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月から地球を監視する


 New Scientist より。

 アポロ15号といえば、1971年7月に行われた、通産4回目になる月面着陸のミッションです。有人により行われ、初めて月面車が使用された他、さまざまな重要な科学実験が行われました。

 このような成功を収めたミッションだったのですが、とはいえ全ての実験が計画通りに実施されたわけではありません。月の熱流の測定のための穴を月面に掘る作業はたいへん難航し、結局、温度計を穴の内部に設置する代わりに、月面近くに置かざるを得なくなりました。

 さて、こうした経緯で設置された温度計ですが、今回、この観測データをつかって、地球から月にやってくる熱の流れを調べようというアイデアが出されました。そして、3年分のデータによれば、地球からの熱の放射は観測期間のあいだ実際に増加していることが明らかになりました。今後、月での観測が、地球の気候の変動を調べる助けとなるのかもしれません。

Moon might be best place to study Earth's climate
(月は地球の気候を調べるのにベストの場所かもしれない)

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 地球の気候を調べるのにベストの場所はどこだろうか。ある米国の研究者によると、それは月であるという。

 ウィスコンシン大学の Shoapeng Huang は、1971年にアポロ15号のミッションで月面に置かれた機器による温度の記録を手に入れた。

 「アポロ15号のミッションの主な科学的目的の一つは、月の土壌に3メートルのボアホールを2つ掘り、特別に設計されたプローブを挿入することでした」と彼は説明する。「重要なのは、温度が深さとともにどのように変化するかを見ることでした。月の内部から外へ向かう熱の流れを計算するためです。」

 しかし月の表面に穴を掘ることは予測よりも難しく、いくつかの温度計は月面に置かれたままとなった。その結果、NASA は、月の表面温度の変化を示す41か月分のデータを収集した。

■ 反射する地球

 Huang は、1972年中頃から1975年末にわたるこのデータを手に入れた。太陽からやってくる放射の影響を受ける昼間の温度は、それほど興味深いものではないと彼は言う。しかし月の夜間の温度は、地球からの放射に左右されているのである。そして、温室ガスのレベルが高くなり、大気がより多くの太陽のエネルギーを保つにつれ、地球の放射は減少するはずである。

 「したがって、もし地球が宇宙へ反射するエネルギーが少なくなれば、月にはそのことが分かるはずなのです。」(Huang)

 NASA の記録によると、1972年と1975年の間で夜間の温度にわずかな上昇が見られていると Huang は言う。これはこの時期に地上の気温低下をもたらした「地球薄暮化(グローバル・ディミング)」による結果だろうと彼は考えている。薄暮化は、光を反射する粒子が大気中で増えることによって引き起こされてきたと考えられている。

 これらの結果にもとづいて、Huang は、地球からの放射を監視するべく、機器を月に送りさらなる調査を見たいと思っている。月は地球の安定した自然の衛星であり、大気、生物圏、水といった、地球からの放射に影響を及ぼすものを持たない、と彼は指摘している。

■ 傾いた軌道

 他の人々はそれほど確信していない。「地球からの光」を測定することは新しい研究の一線ではない。地球の放射の変化に関するデータは、温室ガスが太陽からのエネルギーをどの程度とらえているのかを精確に理解するためのカギである。

 その中でも NASA は既に、CERES と呼ばれる人工衛星の機器を用いて、地球からの光を監視しようとしている。

 「実際のところ、月は、地球の変化する放射シグナルを監視するのに非常に悪い場所なのです」と、NASA の Bruce Wielicki は New Scientist 誌に述べた。CERES の実験を行っている Wielicki は、最近、コンピュータモデルを用いて、月をベースとした地球からの光をシミュレートする研究を行った。(Geophysical Research Letters 誌。DOI:10.1029/2006GL028196

 「このシミュレーションを行い、地球からの光を他の(放射の)データの集合と比較すれば、なぜ月が良くない場所なのかはさらに明らかです」と Wielicki は語る。

 彼らは、地球に対する月の軌道が傾いていることによって、月面の機器が南北極からの良好な測定を得るのを妨げられていることに気付いた。さらに、月での1日は地球での28日間つづく。このミスマッチによって、地球の季節によって引き起こされる放射の変動の解釈が難しくなる。

 Wielicki はまた、月に機器を置くことは、地球の低軌道上に打ち上げるよりもずっと高価であるとも指摘する。

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 もともとはトラブルによって設置された計測器が、意図せぬ別の立場の知見を与えてくれるというのは、怪我の功名という感じがしてなかなか面白いです。とはいえ、本記事を読むかぎりでは、人工衛星で測定するほうがずっと利点があるようで、現時点では改めて観測機を月に向かわせる意義は薄そうです。このあたり、元論文を斜め読みした限りではとくに有効な反論は見つけられず。

 とはいえ今回の報告は予備研究の位置づけとのことですので、さらなる研究が進めば、人工衛星の観測結果と互いに補い合うような成果が今後見出されるかもしれません。

【参考リンク】
・(元論文)Surface Temperatures at the Nearside of the Moon as a Record of the Radiation Budget of Earth’s Climate System

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