連性のある単語を選びやすくなるという傾向が出てくるのだそうです。

Cleanliness and Godliness--It's True
(清潔さと信心深いこと――それは本当)
http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2006/907/3

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手洗い  マクベス夫人は、ダンカン王の謀殺を企てた後で、想像上の血を手から落とそうと必死になっているとき、深遠で心理的な意味深い真実を表現していた。手を洗うことは、実際に人々の罪の意識を軽くしている、と研究者たちは Science 誌の明日の号(9月8日号)に報告する。

 物理的に清潔であることと、道徳的に清潔であることとは、宗教上の慣習と人々の心の両方において、肉体と精神のいずれもに当てはまる「清潔さ」といった言葉で示されるものとしてつねに密接に関係してきた。トロント大学で組織行動を教える Chen-bo Zhong と、イリノイ州シカゴのノースウエスタン大学のマネージメントの研究者である Katie Liljenquist は、この関連性を深く調査しようとした。まず彼らは、30名の学部生に対して、病気の友人を助けたなどの倫理的な行動をしたときの気持ちを思い起こしてもらい、一方、別の30名には、万引きなどの非倫理的な行動を思い出してもらった。両方のグループはそれから単語の穴埋めテストをおこなった。

 悪さをしたことを思い起こした学生たちは、洗浄に関連した言葉で単語を埋めやすかった(W__H を "WISH" ではなく "WASH" で埋める)。同様に被験者たちは、謝礼として殺菌ティッシュと鉛筆の間で選択をするよう言われると、非倫理的な行いを思い出した学生の3分の2がティッシュを取っていった――倫理的な行いを思い出した学生たちの2倍だった。

 これらの実験では、清潔さと道徳の間の関連性には深い根底があることが示されている一方で、下記の別の実験では、この二つの概念は互いに交換可能であるほど非常に近接しているということが示されている。この研究では、45名の参加者に、過去の非倫理的な行いを書き記してもらった。その後、22名には殺菌ティッシュが渡され、手を洗ってもらった。両方のグループはそれから、被験者を切望している大学院生を助けるため、これとは別の研究にボランティアをしてもらえないか、と尋ねられた。きれいになったと感じた学生たちは、罪を償う必要を感じなくなったのか、手を洗わなかった学生たちの74%と比べて、41%が助けをすることに合意した。

 バークリーのカリフォルニア大学の心理学者 Philip Tetlock は、この研究は非常に「巧妙」であり、彼自身でやっていればよかったと語った。「道徳と物理的清潔さとの間に心理学的な関連がある」ことをこの研究は示していると彼は語る。「実際、道徳的な清潔さに対する私たちの考えは、ある点において、不潔さや汚れに対して私たちがもつ根深い嫌悪感の隠喩的な延長であると思われるのです。」

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 実際に出題された問題は、他に「SH__ER(SHOWER? SHAKER?)」や「S__P(SOAP? STEP?)」など。ちなみに冒頭で示した単語テストは僕が勝手に作ったものなので、はたして本当に同様の傾向が出るのかは不明です。

 ここまではっきりした違いが見られるというのは面白いです。誰かに何かをしてもらうよう説得するときなど、ひょっとしたら今回の結果が応用できるかもしれませんね。

【参考リンク】
元論文Washing Away Your Sins: Threatened Morality and Physical Cleansing
 http://dx.doi.org/10.1126/science.1130726

2006年10月01日

音痴な人の脳の中

カラオケ
 news @ nature.comより。
 
 本記事は音痴の脳の構造について。

 「歌をうたうのが下手な人」は、英語で "tone deaf" とか "amusia" とか言うそうです。日本語で「音痴」というと、どちらかというとやや差別的な表現に聞こえるかもしれませんが、とりあえず他に適切で短い訳語がなかったので、以下では両方とも「音痴」と訳すことにしています。
 
 今回の研究によると、音痴の人々(おもに音程を判読する能力に劣る人々だそうです)の脳をMRIを使って調べてみたところ、白質とよばれる部分が、普通の人々とくらべて少ないことが分かったそうです。
 
Tone deafness shows up in the brain
(音痴は脳に現れる)
http://dx.doi.org/10.1038/news060925-4
 
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 音痴の友人に対し、その人には何か問題があるのだろうとつねづね思っていたのなら、今回の研究がそれを支持してくれた。音痴の人々は脳のある物質を欠いているらしいのだ。
 
 カナダ・モントリオールと、英国・ニューカッスルの研究者たちは、ヒバリのように歌える人々もいれば、カラオケマイクをつかんだ瞬間に周りを耳栓を取りに走らせる人々もいることの原因となる脳の部分を特定した。モントリオール神経学研究所の Krista Hyde らは、磁気共鳴映像法(MRI)を使って音痴の人々の脳を調べ、普通の音楽能力をもつ人々の像と比較した。
 
 両国の研究では同一の方法を用いた。各グループの結果により、脳の前部の領域(右下前頭回)に、音楽的健常者よりも音痴の人々の方が、白質がより少ないことが明らかになった。
 
 白質は脳の情報伝達に関与し、Hyde により見出されたこの白質の欠乏は、おそらく脳の右半球における通信を妨げており、これが音楽の理解を困難にしているのだと研究者たちは示唆している。
 
■ リズムに乗った
 
 音楽的な「行動」は、しばしば6つの能力に対する標準的なテストによって定量化される。拍の感覚、旋律を記憶する能力、音階、音程、音程の向き、リズムの変化を判読する能力がこれには含まれる。
 
 Brain 誌の研究が明らかにしたところでは、脳の白質の量は、リズムよりもメロディ(旋律)と調和していた。このことは、音痴とは音程にもとづく状態であるということを示した以前の研究と合致している。
 
 この新しい研究は、音楽的な行動と生体構造とのあいだの重要なつながりを示している。これは、音痴の状態を理解する上でのまさにブレークスルーとなり得る、と Hyde は語る。
 
 この研究は興味深い、と語るのは、ニューカッスル大学の磁気共鳴センターで脳の研究を行っている Andrew Blamire である。というのも、この研究が、積極的に音楽を聴こうとしているときの脳の反応の仕方の変化よりも、むしろ生体の構造の変化を探しているからだ。たとえば、ボランティアの被験者が歌を歌おうとしているときに撮影した音痴の脳のスキャンでは、白質に違いは現れなかった。
 
 この変化が聴覚皮質には現われていないことに彼は驚いた。
 
■ 遺伝的状態
 
 結果を改良するべく、拡散異方性画像(DTI)と呼ばれる技術を用いることを Blamire は提案する。これは白質で起きていることのより詳細を与え、これにより脳のある部分が他とどうつながり合っているかを追跡できる。
 
 Hyde はこれを開始したばかりであり、失読症と同じように音痴が遺伝的なものであるという自身の予感を裏付けるべく研究を行っている。
 
 彼女は最近、脳の同部の皮質の厚さもまた音楽行動テストと関連があることを発見した。「これは遺伝子がコントロールしていると思われる何らかのものです。これは開かれた話ですが、私たちはこれが先天的(誕生時から備わっている)であるという考えに賛同します。」と彼女は語る。他にも、音楽的才能は訓練可能なものであり、より多くの音楽にさらされることで、関連する白質がより成長するという提案もある。
 
 Hyde は、この問題を解決し、彼女が5年間ともに研究している音痴のグループの生活の質を向上させようと決心している。

 
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 そういえば白質について以前にこのブログで記事をひとつ扱っていたことを思い出しました。(参照:ウソつきの脳に異常あり?) 自閉症児の脳に白質がすくない傾向にあることが分かった研究です。どうやら白質という部分は人間のいろんな特性と関わっているみたいですね。今後さらに詳細が分かるようになってくると、音痴の効果的なトレーニング法とかが提案されたりするかもなあ。
 
【参考リンク】
元論文Morphometry of the amusic brain: a two-site study
 http://dx.doi.org/10.1093/brain/awl204

2006年10月15日

海の生物の運動は気候に影響をおよぼす

くじら
 PhysOrg より。
 
 海水中の植物プランクトンは、太陽の光を浴びて栄養を作り出します。今回の研究では、植物プランクトンのもつ栄養が、はたしてどのくらいの化学的エネルギーを持っているかの計算がなされたそうです。この結果によると、人間全体が消費する全エネルギーの5倍にも及ぶことが分かりました。
 
 また、このエネルギーの一部は魚などの動物に取り込まれて、魚の運動のために使われます。魚の運動、というと、直感的にはあまり大したことのない規模のように感じられますが、実はそうではなく、運動にともなう海水の混合が気候の変動にある程度の影響をおよぼしている可能性があることをこの研究は示唆しています。
 
Marine life stirs ocean enough to affect climate
(海の生物は気候に影響を及ぼすのに十分なほどに海洋をかき混ぜる)
http://www.physorg.com/news79958130.html
 
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 海洋学者たちは世界規模で植物プランクトンに細心の注意を払っているが、これには正当な理由がある。海の食物連鎖の広大な土台を形づくる微視的植物は信じられないほどの力を生み出す。今回、フロリダ州立大学による先駆的な研究によって、これがどのくらいなのかが計算された――人間世界の年間総エネルギー消費量の約5倍だった。
 
 フロリダ州立大学の教授 William Dewar ひきいる海洋物理学者と海洋生物学者らは、植物プランクトンが新たな有機物のかたちで蓄える年間の化学的エネルギー量が、およそ63テラワットであると見積もった。これはきわめて多量である。1テラワットでも1兆ワットに等しい。2001年に全人間の消費したエネルギー量はこれと比べてわずかであり、13.5テラワットだった。
 
 そのうえ、海の生物圏――植物プランクトンを最後尾とする海洋生物の連鎖――は、その化学的エネルギーの富のうちの約1パーセント(1テラワット)を、機械的なエネルギーに使っている。これはクジラや魚からエビ、オキアミにおよぶ、空腹な海の泳ぎ手たちの水泳運動に現れる。コーヒーにスプーンを入れてクリームをかき混ぜるのと同じように、これらの水泳運動は水を混合させる。
 
 そしてこの植物プランクトンに支えられた攪拌(かくはん)の総量は、気候のコントロールに等しいかもしれない。
 
 「既存のデータを別の方法で解釈することにより、私たちは理論的に、海の泳ぎ手たちによって引き起こされる混合の量が、海面を吹く風と潮の影響によって引き起こされる深海の混合と同程度であることを予測したのです」と Dewar は語る。
 
 実際に、生物圏でおきる混合は、世界の海洋の深い冷水を海面までもっていくのに必要となる力の約3分の1を提供しているらしいと彼は説明する。これは立ちかわり、世界規模の気候システムにとって重要な、海洋のベルトコンベアの循環を完成させる。
 
 フロリダ州立大学ひきいるこの研究(「海の生物圏は海洋をかきまぜるのか?」)からの知見は、近刊の号の Journal of Marine Research 誌に登場する。これには、既に印象的となった、植物プランクトンに対する主なエネルギー仲介者の役割についても述べられる。
 
 影響を非常に受けやすい植物は、急減や急成長をつうじて、海面や海面近くでの環境の変化を示す信頼ある合図として機能するものと科学者たちはしばらく理解していた――そして大規模な光合成を通じて、巨大で一様な個体数の植物が大気からの二酸化炭素を飲み込むと、植物プランクトンは、気候の変化を反映するのと同じように、気候の変化に影響を及ぼしているのではないかと科学者たちは考えた。(訳がむずかしい・・。植物プランクトンは、気候から影響を受けるだけでなく、反対に気候に影響を及ぼしていることもあるんじゃないか、という意味です。)
 
 しかし、海洋の混合と気候の制御において、海の生物圏が想像以上の役割を持っていることを示している新たな計算に沿って、Dewar らは、人間と環境によるクジラや大きな魚の個体群が殺害されることによって、世界の海洋で起きている混合の全体に、無視できないほどの影響を及ぼしていたのかもしれないとも示唆している。

 
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 今までの僕の知識だと、環境と生態圏とがたがいに影響をおよぼしあうと言うと、たとえば森林と二酸化炭素の関係のような、陸上にかぎった狭いイメージでしかありませんでした。海洋の世界にこんなにも大きなスケールの現象がひそんでいて環境と関係を持ち合っているというのはかなり驚きです。
 
【参考リンク】
元記事Marine life stirs ocean enough to affect climate, says FSU study
 http://www.fsu.edu/news/2006/10/13/marine.life/

2006年10月22日

言語はいかにして色の名前を得るのか

20061029.jpg
 news @ nature.com より。
 
 色には名前があります。だいたい波長が 625-740 ナノメートルの光が目に入ると、僕たちはそれを「赤」と感じます。また、500-565 ナノメートルだと「緑」と感じるし、この2つが混ざった光には「黄」を感じます。
 
 こうした色の名前は、言語によって、呼び名の割り当て方がちがってきます。それは単に言葉がちがうというだけではなく、ある言語では日本語や英語で言うところの「青」に相当する言葉が存在しない、といったこともあります。
 
 さて、言語によって色の呼び方に違いがあるというのは述べたとおりですが、ではこれらの違いを生み出すのはいったい何なのか? という問いは、いまなお議論を起こしている問題だそうです。本記事では、ここ10年間でどのような議論がなされてきたかに関しても述べられており、たいへん面白いです。
 
A red by any other name
(他の名前で表される赤)
http://dx.doi.org/10.1038/news061016-3
 
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 私たちが色を分類するやり方は、生理学的に組み込まれているのだろうか、それとも文化的に形づくられるのだろうか。前者を支持する新たな分析結果が出たことを受けて、Heidi Ledford がこの十年来の議論を吟味する。
 
■ 何についての騒ぎなのか?
 
 それは本質的には、さまざまな言語がいかにして色をカテゴリー分けするのかに関する、「自然(Nature)対教育(Nurture)」の議論である。たとえば、英語では、赤に対する言葉があり紫に対する言葉があるが、これは全ての言語でもあてはまるのだろうか。
 
 私たちの色の知覚のしかた、カテゴリー化のしかたの根幹にある生物学的基盤が、すべてを支配すると言う者がいる。こうした人々は「普遍主義者」である。一方では、多くの人類学者が、私たちの色の定義のしかたは文化的な需要によって形づくられると考えている。こうした人々は「相対主義者」である。
 
 1940年代から1960年代を通じて、色のスペクトルの切り分け方はすべての言語で異なっているという見方が教科書的だった、とバークレーのカリフォルニア大学の言語学の名誉教授 Paul Kay は語る。Kay らが1969年に、サンフランシスコのベイエリアの居住者の20言語を調査した結果を発表した際に、この支配的な見方は変わった。
 
 「そのとき以来、さまざまな言語において、人々が色空間を切り上げるやり方はランダムではないという論文が続々と出されてきました」と Kay は語る。しかしほとんど全ての議論において同じく、多くの研究者たちが普遍主義と相対主義の中間に位置しており、議論は高まりを増している。
 
■ これを解決する方法はあるのか?
 
 1976年に Kay らは、世界色彩調査を開始した。フィールドワーカーたちは世界中を4年間歩き回った。彼らは320の色付きチップを含んだキットを運び、参加者たちにそれぞれを色として分類するよう依頼をした。回答は110言語の2616名の提供者から集められた。
 
 この調査の目的は、基礎となる色の単語とその使われ方を特定することだった。「基礎的な」単語として数えられるためには、その単語は簡潔であり、頻繁に使用され、一単語である必要があった。フィールドワーカーたちへの指示には明示的にこう述べられていた。「関心があるのは『赤』といった返答であり、『数時間前に死んだオオハシの血の色』といった返答ではない。」
 
 これらのデータは1980年からのものであるが、公にアクセスできるデータベースに変換されたのは2002年のことだった。
 
■ 新しい点とは?
 
 コロンバスのオハイオ州立大学の Delwin Lindsey と Angela Brown は、以前に用いられたよりも洗練された、個々の返答を別個に見るという統計手法を使って、このデータを再分析した。彼らの分析によって、8つのカテゴリーが得られた。あらゆる言語は、基礎的な色をこの中から選択する。赤、黄またはオレンジ、緑、青、紫、茶、ピンク、グルーである。
 
■ グルーって?
 
 世界のほとんどの言語は、緑と青の間の区別をしないと Kay は語る。その代わりに、2つの色は、言語学者らが「グルー(グリーン+ブルー)」と名づけるところのカテゴリーにまとめられる。
 
 緑と青の間の区別ができないいうのは赤道近くで非常に一般的である。日光と紫外線にさらされることが、そこに住む人々のレンズを黄ばませ、色を感じる能力を変えたのだと Lindsey は主張する。
 
 Kay はこの説明に対して、この黄色化は白内障患者においてみられると反論する。一般的に白内障患者は、青/緑に盲目状態になることはない。Lindsey も Kay も、なぜある集団ではこの区別がされないのかを見出すべく、活動的に研究を行っている。

 
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 赤道近くの人々が、言語上の青と緑の区別をしないというのはとても意外です。赤道近くだと両者の区別がとくに必要ないという理由が何かあるんでしょうか? 記事で触れられているように、日差しによるレンズの変質説はまだ証拠が不十分のようですが、他にも原因を想像してみると楽しいです。

2006年10月29日

キツネの駆除法:育児放棄させよう

20061029.jpg
 EP: end-point 経由、ABC Science online より。
 
 オーストラリアのフィリップ島は、ペンギンパレードで知られる有名な観光スポットです。
 魚を取りに出かけたフェアリーペンギンが、日没後に海から浜辺の巣へとぞろぞろと群れをなして帰ってくるのが見られるそうです。
 ですがこの島の悩みは、かつてイギリス人がレジャーのために持ち込んだキツネによる被害。普段からのんびりしているペンギンにとってキツネは天敵であるらしく、わずかの数のキツネでも非常に大きな被害をもたらすそうです。
 
 今回の記事は、キツネの駆除方法の一つとして提案されている、薬物をつかったやり方について。かんたんにいうと、動物の母性とかかわりがある、とあるホルモンを薬物で抑えることによって、育児を放棄してしまう母キツネをいっぱいにしよう、という試みです。
 
Drug turns foxy ladies into bad mothers
(薬はキツネのメスを悪い母にする)
 
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 メスのキツネに自分の子を無視させる薬が、オーストラリアの野生キツネの問題を解決する助けとなるかもしれない、と研究者たちは述べている。
 
 彼らは、繁殖力を減少させ母性本能を妨げるカベルゴリンという薬に着目し、ヴィクトリア州のフィリップ島のキツネを制御することができるかどうかを調べた。
 
 この島は有名なペンギンのコロニー(集団)の生息地であり、また150匹におよぶ望まざるキツネがいる。
 
 1匹のキツネは一晩で30匹ものペンギンを殺す、と語るのは、フィリップ島自然公園の生物学者 Roger Kirkwood である。
 
 「キツネたちを島から根絶する必要があります。わずか1匹でも、入り込んで大きな被害を及ぼし得るからです」と彼は言う。
 
 このキツネはまた、この島を訪れる渡り鳥のマトンバードも多く捕食すると Kirkwood は語る。
 
 彼は、カベルゴリンを調べるべく、タスマニア大学の薬理学者 Stuart McLean 教授とともに研究を行っている。
 
 人間では、この薬はパーキンソン病の治療に用いられる。
 
 しかしこの研究者らは、この薬をキツネに使うことに関心を持っている。キツネの脳のドーパミン受容体にはたらいて、プロラクチンというホルモンの分泌を妨害するためだ。
 
 「(キツネは)妊娠することや、妊娠状態を保つこと、母乳を出すことのほか、出産後は母性本能のために、プロラクチンに頼るのです」と McLean は語る。
 
 カベルゴリンは母性本能を抑制するため、メスのキツネは、食べ物を取ってきたり、毛づくろいをしたり、生き残る術を教えたりといった子の世話をやらないようになる。これにより子の生存する機会が減少するのだ。
 
 この薬はまだ島のキツネには試されていないが、予備研究が来月のオーストラリア保健医療研究大会で発表される。
 
 キツネの餌のカベルゴリンがどの位のあいだ残留するかに着目した研究も、Wildlife Research 誌に提出されている。
 
■ ペンギンへの被害
 
 キツネに繁殖を許して制御不能になったならば、キツネはフィリップ島の60000匹強の個体数のペンギンを滅ぼし得るだろうと Kirkwood は語る。
 
 キツネは過去80年のうちに、フィリップ島のペンギンのコロニーの数を12からわずか既に1までに減らしている。
 
 1980年にこの島に駆除プログラムが導入されて以来、1000匹以上のキツネが除去されている。このプログラムには射殺、毒殺、巣穴の燻蒸、犬による狩りが含まれる。
 
 キツネはわずか約5年しか生きないものの、個体数に弾力性がありすぐに回復するのだと Kirkwood は語る。
 
 「このプログラムをストップしたならば、この島のキツネの扶養能力は400そこらになるだろうと計算しています。これを制御しなければ、一定時間でキツネはペンギンを除去するでしょう。」

 
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 やっぱりいちばん気になるのは、カベルゴリンがキツネだけじゃなくペンギンの子育てにも悪影響を及ぼしたりしないのかな、というところですね。ばーっと見た感じ、プロラクチンは広くさまざまな動物に見られるホルモンだということなのでちょっと気になります。それでも、うまくキツネだけをうまく取り除ける方法が分かれば面白いなあ。

2006年11月05日

空から教科書が降ってくる

20061105.jpg

 Techonology Review 誌を眺めているときに遭遇した素敵な記事。
 
 本誌では、「2006 Young Innovators Under 35」という特集で、精力的な活動をしている35歳以下の研究者たちを取り上げています。今回ここで紹介するのは、「EduVision」というシステムに取り組んでいる Matthew Herren という人物です。
 
 このプロジェクトの舞台は、アフリカのケニアにあるビタ(Mbita)という場所。ここを始めとしたアフリカの多くの地域では、財政的な事情により、子供たちの教科書を準備することが十分にできません。そこで、本がないなら電子ブックを、というわけで彼は今回のこのシステムを提案しました。
 
Beaming textbooks across Africa
(アフリカ中に教科書データを送る)
 
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 アフリカで育った Matthew Herren は、財政の苦しい地方の学校の多くの子供たちが、数十年前の古い教科書で何とかしないといけないのを見ていた。この問題への低コストの解決法を見つけ出すことに奮起され、彼は衛星を用いて最新の教材を伝送するというアイデアを思いついた。彼は、伝統的な援助団体のプログラムによるのではなく、一連の自立したビジネスを通じて、この技術を確立することを目指している。
 
 子供たちに本や他の教材を提供することの「コストを下げる技術的な方法が必要とわかりました」と Herren は語る。(「教育に促進される開発」を参照。)スイス人の Herren は、単一方向の衛星無線に目を向けた。アフリカ内部の多くはインターネットへのアクセスがすぐには達しそうにないからだ。試験となる昨年は、スイスの BioVision と呼ばれる基金によって、ヴィクトリア湖岸にあるケニアのビタ岬の小学校に衛星受信機が導入された。この受信機は、ハードディスクに教科書をダウンロードする。そしてこの情報は、書籍閲覧のためのリナックスベースのシンプルなソフトウェアを備えた小型コンピュータへと伝送される。60名の生徒が現在の教材を受け取った。
 
 いまは Herren は、より大きな規模で彼の計画を実施しようとしている。チューリッヒの民間投資会社 Bridgeworks と協働して、彼は元金のため必要となる65万ドルの大半を既に工面している。Herren はこの資本で、衛星受信機と小型PCを売ってサービスするというビジネスのネットワークをアフリカ中に始めたいと望んでいる。国の文部省は、教育ダウンロードシステムを提供・維持するため――そして教材を提供するための子ども一人当たりのコストを20パーセント以上削減するため、これらの会社の一つを雇うことだろう。
 
 もし衛星による教材配信が望みどおりうまくいったならば、その基本システムは、遠隔の村に健康や農業の情報を提供することに使えるだろう。道路さえもない多くの村々で、文字通りすべての道が学校へ通じるようになる、と Herren は述べる。

 
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 僕の直感からすると、実際の本を送り届けるよりも、衛星通信と電子ブックをつかってデジタルデータを伝送する方が安上がりになるっていうのがとても意外です。日本の狭さにすっかり慣れているからそう感じるのかな。
 
 あと記事の最後で、教材以外の情報を伝送することについても触れられているけど、さらっと書いてあるわりに、これって実はものすごく重要なことじゃないかと思ったよ。たとえばエイズ予防とか、天候予測とか、教育以外の用途でもこの地域の人々の生活を劇的に向上できる可能性があると思う。この記事を読む限りでは、特に今は学校教育の用途のみを主に考えている印象を受けたけど、もっと早い段階から、幅広い分野での応用を考えた方がいいかもしれないと感じました。

【参考リンク】
・EduVision プロジェクト
 http://www.eduvision.or.ke/

2006年11月13日

脳とジェスチャと政治家と


 ScienCentral より、時事ネタがらみの記事。
 
 話をする人が、スピーチの内容と一致しないジェスチャを行ったときに、聴衆の脳波を調べてみると、ある特殊なパターンを示すことが分かったという報告です。このパターンは、たとえば前の文脈と一致しないような話を聞かされたときに発せされるパターンと同一だったそうです。
 
Body Politics
(身体の政治)
 
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 中間選挙を前にして、政治家たちは投票者たちに激しく宣言やスピーチを向けている。ある神経科学者が述べるところによると、彼らの手のジェスチャによって、メッセージがどのように感知されるかに大きな違いが生じるかもしれないと言う。
 
■ 手は語る
 
 2000年の大統領選挙戦では、多くの観測筋が Al Gore を堅苦しい人物と認識した。イメージコンサルタントの Lauren Solomon は、公でスピーチをする状況での対処法について、13年間、政治家や会社幹部らと共に仕事をしている。彼女は、問題は言語だけでなく、ボディランゲージにあると考えている。
 
 「もし言葉とジェスチャの間につながりがあると考えないなら、言語化されたメッセージの半分しか聴衆に理解させられないでしょう」と彼女は語る。
 
 コルゲート大学の神経科学者である Spencer Kelly は、手のジェスチャが実際に私たちの脳のスピーチの処理方法に影響を及ぼしていることを発見した。「ジェスチャは実際には言語から切り離されているのだと考える人々がいます。私は、ジェスチャは言語の一部であると考えます。つまり、もし言語を理解しようとすれば、スピーチに着目するだけでなく、スピーチとジェスチャとに着目をしなければならないのです。」
 
 Kelly は脳波計(EEG)を用いて、話の内容と矛盾するジェスチャを見せられているときのボランティアたちの電気的な脳活動を測定した。「物の背が低いという身振りのような情報を伝えつつ、「高いです」といった言葉を示したのです」と Kelly は語る。矛盾したジェスチャを目にしているあいだ、ボランティアたちは、混乱させるような言語を聞いている人々が発するのと同じ脳波パターンを発した――これは N400 効果と呼ばれる。
 
 N400 効果は、1980年にラ・ホーヤのカリフォルニア大学の研究者 Marta Kutas and Steven Hillyard によって発見されており、最後の言葉が話されてからおよそ400ミリ秒後にピークを示すという特殊な陰性波である。「もし『その男性は靴下にクリームと砂糖を入れるのが好きだ』と言えば、脳はそれが普通でないと気づきます。」「与えられた文が意味をなさないのです。そのため N400 は、言葉はこうあるべきという期待が裏切られたことを映し出すのです。」
 
 Scientific American Mind 誌で特集されているように、このことは、脳がジェスチャをコミュニケーションの重要な部分と見なしていることを示している。これらがなければ、私たちの脳は、話のほんの部分しか得られない。Kelly の論文によると、言語処理の始めまたは終わりの段階で脳に統合されているのかもしれないという。
 
 「良くも悪くもジェスチャに富んだ人」を自称する Kelly は、ジェスチャをすることは、情報を伝えようとする人々と、メッセージを理解しようとする聴衆の、どちらにとっても良いことだと分析する。「手は、タイヤを替えたり手紙を書いたりするのに良いだけではなく、考えることにも良いのです。そして話をしているときには打ってつけのものなのです。」
 
 しかし彼はまた、政治家の矛盾した手のジェスチャについて警告する。「中東で、ある政治家が政策の問題を述べるときに、『われわれは中東に平和をもたらさなければならない』と言ったのを見たことがあります。そして同時に、こぶしを打つジェスチャを何回もしたのです」と彼は言う。この政治家は、あることを言っているのに、別のことを考えていたのかもしれないと彼は言う。
 
 そのため、彼の政治家へのアドバイスは「台本どおりのジェスチャを保つのが無難である」ということだ。しかし彼は、ディベートの最中のように台本を離れるときには、政治家はジェスチャが言葉に沿ったものとなるようにすべきと言う。
 
 教師もまた、子供たちに新しい言葉を紹介するときにこのアドバイスを使えると彼は言う。新しい言葉をいう外国語教師や、新しい考えを紹介するその他の教師であってもだ。「もし生徒たちの脳が配線され、ジェスチャとスピーチが結び付けられたなら、スピーチにジェスチャを使って、こうした子どもたちにうまく学習を進めさせることができます。」
 
 Kelly の今後の研究は、電話で会話するときなど、ジェスチャができないときに私たちはどのようにコミュニケーションのやり方を変えるのかを調べることだ。
 
 Kelly の研究は、Scientific American Mind 誌の2006年10・11月号で特集され、また2004年4月に Brain and Language 誌で発表された。この研究はコルゲート大学の資金提供による。

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 「背が高い」と「低い」のように、明らかに正反対の意味のジェスチャとスピーチを見ると脳が混乱した状態になるっていうのはよく分かるなあ。個人的には、こぶしを振り上げたときはどうか、下に叩き付けたときはどうか、などのより微妙な状況での脳の違いを見てみたいなあと思いました。
 
 ところで、大学や企業で研究をやってる人の多くって、プレゼンテーションをやるときのジェスチャにほとんど注意を払わないですよね。むしろ、「見た目なんかより中身でしょ」みたいな空気があるかもしれない。もちろん、大したことのない情報を大げさに伝えようとするのは好ましくないないことですが、議論の流れを分かりやすくするためにジェスチャを取り入れてみるのは面白いかもしれません。たとえば、予想と一致する実験結果が出たことを言いたいときは、それと反対の意味のジェスチャをしないように気をつけるとか。分かりやすい説明文や、分かりやすい図面と同様、分かりやすいジェスチャというのも心がけると効果的なポイントかもしれません。
 
【参考リンク】
・(元論文)Neural correlates of bimodal speech and gesture comprehension
 

2006年11月23日

森林火災で北方の気温は下がる


 New Scientist より、地球温暖化と森林火災との関係についての記事です。
 
 大規模な森林火災が発生したとき、ふつう僕たちの直感からすると、多量の二酸化炭素やメタンなどの温室ガスが発生するわけですから、その後のその地域の温度は上がると想像するわけです。
 
 ですが、今回の研究で用いたコンピュータモデルによると、アラスカなどの北方で起きた森林火災は、局所的に見れば、この地域の温度を下げることになるそうです。その結果、地球全体としてみれば、温室ガスによる温暖化効果と相殺して、ほぼプラスマイナスゼロの状態になるのだそうです。
 
 なぜ、森林火災がこの地域の寒冷化をもたらすのか? その説明はこの記事で述べられています。
 
Forest fires cool northern climates
(森林火災は北方の気候を寒冷にする)
 
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 北方の国々での森林火災は、これまで考えられていたような温暖化でなく、地域的な寒冷化をもたらしているのかもしれない。新しい発見によると、世界規模では、森林火災はいずれの方向にも気候の変化に影響を及ぼさないだろう、と研究者らは述べている。
 
 過去10年で、著しく大きな火災が、カナダ、アラスカ、ロシア、ノルウェー、スウェーデンや他の北方の国々にわたって燃えさかった。研究者たちが語ったところによると、より温暖な気候、より長い夏、そして概して乾燥した状況はその頻度を増しているかもしれないという。
 
 木に蓄えられた多量の二酸化炭素が解放されると、森林火災は温室効果の一因となり、激しいフィードバックのループを開始させることになると考えられていた。そうではないのだ、と米国とオーストラリアの17名の研究者たちのチームは Science 誌に語る。
 
このチームは、1999年6月に中央アラスカのドネリー平原で約6.7ヘクタール(16.5エーカー)を焼いた森林火災の影響を全般的に調べた。太陽からの放射をこの地域からどのくらい反射するかを調べた研究者もいれば、温室ガスの放出と植生の変化を調べた者もいる。
 
 彼らは全てのデータをコンピュータモデルに入力し、単一の火災が短中期においてどのような影響を気候に及ぼすかを80年先まで見積もった。
 
 火災後約1年は温度は暖かくなったが、10~15年で逆転することが分かった。80年にわたって平均すると、全体的影響として温度は涼しくなった。
 
■ より多くの雪
 
 この冷却効果の最大の原因の一つは、暗色のトウヒの木々が太陽の暖かさを吸収するのに、雪はそれを反射し戻すということだ。森林火災が木々を失わせた後は、地面には雪しか残らなくなったのだ。
 
 しかし、火災直後に雪上に残った黒色のすすは、地面の色を暗くする。はじめに温暖になったのはこのためだ。すすは春に雪解けとともに消え去り、次の冬にはこの地域を雪のみが覆って、冷却の傾向が始まったのである。
 
 「この冷却効果は温室ガスの影響を打ち消すため、火災の総影響は全体的に平均すると中間に近くなり、北方の地域ではわずかに温度が低下することになるのです」と説明するのは、この研究を率いるアービンのカリフォルニア大学の James Randerson である。
 
 最終的に、新たな草原やスギ、木々は成長してもとの大きさに戻る。しかしこの研究に参加するフロリダ大学の研究者たちが発見したところによると、焼けた針葉樹に最初に置き換わるのは、アスペンやカバノキといった落葉樹なのである。
 
 これらの大きな薄緑色の葉は、以前にあったマツの葉よりも多くの太陽のエネルギーを反射し、寒冷化の傾向のさらなる一因となる。そしてこの新しい木々は常緑樹でなく落葉樹であり、日を反射する雪にさらされる冬に葉をなくすこととなるのである。
 
■ 火災の間隔
 
 ドネリー平原にて暗色のトウヒが成長してもとの大きさに戻るのに10年かかるだろう、と研究者たちは語る(右下の図を参照)。北方の国々では、森林火災は、同じ地域でだいたい80~150年ごとに再発する。
 
 気候の研究者たちは、温室ガスの放出によって地球の気温が上昇するにつれ、この間隔は短くなると予測する。このことはつまり、復活した針葉樹はまたすぐに焼け、ふたたび北方の気温の長期的な低下を引き起こすこととなる。
 
 しかしこの研究は、北半球地方にて地球温暖化に取り組むために木々を切り倒すことは良い選択だと示すわけではない、と Randerson は警告する。「北方の森林の生態系を保持する理由は本当にたくさんあります。水源、野生生物、材木、保養の観点から、それらには非常に大きな価値があるのです。」
 

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【参考リンク】
・(元論文)The Impact of Boreal Forest Fire on Climate Warming
 

2006年11月26日

お金のことを考えると非社交的に


 Science Now より。
 
 数百名の学生を対象に行った実験で、被験者の半分に、お金の絵を見せたり、お金に関する文章を読ませたりしたそうです。すると、これによりお金のことを連想した学生たちは、そうでない人々と比べて、人の助けを借りたがらなくなったり、人の手助けをしたがらなくなったりなど、社交的でない振る舞いを示すようになったそうです。
 
 今回の記事は、上記を始めとした「お金のことを考えると人の社交的はどうなるのか?」を調べるための様々な実験結果についての報告です。
 
Money and Me, Me, Me
(お金と、自分、自分、自分)
 
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 よくお金は人を変えると言われる。今回、実験心理学者のチームによって、お金のことを考えるだけで人は変わるということが分かった。実験の被験者たちは、お金のことを思い浮かべることにより、良くも悪くも、自身のことに注目するようになった。
 
 心理学者 Kathleen Vohs は、初めての教職へポスドクの地位から移ったときに、お金の心理学について考え始めた。彼女は月収の大幅な増加によって、友人の助けに頼らずに引越し屋を雇えるようになった。しかし、Vohs が語るには、みんなで大仕事をした後でピザとビールを共にするという仲間意識を失った。この経験によって彼女は、お金は人々の独立心を強くする一方で、孤立させる社会的障壁としての役割も果たし得ると仮定した。
 
 この考えをよりコントロールされた設定で調査すべく、今はミネアポリスのミネソタ大学にいる Vohs と彼女の同僚らは、様々な実験に参加してもらう数百名の大学生を募集した。各実験で、研究者たちは、被験者の半分にひそかにお金のことを考えさせた――たとえば、お金について触れたエッセイを読ませたり、様々な種類の貨幣をえがいたポスターの前に座らせたりすることによってである。その後で、被験者たちをある社会的状況に置いた。ある実験では、研究者たちは被験者たちに難しいパズルを渡し、いつでも助けを呼ぶようにと言った。お金のことを思い起こした人々は、そうでなかった人々より、助けを求めるのに待った時間が約70%長かった。お金のことを考えさせられた人々は、平均して、ワードパズルの助けを頼んできた他の人を(そうでなかった人々と比べて)半分の時間しか助けず、また誰かが鉛筆を落としたときに拾ってあげた本数も少なかった。
 
 非社交的行為はこれで終わりではなかった。お金を思い浮かべた被験者たちは、仲間と一緒に仕事をやった方が仕事がかなり少なくなるとしても、一人で仕事をすることを望んだ。また彼らはアンケートで一人のレジャー活動を選択した――たとえば、4人でのディナーよりも、プライベートな料理のレッスンを好んだ。そして他のボランティアと交流の雑談をするため椅子を2脚置くよう頼まれると、お金がテーマのコンピュータのスクリーンセーバーを見ていた被験者たちは、魚のスクリーンセーバーを見ていた被験者たちよりも椅子を離して置いたことを Vohs らは Science 誌の明日の号にて報告する。総合すれば、お金について考えることは、他人に頼りたくも頼られたくないという考え方に人々を置くということをこの発見は示唆している、と Vohs は語る。
 
 「この一連の発見は興味深いです」と語るのは、コーネル大学の心理学者 Tom Gilovich である。「無意識的であってもあらかじめ仕込んでおけばこの効果が得られるというのは、一種の驚くべきことです。」子どもにお小遣いを与えるかどうかというような日常的な決定に対しこの研究は意味があるかもしれない、と英国エクセター大学の経済心理学者 Stephen Lea は付け加える。お小遣いは自足能力を高め得るが、同時に協調性を妨げるのかもしれない。「それは易しい決定ではありませんが、人間関係からお金を産めば、関係はお金に変わってしまうと認識する必要があります。」(最後の文の訳むずかしい;)

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 いろんな種類の実験を行っていて、どの結果もおもしろい傾向が出ているなあと感じます。お金の絵を見せるだけじゃなくて、お金を連想するテキストを読ませて比較しているところもよくできてるなあと感じます。じゃあ、紙状のぺらぺらしたものを見せたらどうなる? あるいは、お金を連想させないただの数字を見せたらどうなる? といった点も併せて気になってきました。
 
 こういう実験結果って、僕たちの日常でひょっとしたら応用できないかな、と想像してみるのが楽しいです。今回の場合だと、ミーティングの前には予算関係の仕事をしないようにするとか。どうだろう・・;
 
【参考リンク】
・(元論文)The Psychological Consequences of Money
 

2006年12月16日

味覚がうつの診断に使えるかもしれない


 news @ nature.com より。

 脳内の化学物質のレベルを変化させる薬物を与えたときに、人の味覚はどのように変化するか? を調べた実験です。

 これによると、セロトニンが上がった人は甘味と苦味に鋭くなり、一方ノルアドレナリンなら苦味と酸味に鋭くなるということが分かりました。

 著者たちは、この結果から、味覚をテストすることでうつ病の診断に使えるかもしれない、と考えています。あるいは、人々の味覚をコントロールするような調味料ができるかもしれない、とも述べています。

Mood makes food taste different
(ムードで食べ物の味は異なったものになる)

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 不安ごとがありますか? 新しい研究によると、ムードによってディナーの味が実際に変わり、苦味や塩味が減少するというのだ。

 脳内の化学物質のバランスと味覚との間にあるこうした関連性は、やがて医師がうつ病を治療する助けとなるかもしれない。こうした状態の個々の患者にどの治療がもっとも有効かを決定するのに、現場での試験は現在のところ行われていない。研究者たちは、味の検知にもとづくテストによって、医師の初回の処方箋がより適切となるようになるかもしれないと望んでいる。

 うつ状態にある人々が、セロトニンやノルアドレナリンといった脳内の化学物質の一方ないしは両方が通常より低レベルにあるということは長く知られていた。多くの人は、おそらくは脳内の化学物質が変化することによって、味の感覚も鈍くなる。

 2つの関連性を解き明かすべく、英国ブリストル大学の Lucy Donaldson と彼女の同僚らは、20名のボランティアの健常者たちに2つの抗うつ剤を渡し、さまざまな味に対する敏感さをチェックした。このチームが Journal of Neuroscience 誌に報告するところによると、セロトニンのレベルを上げる薬によって、人々は甘味と苦味に対してより敏感になった。ノルアドレナリンを増加させるもう一方の薬は、苦味と酸味の認識を高めた。

 健常者では、生まれつき不安のレベルが高いボランティアたちは、苦味と塩味に対する敏感さに劣っていた。

■ 苦味の薬

 「どの味がうつにおいて影響を受けるかを正確に調べることは、以前は行われていませんでした」と Donaldson は語る。今回この結果により「変化したと思われる化学物質と味覚との識別ができます」と彼女は言う。

 甘味と酸味に対する敏感さをテストすることによって、どの化学物質が低下しているのかに医師が注意する助けとなり、問題を正すのにどの薬がよいかを選ぶ上でのガイドとなるかもしれない。

 現在のところ、医師たちが個人の不均衡を推測する最良の方法は、肉体的・感情的な兆候に頼ることであり、これにより薬を処方し、そして改善したことを確かめるのに約1ヶ月待つ。この論文の共著者である病理学者 Jan Melichar が語るには、初回で適切な薬を選択する際に成功する割合は、優れた医師で60~80%であるという。うつに対して薬を処方するのに適したテスト方法はあるのだろうか。「いいえ。私たちがしているのは、最良と思われる推測なのです」と Melichar は言う。「私はこの発見にかきたてられています。3,5,7年のうちに、簡単な味覚のテスト方法ができることでしょう。」

■ 味の感覚

 次にこのチームは、うつの人々や、トリプトファンと呼ばれる別の脳内物質を与えられた健常なボランティアに同様のテストを行うことを予定している。この化学物質は、うつ患者に実際に起こるようなセロトニンレベルの低下を健常な被験者にもたらす。

 この研究はまた、調味料会社からの関心も起こしている――食品や飲料工業のための化学物質を開発している会社だ――たとえば、砂糖の半分の量で食べ物の味を甘くすることに関心を持っている。「理論的には、脳内物質に影響を及ぼして物の味をよくする薬をつかって、食事の味を高められる可能性があるかもしれません――『有名デザイナーによる味の錠剤』ができるかもしれません」と Donaldson は語る。「しかし私たちは Gordon Ramsay(訳注:著名なフレンチシェフの名)からの問い合わせを近いうちに期待しているわけではありません。」

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 ちなみにどんな実験か興味があったのでざっと元論文を眺めてみると、さまざまな濃度のショ糖(甘味)、塩酸キニーネ(苦味)、塩化ナトリウム(塩味)、塩酸(酸味)の化学物質を綿棒にふくみ、それを被験者の舌の上に置いて、味を感じるかどうか質問するということをやったそうです。なんか楽しそうな実験。でももちろんそれだと、薬の投与前後で被験者はテスト慣れしてしまって前後の正しい比較ができなくなってしまうので、偽薬を投与した場合も併せてテストするようにしたようです。

 味覚をテストすることでうつ病の診断ができるかも、というアイデアは面白いですね。たとえば甘味と苦味に鈍感だったらセロトニンが足りない、ということでそれを補うような治療法が有効である、ということでしょうか。

 もちろん味の感じ方には大きな個人差があるので、うつの程度と味覚の敏感さとの間にどの程度の相関があるのか、定量的に調べるというのが今後やるべきことになるのでしょうかね。

【参考リンク】
・(元論文)Human Taste Thresholds Are Modulated by Serotonin and Noradrenaline

2006年12月24日

荷物が軽くなる魔法のリュック


 Scientific American より。

 かなり以前にこのブログで、着用者の歩くエネルギーから発電をするバックパックというものを紹介しました。(リュックを背負って徒歩発電)さて今回、その第2弾になるバックパックが登場したそうです。このバックパック、重たい物を背負って歩くときの重みを軽減するというシロモノです。

 その仕組みは下記で述べられていますが、訳が微妙に難しかったので、読んでいて一部「?」となる箇所があるかもしれません。記事中のリンク先にあるムービーで一目瞭然ですので、ぜひご覧になることをおすすめします。

A Parent's Dream: Bungee-Powered Backpacks That Spare the Back
(両親の夢、それは背中を救うゴムひも動力のバックパック)

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 これであなたの足取りは弾むことだろう。肩や背中を打ち付けず、太いゴムひもで上下に跳ねるバックパックだ。このバッグの設計者は、自分の作品を、軍隊や救急隊員のほか児童たちの背骨を楽にするために医師が行う指示そのものであると見ている。
 
 人が歩くとき、腰は7センチメートル上下に動く。これにより通常はバックパックも浮いたり沈んだりする。これは関節や背中にとってはよくないことだ。というのも、バックパックは、振り下ろしの際に着用者にさらなる力を働かせるからだ。たとえば50ポンド(22.7キログラム)の荷物は、人が歩いているときには80ポンド(36.3キログラム)の力でのしかかり、走っているときには150ポンド(68.0キログラム)に及ぶ、とペンシルバニア大学の生理学者 Lawrence Rome は語る。
 
 Rome が作ったこの新しいバックパックは、運動の最中、荷物を地面と水平に保ち、重いバックパックを背負って歩いたり走ったりしているときの不快な力を相殺する。Rome の装置では、荷物は滑車と太いゴムひもからなる系にぶら下がっており、これにより金属棒の台上で上下にスライドすることが可能になる。人の腰が上がると、この台も同じく上がるが、荷物はゴムひもにより下に下げられ、運動に制限が加えられる。(このバックパックを着けて歩く Rome のビデオは元記事を参照。)
 
 このバックパックを上下逆さにして素早く振ると、スリンキー(訳注:バネでできたおもちゃ)が水平を保つのと同じ理由により、バックパックは振動を抑える――ゆっくりと振動するため、人の動きについていけなくなるのだと、コロラド大学の生体力学の研究者 Rodger Kram は語る。Kram はこれと同じメカニズムを、アジアの人々がやる、竹竿に重たい物を吊り下げ肩にかけるという仕事に見出した。
 
 Rome の装置では、「巧妙さはシンプルな点にある」と Kram は言う。「多くのことはしていません。」同様のバックパックを作ろうとしたほかの研究者たちもいたが、もっと複雑なもので、うまく動かなかったと彼は言う。
 
 このバックパックは着用者にかかる最大の力を約80パーセント減らし、歩いている間の上下の運動を半分以上弱くする。Rome と同僚らは Nature オンライン版に論文を報告する。「いくらか動きがあることには気づきますが、これは、固定したバックパックで得る違った種類の運動よりも実に快適なのです。」(ゴムひもモードと固定モードでのバックパックは元記事を参照。)
 
 このチームはまた、ゴムひもの力が有効の場合とそうでない場合とで消費されるエネルギーを比較した。ぶら下がり式のバックパックで歩くことは、荷物を12ポンド(5.4キログラム)軽くすることと同等であることを彼らは発見した。
 
 「エネルギー論は、大半の人々によって実のところ大きな問題ではありません――それは快適なのです」と Kram は言う。彼は、救急隊員やおそらくは子どもたちを含んだ、重い荷物を着けて走る人々に、このバックパックが魅力をそそるだろうと期待しているという。
 
 ぜひ買いたいだって? もう2,3年は待たないといけない。Rome は、彼が昨年作った同様のバックパック(運動から電気を生み出す)と沿う形でこのバックパックを商用化するべく、Lightning Packs 社を始めたが、このビジネスを発足させるにはさらなる資金調達が必要であると彼は述べている。

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 文章を読んだだけではいまいち仕組みが実感できませんが、記事にある中国の運搬業のイメージ(竹竿の両端に荷物をくくりつけて運ぶ)を想像すると、何となく軽くなる感じがつかめますね。

【参考リンク】
・(元論文)Biomechanics: Rubber bands reduce the cost of carrying loads
Lightning Packs 社

2007年01月14日

古代文明の崩壊はモンスーンのせい?


 New Scientist より。

 南アメリカのマヤ文明と中国の唐王朝は、同時期に栄え、いずれも9~10世紀のあたりで滅亡した文明です。

 これまで、研究者たちの間では、気候の変化がこれらの文明に影響を及ぼしていたのではないかという観点から、当時の気候を調べる研究が行われてきました。しかし、特に冬季のモンスーン(季節風)の強さについては、信頼できるデータがなく、悩みの種だったようです。

 しかし今回の調査により、湖の堆積物による方法をつかって、長らく不可能だった冬季のモンスーンに関する見積もりを得ることに成功しました。さらにここから、9~10世紀のあたりに地球規模での熱帯収束帯と呼ばれる領域の移動が生じ、これが気候の大きな変化をもたらし、さらにこれが文明の崩壊のきっかけとなったのではないか、という推測が得られることとなりました。
 
Collapse of civilisations linked to monsoon changes
(文明の崩壊はモンスーンの変化に関係している)

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 中国最大の王朝のうちの一つの滅亡は、気候の厳しい変化によっていたのかもしれない。同様の気候の変化は、Mel Gibson の新作映画 Apocalypto で描かれたマヤ文明の終末を引き起こしていたのかもしれない。

 ドイツの GeoForschungsZentrum の Gerald Haug らは、過去16000年にわたるモンスーンの地質学的記録を調べた。彼らは、気候の急変化と、2つの大文明、中国の唐王朝と南アメリカのマヤの文明の崩壊とのあいだに驚くべき関係があることを発見した。「大きな驚きを覚えました」と Haug は語る。

 これらの文明は、衰退の時期あたりに平均よりも強い風を冬に受け、そしてモンスーン降雨の低下を夏に受けていたことをこの記録は示している。こうした降雨の低下が作物生産量を減らしたのかもしれない。

 過去50年以上のモンスーンの記録を得ることは難しい。この問題を解くには、数千年までさかのぼって地質学的記録にあるモンスーンの傾向の兆しを探すことが助けとなりえる。中国では、石筍(訳注:鍾乳洞の床にできた石灰質の石)によって、夏のモンスーン降雨について入手可能な最良の歴史的記録が得られると Haug は語る。雨が多くなると、洞窟の天井からのしずくの量が増すからである。しかし、冬の風については、これまでのところ信頼ある推定値がなかった。

■ 鉄とチタン

 Haug らは、中国南東部の Huguang Maar 湖の底に積もった堆積物を調べることによってこの問題を解決した。この堆積物は主に、冬のモンスーンによる風によって堆積された物質からなる。これは、集水領域が小さい、つまり他の源から堆積物をもたらす流れがほとんどないためである。この結果、この堆積物が冬のモンスーンによる風の強さの正確な歴史的記録を与えるのである。

 研究者らは、湖底から抽出した堆積物のコアの中にある鉄とチタンのレベルを調べた。鉄の酸化レベルによって、堆積物が積もったときの湖水にどのぐらいの酸素があったかが分かり、これによりどのぐらいの風が湖面をかき混ぜていたかが分かった。粒子内のチタンは非反応性であり、堆積物の層に蓄積した量が、風の強さの別の指標を与えた。

 泥のコアによって示された16000年の記録を比較したところ、冬の風が強かった年が、夏の強い降雨と非常に密接に対応しており、逆も同様であることを研究者たちは発見した。「私たちの堆積物のデータは、石筍の夏の記録の鏡像を与えているのです。」(Haug)(訳注:正しくは、冬の風が強い年=夏の雨が少ない年、という関係です。この部分だけを読むと正反対の意味に読めてしまいますが。)

 こうした夏と冬の傾向に対する唯一の筋の通った説明は、熱帯収束帯(ITCZ)として知られている、地球を取り囲む低圧帯の位置に生じた変化であると研究者たちは考えている。

 北半球の気温の温暖化はITCZの北上を意味し、このとき、夏のモンスーン降雨が強まり、冬のモンスーンによる風が弱くなることを彼らは発見した。「ITCZに大きな変化が生じると、同時に太平洋の周囲の文明にある現象が起こり得るようなのです」と研究者たちは Nature 誌の論文において結論付けている。

■ 触媒効果

 以前に Haug は、ラテンアメリカのマヤ文明で繰り返し見られた衰退の時期が、この大陸の乾季と対応していることを示していた。

 マヤ文明との唐王朝は同時期の文明であり、中国とラテンアメリカの気候データの間には驚くべき類似性がある。西暦750年付近に気候の全体的な乾燥化が起こり、そしてそれ以降から西暦910年の間にきわめて乾燥した時期が3回あった――うち最後はマヤ・唐両文明の崩壊に一致する――ということがこれらのデータには含まれる。

 「私は歴史家ではありません」と Haug は注意を促すが、「少なくとも一致はあるのです」と言う。彼は、自分の研究は「気候に文明への触媒的効果があることの証拠が増えつつあること」の一部であると語る。

 モンスーンの歴史的記録を分析することは、将来の気候の予測をする上できわめて有用になりえる。たとえば、夏の強いモンスーン降雨の前には冬の風が弱くなっていると示唆する研究者もいる。もしそうならば、この理論が、困難な年に先んじて農業の準備をする上できわめて有用であると分かるだろう。

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 冬のモンスーンによる風の強さのデータを得るための流れがとても面白いです。夏のモンスーンの強さを得るのに洞窟の石筍が役に立ち、さらに冬のモンスーンを調べるのには湖底の鉄やチタンが役に立つ、と。意外なところに発見のとっかかりがあるという点に、まるで謎解きのような魅力を感じます。

【参考リンク】
・(元論文)Influence of the intertropical convergence zone on the East Asian monsoon

2007年01月21日

窒素の三重結合を切り離す


 Science Now より。

 僕の高校のときの化学の記憶によると、窒素というのは2つの窒素原子が3本の手を出して結合しています。これはとても強い結合のため、切り離して別の物質を生成するのに利用するのには大変なエネルギーが必要です。

 今回の研究は、ある金属を使って、効率的に窒素の三重結合を切り離し、有用な物質を作り出すことに成功したというものです。

Breaking Nitrogen's Three-Handed Clasp
(窒素の3本の手の結合を切り離す)

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 窒素は、大気の78%を構成する、どこにでもある資源である。しかし気体のほとんどは不活性であり、近くのものと相互作用をしない分子中に固定されている。肥料、薬、プラスチック等たくさんの製品を作るために大量のエネルギーを消費して窒素を利用する産業にとって、このことは長いあいだ問題だった。今回、ある研究者たちのチームによって、ずっと安価なアプローチとなるだろう方向への重要な一歩が進められた。

 窒素が他の元素と関係を持たないということは、同元素となす強い結びつきが原因である。ほとんどの分子は、近接する原子との間で1本または2本の結合を共有するのに対して、1対の窒素原子は3本の結合で互いに結びついている。約1世紀前、研究者たちは、窒素を水素と結びつけ、アンモニアを作ったことによってこのやり方を理解した。この開発は、とりわけ合成肥料の生産、そして近代農業の興りへとつながった。しかし今日でさえ、アンモニアの製造には膨大な量のエネルギーが必要となる。

 3年前、コーネル大学の化学者 Paul Chirik とその同僚らは、大気中の窒素をアンモニアに組み込むという、ジルコニウムをベースとした触媒を考案した。しかし多くの化合物にとってアンモニアは理想的な出発原料ではない。そのため Chirik らは、これらの触媒で新たなマジックを生み出させることができるか調べることとした。次号の Angewandte Chemie International Edition 英語版で彼らは、窒素と二酸化炭素を連結させた金属元素ハフニウムを中心とする化合物の開発に成功したことを報告する。

 この化合物は、はじめに、2つのハフニウム錯体間の万力に窒素を閉じ込めることによって機能する。これにより窒素元素は結合のうちの2つを互いに離し、代わりに結合をハフニウムへと移す。この切り替えの後で、二酸化炭素分子が窒素とハフニウムとの間に割って入る。さらに化学物質を加えることによって、研究者たちは幅ひろい範囲の化学化合物を作るための一般的な出発原料である、ヒドラジン(訳注:N)の一種を作成することができた。いずれも過度のエネルギーを加える必要はなかった。

 「本当にすばらしいと思います」と語るのは、カナダ・バンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学の化学者 Michael Fryzuk である。しかしながら、Fryzuk も Chirik も、現在の化合物はすみやかに再利用できないため、産業利用への準備はまだできていないと指摘する。化合物をつくり、切り離し、自動的に次を作りに取りかかるという一般的な触媒とは対照的に、ハフニウム錯体は、続けてヒドラジンを生産する前に、再循環・再生されないといけない。それでもやはりこの化合物でも、空気から引き出された出発原料から重要な化学物質を作り出すための、非エネルギー大量消費形の方法の開発への大事な第一歩を示している、と Fryzuk は述べている。

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 元々はなんか面白そうな記事だなあ・・と思い訳し始めたわけですが、残念ながら今回のテクニックのすごさというものが分かってません(知識がないためです);。 こういう記事を見てていつもながら思うのは、一体どういう経緯を経たらこんな変わったアプローチが編み出せるのかなあということですね。

【参考リンク】
・(元論文)Nitrogen-Carbon Bond Formation from N2 and CO2 Promoted by a Hafnocene Dinitrogen Complex Yields a Substituted Hydrazine

2007年02月05日

ゴミでエネルギー問題を救う方法


 Techonology Review より、ゴミからエネルギーを作り出そうという試みについての記事です。

 ゴミから燃料を取り出したり発電をしたりしようという試みはよく耳にするアイデアです。ゴミ問題とエネルギー問題の両方にとってプラスだという、たいへん魅力的なアプローチなのですが、とはいえ現実で成り立っていくにはあまりにも障害が多いわけです。

Creating Ethanol from Trash
(ゴミからエタノールを作る)

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 ゴミをエタノールやメタノールに変換する新しいシステムは、米国の動力車に使われる多量の化石燃料を置き換えながら、埋立地につみ上がる廃棄物の量を減らす助けとなるだろう。

 もともと、MITとワシントン州リッチランドのバッテル・パシフィック・ノースウエスト研究所(PNNL)の研究者たちによって開発されたこの技術は、ゴミを焼却処分しないため、廃棄物をエネルギーに変換すべく努力してきた人にとって歴史的に悩みの種だった汚染物質を生み出さない。そのかわりに、この技術は有機物を気化し、水素と一酸化炭素からなる、合成ガスと呼ばれる混合物を生み出す。これは幅広い種類の燃料や化学物質を合成するのに使うことができる。ワシントン州・リッチランドに拠点を置くスピンオフ企業、インテグレイテド・エンバイロメンタル・テクノロジーズ(IET)社によってさらなる開発・商用化が行われてきている。この技術は、地方自治体の廃棄物を処理することに加えて、農業バイオマスの廃棄物からエタノールを生成するのにも用いることができる。これによりエタノールを、現在のトウモロコシをベースにしたプラントよりも安価に提供する見込みがある。

 この新しいシステムは、2つの段階で合成ガスを作る。第一段階では、炭素と自由水素を部分的に酸化させるのにちょうどとなる少量の酸素が加えられた、1200度の室内で廃棄物が熱せられる。この段階ではすべての有機物が変換されるわけではなく、いくらかが炭状になる。それからこの炭を、1990年代にMITのプラズマ科学融合センターで開発された技術であるプラズマアークに通す。有害物質など残りの無機物は、PNNL技術を用いて溶融グラスの中へと組み入れられる。この溶融ガラスは固まって、道路建設に使えたり安全な物質として埋立地に捨てることのできる物質へとなる。(訳注:プラズマ科学融合センターという言葉は Plasma Science and Fusion Center を直訳。)

 次の段階は、触媒をベースとした、合成ガスを等量のエタノールやメタノールに変換するプロセスである。現在エタノールは燃料の添加剤として広く用いられ、いくらかの乗り物ではガソリンの代替物としても用いることができる。メタノールはバイオディーゼル燃料を生成するのに重要であり、現在は天然ガス中のメタノールから作られている。

 米国で生み出される自治体廃棄物や産業廃棄物は、このシステムが置き換えるのに十分な量であり、国内で使われるガソリンの4分の1に匹敵する、と語るのは、IETの共同創立者であり、プラズマ科学融合センターの上級研究員でもある Daniel Cohn である。

 もう一人の共同創立者であり、IETのCEOかつ取締役でもある Jeff Surma によれば、この多段階システムによって、競争力のある価格で廃棄物から燃料を作り出すことが可能であるという。都市や製造者が廃棄物を取り除いてもらうのにお金を払うという事実を含めたとしても、経済的には良くなるようだと彼は言う。これにより、燃料1ガロンにつき10~95セントのコストにすることができる。現在はIETは、この技術の採用に関心を持っている中西部の主要な公共施設やいくつかの自治体と交渉を行っていると Surma は語る。

 しかし、ワシントンの支持団体である再生可能エネルギー政策プロジェクト(Renewable Energy Policy Project)のエグゼクティブ・プロデューサ George Sterzinger は、IETは、原料に対して支払われるお金にあまり依存すべきではないと警告する。廃棄物を確保する上で、経済的利害がある埋立地とのやっかいな競合に直面するだろうと彼は語る。

 現在のところ、廃棄物をバイオ燃料に変換する複数の新たなアプローチが模索されているが、その勝者はまだ明らかではない。IETが成功するか否かは、始めの廃棄物の入手から流通にいたるまで、どのようにこの技術を拡大させて完全なシステムを開発するか、というところに大いにかかっている。

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 そういえば、Nature Digest の1月号によると、これと同様の手法で発電する試みが日本でも行われているとのことでした。(From:ただのゴミだと思ったら・・・

 北海道・歌志内にある、株式会社エコバレー歌志内という会社がそれ。上記事と似たプラズマアークを使って、引き受けたゴミから合成ガスを作っています。しかし実際には、当初予測していたゴミ量の60%しか処理しておらず、2002年の操業以来、苦しい資金繰りの状態が続いているようです。

 その原因として、歌志内の人口減少によるゴミ量の低下などがあげられます。さらに悪いことに、日本ではまだ、町どうしでゴミ取引するという仕組みがほとんど根付いていないため、辺りからゴミをかき集めてくるという方法も現在のところ有効ではありません。上記事で Sterzinger さんがコメントしているように、いかに安定してゴミを得るかという問題が、ゴミからエネルギーを得る方法にとって最も大きな問題のようです。

 日本でゴミ取引が根付いていないのは、いまは法的な問題というよりも、周辺住民の反発がおもな原因なのだそう。たしかに、公害に敏感な日本にとって、よそからゴミを受け入れて処理するというのは直感的に受け入れがたいと思います。とはいえ、土地がせまく、埋め立てコストが他国と比べて非常に高い日本の場合、今回のアプローチの有効性は大きいだろうと思います。また、住居の密集度が高さゆえ、ゴミ収集の手間もひょっとしたらほかの国と比べてだいぶ小さいのかもしれません。安全性や経済性のうえで、納得のいく証拠が多く集まってやがて今回の仕組みが実現できればいいなと思います。

【参考リンク】
株式会社エコバレー歌志内

2007年02月11日

精子は団体行動がお好き


 Science NOW より。微妙に煽り気味なタイトルでごめんなさい。

 ネズミの仲間の精子というのは他の動物と比べて特徴的な形をしているそうです。先端部にフックのような出っ張りがついています。ネズミの精子たちは、このフックを使って互いにくっつき合い、これにより単体で動くよりも高スピードで移動することができるのだそうです。

 今回の記事は、さらにそこから一歩進めた、いろんなげっ歯類の精子の形を調べるという調査についてです。様々な種類のげっ歯類について、体重のうち精巣が占める割合を調べ、これと精子の形状とを比較してみた結果、ある傾向が見られることが分かったそうです。

Sperm Find Strength in Numbers
(精子は個数に強さを見出す)

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 ダーウィン的進化に加わるのに、完全な生物である必要はない。精子でさえも、適者生存にかかわりを持っているのだ。ある研究が示すには、ある種のげっ歯類の精子は、かぎ爪状の頭部を進化させて、卵子へ向かう精子を負かしているようなのである。より良いかぎ爪をもつ精子たちは、より多くの仲間たちにくっつくことができ、これにより速く動く鎖を形作り、ライバルたちをおいて行くことが可能になる。

 数年間、生物学者たちはげっ歯類の精子の奇妙な形に悩まされていた。へら状の頭部をもつ他の多くの哺乳類の精子とは対照的に、多くのラットやネズミの精子の頭部は草刈り鎌のように曲がっている。約10年前、ヨーロッパモリネズミを研究している科学者により、これらのかぎ爪によって100もの精子の集団が互いにくっつき、この「精子の行列」が単体が泳ぐよりも速く動けることを発見した。(訳注:実物は元記事の写真をご覧ください。)

 進化の力が効果を表しているのなら好奇心をそそることだとして、英国シェフィールド大学の進化生物学者 Simone Immler とその同僚らは、ドブネズミやハツカネズミなどの37種のげっ歯類の精子を調べた。ヨーロッパモリネズミと同様、調べた大半の種において、周りの精子にかぎ爪が引っかかった精子は、独り者たちよりも早く移動することをこのチームは見つけた。さらに、より大きな精巣をもつ種――それゆえ射精ごとの精子量が多い――は、より鋭いかぎ爪をもつ傾向があった。このことは、精子が多いことが、卵子へ到達する精子間の競争が多いことに等しいためかもしれない。このチームは Public Library of Science ONE 誌の1月24日号にてこの推測を述べる。各精子はわずかに異なる遺伝子構成をもつため、最初に卵子に到達した精子が、優れたかぎ爪を次世代に受け渡しているのである。

 「本当に興味深い研究です」と語るのは、シェフィールド大学の進化生物学者 Rhonda Snook である。彼女はこの論文にはかかわっていない。この発見は、かぎ爪の形成において役割の競争が効果を表すのと同様に、げっ歯類の精子のユニークな形についての長きにわたる問いに手がかりを示している。

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 生物それ自身と同様、精子もじつは進化を行っているのだという考えはとても新鮮に感じられます。

 上記事を読むと、1回あたりの精子数が多い種だとそれだけ精子同士の競争が激しくなり、それに打ち勝つため、かぎ爪の形がよりシャープになるということが述べられています。この説明はちょっと僕には違和感を感じるな。というのも、そもそもなぜある種のげっ歯類が多くの精子を出すのかというと、それは交尾から受精に結びつくまでの可能性が小さいからだと思うのです。つまり、精子1体あたりの受精のチャンスが小さいわけだから、それを補うだけのたくさんの精子を出して受精の可能性を増やそうとするはず。したがって、かぎ爪の形が鋭くなるのは、精子同士の競争に打ち勝つためというよりも、受精が難しい状況において、卵子までたどり着くチャンスをできるだけ高めるために精子たちが築き上げた協力体制と言うべきだと思うのです。

 この記事に関わるもっとも根本的な疑問は、記事の最後にあるように、そもそもなぜげっ歯類だけがこういう形状の精子をもつのか? ということですね。これはちょっと考えてみてもさっぱり分からないなあ。

【参考リンク】
・(元論文)By Hook or by Crook? Morphometry, Competition and Cooperation in Rodent Sperm
 (群れをなして泳ぐ精子の動画が見られます。)

2007年02月18日

TVゲームで視力が上がる


 New Scientist より。

 学生を2つのグループに分け、各々にテトリスとガンシューティング(立体的なダンジョンを動いて敵を倒すゲーム)を1ヶ月間やらせるという実験を行ったそうです。そして1ヶ月後に目の検査を行ったところ、ガンシューティングをやったグループの方に、検査結果に向上が見られたとのことです。

 この結果を応用すれば、弱視などの患者に効果的なトレーニングプログラムが開発できるかもしれない、とこの記事は述べています。

 今回の実験は、今までほとんどTVゲームをやったことがない人を対象にしており、さらに1日1時間という制限をきっちり守らせた上での実験とのことです。毎日長時間ゲームをやることの免罪符には決してなりませんのでご注意を・・・。

Action computer games can sharpen eyesight
(アクションのコンピュータゲームは視力を高め得る)

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 テレビゲーム中毒たちに吉報だ。アクションが満載のコンピュータゲームは目にとって良い可能性があることが、米国の研究者たちによって発見された。

 ロチェスター大学の科学者らの研究が示すところによると、1ヶ月の間、日に数時間のアクションのテレビゲームをプレイした人々は、目の検査でおよそ20%成績が向上したという。

 「アクションのテレビゲームをやることは、私たちの脳の視覚的情報の処理の仕方を変えるのです」と、脳認知科学の教授である Daphne Bavelier は語る。

 「こうしたゲームは人間の視覚体系を限界へと押しやり、そして脳はそれに適応します」と Bavelier は言う。「この学習は、他の活動やおそらくは日常生活にまで持ち越されるのです。」

 Bavelier と学部生の Shawn Green は、前年にテレビゲームを全くあるいはほとんどしていない大学生に検査を行った。「唯一これが非常に難しいことでした」と Green は述べる。「キャンパスのほとんど皆がテレビゲームをしているのです。」

■ クラウディング・アウト

 検査の被験者は、普通の眼科で用いられるのと同様の目の検査を受けた。被験者たちは、記号の集まりの中から「T」の記号の位置を識別する、いわゆるクラウディング・テストを行うよう言われた。

 参加者たちはその後で2つのグループに分けられた。一方はシューティングゲームのアンリアル・トーナメントを1日1時間やプレイし、もう一方は同時間、これより視覚的に単純なコンピュータゲームのテトリスをプレイした。

 30時間ゲームをやった後、両グループは再び目の検査を受けた。テトリスをプレイした人たちは検査のスコアに改善は見られなかった。しかし、アンリアル・トーナメントをプレイしたグループは目の検査で平均して20%よいスコアを出した。

 素早く激しいコンピュータゲームをやることによって、プレイヤーの視覚の空間分解能が上がったものとこの研究者たちは考えている。視覚検査表にはT以外の他の記号がたくさんあるが、この分解能が上がったことによって、よりはっきりと図を見分けることが可能になったのである。

 この発見は、弱視のような特定の視覚的異常をもつ患者の助けとなるかもしれないと、この研究者たちは語る。おそらくそうした人々は、特別に設計された訓練用ソフトウェアを使って利を得るであろう。

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 クラウディング・テストという検査は初めて聞きました。ふつう目の検査といえば、ランドルト環やアルファベットが並んだ表を連想するのですが、それとは趣向がかなり異なりますね。このテストの詳細(Tを見つけるまでの時間を測定するのか? それとも見つけることのできた最小のTのサイズを調べるのか?)が分からないので詳しくは分かりませんが、このテストは、視野全体でものを探し出すという、微妙に異なる能力を測るものなのかもしれません。

 なので、一般的な視力の概念と今回のテストは必ずしも一致しないと思うのですが、結果の一文だけを取り上げて、ゲームをすれば視力回復! みたいなノリで話が膨らんでしまわないかはちゃんと注意しないといけません。

【参考リンク】
・元論文は見つからず・・。Psychological Science 誌発らしいのですが。

2007年02月25日

小説を執筆するアルゴリズム


 ABC Science Online より、コンピュータに小説を自動生成させようという試みです。

 小説の自動生成と聞いて、直感的に、それはいくらなんでも不可能だと感じるのは僕だけではないでしょう。ふつう小説の中では、登場人物たちが様々な感情をもって振る舞うわけで、それがコンピュータで自律的に再現できるとは到底思えないからです。たとえできたとしても間違いなくそれは目新しくともない退屈なものでしょう。たぶんそのプログラムには、いわゆるありがちなストーリーが製作者の手によってあらかじめ組み込まれていて、せいぜい言い回しが変わる程度の貧弱なバラエティしかないんじゃないかな、と想像するわけです。

 さて、今回開発されたプログラムは、こうした想像とは異なり、人間が入力する情報が必要最低限という特徴をもつそうです。そしてひとたびプログラムが実行されると、登場人物たちの間の好き・嫌いといった恋愛感情が数値化され、あたかもプログラムの中で実際の登場人物が感情をもっているかのように物語が自動的に進行していくようです。

 そして感情の以外にも、小説として必要となる緊張感の上がり下がりや、ストーリーの一貫性などといった点も制御されながら執筆が進んでいきます。こうして出来上がった小説は、実際の人間が書いた小説とくらべても劣らない(それどころか勝ってしまう)質を得ることができたそうです。

Computer writes its own fairytale
(コンピュータは自らのおとぎ話を書く)

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 最小限の人間の入力で自らの小説を書くというコンピュータプログラムがメキシコの研究者によって開発された。

 MEXICA と呼ばれるこのプログラムは、キャラクター間の感情や緊張を電子化した表現に基づき、オリジナルの物語を生成する初のものである。

 「このプログラムは、物語を作る際に、キャラクター間の感情的つながりの記録を保っておき、そして感情に関する知識を用いて、物語を続けるための可能な論理的行動を記憶から検索するのです」と、このプログラムの作成者 Rafael Pérez y Pérez 博士は語る。

 このプログラムを説明した論文は、Cognitive Systems Research 誌に掲載受理された。

 このコンピュータが生成した物語と、他のコンピュータ製の物語、あるいは人間によってのみ書かれた物語とを競わせたインターネット調査において、読者たちは MEXICA の物語を、流れ、一貫性、構造、内容、サスペンス、質全体において最高位にランクづけた。

 メキシコシティのオートノマス・メトロポリタン大学のコンピュータ科学者である Pérez y Pérez は、物語は次のような何らかの基本的なものから始まるだろうと述べる。「敵が騎士を傷付けました。王女は騎士を治療しました。騎士は敵を倒しました。騎士は王女に報いました。終わり。」

 このプログラムはキャラクター達を変数として読みとり、恋心を持っているか否かとして定義された感情的つながりに対して、-3から+3までの数値を割り当てる。

 この数値は、-3を非常に嫌い、+3を非常に好きとした、感情の度合いに等しいものである。

 このプログラムは物語の緊張も理解する。「傷ついた」という言葉に緊張を結びつけるというようにである。これにも数値が割り当てられる。

 こうしたひとかたまりの感情的つながりや緊張が確立されると、プログラムは「エンゲージメントとリフレクションのサイクル」を開始する。(訳注:適切な訳語が思いつかなかったのでそのままにしました。後で説明します。)

 基本的にこれは、物語の行動とほかの出来事(「原子」と呼ばれる)のデータベースを検索して、そのときのキャラクターたちの文脈に最も合うのを決定することを含む。

 このシステムが文脈に合うものをもはや作れなくなるまで、このプロセスは何度も繰り返される。

 現在のところ、このコンピュータは物語を一貫性と「おもしろさ」について分析する。このプログラムは、作品を通して緊張のレベルが上下するときに、その物語をおもしろいとみなす。

 もし物語が作品において退屈だとか一貫性がないとか判断すると、プログラムは満足と判断するまで、原子を置き換えたり挿入したりする。

■ 執筆の科学的モデル

 英国のノッティンガム大学にある学習科学研究所(訳注:Learning Sciences Research Institute を直訳)の所長である Mike Sharples 教授は、"How We Write: Writing as Creative Design" という書籍の著者である。同書において彼は創造的な執筆に対する科学的モデルを説明している。

 「Rafael は、人間の創造的執筆のモデルの重要な要素を導き出した――特に、エンゲージメントとリフレクションとの間の移り変わりがそれである――これで物語の執筆過程の本質的な部分をシミュレートするコンピュータプログラムを作り、おもしろく魅力ある物語のアウトラインを生み出すのである」と Shrples は述べている。

 彼はこのプログラムを「革新的である」と述べている。

 Pérez y Pérez は、MEXICA や将来の関連したプログラムが、人間の作家の置き換えではなく、ツールとしてみなされる事を望んでいる。このプログラムがより上質の物語や書籍を導きさえするだろうと考えている。

 「MEXICA のようなプログラムは、私たちが発想し、そしてそれゆえ理解することの助けとなるコンピュータモデルなのです」と Pérez y Pérez は語る。「こうして、私たちは自分たちの限界能力を超えられるのです。それがゴールであると私は考えています。」

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 どうやらこのエンゲージメントとリフレクションという2つの段階のサイクルがこのプログラムの肝と言えるようです。

 いまこの記事を書いてる時点で Cognitive Systems Research 誌がメンテナンス中なので元論文が見られないのですが、かわりにノッティンガム大学のサイト(これ)に Sharples さんの MEXICA の解説記事(これ)がありました。

 これによると、エンゲージメントの段階というのは、自分の長期記憶データベースから文脈にあうアイデアを取り出して書くということをするようです。そして新しいアイデアをこれ以上出せなくなったり、文脈から逸脱してきたりすると、次のリフレクションの段階に移ります。この段階では、書いたものを見直して、一貫性や新規性、おもしろさといった側面で評価し、必要があれば修正します。そして再びエンゲージメントの段階に戻り、おなじ手順を繰り返します。

 うーん、正直この記事が難しすぎで、上手に説明できるほどよく分かってないのですが、比較的自由な発想でストーリーを前に進めるというフェーズと、それを整理して収束させるフェーズ、という感じなのでしょうか。詳細は上記の解説記事をぜひごらん下さい。

 当初の僕の想像とちがって、これって僕たち人間が、小説に限らずなにかを発想するという過程とよく似ているなと感じますね。

【参考リンク】
・(元論文)Employing emotions to drive plot generation in a computer-based storyteller

2007年03月10日

ペルーの遺跡の塔は巨大な太陽観測所だった


 BBC News より。

 ペルーの遺跡に、十三の塔という建築物があるそうです。南北約200メートルにわたり並ぶこの塔は、以前からその存在が知られていたものの、一体何のために存在していたのか、研究者たちの間の謎だったそうです。

 今回、実はこれらは古代の天文所であり、古代インカの人々がこの場で太陽を観測し、信仰にとって重要な日を特定していたということが明らかになりました。

Towers point to ancient Sun cult
(塔は古代の太陽崇拝を指し示す)
(太陽崇拝って "sun cult" って言うんですね・・・辞書いわく他に "heliolatry" や "sun worship" とか言うみたいです。)

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 最古の太陽観測所がアメリカ大陸で見つかった。このことは洗練された太陽崇拝が初期に存在していたことを示唆している、と研究者たちは報告する。

 それは十三の塔として知られる、2300年前の構造物のグループからなり立っている。ペルーの遺跡発掘現場チャンキロ(Chankillo)で見つかった。

 この塔は、毎年の日の出と日没の軌道にわたっており、これにより特別日をマークするための太陽暦が得られるのである。

 この研究は Science 誌に掲載される。

 英国レスター大学の天文考古学の教授 Clive Ruggles はこう語る。「これらの塔の存在は1世紀ものあいだ知られていました。それらが何のために長年にわたって存在していたのか、誰も認識していなかったというのは只事ではないでしょう。」

 「初めてそれらを見たとき、私は非常にびっくりしました――並んだ塔が、太陽のなす弧全体を覆っているのです。」(訳注:このへん訳すの難しい・・元記事の写真をご覧下さい。)

 チャンキロの十三の塔は、この遺跡にある低い丘の尾根に沿って北から南へ伸びている。保存状態は比較的よく、各塔には頂上へとつながる一対の内階段がある。

 大きさにして75~125平方メートルのこの長方形状の構造物は規則的に位置取られ、狭い隙間が規則正しい間隔でならんだ、「歯状の」地平線を形作っている。

 東西へ約230m進んだ二地点は、科学者たちが観測点だと考えている場所である。この二地点から見ると、地平線に沿って長く広がった塔が、一年の日の出と日没の地点と非常によく一致しているのだ。

 西側の観測点から眺めると、太陽は最左の塔の左側から出現する。

 Ruggle 教授は言う。「例えば西側の観測点に立てば朝に太陽が昇るのが見られますが、塔の端から端のうちどこから出現するかは、年の時々に依存するのです。」

 「ですから、ペルーでは12月にある夏至のときには、太陽はちょうど最右の塔の右側に見られます。6月の冬至のときには、最左の塔の左側から太陽が昇るのを見られます。その間のときには太陽は地平線を上下するのです。」

 このことが意味するのは、古代文明が、太陽が塔から塔へ移るのにかかる日数の経過を追うことによって暦を規定していたのかもしれないということだ、と彼は語る。

■ 太陽崇拝

 これらの塔があるこの遺跡は大きさにしておよそ4平方キロメートルであり、紀元前4世紀に占拠された儀式上の中心地だと考えられている。この遺跡はカスマ・セチン川流域にあるペルーの海岸にあり、多くの建物や広場、そして多くの注目を集めてきた要塞化された寺院をふくんでいる。

 ペルーの国立文化研究所の Ivan Ghezzi 教授を含むこの論文の著者らは、この居住民たちは古代の太陽崇拝であり、この天文台は太陽暦における特別日をマークするために使っていたものと考えている。

 Ruggle 教授は述べる。「西側の観測点、そしてやや東側の観測点は、非常に制限されたものでした――そこから2,3人以上の人が見ることは出来なかったでしょう。そしてあらゆる証拠が示唆するのは、その地点への形式的・儀式的なアプローチがあり、そして特別な儀式がそこで行われていたということです。」

 「日の出と日没を見ていた誰か特別な人――おそらくは聖職者――がいたことをこのことは意味します。そして一方で隣の広場では、群集たちが饗宴をし、日の出を見ることができたものの、それは特別な視点からではなかったのでしょう。」

 書かれた記録が示すところによると、インカは西暦1500年まで太陽観測を行っており、人々の宗教は太陽崇拝を中心としていたという。

 「インカの時代には、冬至夏至近くの太陽を観測するのに塔が用いられたということが知られています。このことにより、太陽崇拝の実践がさらに昔にさかのぼる要素があると考えられるのです」と Ruggles 教授は BBC News ウェブサイトに述べた。

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 太陽の位置を観測するための古代の建築物というと、他にイギリスのストーンヘンジが思い当たります。ストーンヘンジもかなり大きい(直径100m)ですが、今回の十三の塔も、全長約200mと、かなり大きな規模の建築物です。さらに面白いと思うのは、岩を並べて作られたストーンヘンジとは違って、より大掛かりな塔という形で太陽の位置をマークしたという点。太陽の位置を測量し、それにもとづいて塔を建てる位置を正確に特定するという技術をもっていたということなんでしょうね。2300年前というと、紀元前300年。そんな昔にそれだけの技術があったというのは面白いです。

 ちなみに Google Maps でも十三の塔を見ることができます。これ。リンク先の地図の右下に見える、縦方向に並んだ点線みたいなものがそれ。他にも左の方にも不思議な形の建築物が見られたり、なんか楽しそうな場所です。

【参考リンク】
・(元論文)Chankillo: A 2300-Year-Old Solar Observatory in Coastal Peru
AstroArts 天文ニュース南米ペルーの遺跡をめぐる議論に決着 「13の塔」は2300年前の太陽観測所だった

2007年03月20日

ネズミは無知の知を知っている


 Science NOW より。

 自分の無知を自覚すること、すなわち「無知の知」の重要性を説いたのはソクラテスですが、今回発表された研究によると、ソクラテスよりもずっと下等であるネズミたちが、すでにこの考えを身に着けていたらしいことが明らかになりました。

 研究者たちはネズミに、音の長さの聞き分けテストをやらせました。ネズミは音を聞いて、それが長いか短いかに応じて適切なレバーを押すとご褒美がもらえます。このテストにはある特徴があります。問題を聞いて、ネズミたちはその問題をスキップするかどうか選択することができるのです。もしスキップすれば、ご褒美は半分だけ得られます。もしスキップせず、しかも問題を間違ってしまったら、ご褒美を得ることはできません。

 こうしたテストを行ったところ、特に聞き分けが微妙な問題において、ネズミたちはスキップを選択する割合が多くなることが明らかになりました。そして実際、スキップを選ばずに問題に取り組んだ場合の正答率は、(スキップの選択肢を与えず)強制的に問題をやらせた場合よりも良くなっていることも確認されました。

 著者たちは、この結果から、いわゆるメタ認知、すなわち自分自身の心理過程についての監視や考察がネズミにおいても見られた、と述べています。

 ネズミたちは、自分にはその問題が分からない、つまり、自分は知らないことを知っているという状態だからこそ、スキップを選ぶことができたと言えるのかもしれません。とはいえ、ソクラテスが目指した「真の知」と異なり、ネズミの場合は単にエサがお目当てである、という根本的な違いがあるのは言うまでもないですけどね。

The Rodent Who Knew Too Much
(多くを知りすぎたげっ歯類)

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 ネズミは排水管を泳いだり地下鉄のレールの下でも行き抜くということで有名だが、今やもっと優れた才能を主張してもよいだろう。考えることについて考えるのだ。認識論ではないが、本日の Current Biology 誌に掲載された研究によると、ネズミは自分自身の知識の限界を知っているということ――動物界の頂上の脳にのみ属すると長く考えられていた知的能力――の初となる証拠が見つかったという。

 人々は日常的に、メタ認識を体験したり自身の知識を計ったりする。試験のあいだ気がめいる感じがしたことがある人ならよく分かるだろう。しかし動物におけるメタ認識を検知しようとする試みは、ほとんど成功したことがなかった。動物は研究者たちに何を考えているか教えてくれないというのが主な理由である。科学者たちはその代わりに行動上の手がかりに頼らなければならない。たとえば、サルは難しいテストを出されると、より少ない賭けを自分の回答に対してするし、イルカは良く二つの音を聞き分けさせると揺り動きをみせる。しかしこれまでのところ、ハトなどの脳の小さな動物がメタ認識の兆候を研究室で見せたことはなかった。

 ネズミは違うとでもいうのだろうか。アセンズのジョージア大学の神経科学者 Jonathon Crystal と学部生 Allison Foote は、音を識別させるという自己知識テストをネズミにやらせた。まず、研究者たちはネズミを調教し、一方のレバーと短い断続音(約2秒つづく)、もう一方のレバーと長い断続音(約8秒つづく)とを関連付けさせた。正しいレバーを押すとご褒美に6粒のペレットが得られ、間違ったレバーを押すと何ももらえず、再挑戦もできなかった。また、鼻をえさ箱に突っ込んで選択をしないでいることでご褒美を半分だけもらえることをネズミは教えられた。

 そうしてメタ認識テストは始まった。Crystal と Foote は、2本のレバーとえさ箱のある檻にネズミたちを入れ、断続音を流し始めた。正しいレバーを押すことでより多いご褒美をもらえることを知っているので、ネズミたちはえさ箱を避け、タップを始めた。しかし研究者たちがテストをより難しくすると事態は変わった。第2の実験では、このチームは、「短い」とも「長い」とも区別しづらい中間の断続音を流した。今回は、ネズミのえさ箱に向かう頻度が2倍になり、レバーで頭を悩まさなくなった。「テストを難しくすればするほど、より(選択を)しなくなるのです」と Crystal は語る。

 ネズミたちは間違った答えもしれないと知っていたから試験をスキップしたのだということを確かめるべく、Crystal と Foote は、えさ箱なしの難しいテストを繰り返した。テストを受けることを強制されると、ネズミたちの成績は悪くなり、たぶんこうだろうというように動いた。「ネズミは自分自身の内部の精神状態について思案することができるのです」と Crystal は結論付ける。その点において、ネズミはまさに霊長類やイルカのようにふるまうのであると彼は言う。

 「重要な研究です」と語るのは、ロサンゼルスのカリフォルニア大学のメタ認識の研究者 Nate Kornell である。「ネズミの精神プロセスが思っていたよりも私たちに近いということを示しています」。さらに、賢いと言われている動物は、意識において市場を独占していない、と彼は付け加える。というのも、「もしネズミやサルについてこれが真実ならば、他の哺乳類についても同様に真実だろうからです」。

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 やや複雑な実験をやってますが、元論文に一体どういう手順で実験をやったかについて述べられているので、興味のある方はご覧になってみるとよいかと思います。

【参考リンク】
・(元論文)Metacognition in the Rat

2007年03月25日

ケンカ遊びは社会的能力を高める


 EurekAlert! より、またネズミ絡みの記事です。

 「ふざけてケンカごっこなんてしちゃいけません」というのは昔も今も言われる言葉です。しかし、ネズミに限って言えば、年少期の仲間とのこうした乱暴な遊びは、社会性の発達に大事な役割をもっているらしいことが明らかになりました。

Your mom was wrong: Horseplay is an important part of development
(お母さんは間違っていた:やんちゃ遊びは発達の大切な一部)

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 運動場での大騒ぎは、長く子供や若者の習慣だった。子供がケガをしたり悪くなったりしないかを心配する数世代の両親にとってはたいへん残念なことに、これは暴力や攻撃性への習慣づけとなっている。しかし動物実験により、やんちゃ遊びに異なる描像が描かれるかもしれない。社会的・感情的発達が、仲間とのそのような相互作用に大いに依存しているかもしれないのだ。

 Current Directions in Psychological Science 誌の4月号に掲載された記事では、レスブリッジ大学の Sergio と Vivian Pellis が、動物とかかわる複数の論文のレビューを行っており、やんちゃ遊びと社会的能力とのあいだの関連性を見出した。

 たとえば、仲間との相互作用(ひいてはやんちゃ遊び)を奪われた大人のネズミは、社会構造のヒエラルキーの理解に無能力であることを示した。ネズミの世界では、若いオスがコロニーに生息を定めようと試みると、すぐに支配的なオスネズミから攻撃の的とされる。仲間と一緒に育てられてきたネズミは、この場合、支配的なオスの注目を避けるために、すみやかに身をかがめてじっとすることを会得する。他方で、遊びを奪われたネズミは、走り回ることをやめず、結局はもっと本気の攻撃を招くこととなる。

 やんちゃ遊びを欠いたネズミでは、協調的な動きも同様に劣っているようである。ネズミは、他の大半の哺乳類とおなじく、協力的(性など)や競争的(食料を守るなど)な状況の両方について、協調的な動きに大いに依存している。孤立して育てられたネズミは、動きを適切に相手に合わせる能力が悪くなっていた。こうした協調は、ケンカ遊びの間に起こるような、たえず身体をシフトさせる動きを通じて学べるものであると著者らは述べている。

 仲間の相互作用を奪われることは、神経学的な結果も引き起こしているようである。年少者のケンカ遊びによって、著者らが「社会的脳」と呼ぶ領域である大脳皮質にある種の化学的殖因子の放出が促されることが見出されてきている。この社会的脳の構造には眼窩前頭皮質という領域があり、これは社会的な識別や決定に関わりがあることが知られている。論理的に考えれば、この領域での成長が促進されないと、それだけ協調的な動きや社会的合図の認識などが損なわれる可能性が高くなるのである。

 しかしネズミの行動は、おそらくは複雑な私たち自身の発達への洞察を与えてくれるのだろうか。どうもそうである、と著者らは述べる。その証拠として、とくにケンカ遊びについて動物と人間の遊びには重なり合う部分が相当あることを挙げている。

 「こうして得られた知識によって、人間でのこうしたプロセスの関連結果の手がかりを得ることができるのです。」(Pellis)

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 ネズミの実験については面白いね。周りから浮いてるネズミは攻撃の対象になりやすいという感じでしょうか。しかも年少期でのケンカ遊びをつうじて、いわば空気の読み方を身をもって習得しているのは面白いです。

 やっぱり気になるのは人間についてはどうなのか?という点ですね。子供のときに友達とふざけて叩き合ったりすることが、社交性などの能力を成長させる重要な要素だと分かったら、子育ても今と異なった見方になるかもしれないね。もちろん今回のネズミの場合の結論が、そっくり人間について当てはまるかというと、それはまだ微妙な感じはしますが。

 個人的には、年少期のケンカ遊びによって、上記の眼窩前頭皮質にどのぐらい成長の差が見られるのか、そして実際に、眼窩前頭皮質の大小がその人の社会的ふるまいとどのような関係があるのか、といったところが気になります。

【参考リンク】
・(元論文)Current Directions in Psychological Science誌ではまだオンライン化されてないようです。見つかり次第リンクはります。

2007年04月01日

海馬と前世と貧乏くじ


 いつもと少し気分を変えて、今回はいくつかのニュースのダイジェスト。


■ 新たな研究は、大きすぎるメモリーが悪いことかもしれない理由を示す
 New research shows why too much memory may be a bad thing

 EurekAlert! より。
 長期記憶に秀でていることは、短期記憶に劣っていることと関係があるのかもしれません。米国のコロンビア大学メディカルセンターの研究者らは、とある状況でマウスの記憶能力を調べる実験を行いました。2つに分けた一方のマウスに、海馬の領域でのニューロン新生を抑える処置を施しました。そして両方のマウスに、短期記憶と深い関わりがあるワーキングメモリの性能を調べる迷路テストを行いました。すると、ニューロン新生を抑えられたマウスの方が、そうでないマウスよりも高得点を出すことが明らかになりました。一般に海馬といえば長期記憶を形成する部位です。実際、同研究者らの以前の研究では、同様の処置により長期記憶に障害が生じることが分かっています。今回の結果から、海馬で生まれたニューロンは、長期記憶と短期記憶とでそれぞれ反対の役割を持っているといえそうです。ここから研究者らは、ワーキングメモリの情報を忘れられるということが日常的な記憶には欠かせないのかもしれない、と述べています。
(元論文:Paradoxical influence of hippocampal neurogenesis on working memory


■ 前世を覚えているだって? たぶん君の記憶力は悪い
 Remember a Previous Life? Maybe You Have a Bad Memory

 Scientific American より。
 自分には前世の記憶があると主張する人は、記憶力のテストにおいて、誤りをする割合が高いという調査結果が出たそうです。オランダのマーストリヒト大学の研究者らは、いわゆる「前世療法」の患者に対し、記憶力を試すテストを行いました。まず、被験者に知らない人の名前を覚えさせ、その翌日に、その名前、別の名前、有名人の名前の3種類を含んだリストを見せて、うまく分類をさせるというテストです。結果、前世の記憶を主張する人は、前日に覚えた名前を、有名人の名前であると勘違いする割合が高いことが明らかになりました。このような、いわゆる情報源の誤解が、空想を現実と誤って記憶することを引き起こしていると著者は述べています。しかし一方で、この研究には被験者の選び方に問題がある、との反論が他の研究者からなされています。残念ながら元論文が見付からなかったため詳細は不明ですが、前世療法の患者を対象にした、という辺りにたしかに少し違和感を感じます。
(元論文:The false fame illusion in people with memories about a previous life
(情報ありがとうございます!)

■ 顧客に貧乏くじを売る
 Selling customers the short end of the stick

 EurekAlert! より。
 ある物を買おうとしたら、同じ物を他人が自分より安く買えることを知ってしまい、やっぱり買わないことにした、ということがたまにあります。こうした行動は、自分が貧乏くじを引かされたと感じることから生じるわけですが、一方で、ある条件の下では、貧乏くじを引くことがその品物の魅力を逆に高めるという逆転現象が発生します。例えば、工具、スポーツ用品、宝石などの品物において、その道の熟達者のみに限定してその商品を無料配布した場合に、買い手はその品物を良質であると判断するのだそうです。そこで元論文では研究者たちは、様々な実験を通じてこの現象の裏づけを行っています。そのうちの一つ、被験者に2種類のコードレスドリルを用いた実験では、一方のドリルにはデパート商品券、もう一方には工作者向けのガイド本がおまけ(販促品)として付け、両者の比較をさせました。多くの被験者は、自分がもらって嬉しいのは前者だと回答した一方で、より高価なドリルは後者であると判断しました。つまり、目の肥えた熟達者をターゲットとする販促物がお客に良質という判断を引き起こしたのであり、上記の現象を裏づけているといえそうです。
(元論文:How to Attract Customers by Giving Them the Short End of the Stick

2007年04月07日

お金持ちの脳と貧乏人の脳


 Science NOW より。

 被験者をあつめて、成功すると小額の賞金がもらえるテストを行ったそうです。テストは非常にシンプルで、何回か繰り返し行えば要領がつかめて、より多くの賞金がもらえるというものだそうです。さて、このテスト結果を分析したところ、所有する財産額が大きい被験者ほど、この要領をつかむまでの時間が長くかかるということが明らかになりました。さらに実際にそうした人たちの脳の活動を観測すると、学習に関わる領域が活発になるのが、貧乏な人たちと比べて遅いことが明らかになりました。

Rich Brain, Poor Brain
(金持ち脳、貧乏脳)

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 エベニーザ・スクルージやジョン・ロックフェラーは別として、多くのお金持ちの人々は、歩道でどこかにいった25セント硬貨を拾い出そうか迷いはしないだろう。今回、富裕な人々は、貧しい人々よりも、そこにある小さな変化を価値あるものとして認知していないことが、ある実験によって確かめられた。(訳注:エベニーザ・スクルージは小説「クリスマスキャロル」の登場人物、ジョン・ロックフェラーはアメリカの実業家。いずれも金稼ぎに執着した人物です。)

 英国ケンブリッジ大学の心理学者 Philippe Tobler とその同僚らは、14名の被験者に対し、コンピュータ上のテストをクリアするごとに金銭的報酬として20ペンス硬貨(約47円)が得られると告げた。研究者たちは被験者らに、2枚の抽象的な図のうちの一方を示した。正解のほうの図の後には、硬貨の絵が現れた(賞金が支払われる)。不正解のほうの図の後には、ぐちゃぐちゃになった硬貨の絵が現れた。研究者らはボランティアたちに、分かっていることの合図として、ボタンを長く押さえたままにしておくように指示した。ボランティアたちがこのタスクをどのぐらい早く習得するかによって、彼らの受け取る20ペンスという報酬がどれだけ大きいかが示されると研究者たちは判断した。

 ボランティアたちの収入は、無しからおよそ30000ポンド(約700万円)に及び、平均は10250ポンド(約240万円)だった。最下層のボランティアは、報酬の手に入れ方の習得が、お金持ちの相手よりも平均して3回早かったことが分かった。このことを彼らは Neuron 誌の今週号に報告する。Tobler のグループは、MRI装置でボランティアの脳をスキャンしながらこの実験を繰り返した。学習のあいだ、脳の3つの領域が発火し、またお金持ちのボランティアは貧乏な人たちよりもそうなるのにより長い時間がかかった。お金持ちの人々は貧乏な人々よりも少量の金銭を高く評価しないことをこの結果は示唆している、と Tobler は語る。

 「この発見は本当に興味深いものです――どれだけお金持ちであるかが、20ペンス硬貨に脳がどのぐらい反応するかに影響を及ぼすのです」と語るのは、ニュージャージー大学の心理学者 Daniel Kahneman である。しかし彼は、報酬が大きくなるとお金持ちの人々の習得は早くなるのかどうか知りたいと付け加える。

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 人の経済的背景と、金銭的報酬の絡む学習スピードとの関連を調べてみよう、という発想はとてもユニークだと思うんですけどね。読んでると気になる箇所がぽろぽろ出てきます。年齢との相関が見えているだけじゃないの? 職業と関連してるだけかもよ? 金銭的報酬が得られないバージョンと比較しなくていいの? とか。この記事を書いたひとはそのあたり気にならなかったのかなあ。

 元論文のサマリーをざっと見ると、今回の傾向は、年齢、および教育年数とは関わりなく見られたとのことです。年齢に関しては問題なさそうだけど、他にも職業とか、関わりのありそうな項目がいっぱいありそうな気がします。

 たしかに、限界効用逓減の話(持っている財産が大きいほど、同額の利益への満足度は下がるということ)という話が世の中にはあるけど、でも今回の結果から「金持ちは小銭を高く評価しない」という結論が引き出せるとは思えないなあ、というのが僕の感想です。

【参考リンク】
・(元論文)Learning-Related Human Brain Activations Reflecting Individual Finances

2007年04月22日

モネたちが見た色の世界


 Science News And Research 経由、Stanford News より、絵画と医学に関する研究。

 クロード・モネ(Claude Monet)といえば、誰でも名前を聞いたことがある有名なフランスの印象派画家の一人です。彼は1800年代後半から1900年代初めにかけて、多くの作品を残しました。たとえば「日傘を差す女」はあまりに有名です。

 さて、彼はまた、後年に白内障を患っていたことでも知られています。白内障といえば視界が変化する病気です。実際、彼の作品をいくつか見てみると、初期の「日傘を差す女」などの作品とくらべて、後年の「睡蓮」などの作品は、暗めの色で、抽象的なものが多くなっています。はたして視界の変化がモネの制作活動にどのような変化をもたらしたのか(あるいはもたらさなかったのか)という点は、いまなお議論が続いています。

 そこで今回、眼科医によるシミュレーションによって、モネが実際に見ていたとされる映像が再現されました。その画像はここには引用しませんので、興味をもった方はぜひリンク先を参照してください。

Eye diseases changed great painters' vision of their work later in their lives
(偉大な画家たちの後年の作品のビジョンを眼病が変えた)

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 医師 Michael Marmor は、芸術家の目を通して見ることがどういうものなのか知りたいと思っていた。目といっても文字通りの意味である。

 眼科医である彼は、芸術家と眼病に関する2冊の書籍を執筆したあとで、さらに一歩踏み出して、眼病をもった芸術家たちが、実際にどのように世界やキャンバスを見ていたかを示す描像をえがこうとした。Marmor は、コンピュータシミュレーションと彼自身の医学的知識とを結びつけ、フランスの印象派の画家 Claude Monet と Edgar Degas の傑作のいくつかの描像を再構築した。いずれも白内障と網膜疾患に苦しんだのちに活動を継続した画家たちである。

 結果は驚くべきものである。

 画家たちが自分の作品をどのように見ていたのかを示す Marmor のシミュレーションによると、Degas の後年の湯浴みする裸婦の絵は、かなりぼやけたものとなり、画家の筆跡を見出すのがきわめて困難になる。Monet の後年のジヴェルニー(訳注:彼が制作を行っていた土地の名前)の蓮池と日本の橋の絵を、白内障の典型的症状を反映するように調整すると、暗く不明瞭なものになる。画家のすぐれた色づかいは茶と黄で置きかわっており、色の力強さが弱まっている。

 「これらのシミュレーションから導かれる疑問は、画家たちがこれらの後年の作品において、はたして見えるとおりに描くことを意図したのだろうかということです」と Marmor は語る。彼は、視覚のしくみと、画家の視力の両方について長く関心をもっている。「事実、この画家たちは、まったくの芸術的な理由からこのやり方で描いていたのではなかったのです。」

 Degas と Monet はいずれも印象派時代の設立者であり、眼病が視力に影響を及ぼす前は、彼らの芸術スタイルは良く形作られたものだった。しかし、目の問題が増すにつれ、時を同じくして彼らの絵はめだって抽象的になっていった。

 「彼らの後年の作品は妙に粗くけばけばしくなり、何年ものあいだ生み出してきた優れた作品からすっかり変わったようだ、と両画家の同時期の人々は記していた」と、Marmor は Archives of Ophthalmology 誌の12月号の「眼科学と芸術:モネの白内障とドガの網膜疾患のシミュレーション」というタイトルの論文で記した。

 Monet や Degas、Rembrandt、Mary Cassatt、Georgia O'Keefe といった芸術家たちが、みな眼球的な視力の衰えと向き合いながら、芸術的な視覚の高みに達したというのはよく知られたことである。Marmor がシミュレーションで Degas と Monet を選んで着目したのは、いずれの芸術家も、患っていた眼病が、歴史的記録や日記、病歴において良く文書化されたからである。Degas は、長いキャリアの終わり50年のあいだ、網膜疾患にかかり苦しんでいた。Monet は、色を見る能力に影響を及ぼす白内障にかかり、最終的に外科手術をうけて除去するまでの10年のあいだ、不平を述べていた。

 「これらのシミュレーションから、Degas と Monet が、視力が落ちるにつれ何に苦労していたかが良く分かります。」(Marmor)

 ハーバード大卒の物理学者でもある彼は、過去32年のあいだ、目の病気の科学に関する科学論文を200以上出してきており、その一方で同時に、有名な芸術家と眼病がどのように彼らの芸術作品に影響を及ぼしたかについて執筆を行っている。彼は、目からみたドガという書籍を記し、 James G. Ravin との共著で、芸術家の目という書籍を記した。

 「私は眼科医として、芸術の視覚的要素に関心をもっています」と Mormar は言う。彼の Stanford にある家は、錯覚を強調した現代芸術の作品で装飾されている。彼の家族はスタンフォード大学キャンター・アート・センターに作品を寄贈した。「私はまた、目の病気の兆候について患者たちと数年のあいだ会話をしてきました。これが私の科学と芸術の関心を自然に大きくしたのです。」

 ある美術館館長である Richard Kendall は、Marmor の Degas と Monet に関する書籍を「芸術の歴史的コミュニティに大きな価値があるもの」と呼んだ。

 「彼は19世紀フランスの芸術家の視覚の疑問に関する科学コミュニティからの、もっとも考え深い解説者の一人であると思います」と Kendall は言う。彼はマサチューセッツ州ウィリアムズタウンのスターリング・アンド・フランシーヌ・クラーク・アート・インスティテュートの総館長でもある。

 画家自身の目を通して見た絵画の描像をつくりだすために、Marmor は Adobe Photoshop ソフトウェアを用いた。医学の専門知識と歴史的な研究とにもとづいて、Degas と Monet の眼病がどの段階であるかを決定し、そこにブラー(ぼかし)とフィルタの設定を調整した。

 Degas は1860~1910年の間に視力の衰えを患った。目の病気が進行するにつれ、彼の絵はますますラフになっていった。Degas と似た網膜疾患をもつ数百人の患者を診たことから分かったのは、画像の陰影とコントラストが弱く定まるようになり、そして悪化が進むにつれブラーの度合いが増すということである。

 「Degas の友人は彼に『まだ絵を描いているのかい?』と尋ねたのかもしれません」と Marmor は12月の論文で記した。「1870年代の彼の作品は、細かな表情や入念な陰影、バレエ衣装やタオルの折りたたみの注意深さなど、きわめて精密に描かれていました。」1880年代と1890年代までに、同一の対象の陰影のラインと、顔、髪、服の細かさが次第に正確でなくなってきた。

 「1900年以降は、こうした影響がきわめて極端になり、多くの絵で、彼の慣習的なスタイルは見る影もなくなったのです。」

 Monet は視力の衰えにより増していくフラストレーションについて記しており、パレットのどこに色を置いたかをいかに覚えなければならなかったか述べている。1914年には彼は文通の中で、色がもはやかつてと同じ強さを持っていない、と記した。「赤が濁って見え始めたのです」と彼は記した。「私の絵がしだいに暗くなっていきました。」彼は自身の視力の代わりに、絵の具に貼ったラベルに頼らざるを得なくなった。

 「網膜疾患と同様、白内障も視力を不鮮明にします」と Marmor は語る。「しかし、光と色の使用をベースにしたスタイルをもつ Monet のような画家にとって、もっと重要なことは、色を見る能力にこうした病気が影響を及ぼしえることです。」

 「Monet は、暗い黄茶色の庭園を見て、キャンバスにどんな微妙な印象を作り上げるか苦心惨憺したに違いありません」と Marmor は12月の論文で述べた。「加齢にともないゆっくりと進行する白内障は、目のレンズの黄暗色化として現れてきます。これが色の認識や視覚の鋭敏さへの影響を主にもたらすのです。」

 1923年にしぶしぶ受けた白内障手術の後は、Monet はもともとの表現スタイルを取り戻した。白内障を患っていた10年間に描いた作品の大半を投げ捨てさえもした。

 「彼はただ色を見ることができなかったのです」と Marmor は語る。「これらのシミュレーションは、彼の色の感覚がどのように壊されていたかを示しています。『スタイルの変化だよ』と言う人もいます。いえ、私はそう思いません。」

 この画家たちが眼病のために直面した課題について理解することが、障害にもかかわらず彼らが成し遂げた業績を解明する助けとなると Marmor は語る。

 「芸術の世界の中には、優れた芸術家への歴史的・心理的影響を見るということに抵抗を示す人々がいます」と Marmor は述べる。「こうした視覚的変化が手法的・美的に何を意味するのか、私はオープンに議論をしています。オープンでないのは、画家たちが何を見ていたのかということです。これを無視することは、事実を無視することになるのです。」

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 リンク先記事の画像はおもしろいです。眼病のときの絵は、僕たちの目から見ると、やけに暗い色づかいで、筋の多い描き方のように見えるわけですが、実際の画家の目にはこれよりもずっと明るく、ぼやけた視界でキャンバスを見ていたというのですね。

 こんな状態でどんなふうに絵を描いていたんでしょう。やっぱり、ぼやけた視界を嫌に思いながらも、何とかしっかり見ようと苦心しながら描いていたのかな。そう思いながら見ていると、たとえばドガの女性の絵で、あえて表情が見えない後ろ向きのポーズを選択したのも、視界の変化を強く意識していたからかもしれないなと気付くことができます。

 モネの場合も、白内障が影響して、本来の色よりも暗い色づかいになっていたのかもしれないのですね。

 でも、ちょっと考えてみてください。もしモネの視界が通常よりも明るくなっていたのなら、彼の作品は暗くはならず、むしろ逆に明るくなるはずじゃないでしょうか? もし自分がモネだったらと想像してみてください。たとえば、健常者にすれば茶色にみえる物体も、モネにしてみればそれは薄茶色に見えるわけです。ですから、この色はこの絵の具の組み合わせだ、と考えて色を作ったところで、その結果は実際よりも明るくなるはずなのです。

 もちろん、作ったあとの色をよく見てみれば、あれ、どうも実物の見え方と違うぞ、とすぐに自分のまちがいに気が付くはずです。僕がモネだったら、もっと実物に近い、暗い茶色になるように色を作り直していることでしょう。でも、たとえそうやって調整をしたところで、実物以上にキャンバスの色が暗くなるなんてことは、決して起こるはずがないのです。白内障がモネの作風に影響を及ぼしたというのは、本当にそうなのでしょうか?

 これに対する僕の考えはこうです。つまり、モネにとっては、キャンバスの中に描かれた世界こそが全てであって、実際の対象がどんな色かなんてことは関心の外だったのでは。つまり、風景が目にどう映っているかよりも、自身の目とキャンバスとの間のコミュニケーションから湧き上がったイメージを最も重要視していたのだと思うのです。別の言い方をすれば、実物の色とキャンバスの色とを一致させる気持ちなんて、これぽっちも持っていなかった。これが彼の色づかいに対する説明だと僕は思います。

 モネの目は、キャンバスから何を感じ取っていたのでしょうか。

【参考リンク】
・(元論文)Ophthalmology and Art: Simulation of Monet's Cataracts and Degas' Retinal Disease

2007年04月30日

3次元の泡の構造が解明された


 Science NOW より。物理学に大きな発見があったようです。

 物理学には、セル構造に関する理論というものがあるそうです。セル構造と言われていちばんイメージがつきやすいのは石鹸の泡ですが、これにとどまらず、金属の微細構造や、生物の細胞組織など、いろんなジャンルでよく見られる構造です。

 さてこの分野では、コンピュータの世界でおなじみのフォン・ノイマンによって先駆的な研究が既になされています。彼によると、壁面はその平均曲率に比例するスピードで運動するのだそうです。毛細管現象というよく知られた現象がありますが、これも彼が導き出した関係式によってうまく記述することができます。そして彼は、平面(2次元)のセル構造の成長速度について厳密な関係式を導出しました。この関係は現在の粒成長理論の基礎となっているのだそうです。

 この関係式の3次元以上へ拡張するという問題は、それ以来の長らくの問題だったそうです。今回の記事は、この難問がついに解明されたという報告についてです。

Solution to Bubble Puzzle Pops Out
(飛び出た泡のパズルへの解決法)

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 重要な数学的洞察によって、2人の理論家らが50年来のパズルを、シャボン玉をピンで割るかのように簡単に解いてみせた。この新たな結果によって、研究者たちは、発泡体の泡が成長したり縮小したりするのを予測することが可能になる。この数学的関係は単に好奇心をそそるだけでなく、発泡状の物質を設計するエンジニアや、組織の構造を調べる生物学者、結晶の粒が固体中での並び方を探る物理学者たちを助けるものである。

 発泡体はシンプルに見えるが、研究者たちは泡が成長・縮小・合体――結晶粒粗大化として知られているプロセス――するにつれどのように変化するかを説明できていない。1952年に有名な数学者 John von Neumann が、ガラス板の間にはさんだシャボン玉のような2次元状発泡体のとある側面を解き明かした。泡が成長するか縮小するかは、その表面の曲率の総和に依存する。しかし John von Neumann は、曲率を足し上げるというこの厄介な問題を、泡の辺の数をかぞえるというずっとシンプルな作業へと減らした。大きさや形にかかわりなく、辺の数が5以下であれば2次元泡は縮小し、7以上であれば成長し、6であれば同じままでいることを彼は示した。半世紀の間、研究者たちは von Neumann の結果を3次元に拡張しようとも苦心してきた。

 今回この問題を解いたのは、ニュージャージー州プリンストンの高等研究所の数学者 Robert MacPherson と、ニューヨークシティのイェシーバ大学の理論材料の科学者 David Srolovitz である。この問題をこんなに難しくしているのは、泡の表面が、鞍やポテトチップスのように複雑に曲がり得ることが理由である。しかし MacPherson は、オイラー標数と呼ばれる数学の概念を用いて、この曲率を簡潔に記述できることに気が付いた。オイラー標数は、物体が2つにスライスされたときの、現れた表面の数から穴の個数を引いた値である。クリケットのボールなら1で、空洞のテニスボールなら0だ。「この洞察を得た後は、残りの問題を片付けるのは割とすぐにできました。」(Srolovitz)(訳注:中身の詰まった球なら1-0=1、空洞の球面なら0-0=0、ってことだと思います。)

 オイラー標数を用いて、MacPherson と Srolovitz はまた、あらゆる物体に対して形によらずに計算できる理論的な「平均幅」を考案した。3次元では泡の表面は異なる接線で交わる。この接線の長さの和がその平均幅の6倍よりも大きければ泡は成長し、小さければ縮小するということを彼らは発見した。このチームはこれを明日の Nature 誌に報告する。2次元においてはこの結果は von Neumann の公式に変形でき、4次元以上の仮説的な泡に対してもこの関係を拡張できることを彼らは示した。

 泡の成長を表面の数にむすびつけた経験的な関係は、すでに他の研究者らによって構築されていた。今回の正確な結果は、これらの経験則をよりしっかりした理論的基礎の上に置くのに有用だろうと、イリノイ州エバンストンのノースウエスタン大学の応用数学者 Sascha Higlenfeldt は述べる。「この公式に当てはめると、とてもよく満足しています」と彼は語る。「証拠に裏づけされたことなのです。」ブルーミントンのインディアナ大学の物理学者 James Glazier は、この研究を「美しい数学の1ピース」と述べている。しかし彼は、泡が消えたり合体するにつれて発泡体の構造がどのように発展するかは、さらに難しい問題であると記している。「結晶粒粗大化する発泡体を理解したと本当に言えるまでには、まだ何年にも及ぶ難しい作業があるのです。」(Glazier)

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 個人的には2段落目の内容も知らなかったので驚きで一杯。泡の構造なんて、ぱっと見ものすごく複雑で挙動を記述するなんて到底不可能な気がするんですが、辺の数という簡単な関係で書き下せるというのはとても魅力的だと思います。元論文の方はさっぱりついていけませんが。。

【参考リンク】
・(元論文)The von Neumann relation generalized to coarsening of three-dimensional microstructures

2007年05月06日

ロシア人は2つの青を見る


 New Scientist より。

 ロシア語の通訳者は、日本語の「青い」という言葉を通訳するとき、少し戸惑うのだそうです。日本語では「青い」は「青い」以外の何者でもありませんが、ロシア語では、いわゆる「青い」を表す単語というものが存在しないからです。かわりに、淡い青色(水色)を表す「голубой」という言葉と、濃い青色(紺色)を表す「синий」という言葉が存在します。なので、通訳者は一瞬、どっちに訳すかで考えを要するのだそうです。

 青を2種類に区別するというロシア語の特徴はユニークです。世界のほかの言語、とくに赤道付近の言語では、青の濃淡の区別どころか、青と緑の区別さえしないこともあるのです。(参考:「言語はいかにして色の名前を得るのか」) なぜロシア語では、青に対する解像度がこんなに細かいのでしょうか? 一つに、ロシア人の色の見え方が関係しているのかもしれません。これを調べるべく、英語とロシア語のネイティブスピーカーたちを集めて、青の見分けテストが行われました。

Russian speakers get the blues
(ロシア語のスピーカー達は青色の違いを判っている)

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 あなたの話す言語は、あなたが世界をどのように見るかに影響を及ぼしているかもしれない、と色の知覚についての新たな研究は示している。研究者たちの発見したところによると、ロシア語(「青」に対する単一の言葉をもたない)のネイティブスピーカーたちは、英語を話す人々と異なり、ライトブルーとダークブルーとを見分けることができた。

 ロシア語では、ライトブルー("goluboy" と発音される)と、ダークブルー("siniy" と発音される)とが強制的に区別される。米国 MIT の Jonathan Winawer らは、この言語的区別が色の知覚に影響を及ぼすのかどうか明らかにすることとした。

 このチームは、米国マサチューセッツのボストン地域から50名の人々を募った。そのおよそ半数はロシア語のネイティブスピーカーだった。

 ボランティアたちはスクリーン上の3個の青い正方形を見て、上の1個の正方形の色が、下の左右の正方形のどちらとマッチしているか、ボタンを押して示さなければならなかった(例の図を参照)。計20色の様々な色合いの青色が用いられた。

■ 真の青

 被験者らは2種のテストを終えた。一つのバージョンでは、3個の正方形は似た色合いをしており、もう一つのバージョンでは、正方形の1個が大きく異なった色をしていた。たとえば、ライトブルーとダークブルーが区別されるようになっていた。

 英語のスピーカーたちは、似た色合いの2個を見分ける場合と比べて、ダークブルーとライトブルーを見分ける場合で(反応の早さが)良くなるわけではなかった。

 これと比べて、ロシア語のスピーカーたちは、同じ色合いのカテゴリーでの青色を区別する場合よりも、ライトブルー(goluboy)とダークブルー(siniy)を区別する場合の方が10%早かった。

 「オブジェクティブタスクでの色の知覚における言語間の違いを示す証拠が与えられたのはこれが初めてです。」(Winawer)

 さらに、ロシア語のスピーカーたちが、色のテストを行っている間、8桁の数字を記憶しなければならないようにすると、似た色合いを区別する場合とダークブルーとライトブルーを区別する場合において見られていた違いはなくなった。

 数字を記憶するのに必要な集中力が、彼らの言語の知力に影響を及ぼしたためだろうと Winawer は考えている。ロシア語によってもたらされる、ライトブルーとダークブルーを識別するときの余力が、集中力を要することによって取り除かれてしまうのである。

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 ロシア語のネイティブスピーカーたちに見られていた優位な成績が、数字を覚えながらやることで見られなくなった、という点はおもしろいです。元記事によると、被験者には、テストの間、覚えた8桁の数字を頭の中で復唱するように、という指示がなされていたそうです。言語的な能力をかなり駆使する負荷が被験者たちに加えられていたんじゃないかなと想像できます。

 さらに、この記事には記されていませんが、数字を覚えるのとは別のシチュエーションでの実験も行われています。この第3の実験では、被験者に4×4のマス目のうちのランダムな4マスが黒く塗られた図を見せて、その位置をテストのあいだ記憶してもらうように指示しました。その結果は非常におもしろく、第1の実験の結果とほぼ同様の結果だった、すなわち、位置を覚えるという負荷は、ロシア人の成績に特に影響を及ぼさなかったというのです。これが本当かという検証はまだまだ余地はあると思いますが、ライトブルーとダークブルーの識別を言語が左右している、という説を指示する結果だと思います。

【参考リンク】
・(元論文)Russian blues reveal effects of language on color discrimination

2007年05月13日

文化はものの見方を左右するのか


 New Scientist より。

 以前にこのブログで、文化とものの見方の関連についての研究を紹介しました。(「米国人と中国人で違う、ものの見方」)この研究では、米国人と中国人の被験者の各々に様々な写真をみせたときの、視線の動きをトラッキングするということを行いました。この結果によると、中国人は米国人よりも写真の背景の部分により長い時間の視線を送り、手前の物体にあまり注意を払わなかったことが明らかになりました。

 今回の記事はそれとは異なる研究者によるものですが、流れの上ではその続きといえるかもしれません。はたしてものの見方は文化によって左右されるのか否かを調べるべく、米国人とアジア人の若齢者・高齢者に対して、脳スキャンを行いながら様々な写真を見せるということを行ったとのことです。

Can culture dictate the way we see?
(文化は私たちの見かたに影響を及ぼすのか)

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 文化は私たちの世界の見方を形づくる、と諺では言う。そしてそれは単なる諺以上のものであるようだ。新たな研究が示唆するところによると、文化は私たちの脳の視覚的情報の処理のやり方を形づくっているのかもしれない。

 研究者たちが発見したところによると、画像の前面における変化に対して、東アジアの年配者の脳は、西洋の年配者よりも強く反応するのだという。この違いは、アジアの諸文化での背景や文脈、像における重要性が増しているためとのことである。

 米国アーバナにあるイリノイ大学の Denise Park らは、地元およびシンガポールから37名の年配者と若年者のボランティアを募った。この研究での若年の参加者たちは平均22歳で、年配の参加者たちは平均67歳だった。

 被験者たちは各々、機能的磁気共鳴画像(fMRI)で脳をスキャンされた状態で、200枚の画像を見た。研究者たちは、画像の背面あるいは前面を変化させて、グループ間で反応に変化があるか調べた(元記事を参照)。

■ 年齢と文化

 予期していた通り、研究者らは年齢のグループ間で違いを見出した。いずれのグループも、年配の被験者は、若年の被験者と比べて、海馬――精神が特定の物体を背景に結びつける助けとなるとされる脳の領域――による反応が低かった。

 しかしこのチームはまた、東アジアの年配者らでは、西洋の年配者と比べて、物体の認識とかかわりのある脳の領域の反応が小さいということも発見した。この現象は、2グループが、背景は同じで前面の物体が変化する画像を見た際に起こった。この脳領域は外側後頭領域と呼ばれている。(訳注:"lateral occipital region" に対する適切な訳語が見つからなかったので外側後頭領域としました。おそらく正式な用語ではありません。)

 重要なことに、西洋とシンガポールの若年者では、この特殊な視覚処理の領域の反応に目立った違いは見出せなかった。脳がいかに像を認知するかは文化によって形作られる、というこの数十年間の考えをこれは支持しているとこのチームは述べている。

 「彼らの発見は説得力があり有望です」と述べるのは、米国マサチューセッツ州ボストンのハーバード・メディカル・スクールの神経学者 Moshe Bar である。「環境に依存した視覚の発達を示す例は他にもありますが、この例は、文化的な影響にフォーカスしており、非常に独創性があります。」

■ 脳の彫刻

 目の動きを追跡した以前の研究では、東アジア人は西洋人よりも、画像の背景によく注意を払うということが分かっていた、とこの研究者らは記している。

 Park は、彼女の発見は、年配のボランティアのみに着目した彼女の従来の脳スキャンの研究に沿っており、「文化が脳を彫り刻んでいることを示す初の研究」であると述べている。

 しかしながら New Scientist 誌がコンタクトをとった専門家の中には、この結果では、文化が米国とシンガポールの年配者間の脳の応答の違いに対する主たる理由であることを示せていないと言う者もいる。この相違を説明する、文化に関連した要素は他にもたくさんあると彼らは語る。

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 若年者で見られなかった見方の違いが、高齢者になると現れてくる、という点はおもしろいです。記事中の最後にあるとおり、はたしてこの原因はいったい何なのか? というのはまだまだ検証すべき点がありそうです。

 あと、東アジア人では手前の物体を変化させたときの脳の反応が小さかった、ということが書かれてあるけれど、ここから「手前の変化に対して、東アジア人は米国人ほどの注意を払わない」というような結論を引っぱり出すのは尚早かもしれません。反応が小さかったのは、それが「手前」における変化だったからなのか、それとも単に変化した面積が小さかったからなのか。今後この辺も調べてみて欲しいなあ。

【参考リンク】
・(元論文)Age and culture modulate object processing and object-scene binding in the ventral visual area
Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience 誌のサイトではまだ入手できないようなので、上記のラボラトリーのサイトから参照して下さい。)

2007年05月19日

孤独なジョギングと喫煙者の指紋


 今回はテクノロジー方面での琴線に触れたニュースのダイジェストです。

■ 孤独なジョギング愛好者についに仲間が見つかる
 Lonely joggers find company at last

 ABC News in Science より。
 ジョギングは楽しいですが、一緒に走るパートナーがいないとちょっと寂しいものです。そんなときは今回のシステムを使えば、たとえ一人でも、ヘッドセットで音声を遠隔の相手とやり取りしながら、あたかも相手が近くにいるかのようにジョギングを楽しむことができるそうです。しかも、ヘッドセットからの音声の出力には、相手が自分よりも速く走っていれば前方から音声が聴こえ、遅ければ後方から聴こえるという工夫がなされています。これで、相手との距離を感覚的につかみつつ、2人でペースを合わせながら走ることができます。
 システムの仕組みはちょっと複雑です。各ユーザは、GPSと3G携帯、小型コンピュータ、ヘッドセットの一式を身体に装着してジョギングをします。携帯はつねに相手とつながっており、ヘッドセットによるハンズフリーの状態になっています。小型コンピュータは、Bluetooth 経由でGPSから取得した自分のジョギング速度を、3Gのネットワークを通じて遠隔地のサーバにつたえ、反対に相手との相対的な位置関係をうけとります。こうして得た相手との位置関係をもとに、ヘッドセットの出力を調節し、相手との前後関係がわかるようにするのだそうです。(詳細は下記のリンク先をご参照ください。)
 ネットワークを通じて、他のジョギング仲間とデータを交換しながら走るってのはとても面白いですね。(おしゃべりしながら走りたいという気持ちは僕にはちょっと理解できませんが・・。)ダイエット等と同様、ついついサボりがちになるジョギングも、仲間がいると思うと継続しやすいかもしれませんね。たとえばSNSと連動して、今週の走った距離が自動的に友人に公開されるようにすれば、ああコイツ全然ジョギングしてないな、と思われるプレッシャーがあって面白いかもしれません。
 どうやら現状は、既存の装置をつなぎ合わせて作りましたって感じなんでしょうか、それなりの装置の個数と重量になっているようです。とはいえ、下記リンク先いわく、やがては iPod 並みの重さにしたい、ということが述べられているので、将来的な発展に期待大です。
(参考サイト:Jogging over a Distance


■ 新たな指紋分析は喫煙者を特定する
 New fingerprint analysis identifies smokers

 New Scientist より。
 英国の科学捜査班が、採取した指紋からその主が喫煙者がどうかを判定する方法を開発したそうです。さらに、喫煙の有無だけにとどまらず、コーヒー好きか否か、薬物を使用しているか否かといったことも分かってしまうとのことです。
 この方法の原理はわりとシンプルで、指紋に含まれる皮膚細胞や汗分泌、他の場所でくっついた物質などをもとにして判断材料となる物質の有無を調べます。たとえば喫煙の有無を調べるためには、コチニン(ニコチンから生じる物質)への抗体でコーティングした金のナノ粒子を、蛍光性のタンパク質等でマーキングします。この溶液を指紋に塗布して光をあててやると、指紋の主が喫煙者のときのみ、蛍光部分が反応して見えるのだそうです。この効果は、被験者が手を洗った10分後に調べた場合にも見られたとのことです。
 この結果を利用して、犯罪捜査の際に生活習慣から容疑者をしぼりこむといったことが可能になることが期待できます。そのほかにも、スポーツ選手のドーピングの検査などにも応用できるかもしれない、と記事では述べられています。
(元論文:Intelligent Fingerprinting: Simultaneous Identification of Drug Metabolites and Individuals by Using Antibody-Functionalized Nanoparticles

2007年05月27日

同乗者がいると交通事故のリスクは高くなる


 Sciense NOW より。

 交通事故でけがをして病院に運ばれたドライバーを対象にインタビュー調査を行ったところ、同乗者がいるときの事故を起こすリスクは、ドライバーだけのときよりもずっと高くなることが明らかになったそうです。

 運転中のドライバーの行動については、日本でも、運転中の携帯電話が処罰対象となるなど、たいへん多くの関心を集めている話題です。その後も、ハンズフリーも実は安全ではないという研究結果が出されるなど、本当のところはなお明らかになっていない状況です。

 こういう研究は、室内シミュレータだったり、あるいは実際に事故に遭った人へ聞き取りとかいった方法で調査がなされることが多いです。ですが、今回の調査は、事故に遭ったドライバーへの聞き取りだけでなく、事故と同じ曜日の同じ時刻に、現場付近を通る(事故に遭ってない)ドライバーにも併せて聞き取りを行い、両者の結果を比較したそうです。

Shut Up! I'm Driving
(黙ってて! 運転中なの)

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 道路の危険物リストに、らしくない項目を付け加えよう。携帯電話、SUV(スポーツ多目的車)、通行妨害をする車はもちろん危険である――が、相乗り専用車線にも目を見張るようにしよう。新たな研究によると、車に同乗者のいるドライバーは、事故に遭うリスクが60%高くなるということが示された。同乗者が2人以上だと可能性は2倍である。(訳注:米国の一部では、環境保護の観点から、複数人の相乗りでの通勤を推奨しています。高速道路にも相乗り車専用の車線が設けられているそうです。)

 運転シミュレーションと実験室での研究によると、携帯電話で話すことやテキストメッセージを行うことは、ドライバーの衝突のリスクを高めることが示されている。しかし実際に路上で何が起きているのかを調べた研究はわずかしかない。以前の研究では、携帯電話を使っているドライバーは、そうでない人々よりも事故に遭う割合が4倍高いことが分かっていた。オーストラリアのシドニー大学の医療疫学者 Suzanne McEvoy は、車に同乗者がいる場合と比べるとどうなるのか考えていた。

 McEvoy と同僚らは、地元の病院に行き、緊急治療室に運ばれた事故犠牲者にインタビューをした。致死的でない怪我を自動車事故で負った274名の人々からデータを集め、何人の同乗者が乗っていたか、何らかの形で同乗者とやりとりをしていたかどうかを尋ねた。彼女らはこれらのボランティアたちを、事故現場の最寄のガソリンスタンドで同曜日同時刻に募った1096名のドライバー(対照群の役割をもつ)と比較した。この研究者らは携帯電話の記録も手に入れ、これにより事故の時刻の付近に通話がなされていたかを確認した。

 このチームが発見したところによると、車に少なくとも1人の同乗者がいると、怪我を伴う事故に遭うドライバーのリスクは60%増加していた。これは濡れた道路で起きるのと同じリスク増加である。怪我を負ったドライバーのおおよそ3分の1は、事故のとき、何らかの方法で同乗者と話したりやりとりをしていたと報告した。2名以上の同乗者がいると事故のリスクは2倍になった。また研究者らが発見したところによると、予期の通り、携帯電話で話をすることは怪我を伴う事故に遭うリスクを4倍に高めていた。同乗者は少なくとも交通状況を分かっており、状況が危なくなると話をやめることができるため、電話で話すことはより危険なのだろうと McEvoy は推測する。現実生活の同じ状況での比較がなされたというのはこれが初めてである。この著者らは今日、Accident Analysis and Prevention 誌に報告する。

 同乗者がつねに問題であるわけではない、と指摘するのは、ソルトレークシティのユタ大学の認知心理学者 Frank Drews である。実験室での研究では、同乗者が交通に注意を払うことでドライバーが事故を避ける助けとなっていることを Drews は発見していた。この違いを調べるには今回の研究は小さすぎるため、ドライバーに対する政策の決定を提案する前に、さらなる研究が必要であろうと Drews は言う。

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 実際の事故現場まで行って他のドライバーにアンケートをとるというのは大変手間のかかった調査ですね。その熱意に頭が下がります。

 同乗者の存在が危険をアップさせるかどうかというのは、同乗者の性質に大きく依存する気がしますね。日常的に車の運転をしている人だったら、ドライバーと同じだけの注意を払えそうですが、ほとんど運転をしない人なら、周りの状況などお構いなしにドライバーに話しかけたりすると思います。

【参考リンク】
・(元論文)The prevalence of, and factors associated with, serious crashes involving a distracting activity
Hotwired Japan運転中の携帯電話、ハンズフリーでも危険大

2007年06月03日

月から地球を監視する


 New Scientist より。

 アポロ15号といえば、1971年7月に行われた、通産4回目になる月面着陸のミッションです。有人により行われ、初めて月面車が使用された他、さまざまな重要な科学実験が行われました。

 このような成功を収めたミッションだったのですが、とはいえ全ての実験が計画通りに実施されたわけではありません。月の熱流の測定のための穴を月面に掘る作業はたいへん難航し、結局、温度計を穴の内部に設置する代わりに、月面近くに置かざるを得なくなりました。

 さて、こうした経緯で設置された温度計ですが、今回、この観測データをつかって、地球から月にやってくる熱の流れを調べようというアイデアが出されました。そして、3年分のデータによれば、地球からの熱の放射は観測期間のあいだ実際に増加していることが明らかになりました。今後、月での観測が、地球の気候の変動を調べる助けとなるのかもしれません。

Moon might be best place to study Earth's climate
(月は地球の気候を調べるのにベストの場所かもしれない)

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 地球の気候を調べるのにベストの場所はどこだろうか。ある米国の研究者によると、それは月であるという。

 ウィスコンシン大学の Shoapeng Huang は、1971年にアポロ15号のミッションで月面に置かれた機器による温度の記録を手に入れた。

 「アポロ15号のミッションの主な科学的目的の一つは、月の土壌に3メートルのボアホールを2つ掘り、特別に設計されたプローブを挿入することでした」と彼は説明する。「重要なのは、温度が深さとともにどのように変化するかを見ることでした。月の内部から外へ向かう熱の流れを計算するためです。」

 しかし月の表面に穴を掘ることは予測よりも難しく、いくつかの温度計は月面に置かれたままとなった。その結果、NASA は、月の表面温度の変化を示す41か月分のデータを収集した。

■ 反射する地球

 Huang は、1972年中頃から1975年末にわたるこのデータを手に入れた。太陽からやってくる放射の影響を受ける昼間の温度は、それほど興味深いものではないと彼は言う。しかし月の夜間の温度は、地球からの放射に左右されているのである。そして、温室ガスのレベルが高くなり、大気がより多くの太陽のエネルギーを保つにつれ、地球の放射は減少するはずである。

 「したがって、もし地球が宇宙へ反射するエネルギーが少なくなれば、月にはそのことが分かるはずなのです。」(Huang)

 NASA の記録によると、1972年と1975年の間で夜間の温度にわずかな上昇が見られていると Huang は言う。これはこの時期に地上の気温低下をもたらした「地球薄暮化(グローバル・ディミング)」による結果だろうと彼は考えている。薄暮化は、光を反射する粒子が大気中で増えることによって引き起こされてきたと考えられている。

 これらの結果にもとづいて、Huang は、地球からの放射を監視するべく、機器を月に送りさらなる調査を見たいと思っている。月は地球の安定した自然の衛星であり、大気、生物圏、水といった、地球からの放射に影響を及ぼすものを持たない、と彼は指摘している。

■ 傾いた軌道

 他の人々はそれほど確信していない。「地球からの光」を測定することは新しい研究の一線ではない。地球の放射の変化に関するデータは、温室ガスが太陽からのエネルギーをどの程度とらえているのかを精確に理解するためのカギである。

 その中でも NASA は既に、CERES と呼ばれる人工衛星の機器を用いて、地球からの光を監視しようとしている。

 「実際のところ、月は、地球の変化する放射シグナルを監視するのに非常に悪い場所なのです」と、NASA の Bruce Wielicki は New Scientist 誌に述べた。CERES の実験を行っている Wielicki は、最近、コンピュータモデルを用いて、月をベースとした地球からの光をシミュレートする研究を行った。(Geophysical Research Letters 誌。DOI:10.1029/2006GL028196

 「このシミュレーションを行い、地球からの光を他の(放射の)データの集合と比較すれば、なぜ月が良くない場所なのかはさらに明らかです」と Wielicki は語る。

 彼らは、地球に対する月の軌道が傾いていることによって、月面の機器が南北極からの良好な測定を得るのを妨げられていることに気付いた。さらに、月での1日は地球での28日間つづく。このミスマッチによって、地球の季節によって引き起こされる放射の変動の解釈が難しくなる。

 Wielicki はまた、月に機器を置くことは、地球の低軌道上に打ち上げるよりもずっと高価であるとも指摘する。

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 もともとはトラブルによって設置された計測器が、意図せぬ別の立場の知見を与えてくれるというのは、怪我の功名という感じがしてなかなか面白いです。とはいえ、本記事を読むかぎりでは、人工衛星で測定するほうがずっと利点があるようで、現時点では改めて観測機を月に向かわせる意義は薄そうです。このあたり、元論文を斜め読みした限りではとくに有効な反論は見つけられず。

 とはいえ今回の報告は予備研究の位置づけとのことですので、さらなる研究が進めば、人工衛星の観測結果と互いに補い合うような成果が今後見出されるかもしれません。

【参考リンク】
・(元論文)Surface Temperatures at the Nearside of the Moon as a Record of the Radiation Budget of Earth’s Climate System

2007年06月09日

ダイエットの秘訣は食後の運動?


 BBC NEWS より。

 ダイエットのためには運動をすることが大事だと普通は言われますが、なかなか運動をしない人の中には、いろいろと言い訳をつけて逃れようとする人がいます。その言い訳の一つが、「運動すると疲れてそれだけたくさん食べようとしちゃうから結局意味がないんだよ」というもの。ですが今回の研究によると、食後1時間後の運動については、そんな言い訳がもはや通用しそうにないことが明らかになりました。

'Exercise after eating' diet tip
(ダイエットのヒントは「食後の運動」)

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 英国の科学者らによると、食後のエクササイズは、食欲を抑えるホルモンを高め、体重の減少を促進する助けとなるかもしれないという。

 これらのホルモンのおかげで、活動した人々は、エクササイズ直後に空腹を感じなくなり、次の食事までこの効果が持続することを実験は示唆している。

 食事の量が多いときでも、全体的に見れば運動をした人の得るカロリーは少なくなる。燃焼する量が多くなるためだ。

 サリー大学とインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究は、Endocrinology 誌に掲載される。

 12名のボランティアたちは、同一の朝食を与えられた。

 1時間後、半分はエクササイズバイクで1時間トレーニングを行い、もう半分は静かに座っていた。

 両グループはさらに1時間そのままにされ、その後、好きなだけものを食べることを許された。

■ エクササイズのガイドライン

 驚くことではないが、エクササイズを行った人々は静かに座っていた人々よりも、197キロカロリーに比べて492キロカロリーと、多くのカロリーを燃焼していた。

そして後で食事の機会を与えられると、エクササイズをした人々の食べた量は、(そうでない人々の)762キロカロリーに比べ、913キロカロリーと、より多かった。

 しかしながら、エクササイズで燃焼したエネルギー量を考慮に入れると、運動をした人々は、全体で見れば取ったカロリーは少なかった。活動しなかったグループの565キロカロリーと比べ421キロカロリーである。

 そして、PYY、GLP-1、PP と呼ばれるホルモン(胃が一杯になるとそのことを脳に伝える)は、エクササイズの最中および直後で増していた。

 このときボランティアたちは空腹を感じなかったと述べてもいる。

 研究者 Denise Robertson 博士はこう言う。「以前は、エクササイズはエネルギーを燃焼するが、運動後で続けて多く食べてしまうのではと考えられていました。これによってエクササイズの体重減の効果の可能性が打ち消されてしまうのではと思われていたのです。」

 「しかし私たちの研究が示すのは、エクササイズは人々の食欲を変えて体重を減らす助けとなり、健康的でバランスのとれた生活習慣の一部として、さらなる体重増加を防ぎ得るということです。」

 専門家たちは、少なくとも30分の身体活動を週5日以上行うように勧めている。

■ 「重要な寄与」

 慈善団体 Weight Concern の医療ディレクター Ian Campbell は語る。「これは興味深い研究です。患者たちはしばしば、エクササイズ後は空腹感が増し多く食べていると報告しているのです。」

 「この研究が示すのは、全体的なカロリー摂取は多くなるが、行われたエクササイズのため、エネルギーの総バランスで見れば総結果は減少しているということです。」

 「ダイエットは決して易しくありません。あらゆる体重管理プログラムにとって、身体活動を多くすることは、カロリーを単に増やすだけでなく、ここで見たように私たちの食欲をコントロールするために重要な一部なのです。」

 肥満に関心を持つ開業医の John McAvoy 博士は、この研究は「エネルギーバランスの複雑な仕組みを理解することへの重要な寄与である」と述べた。

 「この段階では、一般の人々よりも製薬産業にとっての方がずっと関心があるでしょう。というのもただ、食後すぐのエクササイズは、自分の喉に指をやるようなものと大半の人々が思っているからです。」

 「体重コントロールのためのエクササイズは、長い期間にわたって続けられるものであるべきであり、このためには楽しむことが重要なファクターなのです。」

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 今回の実験は食後1時間後に運動をさせたようですが、もちろんそんなときに運動をやれば、胃のあたりに集中している血液が身体全体に回ってしまうことになるので、消化が悪くなった状態になるんじゃないかな、と予想するわけです。食後2時間後、3時間後などに食事をとった場合はどうなるのか、ぜひ知りたいと思うところです。あとさらに言えば、運動するしないで生じた食欲の違いは、1時間以上の時間が経つとどのように変わっていくかも気になるところです。もちろん今回の実験のように、食事と食事の間が3時間しかないというのは僕たちの日常生活とはかなり異なるものですので、今後、こういう情報が整理されて、エクササイズにもっとも適した時間は(食事のときから見て)いつか、ということが分かればいいなあと思います。

【参考リンク】
・(元論文)Effects of exercise on gut peptides, energy intake and appetite

2007年06月23日

古代ローマ人はファストフードが好きだった


 ABC News in Science より。

 イタリアのポンペイ遺跡といえば、火山の噴火のために灰に飲まれ、当時の生活していた人々の様子がそのまま残された場所です。

 さて、今回出版された書籍によると、この遺跡から見つかった食器の配置から、当時の民衆の食事のスタイルが分かってきたそうです。それによると当時の人々は、現代の私たちのように、テーブルを皆で囲んで食事していたというよりも、むしろファストフード店のように、テイクアウトした食べ物を家や道で食べていたかもしれないのだそうです。

Ancient Romans preferred fast food
(古代ローマ人はファストフードが好きだった)

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 英国の考古学者によると、平均的な古代ローマ人は、退廃的かつ儀式的にワインと食事をとっていたエリートらと異なり、あわただしくものを食べていたという。

 レスター大学の Penelope Allison 博士は、ポンペイ近隣の地域全体の発掘現場を詳細に述べた新著において、発見したことを記している。

 ポンペイは、西暦79年のヴェスヴィオ火山の噴火後の時の流れが止まった都市である。ローマ帝国の中心に近いことから、歴史家たちはしばしば、ポンペイからの知見を、特にローマなどのイタリアの他地域に拡張している。

 「今日の西洋の世界の多くでは、家族のメンバーは座って共に食事をするべきという一般的な考えが存在します。そうしなければ、それは家族組織の破綻を意味するかもしれません。しかしこうした考えは古代ローマに発祥するものではなかったのです」と Allison は語る。

 彼女の主張は、発掘現場で彼女が見付けたこと、見付けなかったことに基づいている。

 Allison は、ポンペイの住居において、食卓用食器類や、フォーマルな食事室や台所が異様に少ないことに気付いた。そのかわりに寝室などのあちこちで、皿がぽつんとあるのが見つかった。

 「今日の子供たちが、テレビを見たりコンピュータで遊んだりする前に、食べ物の皿を自分の部屋に持っていくのと同じように、ローマの若者は、おそらくは他の活動のための特定のエリアに、食べ物を持ち運んでいたのでしょう。」子供たちもまた、子守や世話の役の奴隷と一緒に食事をとっていたのかもしれない、と彼女は語る。

 彼女が住居で発見したのは、複数の小さなバーベキュー型の火室だった。「バーベキューまたはフォンデュ形式の食事」がしばしばなされていたことを示唆している。

 Allison の書籍は「The Insula of the Menander at Pompeii Volume III(ポンペイのメナンダーの島 第3巻)」という題でオックスフォード大学出版から発行される。

■ 「慎重に調べられている」

 米国バッファロー大学の教授 Stephen Dyson は、古代ローマの世界的権威の一人であり、米国考古学協会(訳注:Archaeological Institute of America を直訳)の前会長である。

 Dyson はこの新著を、「慎重に調べられて」おり、ポンペイとローマについての彼自身の研究は、Allison の結論を支持していると述べている。

 「私たちも、ポンペイや古代ローマの他地域に、多くのファストフードレストランを発見しました」と彼は言う。

 Dyson はこれらの場所を、「バーガーキングとブリティッシュパブ、またはスパニッシュタパスバー」の間にある交差点に例えている。

 通りに開けている各店舗は、容器がある大きなカウンターが真ん中にあり、ここから食べ物や飲み物が出されていた。

 「大半のローマ人は、集合住宅や、いくぶん制限のある空間で生活しており、そこにはコンロなどの調理装置の痕跡はあまりなかったのです」と彼は語る。

 「ファストフード」レストランは、手ごろな選択誌がそろっているために現代の都市住人がしばしば外食するのと同じように、量があるため一般的なものになっていったと Dyson は考えている。

 さらに、ポンペイやローマの住民の多くは、職人や店員、織工などとして働いており、これらの店舗を支えるのに十分なお金を稼いでいた。

 家でも通りでも、食べ物を手に持って歩くというのは、イタリア人の考え方のエネルギーや柔軟性にマッチしているようでもある。

 「今日のイタリアの活気ある通りやバーの場面や、角にベッドの骨組みが積まれた住居の多機能デザイン、驚くべき場所にある台所は、素晴らしくもちょっと混沌とした初期ローマ人の生活の一面を映し出しているのです」と彼は言う。

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 当時の住居のつくりをあまり知らないので推測ですが、今のように、リビングやダイニングのように用途ごとに部屋が存在してたのではなく、もっと単純に、共用部とプライベートな部分、と大雑把な区別しかしてなかったのかもしれませんね。共用部にあるオーブンで食事を作って、それを個人の部屋まで運んで食べると。一つの部屋で着替えて食べて寝て、という生活だったのかなあ。

 考古学の研究の記事を読んでいて楽しいと感じるのは、当時のあまりに人間臭い生活感が感じ取れたときじゃないかなと思います。そういう意味で、今回の記事は僕たちにいろいろな想像をさせてくれて面白いです。

【参考リンク】
・(書籍)Insula of the Menander at Pompeii
 た、高い・・・

2007年07月01日

トカゲの母は子を飾りつける


 Scienctific American より、とあるトカゲのユニークな習性についてです。

 ワキモンユタ、という名前のトカゲがいます。英名は side-blotched lizard、その名の通り、身体の側面に模様をつけたトカゲです。

 このトカゲ、喉の色にオレンジ、黄、青の3種類が存在し、色に応じて習性が異なるという、たいへん変わった特徴をもつ生物です。さて、今回発表された研究によると、このトカゲの母親は、周りの環境にどんな色のトカゲが多く住むかに応じて、卵に投与するホルモンの量を調節しているのかもしれないことが明らかになりました。

Lizard Moms "Dress Their Kids for Success"--and Survival
(母トカゲは、成功し生存するために子たちを飾りつける)

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 すべての良き母と同じように、トカゲの母親も子供のために最善のことをしようとする。すなわち、メスのワキモンユタは、卵にエストラジオールというホルモンを追加投与し、新生児たちの模様を変え、生後の生存確率を高めていることが分かったのである。新生児たちは周囲に溶け込み、潜在的な捕食者を避けやすくなるため、こうした「成功のための飾りつけ」という戦略は、子孫たちが長生きする助けとなっていると研究者らは語る。

 しかしトカゲの母親は、ホルモンたっぷりの卵をどんな場合にも出すのではない。Ecology Letters 誌に掲載された新たな研究によると、ホルモンを出すかどうかは、環境や、近隣のトカゲの喉の色に応じて決まるのである。

 ワキモンユタは、おもに、テキサス州、ワシントン州、カリフォルニア州といった、北アメリカ西部の乾燥した地域に住む。ワキモンユタの喉は、オレンジ色・黄色・青色のいずれかをしており、水平・垂直いずれかの縞模様を背中にもっている(水平の縞は生態学者にはバーと呼ばれている)。オスでは、喉の色は行動に関係している。この研究の主著者である Lesley Lancaster によると、オレンジ色の喉のオスは攻撃的で、時間のほとんどをケンカをして過ごしているという。黄色の喉をした仲間は、よく背の高い草に隠れて、オレンジのオスがケンカしたり食べ物を探している隙に、こっそりメスを奪っていく。その一方で、喉が青色いトカゲたちは、たいてい地味で、こそこそした黄色い喉のオスたちに目を光らせている。

 「捕食者にどう見えるかは社会的環境によって決定されるのでしょう」とサンタクルーズのカリフォルニア大学の生態学の学部生である Lancaster は述べる。彼の発見は、母親のホルモンが子たちの外見の基本面を変えることが明らかになった初の公知例である。

 オレンジ色と黄色の喉をしたオスたちは、岩や草のある様々な場所をうろつくため、背中の目印は、自身をカモフラージュして、捕食者のディナーとなってしまうのを避ける助けとなる。たとえば、オレンジ色の喉をしたトカゲたちは、背中にある垂直方向のストライプでもって、平らな場所を逃げる際に捕食者を混乱させる。また黄色の喉のトカゲたちは、バー(訳注:水平方向の縞模様)によって、草むらに溶け込むことができる。

 母トカゲが卵の卵黄にたくさんのエストラジオールを出すことによって、黄色の子たちにバーがつき、オレンジ色の子たちにストライプがつく。もし母トカゲが黄色い喉のオスたちの中で生活しているのであれば、卵にエストラジオールを追加投与することで、黄色の子たちは、オスメス問わず背中に鮮やかなバーができる。もしオレンジ色のトカゲが多く住む地域にいるのなら、エストラジオールが増えることで、オレンジ色のオスの子に鋭いストライプができる。このホルモンがオスおよびメスの子にもたらす影響は、エストラジオールと、トカゲの性別と喉の色を決定する遺伝子との相互作用と関係するのである。

 いつ母親がエストラジオールを追加投与するのかは分かってはいないものの、ワキモンユタは人間よりも優れた色の識別能力を持っている、と科学者たちは記している。したがって、周りのトカゲの喉の色を区別するのはたやすい。また、母親のエストロゲンのレベルがある特定の状況下で高くなるのかどうか、それと、何かが卵に入り込むのか、それとも環境が自動的に卵をホルモンで包むようにさせるのか、は研究者たちには分かっていない。

 「それは受動的、あるいは能動的なメカニズムでしょう」と Lancaster は語る。

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 そもそもこのワキモンユタというトカゲ自体を全く知らなかったので少し調べてみたのですが、こいつ、かなり面白い生き物です。記事にもあるとおり、このトカゲには、オレンジ、黄、青の3種類が存在し、それぞれ異なったストラテジーによって生存を試みるわけなのですが、3つのストラテジーがちょうどジャンケンのグーチョキパーのように機能しているのです。オレンジのトカゲは攻撃的で、弱々しい青のトカゲを蹴散らし、メスのたくさんいる領土をゲットします。しかし一方で、黄のトカゲは、メスの気をひくのがうまく、うまく隙をついて、オレンジのゲットした土地にいるメスと交尾してしまいます。しかしさらにその一方で、青のトカゲは一匹のメスだけを守り通そうとする習性なので、黄のトカゲはメスを奪うことができません。荒くれ者のオレンジ、ナンパ者の黄、一途者な青が、バランスをとって生活してるんですね。(From::The Mathematical Association of America::Mating Games and Lizards

 たしかに、荒くれ者やナンパ者がたくさんいる地域では、それだけうろつき回ってメス探しをする必要性が高いんでしょうね。子ども自身が努力するだけじゃなく、あたかもお母さんが手助けをするかのように卵を産んでいるのかもしれない、というのはおもしろい考えです。

【参考リンク】
・(元論文)Adaptive social and maternal induction of antipredator dorsal patterns in a lizard with alternative social strategies

2007年07月08日

情けは人とネズミのためならず


 Science NOW より。

 このブログではネズミを対象にした実験の紹介を割と頻繁にしてきていますが(ケンカ遊びは社会的能力を高めるネズミは無知の知を知っている)、今回もまたネズミについてです。

 「情けは人のためならず」ということわざがあります。情けを人にかけておけば、直接的には利益がなくとも、やがてめぐりめぐって自分によい報いが来る、といった意味です。さて、今回報告された研究によると、人間だけでなくネズミにおいても、これと似た行動が見られることが明らかになりました。

 この実験では、網で仕切られた2つの部屋のそれぞれにネズミが入れられました。一方の部屋にはレバーがあり、このレバーが倒されると、もう一方の部屋のネズミにエサが与えられるようになっています。さて、この仕組みを使って実験を行ったところ、誰かにレバーを倒してもらった(親切にされた)経験を持つネズミは、自分がレバーを倒す側になると、たとえ相手が見知らぬネズミだったとしても、やはり親切な行いをする傾向があることが分かったそうです。

Lending an Anonymous Paw
(匿名の手を貸す)

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 助けの手を与えられたネズミは、他のネズミを助ける傾向にある――完全に見知らぬ相手であってもだ。このげっ歯類の利他的行為を明らかにした新たな研究によると、この動物の社会生活は、私たちが思うよりも豊かなのかもしれないと示唆している。

 ネズミなど多くの動物は、「君が僕を助けてくれるなら僕は君を助けるよ」と言うような直接的互酬性を示す。しかし、一般的互酬性という、個々がここ最近にどのように扱われたかを記憶して、それを見知らぬ他の相手に適用するという行動については、人間的特性に独自のものであると考えられていた、とスイスのローザンヌ大学の行動生態学者 Claudia Rutte は説明する。しかしながら、以前の研究では、他の動物の一般的互酬性がきちんと調べられたことはなかったと彼女は述べる。

 ネズミがこの能力を持つのかどうかを明らかにするため、スイスのベルン大学の Rutte と Michael Taborsky は、ネズミをしつけて、レバーを引くことによって、檻の金網の壁の反対側にいるもう一方のネズミに、ご褒美のオート麦フレークが与えられることを教えた。それからこのネズミたちのいくらかは、受け取り側に置かれ、助けをするようしつけられたネズミたち(3匹)、もしくはしつけを受けず、レバーを引いて食べ物を出さないネズミのいずれかとペアを組まされた。こうした親切なネズミあるいはあまり親切でないネズミとともに数日間生活した後、これらのテスト用ネズミは、新たなパートナーと組まされた上で、檻のレバーの側へ戻された。そして、パートナーのために食べ物を出すかどうかを観察された。食べ物を出してくれるネズミと一緒だったネズミは、そうでないネズミと一緒だったネズミよりも、頻繁に新たなパートナーを助けた。このことを研究者たちは Public Library of Science Biology 誌のオンライン版の今週号にて報告する。Rutte のチームはまた、テスト用ネズミが、以前に自分にオート麦フレークを出してくれたネズミとペアになると、より多く食べ物のレバーを引くことも発見した――このことは直接的互酬性を示している。ペアのネズミのいない空の檻だと、ネズミは食べ物のレバーを引くことはほとんどなかった。

 ネズミは、200匹いれば、誰が助けをしてくれるネズミで誰がそうでないかを覚えておくことは難しい。他のネズミを万遍なく助けようとすることは戦略として意味がある、と Rutte は語る。「相手を認識できないときに協力を発展させるための仕組みなのかもしれません。」ネズミは他の個体を記憶するのがきわめて悪い、と彼女は記している。

 「われわれの知る協力行動を説明する新たな方法です」と語るのは、ドイツのライプチヒのマックスプランク研究所の比較心理学者 Jeff Stevens である。こうした助力行為は友達を覚えておく必要を避けていると彼は付け加える。英国ケンブリッジ大学で比較認知を学ぶ Nicola Clayton は、協力行為の進化を理解する助けとするため、社会的および非社会的動物において一般的互酬性の普及を調べることを示唆している。

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 ことわざのような因果関係を、ネズミたちが実際に念頭において助けをしたのかどうかは定かではありませんが、すくなくとも直接的な利益だけを求めているのではない、という点は面白いです。

 見知らぬ相手への普遍的な利他行為を生み出すのは何なのでしょうね? 記事にあるような、他の個体を覚えきれないという点も一つでしょうが、それだけでは十分ではないでしょう。いろいろな動物での結果が比較できるようになると面白いなあと思います。

【参考リンク】
・(元論文)Generalized Reciprocity in Rats

2007年07月16日

シリアルで記憶力を高める


 ABC News in Science より。本記事より試しに記事の全文翻訳をやめてみます。

■ 砂糖分の多い朝食シリアルは記憶力を高める
 Sugary breakfast cereals may boost memory

 GI値の高い朝食シリアルを食べると、短時間ではあるものの、記憶力のテストでよい成績を出すようになることが実験で明らかになりました。

 GIというのは血糖上昇反応度とも呼ばれる指数で、一時期、低インシュリンダイエットがブームになったときに、この名前がひろく知られるようになりました。ざっくり言うと、炭水化物が身体のなかで吸収されるスピードを表す指標です。この値が高い食物だと、食後に血糖値を上昇させやすくなるということです。

 さて、西オーストラリアのポスドク Michael Smith によるこの調査では、14~17歳の37名の被験者に対して、トウモロコシブラン(小麦のもみ殻)のいずれかを原料とするシリアルを食べてもらったそうです。前者の方がより高いGIをもつ食べ物です。食事の後で、被験者たちは、単語の記憶力テストを受けました。20個の道具や野菜の名前のリストを記憶するというテストです。

 テストの結果はどうだったか。GIの高いトウモロコシのシリアルを食べた被験者の方が、平均して1.52個多くの答えを覚えておくことができたそうです。

 しかし、以前に行われた同様の実験では、これとは逆の結果が出ています。論文へのリンクがないため詳細は不明ですたが、こちらでは、反対に低GIのシリアルを食べたときの方が良い成績を出したそうです。Smith はこの理由付けとして、今回の実験は、被験者に手を動かしながら記憶テストをやってもらったのが違いとなったのではと述べています。こうした動作は、被験者の注意力をいくらか分散させるため、以前よりも現実的な状況をシミュレートできる、と彼は述べています。

 ただ、今回の結果には、他の研究者からいろいろと疑問が出ています。今回と以前とで用いたシリアルは同じ製品なのか? 本当にブランのシリアルの方が低GIなのか? ・・・どうやら、今回の結果からのみでは、朝食にこのシリアルを食べるといい、と断言するのはまだ難しそうです。とはいえ、傾向としては面白い結果が出ているので、さらに情報が整理されれば、たとえば一日の仕事の種類にあわせて朝食を変えてみるなどの管理ができると良いかもしれません。

【参考リンク】
・(元論文)今月開催の世界神経科学会議発表される予定で、論文はどうやらまだのようです。

2007年07月21日

食事中に薬を飲んでお金を節約?


 New Scientist より。

■ 食べ物と一緒に薬を飲むとコストを減らせるかもしれない
 Taking drugs with food may take a bite out of costs

 ふつう、薬を飲むときは、処方箋で決められた量と時間を正しく守って飲まないといけません。言うまでも無いですが、これを守らないと、予想もしない悪影響を受けてしまうことがあります。例えば、「空腹中に飲むこと」と指示がある薬を誤って満腹中に飲んでしまった場合、効き目が出すぎてしまう、といった悪影響の出る可能性があります。

 ですが、ここで見方を変えてみると、あえて満腹時を選んで飲むことにすれば、本来よりも少ない量で必要な効き目が得られるんじゃないか、という考えが出てきます。そしてもしそれができれば、薬にかかるお金をいくらか節約できるんじゃないか、と期待できるのです。・・・と、反射的にいぶかしく思ってしまうアイデアですが、これを本当に調査している人たちがいるようなのです。

 なお、先に言っておきますが、この記事およびリンク先の記事は、決してこうした試みを皆さんに勧めているわけはありませんので、ご注意下さい。

 今回の対象である Lapatinib という薬は、乳がんに効果がある薬で、すでに米国等では市場に出回っています。ですが非常に高価で、1ヶ月に2900ドルものお金がかかってしまうのだそうです。

 そこでシカゴ大学の Ezra Cohen と Mark Ratain は、食事直後に服用することでどのぐらい薬を効果を高められるのか、計算を行いました。臨床試験のデータをもとにしたところ、血液中の薬の成分は、低脂肪の食事とともに服用した場合で1.7倍、高脂肪の場合で3.3倍多くなると見積もられたとのことです。著者らはここから、Lapatinib にかかるコストを月当たり1700ドル節約することができる、と述べています。

 しかしこの研究には他の研究者たちから注意が促されています。ハーバード大学医学部の Steven Pearson は、健康保険の普及や、薬の価格の適正さを議論することが先決だ、と述べています。記事にはこれへの直接的な反論はありませんでしたが、Cohen は、この種の試験は公衆からの要望があるときにのみ行う、と述べています。同時に、Lapatinib は過剰になると高血圧を引き起こす恐れがあり、安全性を示すためにはもっと多くの研究が必要のため、家庭で試すような真似はすべきでない、と述べています。

 まあ僕自身は、たしかに今回のアイデア自体はユニークなものだとは感じるけど、薬代の節約をこれで目指す、っていうのは到底実現できないだろうと思いますねえ。薬の価格は、研究開発費と患者数におもに依存して決まるのでしょうから、極端な話、もし薬代が半分で済む飲み方が発見されたとしたら、製薬会社は、同じ利益を得るために価格を2倍にアップさせるだけでしょう。それよりも、食事中の服用とによる患者間の効き目のバラつきのリスクの方が大きくなるんじゃないかなと思います。

 とはいえアイデア自体は何かに応用できそうな気もします。たとえば、災害などの影響で、一時的に薬が不足してしまう状況では役に立つかもしれません。そういった場合に備えて、少量で安全に効果が得られる飲みかたが情報として整理されているならば、今回の研究を継続する意義はあるかと感じます。

【参考リンク】
・(元論文)The Value Meal: How to Save $1,700 Per Month or More on Lapatinib (何か胡散臭いタイトル・・)

2007年07月23日

貨幣のインクから偽造犯を突き止めろ


 EurekAlert! より。今回の記事は製品紹介に近いです。

■ 時間を減らす新たなインクのサンプリング技術
 New ink sampling technique taking a bite of out time

 かなり以前ですが、米国のプリンタは、紙幣の偽造対策のために秘密の暗号を含んだドットを打ち出している、という記事を紹介しました。(プリンタに秘密の暗号が?) このドットは、ほとんど目に見えない小ささでこっそりと打ち出されていて、プリンタのシリアル番号や、文書の印刷日時といった情報が、ここから導き出せるようになっています。これを使って、貨幣偽造犯を突き止めるヒントにすることができます。

 さて、今回紹介する記事は、これと似た向きがあると言えそうです。米国のアイオワ州立大学ミッドウェスト科学捜査センターの研究者らが利用しているこの新しい技術は、印刷された文書からインクを採取し、その化学組成をリアルタイムで分析することを可能にするそうです。やがてこの技術をもとにして、様々なメーカーのインクの成分ライブラリが完成すれば、採取したサンプルの情報とライブラリを照らし合わせて、貨幣の偽造者の特定ができるようになることが期待されます。

 この技術はDART(Direct Analysis in Real Time)と呼ばれています。下記に製品ページへのリンクをはっておきますので興味のある方はどうぞ。従来の分析方法(液体クロマトグラフ法など)では、あらかじめ文書から紙片を切り取る必要がありましたが、これではそうした必要はありません。その方法は、励起状態にしたヘリウム原子や窒素分子を含んだガス流をつくり、サンプルに当てることで、サンプルからインクの分子を蒸発、イオン化させるというものです。サンプルを事前に処理する必要がなく、従来よりもずっと少ない手間で、リアルタイムに分析を行うことができるそうです。

 この技術を使うと、いずれは紙幣偽造の追跡だけじゃなく、捏造文書の特定や、裁判の証拠などにも適用できるようになるんでしょうね。とはいえ、現段階はまだ、採取やライブラリ構築のための方法を検討している段階とのことです。将来的にこれが使用可能になるためには、既存の蓄積されたインクのデータからうまくライブラリを作って、さらに効率よく探索ができるソフトウェアを作り上げる必要があるようです。

【参考リンク】
・(製品サイト)JEOL 社::AccuTOF DART

2007年07月29日

母音の分類過程がシミュレーションで再現された


 Science NOW より。

■ コンピュータ学習のための小さな一歩
 A Baby Step for Computer Learning

 人間が発音するさまざまな単語を聞いて、これらの母音のカテゴリー分けを行うというコンピュータモデルが生み出されたそうです。通常、こうしたカテゴリー分けは、その言語にいくつの母音が含まれるか、などのような事前の情報がないと難しいのですが、今回のモデルはそうした情報を必要とせず、入力された発音のみをもとに、母音をグループに分けることが可能なのだそうです。

 今回の結果は、音声認識プログラムに使えるほか、幼児が成長の段階でどのように言葉を認知するのかを理解する助けとなるだろうと考えられます。

 米国スタンフォード大学の認知神経学者 James "Jay" McClelland らは、30名の母親を集めて、ある言葉を子供に向かって読んでもらいました。その言葉は意味のない単純なものでした。次に録音した音声データを解析して、音の持続時間、強い周波数成分といった値を抽出しました。この値を、ニューラルネットワークと呼ばれるモデルへの入力として扱うことで、コンピュータに学習を行わせたとのことです。

 ニューラルネットワークというのは、ニューロンやシナプスを模した計算機シミュレーションのモデルのことです。似た入力が繰り返されることで特定のニューロン間のつながりが強くなるといった特徴があるため、これを利用したパターン認識など、いろいろな分野で研究が行われています。

 今回の実験では、単純のために、「beet」「bait」「bit」「bet」の4つに含まれる発音のみを母親たちに読んでもらい、その音声を入力しました。その結果、彼らのプログラムは、入力の発音について情報をなんら持たないにも関わらず、すぐに音声を4種類のかたまりに分類することができました。記事によると、時間にして80%以上の音声データを分類できたとのことです。Scientific American でも同研究に関する記事が出ています(Bare-Bones Program Learns English and Japanese Vowels)こちらの記事では、英語だけでなく日本語でも同様のテストを行い、やはり良い結果が出たようです。

 今回の結果をもとに、幼児の言語学習の過程が説明できるようになったのかというと、それ以外の要因があまりに多すぎるため、結論付けるのは現段階では尚早です。ですが、今後の研究しだいで、言語の学習を計算機上で完全にトレースする、なんてことがひょっとしたら可能になるのかもしれません。


【参考リンク】
・(元論文) 見つからず・・。Proceedings of the National Academy of Sciences誌らしいのですが。

2007年08月17日

共感であくびがうつる


 ABC News in Science より。

■ 共感であくびがうつる
 Empathy makes you 'catch' a yawn

 あくびはなぜうつるのでしょうか? 世間的には、酸素濃度の低いせまい部屋にいるからうつったように見えるだけ、とする説が信じられていますが、これで全てが説明できるわけではありません。映像を見てもうつることが知られており、これを反射の影響とする説や、相手への感情移入がもたらすとする説などがあります。

 今回の研究は、感情移入(共感)による説を支持するものです。

 ロンドン大学バークベックカレッジの千住淳博士らによるこの実験では、自閉症スペクトラム障害をもつ子供24名と、そうでない子供25名のそれぞれに、あくびをする人の映像と、単に口を動かしている人の映像を見せました。そしてこの状態で、子供たちがどの程度あくびをするかを観察しました。

 結果はどうだったか。口を動かす映像を見せた場合は、両方のグループの子供たちの間で、あくびの頻度に違いは見られませんでした。しかし一方、あくびをする映像を見せた場合、自閉症の子供には変化が見られなかったのに対し、そうでない子供では、あくびの頻度がアップしたことが分かりました。

 自閉症の症状の一つに、相手への共感能力の欠如があります。ここから研究者らは、共感の能力があくびの伝染の土台にある、と記しています。そして、今回の結果は、自閉症の人々の社会的障害やコミュニケーション障害の本質を理解する出発点とできると述べています。

 僕自身は、そもそも低酸素説が正しいものとすっかり思っていたので、映像でもあくびがうつるということに少しびっくりしました。

 今回の結果から、共感があくびの伝染に大きな関連を持つことが明らかになったわけですが、とはいっても、共感に由来するほかの行動(もらい泣きとか)とあくびの伝染とが同じようなものかと言われると、それには少し違和感がありますね。実際、今回の研究は、あくまでも共感能力とあくびの伝染との相関関係を示しただけであり、共感能力があくびの伝染を直接的に支配しているとは言い切れないでしょう。あくびの伝染には、自閉症者のもたない、共感以外のファクターが他にもあるのかもしれません。

 あと、news @ nature.com の同研究の記事(Autistic kids don't catch yawns)で記されているような、自閉症とそうでない子供とで映像の見ている箇所が違うのでは、という可能性も捨てきれないですね。視線のトラッキングなどで調べるんでしょうか?

【参考リンク】
・(元論文)Absence of contagious yawning in children with autism spectrum disorder
Orbium -そらのたま-::人類はなにも知らない! なぜあくびする? なぜうつる?
ざつがく・どっと・こむ::あくびがうつる
EP: end-point 科学に佇む心と身体Pt.2::共感、伝染、入眠同調:あくびがうつるわけ

2007年09月01日

誰がベートーヴェンを殺したのか?


 Science NOW より。

■ ベートーヴェンは鉛で死んだのか
 Beethoven Dead From Lead?

 ベートーヴェンといえば、今さら説明する必要のない偉大な作曲家の一人です。彼は1770年にドイツのボンで生まれ、1827年にオーストリアのウィーンで亡くなるまでに、多くの作品を残しました。中でも「交響曲第9番」は、彼が死の前に残したもっとも有名な曲です。

 さて、彼の死因についてはこれまで様々な説がありました。彼は晩年に肝硬変を患っていたため、これが死因として最も有力だろうと考えられていたのですが、近年の研究によって、どうも違うらしいことが明らかになりました。2005年に発表されたその研究によると、彼の頭蓋骨で高濃度の鉛が検出されたとのこと。記録に残された彼の症状から見て、鉛中毒が原因であるのはまず間違いないとされています。

 では、なぜベートーヴェンは鉛中毒になったのでしょうか? ドナウ川の汚染された魚のためという説、食器や楽器に含まれていた鉛のためという説など、たくさんの説がありました。ですが、これだという決定的な説明はありませんでした。

 さて、ここまでが前置き。

 今回のあらたな研究によると、鉛中毒の原因は肝硬変の治療にあったことが明らかになりました。オーストリアのウィーン医科大学の法医学者 Christian Reiter は、この研究で、ベートーヴェンの2本の毛髪をスペクトルグラフで分析しました。知られているように、毛髪は成長するにつれて、頭皮の血流中の物質をとりこみます。ここから、彼の逝去前の4ヶ月間の日ごとの記録を再現しました。

 結果はおもしろいものでした。彼はこの期間、腹部にたまった水を針で刺して抜くという治療を4回受けていました。毛髪に含まれる鉛の量を調べたところ、ちょうど治療の後のタイミングで、鉛の量が急激に増えていることが分かりました。Reiter は、針の鉛がベートーヴェンに中毒をもたらし、肝硬変を悪化させ、死を早めたのだろうと述べています。

 Reiter は他の研究者らとともに、将来的には、鉛が具体的にどのぐらいのレベルだったのかを調べようとしています。しかし毛髪による分析には信頼性の上で限界もあり、完全な把握というのは難しいようです。

 たった2本の毛髪から、死の前の生活状態まで調べ上げることができるというのは驚きですね。

【参考リンク】
・(元論文)The Beethoven Journal 誌(あるんだそんな雑誌!)の "The Causes of Beethoven's Death and His Locks of Hair: A Forensic-Toxicological Investigation." という記事で紹介されるそうです。

2007年09月09日

絶対音感にすぐれた人はラの音だけ間違えやすい


 New Scientist より、前回に引き続き、音楽に関連するネタ。

■ 現代の調律でゆがめられた音程の認識
 Pitch perception skewed by modern tuning

 絶対音感といえば、音の高さを、他のものとの比較によらずに識別する能力のことです。今回、すぐれた音感能力をもつ被験者に音の識別テストをやらせてみたところ、どういうわけか、ラの音の周辺でまちがいをする傾向が高いことが明らかになりました。

 この実験を行ったのは、カリフォルニア大学の Jane Gitschier らです。彼らは、ウェブで集めた2213名の被験者らを相手に、音を聴かせて音程名を答えてもらうという絶対音感テストをやってもらいました。被験者は8~70歳で、音には正弦波とピアノ音の2種類を用いました。テストの結果から、点数の低い被験者のデータを取り除き、残った981名ぶんのデータをもとに解析を行いました。

 すると、解析の結果、おもしろい傾向があることが分かりました。

 著者らは、被験者の回答と正答との間にどのぐらいのズレがあるかを調べました。すると、ほとんどすべての音程について、被験者は、正しい音よりもシャープ(♯:高音)の方向に間違える傾向があることが分かりました。つまり、たとえばレの音を出題したときの誤答の多くが、レ♯やミといった高音側の回答だったのです。こうした傾向は他の研究ですでに指摘されているのですが、今回のテストで改めて確認されたといえます。

 さらに今回の実験では、他のおもしろい傾向も分かりました。どの音を聴かせるかによって、上記の傾向が大きく変わってくるのです。これによると、被験者にソ♯の音を聴かせたときに上記の傾向がもっとも強くなることが明らかになりました。さらに、ラ♯については、むしろこれと正反対の傾向が出ました。つまり、ラ♯の音を聴かせたときには、フラット(♭:低音)の方向に間違える傾向があったのです。

 これはどういうことか? つまり、ソ♯やラ♯といった音を聞いたときに、多くの人が、これをラであると認識してしまったようなのです。すなわち、まるで磁石のように、ラにむかって回答が引き寄せられたと。これはラに特有の現象でした。

 いったいなぜこんな傾向が出たのでしょうか? 著者らはこの説明として、オーケストラの調律がラの音を基準に行われているのが原因ではないかと述べています。コンサートマスターが最初にラの音を出して、他の演奏者はそれを聞いて自分の楽器を調律するというやつですね。

 国際規約ではラは周波数が440ヘルツの音として定義されていますが、実際にはさまざまな周波数が用いられます。たとえば、古代音楽では415ヘルツぐらいだし、現代のオーケストラでは、N響で約442ヘルツ、ベルリンフィルで約446ヘルツが基準になります。

 したがって、演奏者や聴衆は、幅ひろい音を聴いて、これをラであると受け入れさせられる機会が多いと言えます。これが被験者がラの判定領域を押し広げることとなり、今回のような結果につながったのではないか、と彼らは述べています。

 うーん、そもそも絶対音感どころか相対音感ですら怪しい僕にしてみれば、調律の基準音が原因だというこの仮説の妥当性はなかなかピンとこないですねえ。。ラ以外の音も影響を受けそうな気がするのですが。音感のすぐれた人にしてみればこの仮説はある程度は理解できるものなのでしょうか。とはいえ、仮説としてはものすごくユニークでおもしろいです。

【参考リンク】
・(元論文)Dichotomy and perceptual distortions in absolute pitch ability

2007年09月17日

髪のもつれを物理学者が解き明かす


 ABC Science Online より。

■ 美容室でもつれる物理学者たち
 Physicists in a tangle at the hairdresser's

 ストレートヘアーとカールヘアー、もつれやすいのはどちらの髪型でしょうか? フランスの研究者らによって、この疑問への答えが出されたそうです。

 パレゾーにあるエコール・ポリテクニークの研究者 Jean-Baptiste Masson は、この問題の答えを見つけるべく、数名の美容師に依頼して、人々の髪にあるもつれの数を数えてもらいました。ここでもつれとは、髪がまとまってしまって櫛が引っかかるような状態と定義します。なお測定は髪がもつれやすい夕方の時間帯を選びました。(被験者の詳細は不明ですが、おそらく美容師のお客さんでしょう。)

 何となくの直感からすると、カールヘアーの方がごちゃごちゃしている分、もつれが起きやすそうな気がするのですが、結果はこれと正反対でした。123名のストレートヘアー、89名のカールヘアーを調べたところ、ストレートヘアーで平均5.3個、カールヘアーで2.9個のもつれがあることが分かりました。ストレートヘアーの方が2倍も多かったのです。

 Masson はこの現象の理由を明らかにするべく、高分子力学の分野にヒントを得た数学モデルを作りました。このモデルは、2つのパラメータが肝となっています。一つは2本の髪がぶつかる確率、もう一つはぶつかるときの角度です。

 結果、後者のパラメータの方がより大きな影響を及ぼしていることが明らかになりました。すなわち、ぶつかる確率ならカールヘアーの方が頻度は大きいのですが、この影響はそれほど大きくはないのです。一方で、ぶつかる角度でみれば、ストレートヘアーの方が大きくなる傾向があると。もつれやすさという観点では、角度の方が影響が大きいため、結果、ストレートヘアーの方がもつれやすいということになるのです。

 今回の知見は、ヘアブラシの形状や、あるいは面ファスナー(マジックテープ)の設計に応用できるかもしれない、と著者は述べています。

【参考リンク】
・(元論文)Why does curly hair get less tangled than straight hair?

2007年09月18日

コンセントから住人の位置を追跡する


 New Scientist より。

■ 「かしこい家」は電気ノイズを追跡するかもしれない
 'Smart homes' could track your electrical noise

 家庭内ユビキタス、と呼ばれる研究分野があります。家庭にあるさまざまな機器をネットワークで接続して、連携して住人の生活のサポートをしようというのが目的です。

 たとえば、人の動きにあわせて自動で玄関を施錠してくれるとか、部屋から人がいなくなると空調を止めてくれるとか、電話が鳴るとテレビの音量を下げてくれるとか・・・。いろいろと快適な応用が期待されています。

 さて、これを利用する上での一番の困りごとといえば、システムが何かと大がかりになってしまうという点です。たとえば、住人がどこにいるかを追跡するために、カメラやマイクといったセンサーを家じゅうあちこちに配置しないといけません。これはコスト的にも手間的にも非常にたいへんです。

 さて、今回、ジョージア工科大学のコンピュータ科学者 Gregory D Abowd によって提案された方法によると、カメラよりもずっと安価な方法で、代替となるデータが得られることが分かりました。

 彼の方法では、とある装置を壁のコンセント穴に差し込みます。この装置は、コンセントに供給される電力の変動を監視するためのものです。家電の電源をオンやオフにした瞬間に生じるわずかなノイズをキャッチして、その情報を制御用パソコンに送信するのです。さらに制御用パソコンは、このノイズのパターンを分析して、それがどの家電から生じたものなのかを突き止めることができます。ここから、住人がいまどの部屋にいるのかをざっくりと見積もることができるというわけです。

 実際に実験も行われました。6つの家庭で19種類の家電をオンオフさせたテストによると、85~90%の割合で、ただしく機器のオンオフを識別することができたそうです。

 いうまでもなく、この方法はカメラやマイクの精度には到底かないません。ですが、既存のインフラを利用するだけで効果が得られるという点は非常に魅力的です。制御用パソコンにノイズパターンを学習させるという手間がかかりますが、カメラを設置したりするよりはずっと楽にできるだろう、と著者は述べています。

 なるほど、家庭内ユビキタスをちょっとお試しで導入してみたい、という要求に対してこの方法はよいかもしれませんね。あるいは、わざわざカメラを設置するほどでもない部屋に導入するとかでしょうか。何かしらの形で実用はできそうです。ちなみに今回の実験は、他の家電をみなオフにした状態で行ったとのことですので、複数の家電がまざった状態での識別にはもうちょっと精度の高い解析が必要のようです。


【参考リンク】
・(元論文)Ubicomp 2007 という学会で発表されるそうです。

2007年10月02日

パイプで地球の気候を救え!


 ABC Science Online より。

■ 夢のパイプが気候を修繕する、と地球科学者は語る
 Gaia scientist says pipe dream may fix climate

 地球温暖化を食い止めるための何ともユニークな方法が、英国の科学者によって提案されたそうです。

 今回この方法を提案しているのは、オックスフォード大学の James Lovelock 教授と、ロンドンの科学博物館の Chris Rapley です。この方法、なんと海の中に大きなパイプを沈めるというものなのです。長さにして100~200メートル、幅にして10メートルという巨大なパイプを、何本も海に設置するのです。

 いったい何故こんなことをするのでしょうか? 理由はこうです。パイプの付近で潮の満ち干が起こると、それにあわせてパイプの中の海水も移動します。パイプの下部には逆流防止の弁がついています。このため海水は上方向にしか動けません。こうしたしくみによって、潮の満ち干のたびに、海水がどんどん深いところから海面近くに昇っていくことになるのです。

 海面近くは、藻が繁殖して栄養が不足した状態になっています。ここに深いところの栄養に富んだ水がやってくるとどうなるでしょうか。どんどん藻の繁殖が進むことになります。この結果、二酸化炭素のレベルが下がる効果がえられると期待できるのです。

 もうひとつ、藻から期待される効果があります。硫化ジメチルと呼ばれる物質を生み出すのです。硫化ジメチルは、海水が蒸発するときに一緒に大気中に運ばれます。そしてこれが変化してできた硫黄化合物が核となって、雲が形成されることになります。こうして生まれた雲は、太陽光を反射し、温暖化を抑えると期待できるのだそうです。

 ご存じのとおり、温暖化によって南極の氷が解けると、もともと白かった地表が土の色へと変わってしまい、さらにそれが太陽光の吸収をうながすという、負のスパイラル現象が起こるとされています。今回の方法はそれを食い止める助けとなるかもしれません。

 現在の状況はどんな感じかというと、実環境でのプロトタイプテストはまだ行われていません。ですが、資金提供者を得ることができたとのことで、やがて行われるテストの結果次第では、さらに大きな規模(1万~10万本)での実験がメキシコ湾で行われる予定とのことです。

 なるほど・・、印象としてはやっぱりものすごく強引な感じのやり方ですね。「生態系への影響は?」「他のマイナスの影響は?」などとあれこれ足踏みする態度と完全に逆をいってるという感じがします(元論文をろくに読まずに言ってます。) 悠長なことをいってる余裕は既にない、とにかくうまくいきそうな方法を試すんだ! という研究者らの意思が元記事が僕には伝わってきました。


【参考リンク】
・(元論文)Ocean pipes could help the Earth to cure itself
news @ nature.com::Mixing the oceans proposed to reduce global warming
 (↑近いうちに読めなくなります。読めない場合は記事タイトルを google 等につっこんでみるともしかすると見つかるかもしれません。)

2007年10月07日

インカの生贄の子供の食生活はリッチだった


 Science NOW より。

■ 死の前のインカのごちそう
 An Incan Feast Before Death

 インカ帝国は、かつて南アメリカのペルーの周辺で栄えた国です。13世紀に興り、16世紀にコンキスタドールと呼ばれるスペイン人に滅ぼされるまでの間、栄え続けました。世界遺産のマチュ・ピチュは有名ですね。

 さて、この地域では、1995年ごろから、10歳前後の子供のミイラがあいついで発見されました。当時に遺された文献によると、どうやらこれらのミイラは、「カパコチャ」と呼ばれる儀式で葬られた生贄だったそうです。ミイラの多くが、ネックレスや頭飾り、ブレスレットなどを身に着け、山頂部の神殿にて葬られていました。インカ帝国の人々は、子供たちの命を神へ捧げ、国の安静を祈っていたようなのです。

 この地域の気候は寒冷なため、ミイラは氷漬けの状態で発見され、きわめて良好な保存状態でした。胃の中の消化物から、死の前日にどういった食事をとったかといった情報までも明らかになっているようです。(参考:縄文と古代文明を探求しよう!::インカのミイラNo3 ミイラになった生贄

 以上が前ふり。さて今回、ミイラの毛髪を分析した新たな研究によって、死の直前よりもさらに以前の子供たちの生活状態が明らかになったとのことです。

 英国・ブラッドフォード大学の生考古学者("bioarchaeologist" という言葉をそのまま訳しました)である Andrew Wilson らによる研究チームによってこの研究は行われました。彼らは、毛髪の物質の組成をしらべ、そこに同位体がどのくらい含まれるかを分析しました。ここから、子供たちが死の以前にどういったものを食べていたかを推測したのです。たとえば、炭素の同位体の割合をしらべれば、植物の摂取の変化を知ることができるし、あるいは窒素の同位体の割合をしらべれば、肉の消費の変化がわかるというわけです。研究者たちはここから、ミイラとなった子供たちの死の以前の食生活を解き明かしました。

 分析の結果、しらべたミイラの多くが、死の以前のあるときを境に、リッチな食生活へと変化していたことが明らかになりました。中でも、あるミイラでは、もともとジャガイモ中心の食生活だったのが、死のおよそ1年前の時期に、突如、動物性たんぱく質やトウモロコシといった、栄養価の高い生活に変化していました。

 著者たちはここから、生贄に選ばれた子供たちは、その時点からインカの信仰において特別な地位に置かれたのだろうと述べています。そしてさらに、リッチな食生活をおくることもカパコチャの儀式の一部分となっていたのだろう、と述べています。

 他のミイラの中にはこうした傾向が見られなかったケースもあったそうですが、今回のケースはインカ人の信仰の詳細を知る貴重な例となりそうです。

【参考リンク】
・(元論文)みつからず。。Proceedings of the National Academy of Sciences 誌のオンライン版だそうですが。

2007年11月03日

チベット人が高山病にならないわけ


 Science NOW より。

■ チベット人は血流を手にする
 Tibetans Get Their Blood Flowing

 高山病といえば、高度が3000メートル級以上の高山に登ったときに起こる症状のことです。高度のある場所では空気中の酸素濃度が低いため、呼吸困難、頭痛、めまいといった、酸欠の症状があらわれることがあり、場合によっては死に至ることもあります。

 さて、チベットは、そんな高度の地域にある国です。平均の標高は4000メートルと、平地に住む僕たちから見ればまったく想像のつかない場所です。しかしチベット人は高山病にかかることはありません。チベット人の体には、僕たちと違うなにか秘訣があるのでしょうか?

 すでにある研究ではこんなことが分かっています。チベット人の動脈中の血液を調べたところ、他の人よりも酸素の濃度が低くなっていることが分かりました。とはいえ、チベット人の体内組織はとりわけ少ない酸素を消費するわけではありません。そこで今回、さらなる調査が行われました。

 この調査を行ったのは、オハイオ州クリーブランドのケース・ウエスタン・リザーブ大学の自然人類学者 Cynthia Beall らによるチームです。彼女たちが注目したのはチベット人の血流量でした。彼女らは、チベットの Panam Xiang という地域(標高4200メートル)に住む88名の被験者と、クリーブランド(標高200メートル)の50名の被験者の上腕部の血流を調べました。

 結果はおどろくべきものでした。心拍数や血圧は両グループで違いが見られなかったのに対して、血流量は、チベット人の方がクリーブランドの人よりも2倍多かったのです。

 いったい何が原因でこんな現象が見られたのでしょうか? このチームはさらに、両グループの血液中にふくまれる酸化窒素とその代謝物の量をしらべました。これらは心臓の冠動脈を拡張するはたらきがある物質で、心臓病の治療や発毛剤、バイアグラなどにもその効果が利用されています。調べたところ、チベット人において、硝酸塩や亜硝酸塩といった酸化窒素の分解生成物が10倍も多く見られました。

 僕自身は、過去の研究の、チベット人のほうが酸素濃度が低いっていう事実のほうがそもそも驚きです。なんだか効率が悪くなりそうな気がするんですが、どうなんでしょう。ちなみにチベット人が現在の地域に移住してきたのは今から2万5千年前といわれています。高山での生活に適応するためにこれだけの素晴らしい能力を身に着けたというのは面白いです。

 なお、元論文では、チベットとアンデス高地の人々の生理学的な比較についても述べられているようです(読んでない)。興味のある方はぜひどうぞ。

【参考リンク】
・(元論文)Two routes to functional adaptation: Tibetan and Andean high-altitude natives

2007年11月11日

5分間遊ぶだけでストレスが減るゲーム


 New Scientist より。

■ スマイルをつかまえるゲームは働く人の幸福に役だつ
 Smile-hunting game makes for happy workers

 ストレスの多い仕事をやっている人には、今回のゲームはたいへん有用かもしれません。たくさんの顔画像から笑顔をみつけだすというゲームを仕事前の被験者にやらせてみたところ、仕事後のストレスレベルが減少することが分かりました。

 このゲームを考案したのは、カナダ・モントリオールのマギル大学の Mark Baldwin らです。このゲームはいたってシンプルで、4×4に配置された16個のさまざまな人の顔写真の中から、笑っている人の顔をできるだけ早く見つけてクリックするというものです。残りの15個は、しかめっ面の人の顔写真です。

 彼らはこのゲームを、モントリオールにあるコールセンターに勤める23名の従業員にプレイしてもらいました。被験者たちは、毎日の始業前の5分間、ゲームを行いました。被験者たちは2つのグループに分けられ、一方のグループはこのゲームをプレイし、もう一方のグループは、笑顔とは異なる別の画像を見つけるという類似ゲームをプレイしました。

 彼らは1週間の実験期間の最終日に、被験者たちの唾液を採取しました。そしてここから、コルチゾールの割合を調べました。コルチゾールとは「ストレスホルモン」とも呼ばれるホルモンの一種で、ストレスを受けているときに発散される物質です。研究者らはここから、被験者らが1週間でどのぐらいのストレスを感じたかを導き出しました。

 結果は面白いものでした。笑顔をみつけるゲームをプレイした被験者たちは、もう一方の被験者たちと比較して、コルチゾールのレベルが平均で約17%低かったのです。

 この被験者たちは、ストレスを和らげようという意識をとくに持たずにこのゲームをプレイしたわけです。しかし、笑顔を見つけ出すという過程をくりかえすうちに、無意識にポジティブな態度になったものと考えられます。

 これは面白い結果ですね。僕たちはふだん、自分の感情は自分でちゃんとコントロールできてるよ、と思って生活してるつもりですが、シンプルな仕掛けでここまで明確な違いが生まれてくるというのは驚きです。さらに、朝にたった5分間ゲームをするだけでこうした効果が得られるというところも注目すべき点です。

 なお、本研究の Baldwin さんは、このアイデアをもとにした MindHabits というゲーム会社を興しているようです。リンク先のサイトでお試し版をプレイできますので、興味のある方はお試しを。僕のPC環境では顔写真がうまく表示されないトラブルが起きていますが。。

 ひとつ気になるのは、このゲームのタネ明かしを知ってしまった状態でプレイしたとしてもちゃんと効果が出てくるのか? という点ですね。ぜひ知ってる or 知らないの2つの状態での比較も今後やってみてほしいところです。

 ちなみにこのゲームはカナダのゲームコンペで賞をとったとのこと。やがてはこのゲームがポータブルゲームなんかで世に登場してくるのかもしれません。脳トレーニングならぬ感情コントロール、という感じかな。はやりそう?

【参考リンク】
・元論文:見つからず。。
Video game shown to cut cortisol:本実験に関する記載あり。
Self-esteem Games:実験のゲームはこちらでも試せるとのこと。ですがこちらも僕の環境では動かず。

2007年11月30日

クモが巣をゴージャスにする理由


 Science NOW より。今回はクモの巣についての話題です。

■ 芸術的なクモの巣を解きほぐす
 Untangling an Artistic Spider Web

 まずはこちらの写真をご覧ください(クモが苦手な人は注意)。これはナガマルコガネグモと呼ばれる種類のクモです。学名は Argiope aemula、日本でも南西諸島に生息しています。

 さてこのクモ、とてもユニークな形の巣を作ることで知られています。ふだん僕たちがよくみるクモの巣といえば、中央から放射状に引かれた糸に、同心円状に細かく糸が張られたものです。ですが、このクモはさらにここに加えて、4方向にジグザグ状の模様を織り込んでいるのです。写真を見ると分かりますが、クモ自身の体と一緒になって、あたかも大きな「X」の字が描かれているようで、なんだか不思議な模様です。

 いったい何のために、このような風変わりな模様が描かれるのでしょうか? エサの虫を引き寄せるためという説、敵を防ぐためという説、鳥が巣に突っ込まない目印だという説など、いろいろな考えが出されていましたが、いずれの説も確たる証拠に欠けている状態でした。

 さて今回発表された研究によると、この巣には、より多くのエサの虫を引き寄せる効果がある一方で、同時に捕食者をも引き寄せてしまうことが明らかになりました。つまり、命の危機と引きかえにたくさんのエサをゲットしているという、いわばハイリスクハイリターンの巣なのです。

 この研究を行ったのは、台湾の東海大学の生物学者 Ren-Chung Cheng と I-Min Tso です。彼らは台湾の南投という地域で2ヶ月のあいだ生活し、さまざまなナガマルコガネグモの巣をビデオカメラで撮影しました。このナガマルコガネグモは、すべての個体が巣にジグザグ模様をつけるわけではありません。彼らは最終的に、模様のある巣56個と、模様のない巣59個を撮影し、そのデータを比較しました。

 比較の結果は明らかでした。巣に引っかかった虫の数をくらべると、模様ありの巣の方が、模様なしの巣よりも平均で60%も多かったのです。しかし一方で、模様ありの巣は、敵にみつかるリスクも高くなっていました。撮影データの中には、ハチに襲われるシーンが計18回あったのですが、このうちの3分の2が、模様ありの巣に対してのものだったのです。巣への装飾が、餌と捕食者の両方ともの注意をひきつける結果になっているのだ、と研究者たちは述べています。

 こうしたトレードオフは自然界ではよく見られます。たとえば求愛のため大声で鳴くカエルなどは、一方で敵のヘビに見つかるリスクを負っていると言えます。今回のナガマルコガネグモのケースは、動物のつくった構造物においても同様のトレードオフの存在が示された初のものと言えます。

 ・・・僕の直感では、目立つ巣を作ってしまったら、虫にすぐ気づかれちゃってダメなんじゃないかなあ、と想像していたわけですが、事実はそれと逆で、模様をつけた方がより虫をひきつけるんですね。おもしろいです。

 ちなみに元記事でも触れられていますが、じゃあなぜ虫たちはXの模様に引きつけられるのか? という点は今もまだ完全には明らかになっていないようです。一説には、模様の対称性に引き寄せられているという説があるようです。・・・花と勘ちがいしているのかな?

【参考リンク】
・元論文:Signaling by decorating webs: luring prey or deterring predators?

2007年12月24日

サルも交尾のために対価を支払う


 ABC Science Online より。

■ サルもセックスのために対価を支払う
 Monkeys pay for sex too

 サルをはじめとした霊長類にとって、グルーミング(毛づくろい)はたいへん大事な意味をもつ行為です。その基本的な役割は、汚れや毛のもつれを取り除いて身体を清潔に保つことにあるわけですが、それがすべてではありません。そのときの状況に応じて、いろいろな深い意味があるのです。

 たとえば、母サルが子サルに行うグルーミングは、愛情表現のひとつです。また、仲間うちで行うグルーミングは、自分より地位の高いサルへの忠誠心を示すものです。

 さて、この他の役割として、異性のアピールというのもあります。実際のサルの行動を見てみると、交尾にいたる前にオスからメスに対しグルーミングが行われているのです。しかもどうやら、このグルーミングは、周りの状況や相手のメスに応じて違いがあるらしいことが最近の研究で分かってきています。ですが、この現象をきちんと調べた研究というのは、これまでありませんでした。

 そこで今回、Animal Behaviour 誌に、この現象について徹底的な調査がなされた結果が報告されました。研究を行ったのは、シンガポールの南洋理工大学の Michael Gumert らです。彼らは、2003~2005年の期間、インドネシアのタンジュンプティン国立公園に生息する、カニクイザル(英語名:long-tailed macaques)の行動を観察しました。彼らは、オスからメスへ行われたグルーミングに注目し、243回の記録を調べました。(なお右の写真は、カニクイザルの適当な写真が見つからなかったので、同じ属のニホンザルの写真を貼りました。)

 結果、いろいろな発見がありました。

 まず、オスからメスへ行われたグルーミングを見てみると、そのほとんどが、交尾可能な状態(ようするに発情期)のメスに対してであることが分かりました。

 さらに、グルーミングにかけた時間を見てみると、この時間は、周りの環境と、両者の力関係とに依存して大きく変わっていることが分かりました。

 オスは、周りにメスが少なければ少ないほど、より長い時間をかけてグルーミングを行っていました。さらにこの傾向は、オスの地位が低いときにとくに顕著でした。つまり、別の見方でいうと、地位の高いメスは、交尾の対価として、より長いグルーミングをオスに要求しているようなのです。実際、グルーミングの時間は、短いもので数秒間、長いもので1時間半以上と、状況に応じて大きく変わっていました。

 研究者たちは、併せてメスからオスに行われたグルーミングについても調べてみたそうです。こちらはグルーミングの後に交尾にいたるというケースはありませんでした。メスからのグルーミングには性的な意味合いはなく、オスとの絆を表現しているものと思われます。

 最近の生物学の世界では、こうしたオスからメスへのグルーミングと、その後に行われる交尾とを、いわば一種の商取引としてとらえる考え方があるそうです。今回の観察結果は、人間以外の霊長類において、マーケットの状態が取引の内容に影響をおよぼしたという初の証拠になるとといえます。

 なるほど、サルの性行動を商取引としてとらえるというのはなかなか面白い視点です。(たんなる言葉遊びなのかもしれませんが。)人間の世界では、供給量がすくなくなれば対価は上昇するわけですが、サルの世界でも同じようなことが起きているわけですね。メスの数がすくなくなれば、それだけメスの価値は上がり、対価(グルーミング)は大きくなると。さらに、サル社会での地位が、そのままグルーミングの価値に反映されているということも、注目すべきポイントだと思います。

【参考リンク】
・元論文:Payment for sex in a macaque mating market

2008年01月14日

ものの数え方はどのように進化するのか


 Science NOW より。

■ 数え方の進化は単純な工程ではない
 Evolution of Counting Is No Simple Operation

 僕たちは日常的に数という言葉を使って生活しています。普段はなかなかそのすごさを意識しませんが、言語において数というのは、たいへん高度な機能を持つものです。

 たとえばトンボやリンゴや魚や水滴を想像して下さい。これらは互いにまったく別のものです。ですが僕たちは、数を使うことによって、それが何であるかに関係なく、同じ「一二三・・」という共通した単位で数えることができるわけです。こうしたやり方は、対象を抽象化して認識する必要があるわけで、言語の進化という観点からすれば、かなり進んだものであると言えます。

 一方で、言語の中には、上記とは異なり、物ごとに特別の数え方をする言語が存在します。トンボを数えるときとリンゴを数えるときとで、使う表現が異なってくるのです。こうした言語は、先ほどの抽象的な数え方をする言語と比べて、進化上、初期段階の言語であると言うことができます。これまで研究者たちの間ではそう考えられてきました。

 しかし今回、ドイツのフライブルク大学の心理学者 Sieghard Beller と人類学者 Andrea Bender が報告したところによると、上で述べた原則に当てはまらない言語があることが明らかになりました。

 その言語は、ポリネシアのマンガレバ諸島のある言語です。この言語(何語と呼ぶのかは記事からは不明)の数え方はかなり特殊です。この言語の話者たちは、ふだんは抽象的な数え方でものを数えます。ですが、いくらかの種類の対象については、抽象的な数え方をせず、物ごとに特別の数え方をするのです。

 例を見ましょう。彼らはふだんは、1,2,3,4・・に相当する tahi,rua,toru,hā,・・を使ってものを数えます。しかし彼らは、「サトウキビ」を数えるときはこの体系で数えません。代わりに、2を表す tauga、4を表す rua tauga、8を表す hā tauga などの単位を組み合わせて数を表現します。さらに「熟したパンノミ」を数えるときはまた別の表現が用いられます。4を表す tauga、8を表す rua tauga、40を表す paua などを組み合わせて表現するのです。(なんのこっちゃ、と思われるかも知れません。つまり、1個とか3個とかいった数はこの体系では表現できないのだと思われます。)

 さて、ここからがポイント。このマンガレバの言語は、原オセアニア語(現在は消失)という言語から派生して生まれた言語です。で、この原オセアニア語というのは、上で挙げたような物ごとの数え方をやらない言語なのです。

 これはどういうことか? つまり、物ごとに特別の数え方をするというやり方は、原オセアニア語でいったん消失したはずなのですが、その後に生まれたマンガレバの言語にて再び復活したと言えるわけです。すなわち、従来考えられていたのとは反対の方向に言語の進化が起きたのです。

 ではいったいなぜ、こうした特別な数え方が復活したのでしょうか? 著者たちの考えはこうです。この特殊な数え方をつかうと、大きな数の計算をするときに筆算をやらずに済むという利点がある、と彼らは述べています。複雑な計算を簡潔にし、より高速に数処理を行うためこうした体系が編み出されたのだ、というのが彼らの考えです。

 今回の発見は、数の認識や数え方の体系がどのように進化してきたかを考えるうえでの大きな手がかりとなると言えそうです。

 ・・なるほど。この数え方は僕たちには一見ピンと来にくいですが、雰囲気的には、よく欧米人が卵をダースで数えてるのをイメージするとわかりやすいかもしれません。今回の研究のポイントは、こうした数え方が進化の過程でいったん消えたにも関わらず、再び復活した点にあると言えます。人々のライフスタイルに応じて、使いやすい数の表現を新たに発明した。柔軟な言葉の進化のしかたになんだか面白さを感じます。

【参考リンク】
・元論文:The Limits of Counting: Numerical Cognition Between Evolution and Culture