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懲罰はいかにして公共の福利に貢献するのか


 Science NOW より。

■ 恐怖という要素
 The Fear Factor

 罰は世の中にとって良いものなのか? 罰によって人の行動は本当によくなるものなのか? 公共プロジェクトを模した心理実験によって、この問題の新たな手がかりが明らかになりました。

 公共の福利のために協力することは、人間社会ならではの特徴です。人々は、徴兵とか税金などに応じるという行為を通じて、協力体制を築いてきました。協力にはコストがつきもので、中には安価でないものもあります。すると当然、抜け駆けして利益だけをただ乗りしようとする者が現れるわけで、社会はしばしば懲罰を与えることで人々に協力を促してきました。

 ですが、以前に行われた実験では、必ずしも罰が人々にとって良いとは限らない可能性が指摘されていました。この実験では、被験者たちは他のプレイヤーと協力しながら自分の所持金を増やすゲームをプレイしました。このゲームに、非協力的なプレイヤーには罰金を科すことができるというルールを導入したところ、最終的な各プレイヤーの所持金が導入前と比べ少なくなってしまうという現象があらわれていました。全体にとって罰が悪い方向に働いていたのです。

 そこで今回、英国ノッティンガム大学の Simon Gachter によって、この現象を再検証する実験が行われました。彼は、以前の実験で罰の良い効果が現れなかったのは実験の回数が少なすぎたためではないか、と考え、これを確かめるべく次のような実験を行いました。

 彼は、207名の被験者を三人一組のグループに分け、次のゲームを3人でプレイしてもらいました。まず各プレイヤーには20ポイントの資金が与えられます。次に、架空の公共プロジェクトを想定して、各プレイヤーはこのプロジェクトに好きな額の投資をします。各々の投資額が決まると、次に利益の配分がなされます。各プレイヤーは、自分がいくら投資したかに関わらず、3人の投資額の合計を2で割った額を受け取ることができます。当然、みんなが協力したときが最もよい配分が得られるわけです。

 さらに半分のグループには、非協力的なプレイヤーを罰する機会が与えられました。配分後、被験者は、自分の所持金を1ポイント消費することで、指名したプレイヤーの所持金を3ポイント減らすことができます。被験者は、このような投資→配分→懲罰のサイクルを、半分のグループは10回、もう半分のグループは50回繰り返しました。

 さて、結果はどうだったか。ラウンド数が10のグループの場合、罰則ルールありでプレイした被験者らの投資額は、罰則なしの被験者らよりも少なくなることが分かりました。これは以前の研究でも指摘されていたことで、今回改めて同じ現象が確かめられたと言えます。

 ですがラウンド数が50では、結果は逆転していました。罰則ありのときの方が、被験者らは協力的になり、多くの金額を投資していたのです。さらにこの場合、罰金として科した金額は全体を通じて少なくなることがわかりました。

 懲罰のためのコストが小さくなり、協力による収益増がこれを上回ったために、グループや個人がより裕福になったのだと研究者は記しています。

 なるほど。結果のグラフ(リンク先記事の「Supporting Online Material」から閲覧できます)を見てみましたが、上記以外にもいろいろと変わった傾向が出ていて面白いです。ラウンド数10のときの結果と、ラウンド数50のときの最初の10ラウンドと結果を比較してみても違いがあるというのがけっこう不思議。あと、最後の1ラウンドは多くが協力しなくなる点も不思議です。僕は詳細は読んでないのですが、興味のある方はぜひチェックしてみて下さい。

【参考リンク】
・元論文:The Long-Run Benefits of Punishment

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コメント (2)

txe:

なるほど、面白い実験ですね、これ。
利己的要素で互恵的利他性を説明するゲーム理論の一種になるのかな?

ただこの設定だと、最終ラウンドは裏切った方が期待値高くなるだけじゃなく、裏切るリスクもほかのラウンドに比べて低く、しかもプレーヤーがそのことに気付きやすいのでは。となると、ラウンド数が少ない処理区では自ずと最後の1ラウンドによる点数の影響が相対的に大きいので、平均点に差が生じる気もします。ゲームがいつ終わるのか被験者には解らない状態にしておき、実際には10ラウンドと50ラウンドで終わる処理にすればいいのかな。また暇なときにでもしっかり読もうっと。

逆にある程度終わりが見えるモデルとするならば、バブル崩壊の時とか世界金融危機の時とかに見られた投機筋みたいな振る舞いをあらわしているのかもしれませんね。

riverplus:

こんにちは。コメントありがとうございます。

終わりのタイミングをあらかじめ教えないバージョンでの実験というのは、今回とはまた違った傾向が出てきそうで面白いですね。
もし自分が被験者だったら・・・と想像すると、最後の最後で協力しない人が出てくるかもしれない、罰するにもコストがいるから出来ればあまりやりたくない・・・というふうに、お互いが疑心暗鬼な気持ちになりそうだなあ、と感じました。このへんの議論が元論文に書かれてあるかもしれません。

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