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人の気分は些細なことで簡単に左右される

Mind Hacks
 書籍紹介。

 オライリージャパンという出版社の HACKS シリーズといえば、IT系の職種の方なら誰もがご存知のはずのシリーズです。「Google Hacks」「XML Hacks」「BSD Hacks」など、いろんなソフトウェアを使いこなすためのテクニックが詰まったシリーズです。で、今回のご紹介するのは、このシリーズの異色とも言えるこれ。

「Mind Hacks―実験で知る脳と心のシステム」
(著:Tom Stafford、Matt Webb、訳:夏目大、出版:オライリージャパン)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4873112710/249-8927361-7780333

 本書では、簡単にできる心理の実験を通じて、僕たちが普段いかに自分の脳に騙されているか、といったことを紹介していきます。そしてこのときの脳にいったいどんなことが起こっているのかを解説します。

 なんだか「マインド(精神)のハッキング」というと、「催眠術やマインドコントロールの方法が載ってるの?」とつい思ってしまうわけですが、むしろこの本の趣旨はそれとは逆で、いかに自分の脳が自分の考えの通りにならないものか、ということを僕たちに教えてくれます。

 たとえば視覚に関して一般的にもよく知られているのは目の錯覚ですね。本書では、視覚の他にも、聴覚・運動・推論・記憶などなど、およそありとあらゆる分野にわたって話題が繰り広げられます。当ブログで以前に紹介したトピックについてもいくつか扱われていて、ついついニヤリとしてしまいました。

 手ごろに楽しめる実験が本当に数多く載せられているので、つい周りの人に試してみたくなることと思います。僕としては、お昼ご飯の時間の雑談のネタ帳という感じかも。

 最後に、特に面白かったトピックを選んで紹介しようと思ったのですが、どこの部分にしようかかなり迷ってしまいました。悩んだ末、最後の章の「他者との関係」からご紹介。ここの章の話題は、比較的すみやかに僕たちの行動に応用できやすい内容かもしれません。そういう意味では、世間で思われる「ハック」のイメージに最も近いかも。

■ 人の気分は些細なことで簡単に左右される

 John Bargh、Mark Chen、Lara Burrows が行ったこんな実験。心理学専攻の学生30人に、次のようなパズルをやってもらった。いくつかの英単語を提示した上で、これらを並び替えて正しい文をできるだけ早く作ってもらうというパズルだ。被験者の半分には、ひそかに、"careful"、"ancient"、"retired" といった、高齢者と結びつきやすい単語を多く提示した。残りの半分には、特定のイメージと結びつかない中立的な単語を示した。パズルを終えた被験者はその後、廊下をわたってエレベータに向かって歩いてもらう。このとき、被験者には知らせずに所要時間を計測した。高齢者と結びつきやすい単語を多く見た被験者は平均で8.3秒かかった。中立的な単語を多く見た被験者は7.3秒だった。一般に高齢者の特徴である「動くのが遅い」という特徴を、被験者は実践したというのである。

 また別の実験では、被験者の一部に、"aggressively"、"intrude"、"brazen" といった、行儀の悪い態度と結びつきやすい単語を混ぜた。パズルを終えた被験者は、部屋を出て担当者に終了したことを報告するよう指示されていたが、担当者は別の人とおしゃべりさせておく。このとき、行儀の悪い態度と結びつきやすい単語を多く見た被験者は、その60%が10分以内に、報告のためおしゃべりに割り込んだ。一方でそうでない被験者は、10分以内に割り混んだ者は15%のみだった。

 ついつい自分のような年齢になってくると、「自分の心の動きぐらい、自分でちゃんと観察してるし、コントロールもできるよ」なんてことを考えるようになってしまうわけですが、それは単なる希望的な観測に過ぎないのかなあ、なんてことを感じてしまう実験です。

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