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ものの数え方はどのように進化するのか


 Science NOW より。

■ 数え方の進化は単純な工程ではない
 Evolution of Counting Is No Simple Operation

 僕たちは日常的に数という言葉を使って生活しています。普段はなかなかそのすごさを意識しませんが、言語において数というのは、たいへん高度な機能を持つものです。

 たとえばトンボやリンゴや魚や水滴を想像して下さい。これらは互いにまったく別のものです。ですが僕たちは、数を使うことによって、それが何であるかに関係なく、同じ「一二三・・」という共通した単位で数えることができるわけです。こうしたやり方は、対象を抽象化して認識する必要があるわけで、言語の進化という観点からすれば、かなり進んだものであると言えます。

 一方で、言語の中には、上記とは異なり、物ごとに特別の数え方をする言語が存在します。トンボを数えるときとリンゴを数えるときとで、使う表現が異なってくるのです。こうした言語は、先ほどの抽象的な数え方をする言語と比べて、進化上、初期段階の言語であると言うことができます。これまで研究者たちの間ではそう考えられてきました。

 しかし今回、ドイツのフライブルク大学の心理学者 Sieghard Beller と人類学者 Andrea Bender が報告したところによると、上で述べた原則に当てはまらない言語があることが明らかになりました。

 その言語は、ポリネシアのマンガレバ諸島のある言語です。この言語(何語と呼ぶのかは記事からは不明)の数え方はかなり特殊です。この言語の話者たちは、ふだんは抽象的な数え方でものを数えます。ですが、いくらかの種類の対象については、抽象的な数え方をせず、物ごとに特別の数え方をするのです。

 例を見ましょう。彼らはふだんは、1,2,3,4・・に相当する tahi,rua,toru,hā,・・を使ってものを数えます。しかし彼らは、「サトウキビ」を数えるときはこの体系で数えません。代わりに、2を表す tauga、4を表す rua tauga、8を表す hā tauga などの単位を組み合わせて数を表現します。さらに「熟したパンノミ」を数えるときはまた別の表現が用いられます。4を表す tauga、8を表す rua tauga、40を表す paua などを組み合わせて表現するのです。(なんのこっちゃ、と思われるかも知れません。つまり、1個とか3個とかいった数はこの体系では表現できないのだと思われます。)

 さて、ここからがポイント。このマンガレバの言語は、原オセアニア語(現在は消失)という言語から派生して生まれた言語です。で、この原オセアニア語というのは、上で挙げたような物ごとの数え方をやらない言語なのです。

 これはどういうことか? つまり、物ごとに特別の数え方をするというやり方は、原オセアニア語でいったん消失したはずなのですが、その後に生まれたマンガレバの言語にて再び復活したと言えるわけです。すなわち、従来考えられていたのとは反対の方向に言語の進化が起きたのです。

 ではいったいなぜ、こうした特別な数え方が復活したのでしょうか? 著者たちの考えはこうです。この特殊な数え方をつかうと、大きな数の計算をするときに筆算をやらずに済むという利点がある、と彼らは述べています。複雑な計算を簡潔にし、より高速に数処理を行うためこうした体系が編み出されたのだ、というのが彼らの考えです。

 今回の発見は、数の認識や数え方の体系がどのように進化してきたかを考えるうえでの大きな手がかりとなると言えそうです。

 ・・なるほど。この数え方は僕たちには一見ピンと来にくいですが、雰囲気的には、よく欧米人が卵をダースで数えてるのをイメージするとわかりやすいかもしれません。今回の研究のポイントは、こうした数え方が進化の過程でいったん消えたにも関わらず、再び復活した点にあると言えます。人々のライフスタイルに応じて、使いやすい数の表現を新たに発明した。柔軟な言葉の進化のしかたになんだか面白さを感じます。

【参考リンク】
・元論文:The Limits of Counting: Numerical Cognition Between Evolution and Culture

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