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核実験がのこした産物

 Nature Digest 9月号より、なんだかいろいろと驚いた記事です。

 

 炭素年代測定法と呼ばれるものをご存じでしょうか。よく化石などの年代を調べるのに使われる測定法です。化石に含まれる炭素Cのうち、放射性炭素C14のしめる割合を測定することで、その化石がいつできたかを特定します。ふつう、生物が生きている間は、食物や呼吸を通じて、組織内の両炭素の比は環境中の比と等しく保たれるのですが、生物が死んだ後は、時間とともに炭素C14の崩壊してその比率が変わるため、そこから化石の年代を見つもることが可能になるのです。

 

 こうした手法は、化石に限らず、何か他のものの年代測定にも使えるかも、と期待がなされるかもしれません。たとえば、生きた生物の細胞の年齢を測定するというような応用です。ですがこうした応用はきわめて困難です。というのも、C14の半減期(半分が崩壊するまでの時間)は6000年と、ものすごく長いため、たかだか数年ぶんの違いでは、この比率の変化をとらえることは不可能だからです。

 

 しかし、スウェーデン・カロリンスカ研究所の Jonas Frisen 氏によると、ある特定の時間的条件を満たす場合に、このような細胞の年齢の測定が可能となるらしいのです。

 

 それはどういうことかというと、冷戦期の核実験により、この期間に大量のC14が大気中に放出されたという事実が利用できるというのです。1963年に地上核実験が禁止されるまでに、大気中のC14の量は本来あるべき量の2倍まで増加しました。そしてそこから11年ごとに半減というペースで減少しています。この割合を利用するのです。

 

 上述の Frisen 氏は、このことに加えて、細胞のDNAは細胞がいったん分裂してしまうと炭素が入れ替わらないという事実も利用します。これにより、検体DNA中のC14を測定することで、その細胞の誕生年を高い精度(±2年)で特定できるというのです。(ちなみに Frisen 氏が調べた12例では、そのうちの約半数が1960年代以降に生まれた人たちだった。)

 

 この手法により、脳の細胞について、視覚皮質(視覚の処理をする部分)の細胞の年齢は、被験者の年齢と同じ、つまり、視覚皮質の細胞は再生しないという認識を支持する測定結果が得られたそうです。脳のほかの細胞はこれほど長寿命ではないらしく、このことから、何らかのかたちで、視覚皮質がきわめて安定に結束する必要があるということを示唆しています。

 

 

 そういえば、以前に紹介した、木の成長と二酸化炭素の関連を調べた研究(これ
)も、炭素の同位体を吹き付けることで二酸化炭素の吸収量を見つもっていました。今回の場合は、核実験によって、はからずも理想的な調査環境ができあがっていた、という感じでしょうか。

 

 とはいえ、±2年という高い精度で細胞の年齢が特定できるというのはとても不思議です。というのも、当時C14を大量に出していたのは、きっとある特定の場所の研究施設なのだろうということから想像すると、当時の全世界でC14の濃度にはかなりのムラがあったんじゃないかなと思うのです。とすれば、上記のようなC14の移り変わりのデータ(最大で本来の2倍、その後11年ごとに半減)とは、ある地域で定点調査した結果のはずだと思います。ですが、それに比べて、被験者の人たちは、これまでにあちこちの地域を生活の場所として選んできたことでしょう。つまり、さまざまなC14濃度の場所で生活してきた可能性があるわけです。こうした可能性を含めた上で今回のような正確さが出たとするなら、それはすごく不思議なことだと思います。(ひょっとしたら、大きな引越しをしてないことを被験者に確認済みなのかもしれませんが。。) 実際のところはどうなんでしょうね。

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