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論文捏造とデータの罠

 先週に読んだ書籍2冊のご紹介。なんだか似たテイストの2冊です。


論文捏造」(著:村松秀、出版:中公新書)

総合:■■■■■(難しさ:■□□ 楽しさ:■■■ 満足度:■■■)

 論文捏造、と聞くと思い浮かべるのは何でしょうか。日本では、自殺者まで出した阪大・杉野教授のDNA複製にまつわる事件、韓国では、国の最高科学者第1号にも選ばれ、国民の大きな期待を背負った黄元教授のヒトクローン胚ES細胞にまつわる事件などがあると思います。

 本書は、アメリカ・ベル研究所で起きた、史上最大の科学論文捏造事件をめぐるドキュメンタリーです。本事件の中心人物であるヤン・ヘンドリック・シェーンは、超伝導に関するきわめて画期的な研究結果を発表します。名高いベル研究所から出た結果だということ、そして彼の指導的立場にあった人物がきわめて高い地位にいたということもあって、そのニュースは世界中を駆け巡り、彼は一躍スターに登り立つことになりました。その後3年のうちに、彼は Nature 誌に7本、Science 誌に9本という、信じられないほど素晴らしい成果を次から次へと発表するのですが、とあることが原因で、これらすべての実験結果が捏造であることが明らかになりました。

 NHKのBSドキュメンタリーで放送された番組の書籍版である本書は、本当にものすごく膨大な量の取材から構成されています。そして、シェーンが脚光を浴び始めてから、最終的に捏造を認定され研究所から解雇されるまでの一連の流れをみると、今回の事件の背景には、現在、僕たちが科学論文の捏造問題を考えるうえで欠かすことのできない要素のすべてが織り込まれていることに気づかされます。専門の分化のため、ある研究の正当性を厳しくチェックができる人が少ないという現状、捏造を告発することをはばかる研究者の風潮、掲載論文の正当性の保証を放棄していた当時のジャーナル誌、スター研究者を手放したくない研究所、そして成果主義のプレッシャーなどなど、今後の課題となる点が網羅されていると言えるでしょう。

 本屋で目にしたとしてもなかなかぱっと手に取りにくいと思われるタイトルですが、非常におもしろく読める良書だと思います。




データの罠」(著:田村秀、出版:集英社新書)

総合:■■□□□(難しさ:■□□ 楽しさ:■■□ 満足度:■□□)

 データにひそむ誤りを見抜く技術に関する書籍。巷には多くのデータがありますが、意図的であるか否かは別として、かなり客観性に欠いたデータというのも中にはあります。本書は、具体的な例を挙げ、それらにひそむ罠を解き明かしていきます。

 個人的におもしろかったのがTOEFLの日本人のスコアの平均点がかなり低い(世界169か国中155位)というデータを受けて、はたして日本人の英語力は本当に世界最低レベルなのか? という疑問に関する検証。やはり実際に検証してみると、TOEFLの平均点でもってそれぞれの国の人々の平均的な英語力を示していることはあり得ず、たとえばアジアの発展途上国では受験費そのものが物価とかけ離れて高いため、きわめて限られた人々しか受けることができない一方で、日本では学校によってはすべての学生に受けさせるところもあるぐらい、受験者のレベルにばらつきがあるというのです。単なる平均値では分からない事情が触れられないまま、結論のみが一人歩きし始めるというのは、英語力に限らずにあり得ることです。

 本書の後半では、今の世の中にあるいろんな問題を、データという観点から検証するというアプローチをとります。たとえばそれは、公務員、在日米軍、高速道路、公認会計士や建築士などなど、ありとあらゆる方面におよびます。たしかに、個々の話題について著者の指摘は正しくて、データの誤解釈やデータの悪利用が潜んでいることがよく分かるのですが、ちょっと話題が次から次へとぽんぽん移りすぎる感があり、全体として落ち着きがなくなっている感じがします。ただ個々の話題自体には興味深い指摘が含まれており、知人どうしの会話のネタにはなるかなあと感じました。

 あと、個々の話題に話が終始しているため、「結局どういうポイントに着目してデータを眺めれば、今後だまされることはなくなるか?」という、だましの網羅的なパターンが挙げられていないというのはとても勿体ない気がします。

 データを読み解く力に関連した書籍としては、「『社会調査』のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ」が超おすすめなので、ぜひご参照ください。

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コメント (2)

D.I.:

■ぜひ
前者の本はぜひ読んでみたいですね。
追実験の難しさはよくわかります。
小難しい理論はわかったから、
追実験させろよ!と思うものが幾つもあります。
どこか共通のプラットフォームが必要なんでしょうけど、
それぞれの専門が深くなり過ぎているのが問題なのでしょうか。
後者は、きっと統計の罠のような話でしょうね。

riverplus:

■捏造
論文捏造は本当におすすめするよ。ぜひ読んでみて。
多くの研究者たちが今回の結果の追実験を試みるんだけど、だれひとり成功しないんですね。(もとが捏造なのだから当然ですが。)
でも、そこで元の研究をうたがわず、「自分の追試験環境がおかしいに違いない」と考えた。専門の分化が進みすぎたのもこう考える一つの理由ですね。
ある意味、研究者のプロ意識で捏造の発見が遅れたと考えると、これってとても難しい話だなあ・・と感じます。


http://ameblo.jp/riverplus

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