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行動ファイナンス理論をかじる

 だいぶ前に読み終わったのだけれど、なかなか感想文を書けずにいた書籍。
 「最強のファイナンス理論―心理学が解くマーケットの謎」(著:真壁昭夫、出版:講談社現代新書)

 本書で紹介するのは「行動ファイナンス理論」と呼ばれる理論です。
 従来の、期待効用の考えにもとづいた経済学の理論(伝統的ファイナンス理論)では、金融市場で見る長期的で大きな動きは、ほとんど説明することが可能だそうです。
 (効用に関しては、当ブログの聖ペテルスブルグのパラドックスの記事(ここ)でも少し登場。)
 ですが、実際の金融市場では、理屈どおりにいかない現象が多い。
 伝統的ファイナンス理論では、こういった市場の動向を説明するのが非常に難しいのです。
 あるいは、ある種の心理実験を行ってみると、伝統的ファイナンス理論の中核をなす期待効用の考えと矛盾する結果が出てしまいます。(アレのパラドックス、エルスバーグの壺など)
 
 そこで、こういった現象をうまく説明するため、少し見方を変えたアプローチの理論が行動ファイナンス理論です。
 主観的で相対的な人間の評価をモデル化して説明することを試みる理論です。
 さて、行動ファイナンス理論の基本をなすのが、「プロスペクト理論」と呼ばれる理論。
 具体的な例や心理実験の結果を交えながら議論を進め、直観的にたいへん同意しながら読み進めることができます。
 
 たとえば、次のような実験を考えてみましょう。
 あなたは、次の1と2のどちらを選びますか?
 
【実験A】
1.100%の確率で1000ドル手に入る。
2.50%の確率で2000ドル手に入る。

 もう一つ、次の1と2ではどちらを選びますか?

【実験B】
1.100%の確率で1000ドル失う。
2.50%の確率で2000ドル失う。

 いずれの実験も、手に入る(または失う)金額の期待値は等しいです。
 ですが実験結果によると、実験Aでは、1を選んだ人のほうが多いそうです。
 また実験Bでは、2を選んだ人のほうが多いそうです。

 このことが指しているのは、
 利益が出る場合は、リスクを避け、確実に儲けを確保しようとする。
 損失が出る場合は、リスクを好み、損をしないチャンスに賭けようとする。

 ということになります。
 利益が出るときと損失が出るときとで、リスクに対する考え方が正反対になっているのです。

 これは、別の見方をすれば、
 利益(または損失)の増加に対するプラス(またはマイナス)の価値の増加量は、次第に小さくなっていくともいえます。(感応度の逓減)
 2000ドルもらえることの価値は、1000ドルもらえることの価値の2倍には達しないのです。


 もうひとつ、こんな実験を。
 次の各ゲームに、あなたならいくら払って(またはもらって)参加するでしょうか?
 
ゲームA : 5%の確率で100ドルが得られる。
ゲームB : 5%の確率で100ドルを失う。
ゲームC : 95%の確率で100ドルが得られる。
ゲームD : 95%の確率で100ドルを失う。

 いずれのゲームも、客観的な期待値は5ドルのプラス(またはマイナス)になります。
 ですが、実験の結果の平均値は、

ゲームA:14ドル
ゲームB:マイナス8ドル
ゲームC:78ドル
ゲームD:マイナス84ドル

 となったそうです。マイナス8ドルというのは、つまり8ドルもらえるなら参加するということですね。
 AとBから、いずれも5%という小さな確率を過大に評価しているということが分かります。
 同様にCとDでは、いずれも95%という大きな確率を過小評価しています。
 さらに、AとBの数字を比較すると、利益が出るAの方が過大評価の度合いがより強く、CとDの数字を比較すると、同様に利益が出るCの方をより過小評価していることが分かります。

 つまり、確率をそのまま数字通りに評価していない、ということを示しています。
 当選確率が0%に近い宝くじに過度の期待を抱いたり、80%の確率で当選する選挙結果に必要以上に不安を感じたりすることも、これに相当しているのです。
 
 また、損失は同額の利益よりも相対的に大きく感じる、ということも言えます。
 1万円の臨時収入を得たときの喜びと、1万円の入った財布を落してしまったときの悲しみとでは、後者のほうが強いということになります。

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 ・・・と、以上でプロスペクト理論の紹介は終わりにしますが、
 直観的にも、うんうん確かにそう評価するよなあ、とうなずきながら楽しく読むことができました。
 ただ、読者に数学の知識をあまり要求しないスタイルのせいで、かえってあまりピンと来ない点もありましたが。
・「効用」「感応度」ってどんな定義? 違うものなの?
・結局プロスペクト理論は、主観的評価を数理的にどうモデル化するのだろう?
 という点が気になってしまう読者も多いのでは。。
 本書の中では、効用(関数)の定義を「幸福度と保有する全財産の関係を関数として表したもの」、感応度の定義を「物事に対する感じ方、評価」としています。なんですか幸福度って;
 やっぱり根本の定義の部分の理解があいまいだと、豆腐の上で積木遊びをしているみたいで心許ないです。
 適当にグーグルに聞いてみると、たとえばここなんかが数学的に詳しく説明しています。
 あと、数理的なモデル化の方法については、巻末に参考文献として挙げている「金融バブルの経済学―行動ファイナンス入門」が良さげだそうです。あるいはこのサイトも。(いずれも大学院レベル。)

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