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定時発車と、回復運転。

 このごろすっかり自宅でゲームプログラマーになりきっていて、このブログを書けずにいました。

 ひとまず、先日読んだ本のご紹介。

 

 「定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?

 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4101183

 

 偶然にも、世間の鉄道への関心がきわめて高いときに発売された本ということになります。日本の鉄道が、海外と比べて、なぜこうも時間にシビアなのか、なぜ時刻ピッタリの運転が可能なのかについて、深く掘り下げた本です。

 

 本書では、日本の定刻発車を支えてきた重要な要素とは、「遅れないこと」と「遅れてもすぐに回復すること」の二つであると述べています。単に遅れないというだけでは、定刻発車はなしえない。技術がどれだけ進んだとしても、避けることのできない不確定な要因(故障・事故など)のせいで、実際にいくらかの遅れが生じてしまうのはゆるぎのない事実なのです。そしてさらに都合の悪いことに、いまの日本の鉄道網は、すごくせまい時間間隔で、何本もの路線が複雑に入り組んだ構造をしています。したがって、1ヶ所で起きた遅れが、次から次へと、遅れの連鎖を起こしてしまうというのです。特に首都圏の場合、1日に何百万人もの乗客をさばく必要があり、朝のラッシュ時なんかは、少し電車の到着が遅れてしまうと、たちまちプラットホームに収容しきれないほどの客がたまってしまいます。運行の回復のための対処がなければ、いちどトラブルが起きると、一日かけても元に戻らずに大混乱、なんて事態になることでしょう。そういった事態を避けるためのさまざまな工夫が、本書では取り上げられており、読みすすめるごとにため息が出てきます。

 

 それで、遅れの回復するための手段の一つが、回復運転。例の福知山線の事故以来、ニュース等でこの単語を耳にすることが多くありました。回復運転という言葉が、一体どういうことを指す言葉なのかは一目瞭然なのですが、実際のようすはなかなか聞く機会がありませんでした。本書によると、例えば山手線の場合、具体的に回復運転をすることでどのように数分間の遅れが取り戻せるかというと、次のような感じらしいです。

 

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 実はこのとき、運転士たちは各駅の通過時刻を、三秒遅れだとか、六秒遅れだとか、二秒の早着だとか、つねに秒単位で意識している。

 

 (略)たとえば二分程度の遅れが生じた列車を引き継ぐ場合、山手線の運転士は、そのブレーキ扱いによって、一つの駅で遅れを何秒か縮めることを考える。「一つの駅のブレーキ扱いでだいたい五秒縮められるのです」と山手線のベテラン運転手はいう。

 

 仮に一つの駅のブレーキ扱いで「一秒」縮めれば、二九の駅がある山手線一周で、およそ「三〇秒」の回復になる。そして二週目を担当する運転士が、また「三〇秒」縮めれば、遅れは「一分」に減る・・・・・・。(略)

 

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 この本を読んで分かるのは、回復運転の技術は、日本の定刻発車を支える、重要な技術の一つであるということ。どこかの路線でトラブルが起きても、司令室ではすぐに各列車の動きの調整を行って、影響をうけた列車の遅れを最小に食い止める。一方で、影響を受けた列車では、運転士の回復運転によって、1駅ごとに数秒という単位で、遅れを吸収し回復に向かう、・・・というふうに、回復運転というのは、放っておけばあちこちに広がってしまう遅れの傾きを、いわば、プラスからマイナスにもっていこうとする技術だと言えるのです。もし回復の技術がなければ、いつまでたっても遅れが静まらないどころか、(極端な話)日本中に広がってしまうことになるのです。

 

 どうも、一連の報道を見ているうちに、頭の中に、回復運転イコール悪いこと、という図式ができあがっていたという気がします。たしかに、回復運転によって、平常時よりリスクが高まる、というのは、間違いのない事実でしょう。ですが、本当に必要なのは、はたして回復運転によってどのぐらいのリスクが増すのか? はたしてリスクを許容範囲のうちに抑えることができるか? という、リスクをいかに管理するか、という問題であるはずなんですよね。本書は、このようないろいろな気づきのきっかけを与えてくれる良い本だと思います。

 

 この本を読んでから、友人との待ち合わせのために小田急線に乗ったときに、機械故障だかの理由のために、前の列車が遅れている、というアナウンスがありました。その際に、「ただ今、前の列車に遅れがでており、その影響で、本列車は○○駅での接続は行わず、△△駅での接続となりますので、お間違えのないようにお願い申し上げます」という放送があったのですが、このとき、人知れず、列車の中で一人感動を覚えることとなったのでした。

 

 毎日電車を利用している人に限らず、いろんな人におすすめの本です。

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