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2008年10月04日

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する


ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する
(著:W・チャン・キム、レネ・モボルニュ、訳:有賀 裕子、出版:ランダムハウス講談社)

★★★★★

あらかじめ聞いていた評判の先入観はあったけど、それでもとても良いと思った。成功した企業の例を戦略キャンバスに重ねてブルーオーシャンの概念を説明する。紹介される企業の例が多彩かつ身近ですこしもあきさせない。
後半は経営者むきの内容のためあまりぴんとこず。
あとAmazonの書評を見てて同意したけど、レッド・オーシャン=悪、と解釈してしまうのは危険。


p.23 戦略論はレッド・オーシャンでの競争をなによりも重視してきた。というもの、企業戦略は兵法に根ざしていて、いまだに兵法の影響が色濃く残っているからだ。
戦略とは一定の限られた土地をめぐって敵と向き合うことを意味する。

p.24 その結果、新規事業の86%は製品ラインの拡張、つまり、既存の市場空間というレッド・オーシャンでの小さな改善だということが判明した。ところが、こうした取り組みの成果は全売上高の62%、全利益の39%を占めるに過ぎない。

p.25 製品やサービスのコモディティ化、価格競争、利益率の縮小などが加速してきた。
調査からは、主だった製品・サービス分野では一般にブランドごとの違いが狭まり、その結果、人々は価格を重視して購入ブランドを決めている、という事実が浮き彫りになっている。

p.27 「ビジョナリー・カンパニー」が絶賛した企業のうちの何社かは、その企業自体ではなく産業全体が好調だったために繁栄できたのである。

p.31 ブルー・オーシャンを切り開いた企業は、競合他社とのベンチマーキングを行わず、そのかわりに従来とは異なる戦略ロジックにしたがっていた。ここではそれをバリュー・イノベーションと呼ぶ。

ブルー・オーシャンを生み出せるかどうかを分けるのは、最先端のテクノロジーでも、「市場参入のタイミング」でもない、ということである。

p.37 レッド・オーシャン戦略は、業界の構造は一定で企業はその枠組みの中で競争せざるを得ない、との前提に立っている。言い換えれば、学問の世界で構造主義、環境決定論などと呼ばれる考え方をとっているのだ。ところがバリュー・イノベーションは、市場の境界も業界構造も一定ではなく、そこで活動する企業などの行動や発想しだいで変わる、との見方に基づいている。このような見方を再構築主義と呼ぶ。

p.51 買い手に提供する価値を見直して、新しい価値曲線を描くために、筆者たちは四つのアクションという手法を編み出した。

Q1:業界常識として製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か
Q2:業界標準と比べて思い切り減らすべき要素は何か
Q3:業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か
Q4:業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か

p.61 優れたブルー・オーシャン戦略の価値曲線には、①メリハリ、②高い独自性、③訴求力のあるキャッチフレーズ、という三つの特徴がある。

p.74 視野を広げて考えると、企業は同業他社だけではなく、代替財や代替サービスを提供する企業とも競争しているといえる。代替財は、機能や形状は異なるが、同じ目的のために使う製品やサービスをさす。

ブルー・オーシャンを開拓するためのパス:
・代替産業に学ぶ
・業界内のほかの戦略グループから学ぶ
・買い手グループに目を向ける
・補完財や補完サービスを見渡す ← 買い手がどのようなトータル・ソリューションを求めているか
・機能志向と感性志向を切り替える
・将来を見通す

p.141 非顧客層の三つのグループ
・第1グループ:市場の縁にいるが、すぐに逃げ出すかもしれない層
・第2グループ:あえてこの市場の製品やサービスを利用しないと決めた層
        満足できないか、価格が高すぎて手が出ない
・第3グループ:市場から距離のある未開拓の層

p.161 フィリップスの<CD-i>は機能の多彩さゆえに「夢のマシン」として宣伝され、ビデオ、音楽ソフト、ゲームソフト、学習用ツールなどに対応していた。ところがあまりに機能が多すぎて、一般の人々には使い方が分からなかった。
CD-iの責任者は、最前線のテクノロジーは買い手にとびきりの効用をもたらすに違いない、と錯覚してしまったのである。

p.163 効用を生み出す6つのテコ
・顧客の生産性
・シンプルさ
・利便性
・リスク
・楽しさや好ましいイメージ
・環境でのやさしさ

p.170 アイデアを形にしたとたん、知識はごく自然に他者へと流出していく。排他性の欠如によって、ただ乗りのリスクはいっそう高まる。
技術面での新たな発見に支えられているわけではない。このため、特許で守るわけにはいかず、排他性もないため、模倣されやすいという弱点がある。

(技術イノベーションはバリューイノベーションとは違う、という話が冒頭であったけど、じゃあ技術って何のためにあるの?という問いへの解答がここにあるのだと思う。)

p.198 ブルー・オーシャン戦略を実行する上での四つのハードル
①大胆な変革の必要性を従業員に理解させる上での意識のハードル
②経営資源のハードル
③従業員がやる気を損なう士気のハードル
④社内外からの変革への抵抗という政治的なハードル

p.213
ティッピング・ポイント・リーダーは、変革への取り組みを大々的に行おうとはせずに、特定の分野に集中して行うという逆の道を選ぶ。とりわけ効果の大きい三つの要素に力を入れる。「中心人物」「金魚鉢のマネジメント」「細分化」。

p.284 独占的な立場にある企業は、二つの行いを通して社会的損失を招くと考えられてきた。第一に、最大限の利益を得ようとして価格を高く設定する。すると、その製品はほしいが懐に余裕のない顧客は、排除される。第二に、競争が十分に働かないため、独占的な立場にある企業はともすれば効率向上やコスト削減を怠り、希少な資源を必要以上に消費してしまう。


グーグルに勝つ広告モデル


グーグルに勝つ広告モデル
(著:岡本一郎 、出版:光文社)

グーグルはほとんど関係ない。いまあるメディアが今後どうやって生き延びるか?という問題への提案が主な内容。個人的には、提言の部分よりも、既存メディアの特徴の分析のしかたがとても良いと思いました。p.29の視点が特にgood。そもそも人がメディアを視聴する理由って何? という単純な問いを考えるいい手がかりになります。

★★★★★

p.9 大規模な国家のシステムを、市民革命を経ずに変革するような稀有な歴史を持っているのは日本だけです。

p.11 テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4マスメディアのビジネスモデルの本質は、大衆の注目の卸売りです。アテンション・エコノミー、これが20世紀型マスメディアの本質です。
一方、近年騒がれている21世紀メディアとしてのグーグルが依拠する経済は、インタレストです。

p.14 メディアに使える時間は一人当たり約5時間×1.2億人分しかない。これを多くの競合メディアやエンタメ、ゲーム等で奪い合うことになる。

p.16 テレビも含めたメディア/コンテンツ産業が、他の産業と大きく異なる点の一つとして、「過去のストックが競合になる」という点が上げられます。

p.20 社会全体が、膨大になりすぎたコンテンツや情報を整理することに対して、高い付加価値を見出している、ということなのです。

p.21 2007年7月に、NTTレゾナントと三菱総合研究所が行った、インターネットによる動画配信サービスの利用状況に関する調査では、テレビ放送の視聴が動画視聴時間全体に占める割合は、特に若年層で低下しており、10代では6割程度まで下がっていることがわかっています。

p.26 ゼロサムゲームを解消するためのアプローチとして、「ゲームのルールを変える」「サムの総量を増やす」。

p.29 インターネットとマスメディアの代替性は、
①提供情報
②情報の消費シチュエーション
③アクセススタイル
の三つのポイントを分析することで、判断が可能。これまでは往々にして①だけだった。

AMラジオは、①という側面からだけ見れば、確かに代替は可能かもしれないが、②③を考慮に入れると、非常にユニークなメディアで、代替性は思ったほど高くない。

p.37 市場の成熟にしたがって、理性的・説得的メディアから情緒的・感覚的メディアに移行することがマーケティング上の課題になる。

p.45 セグメントされたターゲットに対して、情緒的・感覚的なブランドコミュニケーションを行うことが可能なメディアが、はじめて登場した。
以前はこれがなかったたために、シャープなコンセプトを持たない横並び商品と、意味の変容をもたらさない陳腐な広告が大量発生した。

p.49 ネットは常に自分から能動的なアクションを起こさないと前に進まない。しかもそのアクションが直感的ではない。実はここに、テレビ視聴者がネット視聴者にスイッチする際の最期の防波堤があるのですが、ここ数年の技術開発は、大きくこの部分、つまりアクセススタイルの柔軟性の獲得に向けられています。

p.59
ポイント1 マスメディアの売り上げは獲得したアテンションの数に比例する
ポイント2 アテンションの絶対数は増えない
ポイント3 各局のアテンションシェアは減る
結論 今後マスメディアの売り上げは減る

p.64 視聴者の映像コンテンツに対するニーズは、
①タイムシフト(好きなときに見たい)
②編成権(好きな部分だけ見たい)

p.84 「今自分が見ているこの番組を、世の中のたくさんの人もまた同時に見ている」という気持ちが、いかに社会に安堵を与えてきたか。これはテレビのもつメディアとしての本質的な特徴を現していると思います。社会に対する連帯感。

p.91 子ども部屋メディアの盟主としての地位を失ったラジオ。生活に根付くメディア。何となく、無目的に聞くメディア。
ラジオというのは若いときに聴取を習慣化させる、生活のリズムの中に溶け込ませるということが戦略的には重要。
過去においては、中高生が自宅の部屋で「個人的に接触できるメディア」はラジオしかなかった。深夜まで部屋で起きているとき、家族以外の誰かとつながっている感覚を得たい、親をバイパスして世界を見てみたい、そんな彼らの気持ちに応える、開かれた一つの窓としてラジオが機能していた。

⇒ テレビ数の増加、インターネットの参入により、子ども部屋のアテンションのシェアが奪われた。

p.98 FMとAMとで、ネットとの代替性はことなる。

p.113 なぜ新聞の購読世帯数は減少したか
・情報のコモディティ化
・常識へのニーズの減少

p.132 ネットで代替取得可能な情報を扱っている雑誌が食われている。特に一般週刊誌。
①ネットの速報性。
②モビリティ優位の喪失。
③会社帰りにキヨスクで買って帰宅途中の暇つぶしにする、という消費スタイルが典型的。これらが携帯電話やメールに食われている。

ビジネスパーソン向け、中年・熟年向けファッション誌の調子のよさも説明できる。

p.139 LEONが公言している「年収2000万円以上がターゲット」は実際は年収2000万円以上の人のライフスタイルに憧れている、年収数百万円~1200万円ぐらいの一般層を、読者として取り込んでいる。

p.145 大型のデジタルハイビジョンモニターを買う人のほとんどは、テレビ放送のためでなくDVDやゲームを大迫力で楽しみたいという理由で購入していることがわかっています。

p.180 雑誌「宣伝会議」が2006年に行った調査によると、消費者が商品の購入を検討する際にインターネットの情報を参照する率は40%になっている一方、マスメディアによる広告は9%しか参照されていません。

p.194
ポイント1 インターネットを、情報をプッシュするための第五のマスメディアと思わないこと。
ポイント2 ネット上では「潜在的なユーザーの不満」と顕在化させる「場」作りが大事。
ポイント3 担当者の顔が見えるコミュニケーションが「場」つくりのポイント。

2008年10月05日

疑似科学入門


疑似科学入門
(著:池内 了、出版:岩波書店)

水からの伝言とか納豆事件とか、最近の事例をふまえたエセ科学の入門解説。第一種~第三種の分類がユニーク。
エセ科学については「人はなぜエセ科学に騙されるのか」がクリティカルに良いです。

予防措置原則の考え方はこれにはとても一理あると思うのだけど、たとえば環境にかんする問題として、一刻の猶予もならないほどに事態が深刻になったときはどうすればよいのだろう?そうなってもまだ、石橋を叩き続けることしか方法がないのかな?

★★★

p.v
第一種疑似科学:人間の心理につけこみ、科学的根拠のない言説によって人に暗示を与えるもの。
第二種疑似科学:科学を援用・乱用・誤用・悪用したもので、科学的装いをしていながらその実態がないもの。
 科学的に確立した法則に反しているにもかかわらず、それが正しい主張であるように見せかけている言説。
 科学的根拠が不明であるにもかかわらず、あたかも根拠があるような言説でビジネスの種となっているもの。
 確率や統計を巧みに利用して、ある種の意見が正しいと思わせる言説。
第三種疑似科学:複雑系であるがゆえに科学的に説明しづらい問題について、真の原因の所在をあいまいにする言説で、疑似科学と真正科学のグレーゾーンに属するもの。

p.13 「擬似宗教」の判定は容易ではないが、その第一の特徴は、精神世界のみに閉じず、物質世界までも支配できると自認している、ということだろう。

p.24 ウィリアム・クルックスは、心霊現象に魅せられて「サイキック・フォース」なる新しい力まで導入したほどである。科学で説明できないと見なすや、十分に吟味することをしないまま短絡的に超常現象にのめり込んでしまったのだ。

p.28 知覚は認識のボトムアップとトップダウン。これら二つの逆向きの作用が組み合わさって初めて「パターン認識」が可能になる。
エラーの原因。「知ってるものに当てはまるとそれ以外に見えなくなる文脈効果」「自分のスキーマに左右される」「知覚的防衛」

p.35 「肯定性のバイアス」。一般に人は、否定的な情報より肯定的な情報として受け入れる方が精神的負担は小さく利用しやすいので、自然のうちにそちらに傾いた思考をするのである。

p.39 たとえば、女性ドライバーは運転が下手だという信念の持主は、そのような目で常にドライバーを見ており、実際に下手な女性ドライバーを目撃すると信念をいっそう強める。

p.66 「ホーソン効果」。調査をするという通達さえすれば、優れた結果が出てくるという誤認が起こった。実際には、調査が入ると聞いて、労働状況や環境条件を改善し作業員がせっせと熱心に働いたため、本来持っている以上の能力を発揮する結果となったに過ぎない。
原因が結果を導いたように見えるがそうではなく、その間に隠れた真の原因があることを見逃しているという例である。

p.96 道徳的な価値観を科学で表現されると簡単に受け入れるという傾向もある。
誰も否定できない科学が道徳の代行をしてくれると思い込むのである。昔なら、「ウソをつくと地獄で鬼に舌を抜かれるぞ」と脅されたが、もはやそんなことを子どもは信じなくなったので新しい手が考え出されたとも言えよう。

(これはなるほど!と思いました。結局子どもに言うことを聞かせるためには、今も昔も説明だけでは効果がなかった。そこで、絶対的存在というものを設けて、これは絶対に正しいことなんだよ、と子どもに盲目的に信じ込ませることがもっとも効率的な子育てのやり方だったのかも。昔は妖怪がその役目を持っていたけど、今は自然科学がそうなってる。)

p.111 健康や長寿に関する情報をどこから得ているかを調査したら、テレビが73%で一番高く、続いて新聞(44%)、雑誌(23%)と続き、医者は14%しかなかったそうである。

p.141 結果に対して明白に原因を指し示す要素還元主義に科学に固執して、「複雑系」にかかわって少しでもあいまいな部分があれば「科学的根拠なし」として切り捨ててきたのである。原因と結果が一対一対応をしていない限り化学的とは認めない態度、これは科学の態度、これは科学の範囲を狭く閉じ込めた疑似科学的発想といえるだろう。

p.147 複雑系であるために原因や結果が明確に予測できないとき不可知論に持ち込むのではなく、人間や環境にとっていずれかの論拠がプラスになるかマイナスになるかを予想し、危険が予想される場合にはそれが顕在化しないよう予防的な手を打つべきなのである。予防措置原則。

p.162 被害者の数がより少ないほど、より恐ろしく感じるというパラドックスである。

2008年10月10日

iPS細胞 世紀の発見が医療を変える


iPS細胞 世紀の発見が医療を変える
(著:八代 嘉美、出版:平凡社)

わかりやすさにかなり気をつかっていて良いです。つい数日前に話題になった緑色蛍光タンパク質もわずかですが登場して面白いです。繰り返し読み直したい本。

自分と3つしか違わない人がこういう本を書くって、すごいよなあ、と内心おもった。

★★★★

p.26 受精卵→桑実胚→胚盤胞=栄養外胚葉+内部細胞塊
栄養外胚葉は胎盤や羊膜などに。内部細胞塊は神経細胞、表皮、骨格、筋肉、生殖系などに。
内部細胞塊を取り出して培養条件を変えるとそれぞれに分化する。

p.31 移植された組織が他の細胞に働きかけて別の組織を作り出すこと・・誘導
誘導を引き起こす存在・・オーガナイザー

<分化>というプロセスは、オーガナイザーが引き金となって引き起こされる誘導の連続。

p.47 ES細胞だけを子宮に戻したとしても胎児になることはない。胎盤をつくることができないため。
受精卵がもつ能力は文字どおり万能だけど、ES細胞はそうではない。ES細胞が持つ能力は万能ではなく<多能性>と呼ばれている。

p.50 DNAは細胞の核の中でこんがらがってしまわないように、ある程度の長さを単位として<ヒストン>という大きいタンパク質の軸に巻きついている。
DNAの配列やヒストンに<メチル基>とよばれる分子がくっつくと、遺伝子に転写因子が結合できなくなるし、ヒストンに巻きついた遺伝子を緩める役割のタンパク質も近づけなくなる。

p.61 <発生>や<分化>の進行とは、不要となった遺伝子にカギがかけられ、タンパク質がつくられなくなっていくプロセスである。

p.65 幹細胞と呼ぶための2つの条件
・分化する能力を持っている
・分化する能力を持ったままで分裂することができる

p.77 幹細胞の中にある、細胞分裂を食い止めるタンパク質は、細胞をいわば冬眠状態にする。このタンパク質はリスなどの動物で冬眠時に脳細胞の中で作られるタンパク質と同じものである。

p.92 イモリの細胞の中では、分化した細胞が未分化な状態に戻る、つまり体内で<脱分化>している、ということであり、身体の中に幹細胞がストックされているというわけではないのだ。

p.99 大便に含まれるものの6割は水。そして2番目が死んだ胃や腸の細胞の死骸、それから腸内に住んで食物の消化吸収を助ける大腸内細菌の死骸であり、食べ物のカスは最も少ない。

p.106 細胞の死ぬ数が肝臓の再生する能力を超えてしまったとき、死んで脱落した細胞の部分が空洞になってしまう。肝臓はこれを防ぐために、繊維のような硬い物質を使ってこの空洞を埋めようとする。これが繊維化と呼ばれる現象だ。健康な肝細胞が著しく減ることによって、肝臓が正常な機能を果たすことができなくなる状態、これが肝硬変といわれる状態だ。

p.137 がん遺伝子とよく似た遺伝子がES細胞のみでつくられている。
ES細胞の増殖能力やがん化にはこの遺伝子がかかわていることが示され、同時にES細胞の多分化能と増殖能力はそれぞれ別のシステムによって起こる働きだということが確かめられた。

p.143 四つの遺伝子を組み込んだ皮膚の細胞をマウスの胚盤胞に注入し、マウスの子宮に戻したところ、注入した細胞がマウスの胎児の中にも存在していることが確かめられたのである。
iPS細胞誕生の瞬間であった。

p.153 iPS細胞の登場により、倫理的な問題があるES細胞研究はもはや不要なのではないか、という空気が生まれつつあるが、これは大きな誤解である。

p.197 人間を含む動物では、脳が発達して高等動物などと呼ばれるようになるにつれて、身体的な再生能力は失われていく。
そして私たちは、自分たちを生かしめるシステムを記述する能力までも獲得してしまった。本当に神がいたのなら、身体再生という強靭な生命力を奪ったのは、獲得した知性の代償としてであったかもしれず、失われた生命力を知性で取り戻そうとするのは、私たちのエゴなのかもしれない。

2008年10月18日

テレワーク―「未来型労働」の現実


テレワーク―「未来型労働」の現実
(著:佐藤 彰男、出版:岩波書店)

とてもよく整理されてる感じでよいです。
この言葉に対してTVとかを通じて多くの人がもってるイメージ「場所や時間にとらわれない柔軟な働き方!」はこの言葉のほんのごく一部でしかないのだなあと気づかされました。

★★★★

p.ii テレワークには、自宅で働く「在宅勤務型」だけでなく、内職のような「在宅ワーク型」、営業車の中やファミレスでも携帯電話とノートパソコンを活用して働く「モバイルワーク型」など、実際のテレワークには、さまざまな働き方が含まれている。

在宅勤務型・・企業や役所などに雇われている従業員が、職場だけでなく、自宅でも働くタイプのテレワークを指す。自宅での勤務時間が、サービス残業ではなく、正規の労働時間としてカウントされることが条件。

モバイルワーク型・・営業系の社員などが、職場や自宅だけでなく、移動中の乗り物内や喫茶店、顧客先などで携帯電話とノートパソコンを活用して働く。

p,8 政府が期待する8つのメリット
・少子化・高齢化問題などへの対応
・家族のふれあい、ワークライフバランスの充実
・地域活性化の推進
・環境負荷削減
・有能・多様な人材の確保、生産性の向上
・営業効率の向上・顧客満足度の向上
・コスト削減
・災害などに対する危機管理である

p.14 テレワーク人口は2521万人。ここには調査のあった週に1分でも自宅残業をしてパソコンを使ったホワイトカラーや、自営型の場合も、自宅と店舗が分かれていて、両方で帳簿付けを行っているような場合は、テレワーカーとみなされる。

p.18 サテライトオフィスの設置を検討する必要性が薄れた。その後の推進施策では、地方活性化のためのテレワークセンターに力点がシフトしている。

p.24 雇用されずに請負で働く在宅ワーク型は、振興策とは無関係といってよいだろう。

p.39 定期的に在宅勤務をしている人々に共通するのは、ほとんど例外なく高度な専門職についているという点である。

ソフト開発は最近は向いていない。

p.49 いたずらに「自宅で働くので子育てとも両立がしやすい」制度だけが普及していくなら、「家事育児は女性の仕事」という差別意識をますます強める可能性も否定できない。

p.52 日本人の組織では、仕事の遂行単位は、それぞれに専門的技能と権限を持つ成員なのではなく、職場そのもの」
集団主義は、日本企業にとって大きな利点。だが、在宅勤務型テレワークの導入のための条件のひとつが、個々人の仕事の範囲の明確化であるなら、おおかたの企業にとって「うちの会社にはなじまない」と判断されるのも不思議はない。

p.53 また、情意考課を重んじる評価のシステムも、在宅勤務導入の妨げとなる。

p.55 基本企業にとっての「能力」とは、「『人格』『人格』とほとんど同義」なのである。

p.89 自宅で事務処理をしなければならないのは、営業所のオフィスがなくなったことが原因である。営業所の廃止と同時に事務職員がリストラされたため、営業職に事務処理の負担がかかってくる。

p.93 入社時からモバイルワーカーである若い社員たちは、上司や同僚と接触する時間がない。役割モデルを選べない。何のために自分がこの会社にいるのか、に答えの出しようがない。

p.111 個人の裁量で在宅勤務をしているという人々が、自宅で行う作業は、法的な視点からみれば、実のところ労働ですらないのである。

p.115 単なる強制よりも「自発的な」ノルマ設定の方が、より過酷な労働を生む。

p.125 在宅ワークエージェントでは、登録者のうち実際に仕事を受注できるのは、年間で数%にとどまっている。

p.129 在宅ワーカーの時給の平均は860円。しかし平均値に意味はあまりない。報酬格差がかなり大きいため。

p.132 一定の収入を確保しようとすれば「えり好みできない」という声も多かった。せっかく身につけた技量に見合わない仕事を余儀なくされる「キャリア・ダンピング」とでもいうべきありさまが常態化している。

p.144 1社分の社名・住所・電話番号・メールアドレス等を1組としたデータが報酬10円。

p.149 請負制によって働く在宅ワーカーの場合、最低賃金は適用されない。

p.152 入力系業務の報酬が極端に下落したため、在宅ワーク全体としての報酬額が低下したのである。「だれでもできる」とおもわれている。

実際は、「入力作業がきちんとできる人は、志願者のうち5人にひとりぐらい」

p.181 同国のエレクトロニクス産業では、研究所と工場を別々にして、遠く離れた地域に建設する傾向が強い。その目的は、賃金が高く労働時間の裁量性が高い研究所の職員と、工場で働く労働者たちを隔離することだという。他人の労働を見えなくすることで、格差の存在を隠し、従業員たちの不満を抑えることに成功したというのである。

イスラム金融入門―世界マネーの新潮流


イスラム金融入門―世界マネーの新潮流
(著:門倉 貴史、出版:幻冬舎)

第1章の金融の仕組み紹介は分かりやすくて面白いけど、2章3章でイスラム各国の経済情勢の概要解説な部分は個人的にはちょっと単調で退屈。現社の教科書を読んでるみたいな。情報としてはきれいに整理されていてとても有用。本が悪いというよりも、自分の好みとマッチしなかった感じ。

★★★

p.17 同時多発テロの影響で、米国の金融機関などに預けられていた膨大なムスリムの金融資産がいつ凍結されるかもわからないという状況になり、ムスリムが自分たちの金融資産を先進国の市場から引き揚げるという動きが出てくるようになった。そして、引き揚げられたお金が「イスラム金融」のほうへと向かったのである。また、自分たちのアイデンティティーを失うことを恐れたムスリムたちが「イスラム回帰」の傾向を強めた。

p.26
コーラン・・イスラム教の経典
ハディース・・ムハンマドが生きていた頃の慣行(スンナ)をまとめたもの
シャリーア・・コーランとハディースの教えに基づいて作られた法律
イバダード・・シャリーアの中で、信仰に関する部分
ムアラマート・・シャリーアの中で、日常生活に関する部分

イスラム金融とは、ムアラマートで定められた金融活動の規範に適合した金融取引のことを指す。

p.30 イスラム金融を手がける金融機関は、必ず「シャリーア委員会」を設置しなければならない。ひとつの「シャリーア委員会」に、最低でも3人のイスラム法学者が必要とされる。

シャリーアに適合しているかの判断や解釈は微妙。

イスラム金融が急拡大する一方で、「シャリーア委員会」のメンバーの人材不足が深刻化している。

p.33 イスラム金融は大きく分けると、4つの取引形態がある。
・ムラーバハ・・銀行が、お客さんがほしい商品を製造業者から仕入れて、それを販売するという仕組み
・イジャーラ・・銀行がお客さんのかわりに製造業者から商品を購入して、その商品の所有権を一定期間リースする
・ムダーラバ・・銀行が投資家からお金を預かって、そのお金を事業に投資して得られた収益を投資家と事業者でわけあう。
・ムシャーラカ・・銀行と投資家が手を組んで事業の共同経営をおこなう。

p.43 すべての金融機関を「イスラム銀行」にしてしまった国では、経済・社会に様々なひずみが生じており、一般銀行と併設している国の方がうまく機能している。

イスラミック・ウィンドウ・・イスラム銀行と一般金融の両方を兼務する銀行で、イスラム窓口の部分

p.129 すべての銀行をイスラム銀行にした結果、国民だけでなく政府もイスラム銀行から資金調達をしなくてはならなくなったことで、資金借り入れ競争の激化によって、官民の資金調達コストが大幅に上昇した。また、イスラム銀行の内部で汚職・腐敗が横行した。

p.49 中東の産油国は、いずれもイスラム教を信仰しているので、中東の投資家が資産を運用するに当たって「イスラム金融」に対するニーズは根強くある。オイルマネーがイスラム金融を信仰する国々に向かうようになってきた。
→ どの国もイスラム金融の環境を整備しようとしている

p.53 マレーシア。国内にイスラム教徒が多いという事情もあるが、イスラム金融を振興していると、原油高で潤う中東職のオイルマネーが流入しやすくなるので、あえてイスラム金融を発展させようという意図もある。

p.94 湾岸協力会議(GCC)各国は、ドル・ペッグ制という為替制度を採用しているが、これがインフレを引き起こす元凶となっている。サブプライム問題によりドルが売られているため。

通貨を切り上げればいいかというと、そうでもない。GCC諸国が原油の輸出で稼いできた外貨のほとんどがドルだから。切り上げると外貨準備高が目減りしてしまう。

→UAEのアブダビ投資庁が07年11月にシティ銀行に75億ドルを出資することにしたのもこのため。

p.142 インドネシアでは政治家や官僚の汚職事件が頻繁に起きるが、これもイスラム回帰の動きを強める一因となっている。

p.206 金やプラチナの国際価格の高騰の一因・・主要産地である南アフリカで電力不足が発生して供給不安が高まった。

p.213 サブプライムローン問題の場合、単に住宅ローンの焦げ付きという問題だけであればその悪影響は米国経済に限定されるのだが、サブプライムローンが証券化され、ヘッジファンドなどが購入、世界的な信用収縮につながった。イスラム金融の場合には、基本的に金融活動は生産活動と1対1で対応する仕組みになっている。何らかの生産活動があって、それにおカネを投資する形式になるので、投機的なおカネが流れ込むという現象はおきにくい。

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