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ロシア人は2つの青を見る


 New Scientist より。

 ロシア語の通訳者は、日本語の「青い」という言葉を通訳するとき、少し戸惑うのだそうです。日本語では「青い」は「青い」以外の何者でもありませんが、ロシア語では、いわゆる「青い」を表す単語というものが存在しないからです。かわりに、淡い青色(水色)を表す「голубой」という言葉と、濃い青色(紺色)を表す「синий」という言葉が存在します。なので、通訳者は一瞬、どっちに訳すかで考えを要するのだそうです。

 青を2種類に区別するというロシア語の特徴はユニークです。世界のほかの言語、とくに赤道付近の言語では、青の濃淡の区別どころか、青と緑の区別さえしないこともあるのです。(参考:「言語はいかにして色の名前を得るのか」) なぜロシア語では、青に対する解像度がこんなに細かいのでしょうか? 一つに、ロシア人の色の見え方が関係しているのかもしれません。これを調べるべく、英語とロシア語のネイティブスピーカーたちを集めて、青の見分けテストが行われました。

Russian speakers get the blues
(ロシア語のスピーカー達は青色の違いを判っている)

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 あなたの話す言語は、あなたが世界をどのように見るかに影響を及ぼしているかもしれない、と色の知覚についての新たな研究は示している。研究者たちの発見したところによると、ロシア語(「青」に対する単一の言葉をもたない)のネイティブスピーカーたちは、英語を話す人々と異なり、ライトブルーとダークブルーとを見分けることができた。

 ロシア語では、ライトブルー("goluboy" と発音される)と、ダークブルー("siniy" と発音される)とが強制的に区別される。米国 MIT の Jonathan Winawer らは、この言語的区別が色の知覚に影響を及ぼすのかどうか明らかにすることとした。

 このチームは、米国マサチューセッツのボストン地域から50名の人々を募った。そのおよそ半数はロシア語のネイティブスピーカーだった。

 ボランティアたちはスクリーン上の3個の青い正方形を見て、上の1個の正方形の色が、下の左右の正方形のどちらとマッチしているか、ボタンを押して示さなければならなかった(例の図を参照)。計20色の様々な色合いの青色が用いられた。

■ 真の青

 被験者らは2種のテストを終えた。一つのバージョンでは、3個の正方形は似た色合いをしており、もう一つのバージョンでは、正方形の1個が大きく異なった色をしていた。たとえば、ライトブルーとダークブルーが区別されるようになっていた。

 英語のスピーカーたちは、似た色合いの2個を見分ける場合と比べて、ダークブルーとライトブルーを見分ける場合で(反応の早さが)良くなるわけではなかった。

 これと比べて、ロシア語のスピーカーたちは、同じ色合いのカテゴリーでの青色を区別する場合よりも、ライトブルー(goluboy)とダークブルー(siniy)を区別する場合の方が10%早かった。

 「オブジェクティブタスクでの色の知覚における言語間の違いを示す証拠が与えられたのはこれが初めてです。」(Winawer)

 さらに、ロシア語のスピーカーたちが、色のテストを行っている間、8桁の数字を記憶しなければならないようにすると、似た色合いを区別する場合とダークブルーとライトブルーを区別する場合において見られていた違いはなくなった。

 数字を記憶するのに必要な集中力が、彼らの言語の知力に影響を及ぼしたためだろうと Winawer は考えている。ロシア語によってもたらされる、ライトブルーとダークブルーを識別するときの余力が、集中力を要することによって取り除かれてしまうのである。

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 ロシア語のネイティブスピーカーたちに見られていた優位な成績が、数字を覚えながらやることで見られなくなった、という点はおもしろいです。元記事によると、被験者には、テストの間、覚えた8桁の数字を頭の中で復唱するように、という指示がなされていたそうです。言語的な能力をかなり駆使する負荷が被験者たちに加えられていたんじゃないかなと想像できます。

 さらに、この記事には記されていませんが、数字を覚えるのとは別のシチュエーションでの実験も行われています。この第3の実験では、被験者に4×4のマス目のうちのランダムな4マスが黒く塗られた図を見せて、その位置をテストのあいだ記憶してもらうように指示しました。その結果は非常におもしろく、第1の実験の結果とほぼ同様の結果だった、すなわち、位置を覚えるという負荷は、ロシア人の成績に特に影響を及ぼさなかったというのです。これが本当かという検証はまだまだ余地はあると思いますが、ライトブルーとダークブルーの識別を言語が左右している、という説を指示する結果だと思います。

【参考リンク】
・(元論文)Russian blues reveal effects of language on color discrimination

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