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絶対音感にすぐれた人はラの音だけ間違えやすい


 New Scientist より、前回に引き続き、音楽に関連するネタ。

■ 現代の調律でゆがめられた音程の認識
 Pitch perception skewed by modern tuning

 絶対音感といえば、音の高さを、他のものとの比較によらずに識別する能力のことです。今回、すぐれた音感能力をもつ被験者に音の識別テストをやらせてみたところ、どういうわけか、ラの音の周辺でまちがいをする傾向が高いことが明らかになりました。

 この実験を行ったのは、カリフォルニア大学の Jane Gitschier らです。彼らは、ウェブで集めた2213名の被験者らを相手に、音を聴かせて音程名を答えてもらうという絶対音感テストをやってもらいました。被験者は8~70歳で、音には正弦波とピアノ音の2種類を用いました。テストの結果から、点数の低い被験者のデータを取り除き、残った981名ぶんのデータをもとに解析を行いました。

 すると、解析の結果、おもしろい傾向があることが分かりました。

 著者らは、被験者の回答と正答との間にどのぐらいのズレがあるかを調べました。すると、ほとんどすべての音程について、被験者は、正しい音よりもシャープ(♯:高音)の方向に間違える傾向があることが分かりました。つまり、たとえばレの音を出題したときの誤答の多くが、レ♯やミといった高音側の回答だったのです。こうした傾向は他の研究ですでに指摘されているのですが、今回のテストで改めて確認されたといえます。

 さらに今回の実験では、他のおもしろい傾向も分かりました。どの音を聴かせるかによって、上記の傾向が大きく変わってくるのです。これによると、被験者にソ♯の音を聴かせたときに上記の傾向がもっとも強くなることが明らかになりました。さらに、ラ♯については、むしろこれと正反対の傾向が出ました。つまり、ラ♯の音を聴かせたときには、フラット(♭:低音)の方向に間違える傾向があったのです。

 これはどういうことか? つまり、ソ♯やラ♯といった音を聞いたときに、多くの人が、これをラであると認識してしまったようなのです。すなわち、まるで磁石のように、ラにむかって回答が引き寄せられたと。これはラに特有の現象でした。

 いったいなぜこんな傾向が出たのでしょうか? 著者らはこの説明として、オーケストラの調律がラの音を基準に行われているのが原因ではないかと述べています。コンサートマスターが最初にラの音を出して、他の演奏者はそれを聞いて自分の楽器を調律するというやつですね。

 国際規約ではラは周波数が440ヘルツの音として定義されていますが、実際にはさまざまな周波数が用いられます。たとえば、古代音楽では415ヘルツぐらいだし、現代のオーケストラでは、N響で約442ヘルツ、ベルリンフィルで約446ヘルツが基準になります。

 したがって、演奏者や聴衆は、幅ひろい音を聴いて、これをラであると受け入れさせられる機会が多いと言えます。これが被験者がラの判定領域を押し広げることとなり、今回のような結果につながったのではないか、と彼らは述べています。

 うーん、そもそも絶対音感どころか相対音感ですら怪しい僕にしてみれば、調律の基準音が原因だというこの仮説の妥当性はなかなかピンとこないですねえ。。ラ以外の音も影響を受けそうな気がするのですが。音感のすぐれた人にしてみればこの仮説はある程度は理解できるものなのでしょうか。とはいえ、仮説としてはものすごくユニークでおもしろいです。

【参考リンク】
・(元論文)Dichotomy and perceptual distortions in absolute pitch ability

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コメント (3)

なのはな:

とても興味深い記事でした。
人種によって差はあるのかとか、いろいろ研究されると面白そうな・・・
その前に、絶対音感持ってる人少ないかぁ~

絶対音感も「絶対」ではなのねぇ(~_~;)

こんにちは。
もし今回の記事の説が正しいとすれば、文化によって成績はまた変わった傾向になるんでしょうね。
「調律された」音を聴く機会が少ない人にはラの現象はないんでしょうか?

> その前に、絶対音感持ってる人少ないかぁ~
そうですよね、音楽の団体にいないかぎり、そう出会うこともないですね。

以下脱線気味。
ちなみに2213名のうち981名が好成績をおさめたとのことで、
かなりレベルの高い母集団だったみたいです。
ウェブで被験者を募ったそうなので、たぶん絶対音感に興味のある人=それなりに好成績を出せる人、が割と多くあつまったのかなあと想像しています。

ししお:

僭越ながら。

絶対音感の音楽家全員が
オーケストラによる演奏をしている訳ではないので、
ちょっとその理由付けは怪しいです。

実際、自分は個人演奏と団体演奏はしますが
自分のパートがピアノもしくは歌ということもあり
ラの音のチューニングなんてまずしたことがありません。
したといえば、中学校のクラブ活動のブラスバンド程度です。
それでも絶対音感であり、
また、それでも「ラやソ#などの音を間違えやすい」ということも実際うなずけます。
今回記事を拝見し、そういえばそうかも、と感じました。
科学的に説明できませんが、
自分たちの感覚をアナログにいうと、ラやソの周辺が「若干似てる」んです。なんとなく。
(もちろん、より厳密な識別能力がある絶対音感であれば、はっきり違いがありますし、
 比較的間違いやすいという程度で、区別できなくなるほどでもないですけどね)
色の識別と同じように「ド」や「レ」「ミ」「ファ」などは「赤」「黄色」みたいな感じのハッキリとした濃い音色があるのですが、
「ラ」の周辺となると、例えば青緑~青~紺~紫、のように、なーんか似ていて魅惑のある印象なんです。
これってなぜでしょうね。不思議ですね。
どなたか脳科学で証明してくれないでしょうかね?
統計的な心理学ではないと思うんです。しっかり根拠があると思います。

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