« 聖ペテルスブルグのパラドックス(5) | メイン | 電車の中で電磁気学 »

ダンテは「慣性の法則」知っていた?

 タイトルを見て、おもわず吹き出した記事。
 だいぶん以前(4月8日)の読売新聞より。
 ウェブにも掲載されていたのですが、既にリンク終了しているようなので、記事検索から引っぱってきました。
 
 ダンテ、ガリレオより前に「慣性の法則」知ってた!?「神曲」に描写
 
------------------------------------------------------------------
 
  ガリレオが「慣性の法則」を発見する300年以上前に、ダンテがその基本原理を理解し、叙事詩「神曲」の中に描写していたことが明らかになった。イタリア・トレント大のレオナルド・リッチ研究員の成果で、7日発行の英科学誌ネイチャーに掲載される。
 慣性の法則は「物体は、外部から力を受けない限り、同じ速度で動き続ける」という物理法則。ガリレオが17世紀前半に発表した。走行電車の中でジャンプしても同じ位置に落ちるのはこの法則で説明される。
 リッチ研究員によると、くだんの表現は、14世紀初頭に執筆された神曲「地獄編」の第17歌に登場。2人の詩人が翼の生えた怪物の背中に乗って地獄を下降する場面を描いた、「ゆっくりと泳ぐように進み 旋回しながら降下する されど顔に当たる風、下から来る風によってのみ飛んでいるとわかる」という部分。
 怪物が等速で飛んでいるため、乗っている主人公は動いているのがわからないほど静かだと感じている。リッチ研究員は、飛行経験がないはずのダンテが、慣性の法則を「驚くべき直感」で理解したうえで表現したと指摘している。
 
------------------------------------------------------------------
 
 元ネタはここ
 この新聞記事のタイトルはなんとも煽り気味ですが、こういう文学の研究がネイチャーに載るっていうのは意表を付かれた感じで面白いです。
 せっかくなので「神曲」日本語訳より該当の箇所を見てみることにしました。
 以下の引用は、このサイトから。
 「地獄編(Inferno)」の第17歌、97行目から117行目の箇所。
 2人の巡礼者ダンテとベルギリウスが、ゲーリュオーンという怪物の背に乗り、第8連環という場所へ向かい降下を始めるシーンです。
 
------------------------------------------------------------------
 
それからその人が叫ばれました。「さあゲーリュオーン、動き始めよ、
  ゆっくりとした動きで降下せよ、大きく広く回れ。
  お前は生きたる重みを運んでいることを覚えるべきである」

ちょうど小舟が岸から滑り降りるように、
  ゆっくりと下がり、どんどんどんどん、それは桟橋を離れました。
  そしてそれが宇宙でまったき邪魔物なしと感じると、
思いのままにそれは尾を揺り動かし
  ウナギのようにうねってそれを広げました、
  同時に足でそれは空中で風をはらみました。
もしパエトーンがもっと畏れたならばと、私は疑う――その時
  彼が父の太陽の戦車の手綱を落として
  私たちが今日(こんにち)見る空の光線を燃やしたのだ――
またもし可哀相なイーカロスがそうであったとしたら――彼の横腹が
  ロウが溶け始めて羽が落ちると感じて、
  父が叫んだのだ、「間違っているぞ、お前の進路は間違っている」――
しかしそれ以上にわたしが空中に居ると感じた時はもっともっと畏れたのでした。
  そしてあらゆる方向には何も見えずただ空(くう)のみ。
  わたしが坐るその獣のみがそこに有りました。
それはゆっくりと進んでいき、ゆっくりと泳ぎ、
  螺旋道(らせんみち)を降下する――しかしわたしはこのことを
  上からの微風と下からの微風で知っているだけだ。

------------------------------------------------------------------
 怪物はらせん起動を描きながら降下しているので、ダンテの身体にはそれにともなう遠心力が働くことになります。
 ですがこの怪物は「ゆっくりとした動き」かつ「広く大きく」旋回しています。
 他の研究によると、このらせん軌道の半径は、およそ35マイル(60km)もあると見積もられているのだそう。
 そのため遠心力は非常に小さくなり、結果、風から受ける力の方を主に感じることになるのです。

 ちなみに、この記事の中で著者は他にもこんなことを述べています。 
 
ダンテは、円周率がおよそ 22/7 であることにも気付いていた。
 これは別の研究での指摘だそうですが。イタリア語の記事のため読むのは断念。
  
ダンテは、風の力のベクトルを、2方向に分解して記述している。
 上記の引用箇所の最後の部分。身体に受ける風の力ベクトルを、水平方向(顔にあたる風)と鉛直方向(下からの風)に分解しているとのこと。
 後者のはちょっとこじつけな感じがしますが。
 前者のはちょっと面白そう、導出の過程をちょっと知りたいなあ、と思うのでした。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.riverplus.net/cgi/mt/mt-tb.cgi/320