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マウスの記憶の選択的消去が可能になった


 New Scientist より。

■ エターナル・サンシャイン薬は記憶を選択的に消去する
 'Eternal Sunshine' drug selectively erases memories

 「君のこの1時間の記憶は、悪いが消させてもらうよ・・・。」 SFか何かでありそうなワンシーンですが、遺伝子改良したマウスを用いた実験によって、こうした選択的な記憶消去の実現に、大きな可能性が示されました。

 この発見をしたのは、ジョージア州立医科大学の神経科学者 Joe Tsien です。彼と上海の華東師範大学との共同チームは、次のような一連の実験を行いました。

 まず彼らは、マウスに遺伝子操作をほどこして、α-CaMKIIと呼ばれる酵素を過剰に生み出すマウスをつくり出しました。このα-CaMKIIという酵素は、記憶の形成に大きな関連をもつことが知られています。

 次に彼らは、ある薬品を飲み水に混ぜました。この薬品は、一時的にα-CaMKIIの過剰生産をおさえるように設計された特別な薬品です。この水を飲ませることで、α-CaMKIIを通常レベルに保つように制御しました。

 さらにこのマウスに対し、電気ショックを使った学習を行いました。マウスに音を聞かせ、その直後に軽い電気ショックを与えたのです。マウスは音と電気ショックとの間に関連性があることを学びました。学習の1時間後に、音だけを聞かせてみたところ、マウスは電気ショックを恐れて固まった状態になりました。1ヶ月後も学習の記憶は残っており、再度、例の音を聞かせたところ、やはり同様の行動を示しました。

 しかしその後、薬品の投与をやめ、α-CaMKIIのレベルが過剰になるように切り替えたところ、たちどころにマウスは学習したことを忘れさりました。音を鳴らしても、怯えた様子を見せることはなかったのです。

 α-CaMKIIのレベルを通常に戻し、さらに2週間後に同じテストをした際も、やはり記憶は残っていないことが分かりました。つまり、一時的に思い出せない状態だったのではなく、記憶そのものがなくなったと言えるのです。

 さらにその他の実験から、特定の期間の記憶だけを選択的に消去することが可能であることも明らかになりました。実験の手順は不明ですが、α-CaMKIIが過剰なときに再学習を行ったときの記憶のみが消去され、それ以外の記憶は消えずに残っていることも示されたそうです。

 一体どんなメカニズムでこうした記憶消去がもたらされたのか? これについてはまだ定かではないのですが、記憶の生成時に生じた神経細胞の結びつきが、α-CaMKIIによって弱められたのではないかと研究者は述べています。

 なるほど。かなり複雑な実験をやっているようで僕にはなかなかポイントがつかみ切れませんね・・・。詳細が知りたい方はぜひ元論文をどうぞ。

 やっぱり気になるのは人間への応用ですね。悲惨な事故の記憶から起きるストレス障害への対処に期待がもたれると思います。遺伝子改良なしでどうやって同じ効果を得るかが重要になってくるのでしょうかね。また、研究者が警告しているように、不快な記憶は本来人間にとって必要なものである、ということも忘れてはいけない点です。


【参考リンク】
・元論文:Inducible and Selective Erasure of Memories in the Mouse Brain via Chemical-Genetic Manipulation
・ロイター::世界のこぼれ話::米研究者、マウスの記憶の選択消去に成功

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