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除菌作業、その後。

 今月の日経サイエンスの特集は「清潔社会の落とし穴」。
 その中の一つに、「ピロリ菌の意外な効用」という記事がありました。
 僕は、ふだんはなかなか医学系の記事に目を通さないのですが、今回はたいへん興味をひかれました。

 すでに広く知られていることですが、ピロリ菌というのは、ヒトの胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因となっている菌。
 胃酸のような酸性度の高い環境でも生きられるのが特徴です。
 
 実際、僕自身もかつてこの菌の保有者で、こいつにはいろいろと苦しめられました。
 受験や卒論といったイベントになると、決まって炎症が起きるのですね。
 で、数年前に、この菌の除菌療法をやりました。
 除菌といっても、単に薬(抗生物質)を12時間おきに1週間飲み続けるだけ。
 そのおかげで、今はまったく再発することなく生活できています。
 そんなわけで当時の僕と似たような症状の人に出会うと、誰彼ともなく薦めてました。
 
 ですが今回の記事は、これまで潰瘍や胃がんになるリスクとしか見なされてなかったピロリ菌に、宿主に利益をもたらす点がどうやらあるようだというのです。

 ピロリ菌のうちで cagA 遺伝子を持つものは、胃の酸性度高くなると、CagA というタンパク質を作り出します。
 すると宿主に炎症反応が起こり、それによって胃粘膜にある酸産生細胞のホルモン調節が変化し、酸性度が低下します。
 あるいは逆に、胃の酸性度が低いと、 CagA の生産が落ち、炎症も弱まるのだそう。
 
 つまり、胃の酸性度が高くなりすぎないよう、ピロリ菌が調整してくれているのです。
 ですから、ピロリ菌がいなくなると、酸性度の調整役がいなくなって、食道や胃の一部分が強酸性の胃内容物にさらされることになり、そのため、食道下部の炎症のような疾患にかかりやすくなるというのです。

 実際に、著者たちの研究によると、ピロリ菌( cagA 遺伝子を持つタイプ)に感染している人では、食道下部・胃上部の腺がんのリスクが著しく低いことが分かったそうです。

 したがって、ピロリ菌を撲滅すれば胃がんのリスクが減るなどのよい点があるが、悪い影響も生じ得ると言えます。
 善悪のバランスは、さまざまな要因(年齢・病歴等)によって違ってくるため、一概にはいえないでしょう。


 ・・・と、今回得た知識は、僕はまったく思ってもみなかった内容でした。
 結局は、多くの種類の生物が絡みあう生態系で、1つの種類の要因だけをコントロールするというのは、安全とは絶対に言い切れない。
 これって、ピロリ菌に限らず、いま流行ってる健康ブームのすべてについて言える気がしますよね。

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