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プリオン説はほんとうか?

プリオン説はほんとうか?
 ブルーバックスの書籍のご紹介をもう一冊。

プリオン説はほんとうか? ―タンパク質病原体説をめぐるミステリー
(著:福岡伸一、出版:講談社ブルーバックス)

 プリオンといえば、スクレイピー病、狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ病といった病気(伝達性スポンジ状脳症)の病原体として広く知れわたっている物質です。プリオンという概念が登場するまで、生物学には、「病原体とはすべて遺伝子をもつ物質である」という考えがその大原則にありました。しかし、プリオンにはこの原則に真っ向から逆らうような特徴があり、「遺伝子を持たない、タンパク質だけからなる」ということが明らかになりました。

 プリオンが病気の犯人だとする「プリオン説」は、当初は、まったくの奇説のように聞こえました。ですが、やがてこの説を支持するような実験データが続々と登場し、この説に賛成する研究者が多くなりました。そして、1997年、このプリオン説を提唱したスタンリー・プルシナーは、ノーベル生理学・医学賞を単独受賞しました。

 ですが、プリオン説には、不明な点や、おかしな現象があるという点が指摘されています。そこで本書では、そもそもプリオン説とは何か? そしてプリオン説にはどのような弱点があるか? どのような代替案が考えられるか? といった点を考察していきます。

 かつてプリオン説が世界中の話題をさらった背景には、プルシナーの大胆な営業努力があったようです。この人物は、タンパク質からなる病原体の存在が確定しないうちに、これに「プリオン」という名をつけ、メディアをうまく使って自説をアピールしました。このときには、プルシナー独自のアイデアというものはほとんど含まれていなかったにもかかわらず、「プリオン」という何とも得体の知れない響きの言葉の力を得て、この説は一斉に各メディアで報じられました。その勢いは強く、一時は「ノーベル賞ほしさの売名行為」とゴシップ記事が書かれるほどだったようです。

 もちろん本書では、プルシナーの手口や人間性うんぬんの話と、プリオン説の正当性の部分とは切り分けて考察を進めます。プルシナーの提示したデータやその他の実験結果をもとに検証をしてみると、プリオンタンパク質が病原体そのものであると断定するには、まだまだ不確かな点が多いということに気付かされます。もちろん、プリオンタンパク質が病気の進行に大きくかかわっているということ自体は間違いないと思われるのですが、可能性としてみれば、プリオンタンパク質が病気の原因というよりも、むしろ感染の結果生じた現象(病原体の足跡)というシナリオだって考えられるのです。

 さて、本書は上記のような検証のほかにも、前半部分で述べられている、この病気の存在が認知されだんだんと明らかになっていく経緯に関しての記述が、たいへん簡潔にまとめられていて面白い内容だと思います。

 本書は、タイトルにもあるように、まるでミステリー小説のような雰囲気が漂う一冊になっています。おそらく、理科系の文書にしてはやけに表情を感じさせる著者の文体のためかもしれません。ひょっとすると人によって好みが分かれるところかも; それにしても、専門性の高い内容が次々と登場してくるにもかかわらず、この分野のビギナーでも理解できるような言葉をうまく選んで文章を書けるというのは見習いたい点です。

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コメント (2)

なかつみ:

■無題
プリオン仮説は未だに「仮説」の域を出ていなくって、
状況証拠はたっぷりあるけど、
決め手になる証拠はないんだよねー。

生物学って、何が原因なのかを探るってむちゃくちゃ難しいんだけど、
これも分かるまでにかなりの時間がかかるんじゃないかな。

ノーベル賞取っちゃったから、プリオン仮説もみんなが常識のように
思ってしまってるけど、そういう部分を疑うところから、
次のブレイクスルーが生まれるのかもね。

riverplus:

■プリオンの常識
 コメントありがとうございます。
 やっぱりノーベル賞をとったというインパクトはとてつもなく大きいようですね。世間的な認識がそれ一色になるというほかにも、プリオン説の正当性を疑うような研究には予算が付きにくくなるということもあるようですね。
 常識とみされていることにも間違ってる可能性がある、ということがこういう本を通じて広く知られていくといいなあと思いました。


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