2008年11月04日

ガラパゴス化する日本の製造業


ガラパゴス化する日本の製造業
(著:宮崎 智彦、出版:東洋経済新報社)

国内市場に特化しすぎたあまりハイエンド製品に追いやられた日本企業の特質を、おもに台湾企業、韓国企業との比較でかんがえる本。水平分業を徹底的に追求した台湾をはじめとする企業が、世界で売れるミドル・ロークラス製品をかっさらっていってるという構図。データが豊富でかなり「使える」感じ。

たしかに本書で言われている通り、一番のボリュームゾーンを他所に持っていかれてるというのは納得。かつての途上国で資産の余裕のある層が一気に増えたことも拍車をかけているのでしょう。一方で気になるのは、ハイエンド製品のターゲットとなる層(高所得者層)は今後どうなるのだろう?という点。今後10年は今の傾向が続くのは想像できるけど、さらにその後の10年に、ミドルクラスで満足しない層が大量に発生し、ハイエンドを得意とする企業にとっておいしいゾーンに成長する、というストーリーはありえないのかな?

★★★★

p.17 日本の携帯電話はハイエンドかウルトラハイエンドに属する製品が大部分。世界では80%以上がミドルレンジ以下。

p.31 ダブルスタンダードが引き起こした日本企業の課題
1.台湾企業は競合とは思えない錯覚
2.日本を優先するか世界を優先するか
3.カスタム製品として匠の技を活かしきれない

p.42 日本、韓国、台湾、中国のエレクトロニクス企業の環境を考える5つの切り口
1.人口、経済力、自国のみでビジネスができるか
2.ハイテク優遇税制
3.徴兵制と兵役免除、理系就職の国家的支援
4.エレクトロニクス市場への本格参入時期
5.米国との関係

p.50 4.日本と他国との間の20年以上の参入タイミングの差が技術力の差ではなく、設備投資した過去の資産の差に直結している場合がある。

p.70 台湾のエレクトロニクス企業の数の多さは日本と似ている。決定的に異なる点は、大部分が特定の分野に特化した専業企業であり、コングロマリット経営の企業はごくわずか。

p.77 製造業は基本的に数である。特に限界利益率(製造原価に占める固定費のウエイト)が高い半導体・液晶などの前工程の製造では、数量効果はきわめて大きく効く。

p.97 台湾企業が日系企業などと比較して決定的に異なるのは、売上高に対する販売管理費比率。ホンハイの場合、販売管理費の売上高比率は4%しかない。日本の大手電機メーカーの平均になると22%程度。

p.105 TSMCの注目すべき点は営業利益率が極めて高く、工場稼働率50%でも利益が出るという点。この点はファウンドリと呼ばれる同業他社のシンガポールのチャータードセミコンダクターや、中国SMICとの大きな相違。

p.109 TSMCの技術の要となる設計ルールごとの売上高の内訳などの内容が四半期ごとにインターネットにアップデートされる。日本の大手電機企業ではありえない情報開示レベル。

p.135 現在の台湾は正のフィードバックがかかった好循環期。
中国大陸企業にキャッチアップされた場合はリスク。

p.140 サムスン電子は、多くの日本企業にとっては依然、及びもつかない高い営業利益水準を実現しているが、一時ほどの強さはなくなっており、今後は台湾企業を中心とした廉価製品や日本のハイエンド製品の一点集中投資に苦戦する可能性。

07年の営業利益は5900億円で、半導体、液晶、通信(携帯電話)で3分の1ずつほど。

p.146 サムスンの垂直統合モデルの特質
1.果敢な設備投資でボリュームゾーンを徹底的にねらう
2.半導体、液晶パネル工場などの徹底した集中投資
3.サムスン系列も駆使

90年代後半のDRAMや、01-02年にかけてのITバブル不況時にフラッシュメモリや液晶パネルで日本企業のシェアを短期間で抜きさることができたのは、2の積極投資の成果。

p.152 サムスンには90代に投資した古い8インチラインが大量に残っており、これらのラインでコスト競争力を維持することが困難。DRAM生産を12インチのみにしたエルピーダ・PSC連合は脅威。

p.163 サムスンの入社試験の前にTOEICの足切り(800点代後半)。英語の面接。

p.167 サムスンの営業利益率は41%。日本企業の場合、営業利益率が10%を超えると罪悪感すら覚えるという感覚。

p.174 サンドイッチ危機論。ハイエンド製品は日本企業に、ミドルレンジからローエンドは台湾を初めとする中国企業に挟み撃ちにあっているという経営危機説。

p.207 07年、太陽電池メーカーの生産量
1.ドイツQ-CELLS
2.シャープ
3.中国サンテック・パワー
4.京セラ
5.三洋電機
6.三菱電機

p.210 世界の太陽電池ビジネス・・水平分業化が進む。
日本・・垂直統合的
靴屋が明日から太陽電池

p.215 今後の日本のエレクトロニクス企業にとって世界で勝ち抜ける、競争が優位に展開できる条件
1.すり合わせの技術が活かせる
2.機械的な機構部品が必要
3.環境問題などで厳しい制約条件がある
4.製造ノウハウが外部流出しにくい
5.命にかかわり、事故が絶対に許されない
6.顧客から製造コストがみえないようにする(原価計算の難しいアナログ技術など)
7.最先端の技術力を発揮できる成長市場がある

p.252 カーナビでダブルスタンダードが進行し、PNDが世界標準に
カーナビの1桁程度の価格差。

2008年10月18日

イスラム金融入門―世界マネーの新潮流


イスラム金融入門―世界マネーの新潮流
(著:門倉 貴史、出版:幻冬舎)

第1章の金融の仕組み紹介は分かりやすくて面白いけど、2章3章でイスラム各国の経済情勢の概要解説な部分は個人的にはちょっと単調で退屈。現社の教科書を読んでるみたいな。情報としてはきれいに整理されていてとても有用。本が悪いというよりも、自分の好みとマッチしなかった感じ。

★★★

p.17 同時多発テロの影響で、米国の金融機関などに預けられていた膨大なムスリムの金融資産がいつ凍結されるかもわからないという状況になり、ムスリムが自分たちの金融資産を先進国の市場から引き揚げるという動きが出てくるようになった。そして、引き揚げられたお金が「イスラム金融」のほうへと向かったのである。また、自分たちのアイデンティティーを失うことを恐れたムスリムたちが「イスラム回帰」の傾向を強めた。

p.26
コーラン・・イスラム教の経典
ハディース・・ムハンマドが生きていた頃の慣行(スンナ)をまとめたもの
シャリーア・・コーランとハディースの教えに基づいて作られた法律
イバダード・・シャリーアの中で、信仰に関する部分
ムアラマート・・シャリーアの中で、日常生活に関する部分

イスラム金融とは、ムアラマートで定められた金融活動の規範に適合した金融取引のことを指す。

p.30 イスラム金融を手がける金融機関は、必ず「シャリーア委員会」を設置しなければならない。ひとつの「シャリーア委員会」に、最低でも3人のイスラム法学者が必要とされる。

シャリーアに適合しているかの判断や解釈は微妙。

イスラム金融が急拡大する一方で、「シャリーア委員会」のメンバーの人材不足が深刻化している。

p.33 イスラム金融は大きく分けると、4つの取引形態がある。
・ムラーバハ・・銀行が、お客さんがほしい商品を製造業者から仕入れて、それを販売するという仕組み
・イジャーラ・・銀行がお客さんのかわりに製造業者から商品を購入して、その商品の所有権を一定期間リースする
・ムダーラバ・・銀行が投資家からお金を預かって、そのお金を事業に投資して得られた収益を投資家と事業者でわけあう。
・ムシャーラカ・・銀行と投資家が手を組んで事業の共同経営をおこなう。

p.43 すべての金融機関を「イスラム銀行」にしてしまった国では、経済・社会に様々なひずみが生じており、一般銀行と併設している国の方がうまく機能している。

イスラミック・ウィンドウ・・イスラム銀行と一般金融の両方を兼務する銀行で、イスラム窓口の部分

p.129 すべての銀行をイスラム銀行にした結果、国民だけでなく政府もイスラム銀行から資金調達をしなくてはならなくなったことで、資金借り入れ競争の激化によって、官民の資金調達コストが大幅に上昇した。また、イスラム銀行の内部で汚職・腐敗が横行した。

p.49 中東の産油国は、いずれもイスラム教を信仰しているので、中東の投資家が資産を運用するに当たって「イスラム金融」に対するニーズは根強くある。オイルマネーがイスラム金融を信仰する国々に向かうようになってきた。
→ どの国もイスラム金融の環境を整備しようとしている

p.53 マレーシア。国内にイスラム教徒が多いという事情もあるが、イスラム金融を振興していると、原油高で潤う中東職のオイルマネーが流入しやすくなるので、あえてイスラム金融を発展させようという意図もある。

p.94 湾岸協力会議(GCC)各国は、ドル・ペッグ制という為替制度を採用しているが、これがインフレを引き起こす元凶となっている。サブプライム問題によりドルが売られているため。

通貨を切り上げればいいかというと、そうでもない。GCC諸国が原油の輸出で稼いできた外貨のほとんどがドルだから。切り上げると外貨準備高が目減りしてしまう。

→UAEのアブダビ投資庁が07年11月にシティ銀行に75億ドルを出資することにしたのもこのため。

p.142 インドネシアでは政治家や官僚の汚職事件が頻繁に起きるが、これもイスラム回帰の動きを強める一因となっている。

p.206 金やプラチナの国際価格の高騰の一因・・主要産地である南アフリカで電力不足が発生して供給不安が高まった。

p.213 サブプライムローン問題の場合、単に住宅ローンの焦げ付きという問題だけであればその悪影響は米国経済に限定されるのだが、サブプライムローンが証券化され、ヘッジファンドなどが購入、世界的な信用収縮につながった。イスラム金融の場合には、基本的に金融活動は生産活動と1対1で対応する仕組みになっている。何らかの生産活動があって、それにおカネを投資する形式になるので、投機的なおカネが流れ込むという現象はおきにくい。

テレワーク―「未来型労働」の現実


テレワーク―「未来型労働」の現実
(著:佐藤 彰男、出版:岩波書店)

とてもよく整理されてる感じでよいです。
この言葉に対してTVとかを通じて多くの人がもってるイメージ「場所や時間にとらわれない柔軟な働き方!」はこの言葉のほんのごく一部でしかないのだなあと気づかされました。

★★★★

p.ii テレワークには、自宅で働く「在宅勤務型」だけでなく、内職のような「在宅ワーク型」、営業車の中やファミレスでも携帯電話とノートパソコンを活用して働く「モバイルワーク型」など、実際のテレワークには、さまざまな働き方が含まれている。

在宅勤務型・・企業や役所などに雇われている従業員が、職場だけでなく、自宅でも働くタイプのテレワークを指す。自宅での勤務時間が、サービス残業ではなく、正規の労働時間としてカウントされることが条件。

モバイルワーク型・・営業系の社員などが、職場や自宅だけでなく、移動中の乗り物内や喫茶店、顧客先などで携帯電話とノートパソコンを活用して働く。

p,8 政府が期待する8つのメリット
・少子化・高齢化問題などへの対応
・家族のふれあい、ワークライフバランスの充実
・地域活性化の推進
・環境負荷削減
・有能・多様な人材の確保、生産性の向上
・営業効率の向上・顧客満足度の向上
・コスト削減
・災害などに対する危機管理である

p.14 テレワーク人口は2521万人。ここには調査のあった週に1分でも自宅残業をしてパソコンを使ったホワイトカラーや、自営型の場合も、自宅と店舗が分かれていて、両方で帳簿付けを行っているような場合は、テレワーカーとみなされる。

p.18 サテライトオフィスの設置を検討する必要性が薄れた。その後の推進施策では、地方活性化のためのテレワークセンターに力点がシフトしている。

p.24 雇用されずに請負で働く在宅ワーク型は、振興策とは無関係といってよいだろう。

p.39 定期的に在宅勤務をしている人々に共通するのは、ほとんど例外なく高度な専門職についているという点である。

ソフト開発は最近は向いていない。

p.49 いたずらに「自宅で働くので子育てとも両立がしやすい」制度だけが普及していくなら、「家事育児は女性の仕事」という差別意識をますます強める可能性も否定できない。

p.52 日本人の組織では、仕事の遂行単位は、それぞれに専門的技能と権限を持つ成員なのではなく、職場そのもの」
集団主義は、日本企業にとって大きな利点。だが、在宅勤務型テレワークの導入のための条件のひとつが、個々人の仕事の範囲の明確化であるなら、おおかたの企業にとって「うちの会社にはなじまない」と判断されるのも不思議はない。

p.53 また、情意考課を重んじる評価のシステムも、在宅勤務導入の妨げとなる。

p.55 基本企業にとっての「能力」とは、「『人格』『人格』とほとんど同義」なのである。

p.89 自宅で事務処理をしなければならないのは、営業所のオフィスがなくなったことが原因である。営業所の廃止と同時に事務職員がリストラされたため、営業職に事務処理の負担がかかってくる。

p.93 入社時からモバイルワーカーである若い社員たちは、上司や同僚と接触する時間がない。役割モデルを選べない。何のために自分がこの会社にいるのか、に答えの出しようがない。

p.111 個人の裁量で在宅勤務をしているという人々が、自宅で行う作業は、法的な視点からみれば、実のところ労働ですらないのである。

p.115 単なる強制よりも「自発的な」ノルマ設定の方が、より過酷な労働を生む。

p.125 在宅ワークエージェントでは、登録者のうち実際に仕事を受注できるのは、年間で数%にとどまっている。

p.129 在宅ワーカーの時給の平均は860円。しかし平均値に意味はあまりない。報酬格差がかなり大きいため。

p.132 一定の収入を確保しようとすれば「えり好みできない」という声も多かった。せっかく身につけた技量に見合わない仕事を余儀なくされる「キャリア・ダンピング」とでもいうべきありさまが常態化している。

p.144 1社分の社名・住所・電話番号・メールアドレス等を1組としたデータが報酬10円。

p.149 請負制によって働く在宅ワーカーの場合、最低賃金は適用されない。

p.152 入力系業務の報酬が極端に下落したため、在宅ワーク全体としての報酬額が低下したのである。「だれでもできる」とおもわれている。

実際は、「入力作業がきちんとできる人は、志願者のうち5人にひとりぐらい」

p.181 同国のエレクトロニクス産業では、研究所と工場を別々にして、遠く離れた地域に建設する傾向が強い。その目的は、賃金が高く労働時間の裁量性が高い研究所の職員と、工場で働く労働者たちを隔離することだという。他人の労働を見えなくすることで、格差の存在を隠し、従業員たちの不満を抑えることに成功したというのである。

2008年10月10日

iPS細胞 世紀の発見が医療を変える


iPS細胞 世紀の発見が医療を変える
(著:八代 嘉美、出版:平凡社)

わかりやすさにかなり気をつかっていて良いです。つい数日前に話題になった緑色蛍光タンパク質もわずかですが登場して面白いです。繰り返し読み直したい本。

自分と3つしか違わない人がこういう本を書くって、すごいよなあ、と内心おもった。

★★★★

p.26 受精卵→桑実胚→胚盤胞=栄養外胚葉+内部細胞塊
栄養外胚葉は胎盤や羊膜などに。内部細胞塊は神経細胞、表皮、骨格、筋肉、生殖系などに。
内部細胞塊を取り出して培養条件を変えるとそれぞれに分化する。

p.31 移植された組織が他の細胞に働きかけて別の組織を作り出すこと・・誘導
誘導を引き起こす存在・・オーガナイザー

<分化>というプロセスは、オーガナイザーが引き金となって引き起こされる誘導の連続。

p.47 ES細胞だけを子宮に戻したとしても胎児になることはない。胎盤をつくることができないため。
受精卵がもつ能力は文字どおり万能だけど、ES細胞はそうではない。ES細胞が持つ能力は万能ではなく<多能性>と呼ばれている。

p.50 DNAは細胞の核の中でこんがらがってしまわないように、ある程度の長さを単位として<ヒストン>という大きいタンパク質の軸に巻きついている。
DNAの配列やヒストンに<メチル基>とよばれる分子がくっつくと、遺伝子に転写因子が結合できなくなるし、ヒストンに巻きついた遺伝子を緩める役割のタンパク質も近づけなくなる。

p.61 <発生>や<分化>の進行とは、不要となった遺伝子にカギがかけられ、タンパク質がつくられなくなっていくプロセスである。

p.65 幹細胞と呼ぶための2つの条件
・分化する能力を持っている
・分化する能力を持ったままで分裂することができる

p.77 幹細胞の中にある、細胞分裂を食い止めるタンパク質は、細胞をいわば冬眠状態にする。このタンパク質はリスなどの動物で冬眠時に脳細胞の中で作られるタンパク質と同じものである。

p.92 イモリの細胞の中では、分化した細胞が未分化な状態に戻る、つまり体内で<脱分化>している、ということであり、身体の中に幹細胞がストックされているというわけではないのだ。

p.99 大便に含まれるものの6割は水。そして2番目が死んだ胃や腸の細胞の死骸、それから腸内に住んで食物の消化吸収を助ける大腸内細菌の死骸であり、食べ物のカスは最も少ない。

p.106 細胞の死ぬ数が肝臓の再生する能力を超えてしまったとき、死んで脱落した細胞の部分が空洞になってしまう。肝臓はこれを防ぐために、繊維のような硬い物質を使ってこの空洞を埋めようとする。これが繊維化と呼ばれる現象だ。健康な肝細胞が著しく減ることによって、肝臓が正常な機能を果たすことができなくなる状態、これが肝硬変といわれる状態だ。

p.137 がん遺伝子とよく似た遺伝子がES細胞のみでつくられている。
ES細胞の増殖能力やがん化にはこの遺伝子がかかわていることが示され、同時にES細胞の多分化能と増殖能力はそれぞれ別のシステムによって起こる働きだということが確かめられた。

p.143 四つの遺伝子を組み込んだ皮膚の細胞をマウスの胚盤胞に注入し、マウスの子宮に戻したところ、注入した細胞がマウスの胎児の中にも存在していることが確かめられたのである。
iPS細胞誕生の瞬間であった。

p.153 iPS細胞の登場により、倫理的な問題があるES細胞研究はもはや不要なのではないか、という空気が生まれつつあるが、これは大きな誤解である。

p.197 人間を含む動物では、脳が発達して高等動物などと呼ばれるようになるにつれて、身体的な再生能力は失われていく。
そして私たちは、自分たちを生かしめるシステムを記述する能力までも獲得してしまった。本当に神がいたのなら、身体再生という強靭な生命力を奪ったのは、獲得した知性の代償としてであったかもしれず、失われた生命力を知性で取り戻そうとするのは、私たちのエゴなのかもしれない。

2008年10月05日

疑似科学入門


疑似科学入門
(著:池内 了、出版:岩波書店)

水からの伝言とか納豆事件とか、最近の事例をふまえたエセ科学の入門解説。第一種~第三種の分類がユニーク。
エセ科学については「人はなぜエセ科学に騙されるのか」がクリティカルに良いです。

予防措置原則の考え方はこれにはとても一理あると思うのだけど、たとえば環境にかんする問題として、一刻の猶予もならないほどに事態が深刻になったときはどうすればよいのだろう?そうなってもまだ、石橋を叩き続けることしか方法がないのかな?

★★★

p.v
第一種疑似科学:人間の心理につけこみ、科学的根拠のない言説によって人に暗示を与えるもの。
第二種疑似科学:科学を援用・乱用・誤用・悪用したもので、科学的装いをしていながらその実態がないもの。
 科学的に確立した法則に反しているにもかかわらず、それが正しい主張であるように見せかけている言説。
 科学的根拠が不明であるにもかかわらず、あたかも根拠があるような言説でビジネスの種となっているもの。
 確率や統計を巧みに利用して、ある種の意見が正しいと思わせる言説。
第三種疑似科学:複雑系であるがゆえに科学的に説明しづらい問題について、真の原因の所在をあいまいにする言説で、疑似科学と真正科学のグレーゾーンに属するもの。

p.13 「擬似宗教」の判定は容易ではないが、その第一の特徴は、精神世界のみに閉じず、物質世界までも支配できると自認している、ということだろう。

p.24 ウィリアム・クルックスは、心霊現象に魅せられて「サイキック・フォース」なる新しい力まで導入したほどである。科学で説明できないと見なすや、十分に吟味することをしないまま短絡的に超常現象にのめり込んでしまったのだ。

p.28 知覚は認識のボトムアップとトップダウン。これら二つの逆向きの作用が組み合わさって初めて「パターン認識」が可能になる。
エラーの原因。「知ってるものに当てはまるとそれ以外に見えなくなる文脈効果」「自分のスキーマに左右される」「知覚的防衛」

p.35 「肯定性のバイアス」。一般に人は、否定的な情報より肯定的な情報として受け入れる方が精神的負担は小さく利用しやすいので、自然のうちにそちらに傾いた思考をするのである。

p.39 たとえば、女性ドライバーは運転が下手だという信念の持主は、そのような目で常にドライバーを見ており、実際に下手な女性ドライバーを目撃すると信念をいっそう強める。

p.66 「ホーソン効果」。調査をするという通達さえすれば、優れた結果が出てくるという誤認が起こった。実際には、調査が入ると聞いて、労働状況や環境条件を改善し作業員がせっせと熱心に働いたため、本来持っている以上の能力を発揮する結果となったに過ぎない。
原因が結果を導いたように見えるがそうではなく、その間に隠れた真の原因があることを見逃しているという例である。

p.96 道徳的な価値観を科学で表現されると簡単に受け入れるという傾向もある。
誰も否定できない科学が道徳の代行をしてくれると思い込むのである。昔なら、「ウソをつくと地獄で鬼に舌を抜かれるぞ」と脅されたが、もはやそんなことを子どもは信じなくなったので新しい手が考え出されたとも言えよう。

(これはなるほど!と思いました。結局子どもに言うことを聞かせるためには、今も昔も説明だけでは効果がなかった。そこで、絶対的存在というものを設けて、これは絶対に正しいことなんだよ、と子どもに盲目的に信じ込ませることがもっとも効率的な子育てのやり方だったのかも。昔は妖怪がその役目を持っていたけど、今は自然科学がそうなってる。)

p.111 健康や長寿に関する情報をどこから得ているかを調査したら、テレビが73%で一番高く、続いて新聞(44%)、雑誌(23%)と続き、医者は14%しかなかったそうである。

p.141 結果に対して明白に原因を指し示す要素還元主義に科学に固執して、「複雑系」にかかわって少しでもあいまいな部分があれば「科学的根拠なし」として切り捨ててきたのである。原因と結果が一対一対応をしていない限り化学的とは認めない態度、これは科学の態度、これは科学の範囲を狭く閉じ込めた疑似科学的発想といえるだろう。

p.147 複雑系であるために原因や結果が明確に予測できないとき不可知論に持ち込むのではなく、人間や環境にとっていずれかの論拠がプラスになるかマイナスになるかを予想し、危険が予想される場合にはそれが顕在化しないよう予防的な手を打つべきなのである。予防措置原則。

p.162 被害者の数がより少ないほど、より恐ろしく感じるというパラドックスである。

2008年10月04日

グーグルに勝つ広告モデル


グーグルに勝つ広告モデル
(著:岡本一郎 、出版:光文社)

グーグルはほとんど関係ない。いまあるメディアが今後どうやって生き延びるか?という問題への提案が主な内容。個人的には、提言の部分よりも、既存メディアの特徴の分析のしかたがとても良いと思いました。p.29の視点が特にgood。そもそも人がメディアを視聴する理由って何? という単純な問いを考えるいい手がかりになります。

★★★★★

p.9 大規模な国家のシステムを、市民革命を経ずに変革するような稀有な歴史を持っているのは日本だけです。

p.11 テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4マスメディアのビジネスモデルの本質は、大衆の注目の卸売りです。アテンション・エコノミー、これが20世紀型マスメディアの本質です。
一方、近年騒がれている21世紀メディアとしてのグーグルが依拠する経済は、インタレストです。

p.14 メディアに使える時間は一人当たり約5時間×1.2億人分しかない。これを多くの競合メディアやエンタメ、ゲーム等で奪い合うことになる。

p.16 テレビも含めたメディア/コンテンツ産業が、他の産業と大きく異なる点の一つとして、「過去のストックが競合になる」という点が上げられます。

p.20 社会全体が、膨大になりすぎたコンテンツや情報を整理することに対して、高い付加価値を見出している、ということなのです。

p.21 2007年7月に、NTTレゾナントと三菱総合研究所が行った、インターネットによる動画配信サービスの利用状況に関する調査では、テレビ放送の視聴が動画視聴時間全体に占める割合は、特に若年層で低下しており、10代では6割程度まで下がっていることがわかっています。

p.26 ゼロサムゲームを解消するためのアプローチとして、「ゲームのルールを変える」「サムの総量を増やす」。

p.29 インターネットとマスメディアの代替性は、
①提供情報
②情報の消費シチュエーション
③アクセススタイル
の三つのポイントを分析することで、判断が可能。これまでは往々にして①だけだった。

AMラジオは、①という側面からだけ見れば、確かに代替は可能かもしれないが、②③を考慮に入れると、非常にユニークなメディアで、代替性は思ったほど高くない。

p.37 市場の成熟にしたがって、理性的・説得的メディアから情緒的・感覚的メディアに移行することがマーケティング上の課題になる。

p.45 セグメントされたターゲットに対して、情緒的・感覚的なブランドコミュニケーションを行うことが可能なメディアが、はじめて登場した。
以前はこれがなかったたために、シャープなコンセプトを持たない横並び商品と、意味の変容をもたらさない陳腐な広告が大量発生した。

p.49 ネットは常に自分から能動的なアクションを起こさないと前に進まない。しかもそのアクションが直感的ではない。実はここに、テレビ視聴者がネット視聴者にスイッチする際の最期の防波堤があるのですが、ここ数年の技術開発は、大きくこの部分、つまりアクセススタイルの柔軟性の獲得に向けられています。

p.59
ポイント1 マスメディアの売り上げは獲得したアテンションの数に比例する
ポイント2 アテンションの絶対数は増えない
ポイント3 各局のアテンションシェアは減る
結論 今後マスメディアの売り上げは減る

p.64 視聴者の映像コンテンツに対するニーズは、
①タイムシフト(好きなときに見たい)
②編成権(好きな部分だけ見たい)

p.84 「今自分が見ているこの番組を、世の中のたくさんの人もまた同時に見ている」という気持ちが、いかに社会に安堵を与えてきたか。これはテレビのもつメディアとしての本質的な特徴を現していると思います。社会に対する連帯感。

p.91 子ども部屋メディアの盟主としての地位を失ったラジオ。生活に根付くメディア。何となく、無目的に聞くメディア。
ラジオというのは若いときに聴取を習慣化させる、生活のリズムの中に溶け込ませるということが戦略的には重要。
過去においては、中高生が自宅の部屋で「個人的に接触できるメディア」はラジオしかなかった。深夜まで部屋で起きているとき、家族以外の誰かとつながっている感覚を得たい、親をバイパスして世界を見てみたい、そんな彼らの気持ちに応える、開かれた一つの窓としてラジオが機能していた。

⇒ テレビ数の増加、インターネットの参入により、子ども部屋のアテンションのシェアが奪われた。

p.98 FMとAMとで、ネットとの代替性はことなる。

p.113 なぜ新聞の購読世帯数は減少したか
・情報のコモディティ化
・常識へのニーズの減少

p.132 ネットで代替取得可能な情報を扱っている雑誌が食われている。特に一般週刊誌。
①ネットの速報性。
②モビリティ優位の喪失。
③会社帰りにキヨスクで買って帰宅途中の暇つぶしにする、という消費スタイルが典型的。これらが携帯電話やメールに食われている。

ビジネスパーソン向け、中年・熟年向けファッション誌の調子のよさも説明できる。

p.139 LEONが公言している「年収2000万円以上がターゲット」は実際は年収2000万円以上の人のライフスタイルに憧れている、年収数百万円~1200万円ぐらいの一般層を、読者として取り込んでいる。

p.145 大型のデジタルハイビジョンモニターを買う人のほとんどは、テレビ放送のためでなくDVDやゲームを大迫力で楽しみたいという理由で購入していることがわかっています。

p.180 雑誌「宣伝会議」が2006年に行った調査によると、消費者が商品の購入を検討する際にインターネットの情報を参照する率は40%になっている一方、マスメディアによる広告は9%しか参照されていません。

p.194
ポイント1 インターネットを、情報をプッシュするための第五のマスメディアと思わないこと。
ポイント2 ネット上では「潜在的なユーザーの不満」と顕在化させる「場」作りが大事。
ポイント3 担当者の顔が見えるコミュニケーションが「場」つくりのポイント。

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する


ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する
(著:W・チャン・キム、レネ・モボルニュ、訳:有賀 裕子、出版:ランダムハウス講談社)

★★★★★

あらかじめ聞いていた評判の先入観はあったけど、それでもとても良いと思った。成功した企業の例を戦略キャンバスに重ねてブルーオーシャンの概念を説明する。紹介される企業の例が多彩かつ身近ですこしもあきさせない。
後半は経営者むきの内容のためあまりぴんとこず。
あとAmazonの書評を見てて同意したけど、レッド・オーシャン=悪、と解釈してしまうのは危険。


p.23 戦略論はレッド・オーシャンでの競争をなによりも重視してきた。というもの、企業戦略は兵法に根ざしていて、いまだに兵法の影響が色濃く残っているからだ。
戦略とは一定の限られた土地をめぐって敵と向き合うことを意味する。

p.24 その結果、新規事業の86%は製品ラインの拡張、つまり、既存の市場空間というレッド・オーシャンでの小さな改善だということが判明した。ところが、こうした取り組みの成果は全売上高の62%、全利益の39%を占めるに過ぎない。

p.25 製品やサービスのコモディティ化、価格競争、利益率の縮小などが加速してきた。
調査からは、主だった製品・サービス分野では一般にブランドごとの違いが狭まり、その結果、人々は価格を重視して購入ブランドを決めている、という事実が浮き彫りになっている。

p.27 「ビジョナリー・カンパニー」が絶賛した企業のうちの何社かは、その企業自体ではなく産業全体が好調だったために繁栄できたのである。

p.31 ブルー・オーシャンを切り開いた企業は、競合他社とのベンチマーキングを行わず、そのかわりに従来とは異なる戦略ロジックにしたがっていた。ここではそれをバリュー・イノベーションと呼ぶ。

ブルー・オーシャンを生み出せるかどうかを分けるのは、最先端のテクノロジーでも、「市場参入のタイミング」でもない、ということである。

p.37 レッド・オーシャン戦略は、業界の構造は一定で企業はその枠組みの中で競争せざるを得ない、との前提に立っている。言い換えれば、学問の世界で構造主義、環境決定論などと呼ばれる考え方をとっているのだ。ところがバリュー・イノベーションは、市場の境界も業界構造も一定ではなく、そこで活動する企業などの行動や発想しだいで変わる、との見方に基づいている。このような見方を再構築主義と呼ぶ。

p.51 買い手に提供する価値を見直して、新しい価値曲線を描くために、筆者たちは四つのアクションという手法を編み出した。

Q1:業界常識として製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か
Q2:業界標準と比べて思い切り減らすべき要素は何か
Q3:業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か
Q4:業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か

p.61 優れたブルー・オーシャン戦略の価値曲線には、①メリハリ、②高い独自性、③訴求力のあるキャッチフレーズ、という三つの特徴がある。

p.74 視野を広げて考えると、企業は同業他社だけではなく、代替財や代替サービスを提供する企業とも競争しているといえる。代替財は、機能や形状は異なるが、同じ目的のために使う製品やサービスをさす。

ブルー・オーシャンを開拓するためのパス:
・代替産業に学ぶ
・業界内のほかの戦略グループから学ぶ
・買い手グループに目を向ける
・補完財や補完サービスを見渡す ← 買い手がどのようなトータル・ソリューションを求めているか
・機能志向と感性志向を切り替える
・将来を見通す

p.141 非顧客層の三つのグループ
・第1グループ:市場の縁にいるが、すぐに逃げ出すかもしれない層
・第2グループ:あえてこの市場の製品やサービスを利用しないと決めた層
        満足できないか、価格が高すぎて手が出ない
・第3グループ:市場から距離のある未開拓の層

p.161 フィリップスの<CD-i>は機能の多彩さゆえに「夢のマシン」として宣伝され、ビデオ、音楽ソフト、ゲームソフト、学習用ツールなどに対応していた。ところがあまりに機能が多すぎて、一般の人々には使い方が分からなかった。
CD-iの責任者は、最前線のテクノロジーは買い手にとびきりの効用をもたらすに違いない、と錯覚してしまったのである。

p.163 効用を生み出す6つのテコ
・顧客の生産性
・シンプルさ
・利便性
・リスク
・楽しさや好ましいイメージ
・環境でのやさしさ

p.170 アイデアを形にしたとたん、知識はごく自然に他者へと流出していく。排他性の欠如によって、ただ乗りのリスクはいっそう高まる。
技術面での新たな発見に支えられているわけではない。このため、特許で守るわけにはいかず、排他性もないため、模倣されやすいという弱点がある。

(技術イノベーションはバリューイノベーションとは違う、という話が冒頭であったけど、じゃあ技術って何のためにあるの?という問いへの解答がここにあるのだと思う。)

p.198 ブルー・オーシャン戦略を実行する上での四つのハードル
①大胆な変革の必要性を従業員に理解させる上での意識のハードル
②経営資源のハードル
③従業員がやる気を損なう士気のハードル
④社内外からの変革への抵抗という政治的なハードル

p.213
ティッピング・ポイント・リーダーは、変革への取り組みを大々的に行おうとはせずに、特定の分野に集中して行うという逆の道を選ぶ。とりわけ効果の大きい三つの要素に力を入れる。「中心人物」「金魚鉢のマネジメント」「細分化」。

p.284 独占的な立場にある企業は、二つの行いを通して社会的損失を招くと考えられてきた。第一に、最大限の利益を得ようとして価格を高く設定する。すると、その製品はほしいが懐に余裕のない顧客は、排除される。第二に、競争が十分に働かないため、独占的な立場にある企業はともすれば効率向上やコスト削減を怠り、希少な資源を必要以上に消費してしまう。


2008年09月01日

シンプリシティの法則


シンプリシティの法則
(著:ジョン・マエダ、訳:鬼澤 忍、出版:東洋経済新報社)

★★★★

よく同僚たちと話す、「iPodやYouTubeって、技術的に何がスゴイの?」という問いへの間接的な答えになってるんじゃないか。

目次から
10の法則
1.削減
2.組織化
3.時間
4.学習
5.相違
6.コンテクスト
7.感情
8.信頼
9.失敗
10.1

p.2 SHEはいつも正しい。
Shrink, Hide, Embody

p.4 アップルiPodの背面は鏡面仕上げになっている。そのせいで、その物体は白または黒の浮き上がったプラスチック層の厚みしかないという錯覚が生じる。

p.7 Embody・・隠蔽や縮小のあとで、失われた高価値感をモノにまとわせること。

p.24 時間の節約に関してもSHEは有効。

p.57 余白の量が増えることで失われるチャンスは、残っているものへの注目が高まることによって取り戻される。

p.67 "人々が道具のシンプリシティに引き寄せられたあとで、それをアクセサリーで飾ろうと躍起になるのはなぜなのか?

2つの重要な目的:
・大型で複雑な機械に対する自然な恐怖が軽減されるが、一方でモノの寿命に対する不安という別種の恐怖が醸成される。
・自己表現。

p.60 1つ目のカギ、アウェイ。
遠く引き離すだけで、多いものが少なく見える。

2008年08月31日

フラット化する世界(下)


フラット化する世界(下)
(著:トーマス・フリードマン、訳:伏見 威蕃、出版:日本経済新聞社)

p.21 創造ということに関して、はっきりわかっていることがある。二種類以上のまったく違う分野をものにした人間が、ひとつの枠組みでもうひとつについて新鮮な思考を働かせたときに、それが生まれる。

p.26 今年は、サンスクリット語を専攻して博士号を得る人間は、インドよりもアメリカのほうが多いでしょうね。

p.58 フラット化時代の富は、次の基本的な三つの事柄を手に入れる国に転がり込む傾向が強くなっている。
・フラットな世界のプラットホームにできるだけ効果的に、そして迅速に接続できるインフラ。
・国民が世界のプラットホームでイノベーションを行って付加価値の高い労働ができるような理想の教育プログラムと知識スキル。
・適切なガバナンス

p.74 インドの強みは、ひとつの問題に投入できる人数が多いことです。

p.97 インテルのチップはたった二つのもの――砂と頭脳――からできている。「いまは頭脳のほうに問題があるんです・・・アメリカに住みたいと思っている人々を雇いたいなら、もっと強力で支援体制のしっかりした移民制度がなければなりません。それがなかったら、われわれのほうがそういう人々のところへ行きます。」

p.112 終身雇用はフラットな世界にとってもはや維持することができない脂肪組織だ。そこで、思いやりのあるフラット主義は、政府や企業がすべての労働者の「雇用される能力」を高める方法に心血を注ぐ。

p.126 フラットな世界への移行は多くの人々を圧迫するだろう。

p.153 小売改革を終えるための条件
・その国の規定・規制・認可費用のもとでの企業
・雇用・解雇
・契約の執行
・融資
・破産もしくは業績低迷による廃業

がすべて摩擦なしに単純な手続きで実行できること。

p.156 過剰な規制は、本来保護するべき人々をかえってひどく痛めつける結果になりやすい。

p.165 確固たる文化を持つ必要はありますが、外のものを取り入れて応用する開放性も不可欠です。なぜなら、他者の才能と能力を敬う気持ちが生まれるからです。

p.209 スターバックスは客に店専属の飲料デザイナーになってもらい、それぞれの好みにぴったり合う飲み物をカスタマイズできるようにした。顧客が大物ぶるように仕向けた。

p.222 HPが、750の支店をもつインドの国有銀行の後方業務を運営するアウトソーシング契約を勝ち取った?

p.224 「勝つためにアウトソーシングしているんだ。節約のためじゃない。」シードマンの会社のこの動きこそ、大部分のアウトソーシングの本来の目的なのだ。

p.245 ローカルのグローバル化は「逆グローバリゼーションである。グローバルなメディアがアジアを押し包むのではなく、その地域のローカルなメディアがグローバルにひろがる。この現象は、アジア系の国外移住者、とくに世界各地に住んでいる無数の中国人とインド人の移民が、ローカル・ニュースと情報を強く求めていることで加速している。」

p.272 図書館蔵書のデジタル化や、健康や家庭や労働条件などの調査結果をデジタル化するNGOが、データ入力作業の最大取引先になった。そこでデジタル・デバイド・データ発足時に入社した社員数人がさっそく独立して、調査を必要とするNGOのためにデータベースを設計する会社を樹立した!

p.296 「私たちは、あまりにもアクセスしやすいために、アクセスできなくなっています。自分たちの機械や自分を切るスイッチが見つけられないんです。iPodを使うのは、自分のプレイリストを聞きたいからであると同時に、外の世界を締め出し、そうした騒音全てから身を護るためでもあります。」

p.312 未編集の検閲を受けていない言葉が、いたるところにひろまってゆく。どうすればよいのか?
・・・
自分たちがどういう世界で生きているかを、子供たちに教えよう。

p.322 異教徒の男と握手をすると生殖能力を失ってしまうという噂がスーダンのハルトゥームで広まり、パニックが起きたという。噂は携帯電話のショートメールでひろまったという。

p.325 国民が希望を抱く国には中流階級がいる。

p.327 そういう家庭は最低限の生活すらできません。子供たちはきれいな水の味すら知りません。排水溝の汚れた水を飲むのに慣れているからです。それも、運良く近くに排水溝があればの話です。便所も風呂も見たことがありません。

p.337 村人たちが共有テレビで石鹸やシャンプーのCFを見るとき、目に留まるのは、石鹸やシャンプーではなく、それを使っている人々の暮らしです。

p.346 村人たち、ことに読み書きのできない人たちは、自分の言葉がその場で描き出されるのを見て、ほんとうに認められたと感じて、元気付き、熱意をしめすようになりました。

p.349 世界のフラット化は、異社会・異文化がじかに触れ合う機会が激増するという予想もしていなかった成り行きをもたらした。この密接な接続は、一対一で世界のあらゆる人間と向き合って、自分の立場を思い知らされるという現象をもたらす。自分と他人の境遇を容易に比べられる。そのことが人々の不満をさらに際立たせる。

p.353 ファシズムやマルクス・レーニン主義は、ドイツや中欧諸国の急速な工業化・近代化によって、結束の固い村や拡大家族が突然ばらばらになり、父親や息子は町の大きな工場で働くようになったところではぐくまれた。伝統的な社会構造がそれまであたえてくれた帰属意識やルーツや自尊心が、この過渡期に失われ、ことに若者がよりどころを失っていた。

p.360 アラブ・イスラム世界全般の現在の経済的・政治的後進性に、過去の栄光と宗教的優位という自己認識が交じり合い、アラブ・イスラム教徒が祖国を離れてヨーロッパに移住し、あるいはヨーロッパで成長するときに感じる被差別意識と疎外感がそこに加味されると、怒りという名の強いカクテルができあがる。

p.390 国の経済と未来がグローバルな統合と貿易に密接に結びついているなら、近隣諸国との戦争を抑止する効果がある。マクドナルドが出展している国同士は、マクドナルドがその国にできて以来戦争をしたことがない。

p.399 フラットな世界にいる欠点は、きちんとした契約や優秀なスタッフなどの捨てがたい魅力があるとしても、どのクライアントも複数の選択肢を持っていることです。

(「勝者の代償」をおもいだした)

p.440 eベイがうまくいっているのは、経済的なチャンスと認定を組み合わせているからです。

フラット化する世界(上)


フラット化する世界(上)
(著:トーマス・フリードマン、訳:伏見 威蕃、出版:日本経済新聞社)

★★★★★

目次
フラット化の要因
・ベルリンの壁の崩壊と、創造性の新時代
・インターネットの普及と、接続の新時代
・共同作業を可能にした新しいソフトウェア
・アップローディング
・アウトソーシング
・オフショアリング
・サプライチェーン
・インソーシング
・インフォーミング
・ステロイド

p.25 グローバリゼーション1.0の原動力が国のグローバル化であり、2.0の原動力が企業のグローバル化であったのに対し、3.0の原動力は、個人がグローバルに力を合わせ、またグローバルに競争をくりひろげるという、新しく得た力なのである。

p.50 新規に生活を始めるよりも、バンガロールで一所懸命働くほうが、ずっと楽だし実入りもいい。プラットな世界では、インドにいながらにして、まっとうな給料がもらえる。

p.62 「モーリス航空の予約を自宅で受け付ける人間が、250人いました」ニールマンはいう。「生産性が30パーセント高かった――ただ愛想よくするだけで、30パーセント多く予約が取れたんです。会社に忠実で、労働力の低下がありませんでした。」

p.66 道路沿いのマクドナルドのドライブスルー・レーンに車を入れると、てきぱきとした温かいサービスが受けられる。ただしい注文を受ける人間は店内にはいない――ミズーリ州にもいない。注文を受けるのは、1500キロメートルほど離れたコロラド・スプリングズのコールセンターで、客や注文された品物を用意する店の従業員とは、高速データラインでつながっている。

(すごい)

p.105 「人間は習慣を変えたい理由があれば、すぐに習慣を変えるものだし、そもそも他人と結びつきたいおいう本能に近い気持ちがある。方法を与えると、技術的に難しかろうが克服し、新たな言語を習得するものだ――それぐらい他人と結びつきたい気持ちは強く、できないはずはないと考える。」

p.114 光ファイバー・ケーブルへの大幅な過剰投資は、無尽蔵の宝物のようなものだった。通信会社が破綻したとき、銀行は光ファイバーを差し押さえて、捨て値で新会社に売った。

p.126 スタンダードが決まると、人間はやり方ではなく、それでできることの品質を高める方に注意を集中する。

p.160 リナックスやアパッチが、IBMの協力のおかげで”ブレンデッド・モデル”のたぐいとなったのは、つい最近のことだ。無償でそれに貢献した人間もいれば、IBMに給料をもらって協力した人間もいた。

p.162 マイクロソフトの言い分「イノベーション、報酬、再投資、さらなるイノベーションという素晴らしい美点を持つサイクルが、これまでずっとわれわれの産業の大きな原動力となってきた。」「オープンソーシングはこれからも強力なトレンドであり続けるだろうが、金銭的なインセンティブを排除したソフトウェア製作ではなく、学問の世界に昔からある知的財産共有モデルにもっぱら逆戻りするだろうね。」「イノベーションを進めるのに資本主義は必要だ。」

p.188 賄賂を使ってIITに入学することは出来ない・・・おそらくハーバードやMITに入学するよりも難しいだろう」
創立以来55年ほどにわたって、こうしたIITのおかげでアメリカは安い買い物をすることができた。

p.192 時差が12時間なので、アメリカの医師が眠っているあいだにインド人は書き起こしの作業をやり、翌朝にはファイルが届いているという寸法だ。訴訟問題のおきやすい医療の世界で、医療記録、研究所の報告、医師の診断を、安全に、合法的に、秘密を守って、バンガロールでデジタル化できる。

p.196 Y2Kに続いてITバブルがやってきたとき、給料の多寡は別として英語を話すエンジニアが有り余っているのは、インドだけだった。インド人エンジニアを雇うのは、おおぜいいるからではなく、コストが安いからそうせざるをえないからだった。そして、インドとアメリカ・ビジネス界の関係は、一段と深まった。

p.207 どんな業種でも、中国に関して犯しかねない一番の誤謬は、中国は低賃金の競争で勝っているだけで、品質や生産性の向上はありえないと思い込むことだ。中国の国営企業を除く民間企業部分では、1995年から2002年にかけて、生産性が年間17パーセント向上している。

p.213 企業が海外に工場を建設するのは、アメリカやヨーロッパに売る製品を作るのに安い労働力を得るためばかりではない。

p.224 9・11直後、ZARAの経営陣は、消費者が深刻な気持ちになっていると見て、数週間以内に黒を基調とする新製品を店舗にストックさせた。

優秀な企業は最後のぎりぎりの瞬間まで製品に付加価値を加えるのを引き伸ばすという。

p.227 国や企業の天然資源が乏しいと、生き残るために知恵を絞ってイノベーションを生み出そうとする。

p.238 ソニーの製品のようなものを作ることにかけては日本人は誰にもひけをとらないが、それを安く売ることとなると、そう上手ではない。

p.240 西友がウォルマートに教えなければいけない重要な事柄が一つあった。鮮魚の売り方である。

p.244 どの企業にも、ウォルマートが確立したような規模と幅を持つ複雑でグローバルなサプライチェーン網を築く経済力があるわけではない。そこで生まれたのがインソーシングというわけだ。
UPSは「シンクロナイズド・コマーシャル・ソリューションズ」と称する事業に乗り出した。フラットな地球の一箇所から別の一箇所へのサプライチェーンすべてにサービスできるようにした。

p.290 三重の集束
・10のフラット化の要因のすべてが集束して、フラットな新しい競技場が確立した。ビジネスと個人が新しい慣わしやスキルやプロセスに順応していった。
・中国やインドや旧ソ連から、数十億人が競技場へ殺到してきた。
・そういった人々の一部は瞬時にして、われわれの子供たちと、直接的に、安価に、そして強力にプラグ&プレイし、競合し、つながり、共同作業することができるようになった。

p.296 グローバリゼーション2.0は、メインフレーム・コンピュータの時代だった。C2(指揮・統制)が重視され、企業や部署が垂直に組織されていた。グローバリゼーション3.0は、トップダウン主流の競技場を水平に変えた。指揮・統制ではなく水平の接続と共同作業が重要になった。

p.303 インド・中国・旧ソ連では、行き場のない大きな夢が50年にわたり鬱積していた。それが一気に噴出すのを、われわれは目の当たりにしているのだ。

p.334 摩擦のないグローバル市場への障害物のなかには、ほんとうに無駄とビジネスチャンス喪失の原因になっているものもある。しかし、社会的な結びつき、信仰、民族としての誇りなど、市場とは無関係な価値観をもたらしてくれるゆえに大切にされている社会制度や慣わしや文化や伝統が、非効率そのものである場合もある。

p.341 このインド・インディアナ州の話で、搾取した側はどちらで、搾取された側はどちらだろう? あるインドのコンサルティング会社のアメリカの子会社は、インド人社員と地元インディアナ州の労働者の双方を使ってコンピュータソフトウェアを改良すれば、
インディアナ州の税金を810万ドル節約できると提案している。この取引で、インドのコンサルティング会社は大きな利益を得る。インド人の技術者も利益を得る。インディアナ州の貴重な税金を節約し、その分で他の部門の州職員を増やしたり、長い目で見れば、それで失業者を減らすことが出来るわけだ。しかしながら、この契約は、自由貿易を唱える共和党の圧力によって破棄された。

p.352 19世紀は、労働と資本の対立が最大のものだった。いま対立しているのは消費者と労働者で、企業はその中間にいる。

p.355 ウォルマート買い物客・株主であるわれわれは、同社の利益を押し上げ、なおかつ商品価格を押し下げるために、サプライチェーンや従業員への手当てから容赦なく脂肪や摩擦を取り除いて欲しいと思う。また、市民であるわれわれは、アメリカ最大の企業ウォルマートが全従業員を医療保険に加入させていないために、地元の病院の救急病棟に行かなければならない従業員がいて、結局は納税者がその費用を負担していることも知っている。

p.370 リカードの理論では、それぞれの国が比較的にコストで優位にある生産物に特化して、他国が特化した商品と貿易を行えば、全体として利益が生じ、双方の国の総収入レベルも上がるとされる。

p.376 ローマーが指摘しているように、知識労働者の場合は、数が増えても、低技術労働者とは違って、賃金が低下するとは限らない。なんらかの知識を集約した商品を生産して売る知識労働者の場合、市場が広ければ広いほど、製品を買う人間が増える。また、新しい専門分野や隙間市場も多く生まれる。だから、知識基盤型の労働者は、グローバル化のもとで繁栄する。
しかし、肉体労働を売っている場合には、市場の拡大が売り物の価値を高めるとは限らない。下がることもありうる。肉体労働者が売るものは、一度に一つの工場か一人の消費者にしか買ってもらえない。

p.389 いまのグローバリゼーション3.0では、個人が、グローバルに栄えるか、せめて生き残れる方法を考えなければならない。

p.399 新ミドルクラスに必要な人材
・偉大な共同作業者・まとめ役
・偉大な合成役
・偉大な説明役
・偉大な梃子入れ役
・偉大な適応者

p.415 三つの問題の権威になるといい。ただし、その三つが絶えず変わっているのは意識しないといけない。